一話
赤い・・ただ赤い何かが美雪の体から出ていた。それは言うまでもなく「血」だった。
美雪は死んだのだ。清隆には何もできずに。人間ではない何かに。わけのわからない生物によって。
当然、清隆は何もしなかったわけではない。一応は戦った、足掻いた。でも、たかが竹刀一本では抵抗できるはずもなく、結果、何もしないのと
同じ結果になった。
大切な幼馴染、いや、恋人を失ったのだ。自分の力不足のせいで。自分の過ちのせいで。その過ちのツケが回ってきたのがこのことだとすると、
清隆は自分が憎くてしょうがなかった。
清隆には魔法という特殊な力が備わっていた。しかし、清隆はこのときまで、それを異質、いや、不気味な力としてこれを拒み誰にも言わず隠し
てきた。そして、決して魔法を学ぼうとしなかった。
清隆は忘れられなかった。我が身を犠牲にして清隆を守ろうとした美雪の最後の顔と言葉を。
美雪は死に際なのに関わらず笑顔であった。しかし、悲しさを表現するような瞳をしていた。
そして、彼女はこう言ったのだ。
もう一度、生き返ることができたら、きっと幸せな人生がおくれるだろうな
と。だが、その言葉は机上の空論でしかないことを理解していたために清隆を悲しませた。
死者を蘇らせることなどできないというのが人間社会の常識だ。当然、清隆もそう思っていた。しかし・・
ひとつだけ美雪を蘇らせる可能性があった。それは清隆の祖父、宮野宗一郎が清隆に教えた唯一の手段。
魔法師の卵たちが集う、国際魔法乱舞祭、通称、国魔祭において優勝すること
だと。宗一郎はそう言った。
国魔祭の参加資格はただ一つ。
世界に数十箇所存在する魔法科高校の生徒であることだった。
このことを聞いた清隆は決断する。
魔法を覚えて、魔法科高校に入学する。そして必ず、国魔祭で優勝し、美雪を蘇らせる
と。これが宮野清隆が魔法科高校に入ろうと思ったきっかけだった。
「ここか・・・」
清隆はロンドンにいた。イギリス王立魔法科高校の入学試験を受けるためだ。
日本からわざわざイギリスにやってきた理由は、日本に魔法科高校がないためと、イギリスの魔法科高校は祖父の宗一郎の母校であったからだ。
清隆は魔法科高校の校門で入学試験の受付を済ませ、指定された会場へと移動する。
そこにはすでに混み合っていた。清隆もなんとかそこに入り、入学試験の説明が始まるのを待った。
そして・・
「静粛に」
会場内のステージがライトアップされる。そこには一人の赤い長髪の男が立っていた。そして、男は口を開く。
「これから、イギリス王立魔法科高校の入学試験の説明をはじめる」
男の声で騒がしかった会場が緊張感に支配されて静かになる。
「私はここの副学園長をしている、アラン・オルブライトだ。早速、説明を始めさせてもらう。試験の内容は魔法を使った戦闘だ。形式は2対2
のタッグ戦。この試験の参加者、10000人を100のグループに分けて行われる。」
と、ここでアランの後ろにあったモニターにトーナメント表の例とその他諸々の説明が映し出される。
(やっぱり数が多いなあ、参加者)
トーナメントの数を見て、清隆は圧倒されてしまった。そして、アランが話を続ける。
合否の判定方法はただ一つ。それぞれのグループのトーナメントで最後まで勝ち残ったペア、一つのみだ。なお、戦闘には生命保護魔法(セーフ
ティ・ライフ)がかけられた会場で行われる。この魔法をかけられた会場でなら戦っても命を落とすことはない。ただ、戦闘によって気絶及び戦
えなくなったものは、パートナーが残っていても、そこで失格となる。残ったパートナーには一人で戦ってもらう。以上だ。なお、試験は三日後
。それまでにタッグが組めなかった場合はそこで失格とする。この三日間でパートナーとの絆を深め、試験に備えるがいい。必要があれば、生命
保護魔法をかけた会場は無料で貸してやる。さあ、行くがよい。相方のもとへ。話及び説明会を終了する。」
アランの話が終わると、会場は一気に騒がしくなり、あちらこちらでタッグができていく。おそらく、みんな知っていたという早さだった。そん
なことは初めて聞かされた清隆は乗り遅れて、一人になってしまった。
(あれ、やばい。もしかして、タッグ組めていないの、俺だけ?)
清隆は焦りながらあたりを見回す。すると、
「うーん、まいったな、このままじゃ私、失格になるじゃないの、聞いてないわ、入学試験がタッグ戦だなんて」
頭を抱えて、独り言をブツブツ言っている、黒髪のツインテールの東洋人の女の子がいた。
(日本人か?あいつもパートナーがいないみたいだし、誘ってみるか)
清隆は意を決して、女の子のもとへ向かう。
「もしかして、君も余り?」
「うん、そうだけど」
清隆と女の子は目が合う。どうやら、清隆の意図を察したらしく、すぐにそっちの話に移る。
「そっか、君も一人か・・・うーん、じゃあ私と組まない?」
いきなり女の子は清隆をパートナーに誘ってきた。清隆に断る理由がない。
(ありがたいな、話が早い。ここは言葉に甘えるか)
「じゃあ、言葉に甘えて、よろしくなって・・・君の名前は・・・」
清隆は女の子の名前を聞いていないことに気づく。
「ああ、わたしの名前か、そういえば名乗ってなかったわね。私は夜神明日香。君は?」
名前を聞こうとすると、あっちから名乗ってきた。
(やっぱり、日本人か。おっと、俺も名を名乗らないとな)
「俺はは宮野清隆。とりあえず入学試験が終わるまでよろしくな。夜神。」
清隆は名前をいって、よろしくの意味をこめて手を差し出す。
「うん、よろしく、宮野くん」
そう言って夜神も清隆の手を握り、互いに握手を交わす。
(ふう、とりあえず、パートナーがいなくて失格になるのは避けられたな)
と、清隆が安心していると、夜神が話しかけてくる。
「ねえ、宮野くん、私たち、お互いにさ、相手のことしらないからとりあえずお茶でもしながら、色々話さない?」
「うーん、そうだな、確かに俺も夜神の事、何も知らないな」
「じゃあ、決まりね」
清隆が夜神の誘いに応じると、夜神が清隆の手を引っ張ってどこかへ連れていこうとする。
「あ、おい、夜神、どこへ連れていくつもりなんだ?」
「まあ、黙ってついてきなさい」
そう言って、夜神は清隆の腕を引っ張ったまま、清隆の質問に答えようとしない。
(まあ、いいか。どうせ、すぐにわかることだし)
清隆はそうに納得して、夜神の言われるままに歩みを進めた。
数分後・・・
「ここよ、宮野君、どう、いい店でしょ?」
清隆が連れてこられたのは、少しレトロな感じの喫茶店だった。
「確かにいい店っぽいな。何よりこのレトロな感じがいい」
「なかなかいい目をしているわね。この建物自体の雰囲気に目が行くなんて」
清隆が喫茶店の建物を褒めると、夜神は上機嫌になった。二人は扉を開いて中に入り、店員に案内された席に座った。
そして、清隆はメニューを開く。が、
「うーん・・」
どれが美味しいかわからないうえに、日本ではあまり食べないような料理が出てきたりして、どれを選ぶか迷ってしまう。なので、ここはこの店
、「ガーデンズ・ピクシー」の常連客らしい夜神におすすめを聞くことにした。
「なあ、夜神、この店のオススメ、なんかある?」
「うーん、おすすめか・・・だったら、店長のお任せブレンドティーとミートパイなんかどう?」
「じゃあ、それにしようかな」
と、夜神のおかげで清隆の注文がきまったところで、店員がやってきた。
「ご注文おきまりですか」
当たり前だが注文を聞いてきた。
「店長のお任せブレンドティーとミートパイを一つずつ」
「私も同じものを」
清隆と夜神はそれぞれ注文をする。
「かしこまりました」
そう言って店員は去っていく。
(そういえば、宮野君ってどんな魔法を使うんだろう)
ふと、夜神はそんなことを思ったので、清隆に聞くことにした。
「ねえ、宮野君、君ってさ、どんな魔法が使えるの?」
「それってさ、教えなきゃダメか?」
清隆から返ってきた言葉は意外なものだった。しかし、夜神は諦めなかった。
「どうしてよ、教えなさいよ、あなたの使える魔法を。それともなに?教えたくない理由でもあるの?」
清隆はその質問に対して少し間を置いてから答える。
「・・・・だって試験で使うつもりはない魔法をわざわざ明かす必要ないだろ。それに魔法師たる者、自分の魔法は隠すべしってよく言うだろ」
「あんた、試験で魔法使わないって、どういうつもりなの!」
「別にそれでも試験ぐらいなら、魔法まで使う必要ないと思ってさ。それに俺の使える魔法は他と違うし。」
「自身満々ね。じゃあ、魔法なしで魔法師にどうやって勝つつもりなのか、見せてもらおうじゃないの!」
夜神は「他と違う」という言葉は無視して、魔法を使わないという言葉だけに反応した。
「夜神、俺はその、魔法を使わずに魔法師と闘う方法をどうやって示せばいいんだ?」
「そんなのは決まってるわ、この私と一戦交えなさい」
「なるほど、君と戦えばいいのか。ちょうどいい、その時に夜神の使える魔法とやらをみせてもらうかな」
「余裕ね。後で泣きべそかいても知らないわよ」
「いいや、泣きべそ掻くのは多分そっちだぞ」
二人の間に火花が散るような雰囲気になる。
が、まもなくきたミートパイと店長のお任せブレンドティーによってそれはすぐに打ち消される。
清隆はまず、ブレンドティーを口に近づけて飲むうとする。が、
「いい香りだ・・・・」
清隆は甘くも高級感溢れる香りにカップを持っていた手が止まる。
「さすが、私のパートナーね。この香りの良さが分かるなんて。あなたってホント見た目によらず、モノの良さが理解できる男ね」
「そりゃどうも」
清隆は夜神の機嫌が元に戻ったのを安心し、カップの中の紅茶を飲む。
「・・・・」
口に広がる紅茶の味は香りとは裏腹に甘さは控えめだったが、高級感は香りと遜色なかった。清隆はその味に少し浸っていた。清隆の向かいに座
っていた夜神も同じような感じだった。
今度はナイフでミートパイを切り、フォークでそれは口に運ぶ。
「・・・・・!」
(美味い…)
清隆は感激していた。ミートパイの味に。
(俺は・・偏見を持っていたかもしれない。正直、パイ生地と肉の組み合わせはナンセンスだと思っていた・・・)
清隆は自分の思い込みに深く反省するのだった。
そして、二人共紅茶とミートパイを食べ終える。
「あー、うまかった。また来るかな」
「気に入ってもらえたなら、嬉しいわ。」
夜神は微笑んでそう言った。
「なあ夜神、お前いかにもここの店の常連みたいだけど、いつからここにきてるんだ?」
清隆は思っていたことを口にする。言動といい、行動といい、この店に慣れている様子なのが気になったからだ。そして、この都市、いや、この
国、イギリスの生活も長いかもしれないので、いろいろとこの国の生活について聞こうと思ったのだ。
「おお、私がここの常連だって気づくなんてなかなか鋭いわね」
「まあ、様子を見てればわかるよ」
「で、私がいつからここにきているかだったわね。うーん、いつからだったけ・・・あ、えーと、私がイギリスにきてまもなくだったから、3年
くらい前ね。」
「3年か・・長いな。じゃあ、この国のことについては詳しいのか」
「あ、ええ、まあ、それなりには。」
「じゃあさ、ちょっとこの国の施設とかについて教えてくれないか。実際に出歩いて。俺はイギリスにきてまだ三日だからそのへんよくわからないから教えてくれない?」
「へえー、三日か、いいわ、この国の施設についてレクチャーするからついて来なさい」
「サンキュー」
それから、清隆が夜神の分をおごる形で二人分の代金を払って、「ガーデンズ・ピクシー」を跡にする。
「悪いわね、宮野君、私の分までおごってもらっちゃって」
「いやいや、これから夜神にはイギリスのこと教えてもらうわけだし、そのお礼だ。それに女性の分を男性がおごるのは嗜みだからな。」
「そう、とにかくありがとね」
「どういたしまして」
「じゃあ、早速レクチャー開始と行きますか・・・って何か忘れているような・・」
夜神が突然顎に手をあてて考え込む。
「どうした夜神、急に考え込んで」
夜神の様子を心配した清隆は声をかける。
「うん、なんだか忘れているような気がするのよ・・・うーん・・あっ!」
夜神は何かを思い出したと思ったら、清隆を睨みつけてきた。
「な、なんだ、夜神」
清隆は思わずうろたえてしまう。
「ねえ、宮野君、あなた、わたしと一戦交えるっていう約束をなかったことにしてない?」
清隆は少し気まずそうな顔をしてから
「ははは、そんなことないぞ」
と、苦笑いでごまかす。
「宮野君!」
さらに夜神のプレッシャーが清隆を襲う。
「はい、約束をなかったことにしようとしました・・」
清隆はのしかかるプレッシャーに耐え切れず折れた。夜神は清隆の様子を見て何故か満足そうに笑顔になる。
「で、約束をなかったことにしようとした理由はなにかしら?もしかして、ホントは私に勝つ自信がないのかな?」
と、夜神が清隆を挑発する。ただ、清隆はそれに心からの本音で答える。
「いいや、ただ、俺、女性に手をあげられないたちなんで」
「は?じゃあ、もし相手が女だったらどうするのよ。」
「その時は戦わないでお前に全て任せるか、後ろでお前の援助に徹するよ。」
「何それ、ふざけているのかしら」
「いいや、ある意味、女性に手をあげないというのも男のたしなみさ」
「はあー、まあ、あなたが私と戦わないならあなたとはタッグを解散よ」
「なっ・・・・本気?」
清隆は夜神の突然のタッグ解散宣言に驚いてしまう。
「私は本気よ。あなたが戦わない限りはこの言葉を撤回するつもりはないわ」
夜神のさらなる追い打ち。
(まいったな、女性に手をあげる趣味はないし、できれば避けたいんだが・・でもな・・・タッグを解散されるとあてもないし、このままだと失格になってしまうな・・・)
清隆は考え込んでしまう。
「さあ、どうするの、宮野君、戦うの、戦わないの?」
考え込む清隆に夜神からの選択の申し出。清隆は悩んだ末に結論を出す。
「闘うよ、闘えばいいんだろ」
「腹は決まったようね、じゃあ、行きましょうか、戦場へ」
「ああ。」
そして、本日二度目の火花が散った。
その後、清隆と夜神は無料で貸出を行っている試験会場に足を運ぶ。
周りには何もなく、鉄筋の床と壁が広がっているだけだった。二人の他には誰もいない。
「ホントに何もないな」
「ええ、そうね。でも何もないほうが戦いやすいわ」
「そうだな」
二人は会場の感想を口にする。
それから、しばらくの沈黙。が、夜神が口を開く。
「じゃあ、覚悟はいい?」
「覚悟?別にそんなに力むなよ。ここでは死ぬことはないんだし、お気楽にな」
「気に食わないわね、その態度。でも、いいわ、私がボロボロにして二度とそんな口きかせてあげなくするんだから」
「はいはい」
「じゃあ、開始よ」
夜神の一声で戦いは始まる。
(赤き炎の(フレイム)魔弾ーー)
先制攻撃を仕掛けたのは夜神。夜神は手から火の球を次々に清隆へ放つ。
「おっ、これはたくさんきたな」
清隆は、数十ある火の玉が自分へと向けられてもビビることもなくただ見ていた。
そして、火の玉が目の前に来ると、それを難なく避けた。
(やるわね、でも・・)
さらに夜神はさっきよりも数多くの火の玉を清隆へと放つ。
(さっきより数が多いな・・)
清隆は少し危機感を覚えてはいたが、それとは裏腹に火の玉を全て難なく避けた。
「ふう、なんとか避けたな」
清隆が安心していると、今度は火の玉ではなく言葉が飛んできた。
「なかなかやるじゃない、宮野君。でも、避けてるだけじゃ私はあなたをパートナーとして認めないわ」
「はいはい、わかってるよ、攻撃すればいいんだろ」
そう言って、清隆は左足に魔力を集中させる。そして・・
(宮野魔拳術 ー 一ノ型 ー 疾駆ーー)
清隆は一瞬で50mある夜神との距離を詰める。
「宮野魔拳術」 この拳法は魔法を使わない。魔力を力に変えて応用する格闘術である。清隆はこれを祖父の宗一郎から教わった。この拳法は10代に渡り伝えられてきた。清隆はその第10代後継者である。
「えっ・・・・」
夜神は清隆が突然目の前に現れたことに驚くが、清隆は夜神に考える隙を与えなかった。
(宮野魔拳術 ー ニノ型 ー 魔拳ーー)
清隆は拳に魔力を拳に込めて夜神の腹に放つ。
(氷の(フローズン)盾ーー)
夜神は清隆の拳があたる直前、氷の盾を召喚し、清隆の拳をはじこうとする。が・・・
「はああああああああああああああああああああああ」
清隆はその盾すらも砕き、夜神を吹き飛ばす。
「がはっ・・・・うぐっ・・・」
夜神は壁に叩きつけられて倒れる。ただ、夜神には出血した様子も怪我をした様子もない。最も「生命保護魔法」がかか
っているこの場では出血も怪我も死亡もあるはずがないのだ。あるのは、痛みか気絶のみ。だが、魔法による軽度のやけどや氷結はあるが。
(浅いな…)
清隆はこのくらいで魔法師が気絶してしまうはずがないと直感で感じる。
「うぐっ・・・」
案の定、夜神は立ち上がった。
「宮野君、さっきのは魔法?魔法は使わないんじゃなかったの?」
夜神は清隆に問う。清隆はその質問に対して少し考え込んでから答える。
「いや、あれは魔法じゃない。あれは魔力を力に変えて応用したものだ。正式名称は宮野魔拳術だ」
「宮野魔拳術・・・・魔力を力に・・・・なるほど。魔法を使わないけど、魔力は使うわけね。そして、これが魔法を使わずに魔法師を倒す方法か・・」
「そういうこと。で、まだ続ける?」
「ええ。まだ、私が本気出してないもの。」
「うーん、俺的には辞めにしたいんだけどな。さっきも言ったけど、俺はあまり女性に手をあげるのは趣味じゃないんだけど・・・」
「じゃあ、タッグ組まないわよ。」
「仕方ないな・・もう少し付き合うよ」
「じゃあ、戦闘再開よ。」
そんなわけで戦闘が再開される。
(氷の(フローズン)魔弾ーー、赤き炎の(フレイム)魔弾ーー)
夜神は左手から氷の、右手から炎の魔弾を次々に放つ。
(数が多すぎる・・・・これはよけられないかもな。だからと言って、魔法を使うわけにはいかないし・・・)
清隆はギリギリで魔弾を避けていく。が・・
「ううっ・・・」
魔弾が清隆の肩に直撃する。
(やっぱり、よけられなかったか。でも、まあ、あたったのが一撃だけだったのは運が良かった。まあ、夜神のそれなりに強い魔法師だってことかな)
清隆は夜神の強さを認めて気合を入れる。
(雰囲気が変わった?)
夜神は清隆が本気になったことを直感で察する。そして、何かあるような気がして身構える。
清隆もそれに反応するようにポーチから六本の小刀を取り出す。
(宮野魔拳術 ー 三ノ型 ー 隼ーー)
小刀に魔力を集中させて夜神に投げる。
疾風のごとく夜神へ向かっていく小刀。避けるのは不可能だ。夜神もそれを瞬時に理解する。
(氷の(フローズン)盾ーー)
夜神は氷の盾で小刀を防ぐ。だが、そこにわずかな隙ができる。
(宮野魔拳術 ー 一ノ型 ー 疾駆ーー)
清隆は左足に魔力を込めて、地面を蹴り、夜神の目の前に一瞬で移動する。
(しまった・・・・)
夜神がそう思ったのはつかの間、清隆の攻撃が夜神を襲う。
(宮野魔拳術 ー ニノ型 ー 魔拳ーー)
清隆は夜神の腹に魔力を込めた拳をぶつける。
「うぐっ・・」
夜神は鉄筋の壁に叩きつけられる。
(決まったな・・)
清隆は自分の勝利を確信する。案の定、夜神は起きなかった。要するに気絶。清隆の勝利で戦闘は終了した。
「はあ、しょうがない・・こんなところで眠ってもらっても困るしな」
清隆は夜神を起こそうと近寄る。
「おーい、起きろ、夜神」
「・・・・・」
(反応がない・・ただの屍のようだ・・じゃない、早く起こさなきゃな・・)
「おーい、起きろ、夜神、もうとっくに朝はすぎてるぞ。」
「はっ・・」
清隆の声で夜神の目が覚める。
「私の完敗よ、清隆。パートナーとしてあなたを認めるわ。」
起き上がるなり、夜神はそう言った。
「そうか、ありがとう。で、いつの間にか俺のことを苗字じゃなくて名前で呼んでいるけど、理由でもあるの?」
「うん、まあ、あるわ。私は認めた相手のことは男女問わず名前で呼んでるわ。それにイギリスじゃ名前のほうが一般的だから覚えておくといいわよ。」
「じゃあ、改めてよろしくな、明日香。どちらとも欠けずに試験に合格しような」
「ええ。」
再び二人は握手を交わした。そして、本当に今ここにひとつのタッグが結成されたのだった。
試験まであと二日。
「清隆、私に宮野魔拳術を教えなさい」
またと懲りずに喫茶店「ガーデンズ・ピクシー」にて、明日香は突然、そんなことを言った。
「は?」
清隆は当然、驚いてしまう。
「だ、か、ら、私に宮野魔拳術を教えなさいって言ってるのよ」
「お断りだ。あの技は宮野家の秘伝の技だ。部外者に教えるわけにはいかないな」
「部外者って何よ、部外者って!」
「だって、そのとおりだろ。明日香、お前は宮野家の人間じゃないんだからな」
「で、でも、私はあなたのタッグパートナーよ。」
「うーん、タッグパートナーはタッグパートナーでも、人生のタッグパートナーだったら・・話は別なんだけどな」
「はあ?何言ってんのあんた!人生のタッグパートナーって・・・それは、そのあの・・・・」
「ご想像にお任せします。と、いうことでこの話は終わりな。じゃあな、俺はもう試験まで寝続けるから。」
そう言って、清隆は明日香に自分の頼んだ分の代金を払って、店を出ていこうとする。
「待ちなさい」
明日香は清隆の腕を掴んで清隆を引き止める。
「どうした?明日香。何を言っても宮野魔拳術は教えないぞ」
「で、でも人生のパートナーになったら教えてくれるんでしょ」
「ああ、そうだけど・・・ってまさか」
「ええ、私があなたの妻になってあげるわ。」
「は?」
清隆は明日香の言葉に硬直してしまう。明日香本人も顔を真っ赤にしている。
「じょ、冗談よ、本気にしないでね。さっきのは宮野魔拳術を学びたくてつい、出てしまった言葉なのよ。」
明日香が慌てて解釈する。
「わかってるよ、それにさっきのが本気でも困るしな。さらにOKを出してしまうようなら、本末転倒だしな。」
「本末転倒?どういうこと?」
「・・・・それは俺が魔法科高校に入ろうとした理由にも関わることなんだけど・・・」
「ちょっときかせて、それ。あなたが魔法科高校に入りたい理由」
「まあ、少し長くなるけど・・・」
清隆は明日香に魔法科高校に入学したいというきっかけを時間をかけて話した・・・・
そして、清隆は全てを話し終える。
「なるほどね、あなたも大変なのね、清隆。まさか、あなたが「天命の災禍」の被害者だったとはね。」
明日香が清隆を憐れむような目で見つめている。
「天命の災禍」
この事件は清隆が恋人である美雪を失った一年前の事件である。この事件は日本の他、様々な国で起きた。見たことのない生物がもたらした災禍で、その原因である生物達は人々には天から降ってきたものだと信じられているため、そうに呼ばれている。
「まあ、そんなに憐れむような目で見るなよ、明日香。むしろ、魔法が使える俺が生き残っただけ運がいいと言える。なんにせよ、国魔祭で優勝して、美雪を蘇らせることができれば、あの事件だって、ハッピーエンドさ。」
「お気楽ね、清隆。全く入学試験で落ちることを考えてない」
「だって、言ったろ、二人で必ず合格しようって」
「ええ、そうだったわね。しかし、そんな自信がどこから湧き出てくるんだか」
「違うよ、明日香・・俺は合格する自信があるんじゃない・・・」
清隆の明るい空気は一変して暗くなる。そして、再び口を開いた。
「俺は・・・合格しなくちゃならないんだ。そして、一刻も早く彼女を蘇らせてあげなくちゃならないんだ。それが・・俺の・・生き残ったやつの使命なんだ・・」
「ああ、そう・・」
空気はさらに暗くなる。
「・・・・・」
「・・・・・」
沈黙が続く。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・悪い・・」
清隆は沈黙の中、口を開いた。
「えっ・・・」
「悪かったな。暗い話を聞いてもらちゃって・・・でも、話したらなんだかすっきりしたよ。ありがとな、明日香」
「どういたしまして。役にたてたら嬉しいわ」
「そう言ってもらえたなら助かるよ。で、明日香が魔法科高校に入学しようと思ったのはどういう経緯なんだ。」
「そうね、私も話しておこうかしら。清隆だけ話させるなんて不公平だものね」
そして、明日香の話が始まる。
「私はね、衰退した夜神家を復活させたいのよ。」
「夜神家の復活?」
「ええ、そうよ。かつて、夜神家は、魔法師のなかでも栄えた一族だったわ。でも、本家の血筋が絶えてからは分家が夜神家の名を継ぐことになったんだけど、すっかり衰えてしまったわ」
「確かにな、今じゃ夜神家なんて家系の名前は聞かないな」
「そうね。確かに無名になってしまった・・そのせいで甘く見られて、迫害を受けてきたわ。だけど、私はもう甘く見られたくないのよ。だから、私は国魔祭で優勝して、再び魔法師たちに夜神家の名を知らしめたい。それが私の魔法科高校に入学したい理由よ。」