ベガが初めてスカートをはいた日(1)
文化祭も終わり、そろそろ十一月も終わりに近づいた木曜の昼休みが始まりだった。
「いやぁ。文化祭は楽しかったなぁ!」
人一倍大きな弁当をかっ食らいながらベガが話しを切り出した。
「そうだね。あれは本当に楽しかった。特にベガは暫くは、みんなの口にも登る大活躍だったと思うよ」
逆にお前は女子かという小さな弁当を前にアルタが応答する。
「あのなぁ。お前ら、あんな阿呆な企画する文化祭とかありえないだろ」
「いいじゃんかよ~。私大活躍だったんだし!!」
「どこがだ!文化祭で『学内最強決定戦』とかやる学校は阿呆だし、参加する奴らも阿呆だ!?」
そう、ついこの前の週末にあったわれらが中学校の文化祭の今年のメインイベントは『学内最強決定戦』と銘打ったバリトゥードだった。例年、全校生徒から案を提出させ、その中からくじ引きでメインを決定するといっても、実行委員は弾けよそんな案はと言わざるを得ない。
「そんなこと言ったところで、デネブも嬉々として作戦とか考えてたよね?」
「・・・・」
そうは言ってもだな、親友が出るとなれば、なるべく被害を少なくしたいじゃないか。特に、仮にも、全然そうは見えなくても、俺らより強いとしても、いつでもズボンをはいていようとも、仮にも一応は、女の子なんだから。そうそう、そういう扱いしない俺でもベガがエントリーしたならば傷を負わないよう頑張るさ。まぁ、作戦を考えるのは楽しかったのは事実だが。
「そうだそうだ!お前がいたから、無傷で私は決勝まで上がることが出来たんだからな!!」
そう、その阿呆な企画の優勝者は目の前にいる親友、ベガだった。俺の策やらが功をそうしたのか無傷で勝ち上がったベガは、決勝戦で対戦相手に圧勝し、無事に(?)学校最強の座を手にしたのだった。
「・・・・おまえなぁ。ベガ、お前が文化祭以降、影でどんなあだ名がついているのか知ってるか?」
「あぁ、『筋肉女』とかでしょ?」
こいつの情報が古いことが分かった。
「それは、あれだな、火曜日までのだな」
「あれでしょ、『ゴリラ女』だっけ」
アルタの情報も微妙に古い。てか、惚れてる女のあだ名が『ゴリラ女』でしかもそれを本人の前で言って笑ってるのはどうなんだ?
「なんだ。それなら全然良いじゃん」
いや、それを気にしないのも女としてどうよ。
「いや、最新のあだ名は『ゴリラ』もしくは『ゴリ』だな。というか、ゴリで固まりつつある」
「ちょっと待て!」
机を思いっきり叩いてベガが立ち上がる。あーあー、そんなことしたらまたあだ名が広まるぞ。
「まぁまぁ。ベガ落ち着いて。お茶こぼれちゃったから、服についたらシミになっちゃうよ」
アルタがなだめて、ベガを椅子に座らせる。俺はそれを見ながらちょっと耳をすましてみる。
「ついにゴリが暴れだしたかと思ったわ」
「てか、よく机壊れなかったな」
「あ、それ俺も思った。文化祭の見てる限りではこう、真っ二つになるかと」
「俺はゴリがドラミングするのかと思ったよ」
「あの二人よく、ゴリと一緒に食事取れるな」
「つーか、ゴリをうまくコントロールしてるから実はあの二人が最強?」
まぁ、おおむね同意できるが、コントロールはできてないぞ。ベガに付き合ってると、生傷が絶えない。そして、ドラミングはないだろう、いくらなんでも。顔は見たから覚えておけよ、河原田くん?わりかし温厚な俺だけど、へらへら笑いながら阿呆な貶し方されたらそれなりに色々するよ?
おっと、思考がそれてしまった。で、耳をアルタとベガとの会話に戻してみれば、
「ゴリって、女はどこにいったんだ!私は女だぞ」
「うんうん、ベガは女の子だね」
「ゴリラ女は強い女って感じでいいのに」
「・・・・いいの?」
「だって、ゴリラの女だよ?ゴリラって握力すごいんだぞ!私にぴったりじゃないか!」
「・・・、そうだね」
なんだ、この頭ゆるい生物は。アルタがちょっと複雑な表情になっちゃってるし。そりゃ、好きな女の子が握力がすごいって理由だけで、そのあだ名を受け入れてるってのはなぁ。しかも、ゴリに女がついていないってだけで怒ってるみたいだし。アルタはこの女のどこに惚れたんだろうか?てか、どうやって惚れ続けてるんだろう?
うちの学校は、男女平等に重きを置いていて、女子が男子の制服を着ていても問題ない。もっともそんな女子は少数派なんだが、ベガはその少数派のなかでも女子の制服を着たことがないというさらに希少価値が高かったりする。希少価値は高いが、露出が少ないため男子からの人気と言う点においてはさほど高くない。つまり、アルタはマニアと。
そうアルタに感心している間にどうやらベガは落ち着いたようで席に座りなおしガツガツと飯を食っている。ちなみに、アルタの弁当は女の子のような大きさで、ベガの弁当は俺と同じ大きさなのだが、実は早弁用と二つ持ってきている。こんだけ食ってスタイルがいいのを影でやっかまれることもあるようだが、まぁ話す必要もないか。