砂色のドラゴン
この世界はドラゴンの庭ほどしかない。
はるかな山々、広大な草原、巨大な街。
そのどれもがドラゴンの庭に散らばったおもちゃたち。
世界は、ドラゴンの庭なのだ。
これはここではない、どこかの世界に伝わる、ドラゴンのお伽噺。
砂漠に棲む、砂色のドラゴン。
砂と同化して、通りかかる人を喰っている。
あるとき、砂色のドラゴンは美しい娘に恋をした。
娘が自分のそばにいてくれるなら、人を喰うのをやめてやろう。
その申し出に、人は娘を差し出した。
約束通り、ドラゴンが人を襲うことはなくなった。
けれど、それからドラゴンはどんどん痩せていきました。
獲物の乏しい砂漠で、人間はドラゴンの重要な栄養源だったのです。
砂漠に棲む小さなトカゲやねずみでは、とうていドラゴンの栄養には足りません。
その小さな獲物すら娘の食事としてあげるので、ドラゴンはどんどん痩せていきました。
砂色のドラゴンはそれでも娘がいなくなるのが嫌で、我慢した。
長い寿命を持つドラゴンなのだから、少しくらい食べなくたって平気だ。
人である娘の寿命が尽きるまで、耐えることはできる。
砂色のドラゴンは、そう、思っていた。
やがて、小さなトカゲすら狩ることができなくなり、娘に食事もやれなくなった。
このままでは、娘が死んでしまう。
砂色のドラゴンは、心を決める。何より大切なのは、娘なのだから。
砂色のドラゴンが娘に優しくささやく。
私はもうすぐ死ぬだろう
人のもとへお帰り
そう言うドラゴンに、髪は白く、すっかり老婆となった娘はそっとよりそう。
あれから何十年たったでしょう
いまさら戻ることなどできません
あなたのそばで死ねることがなによりの喜びです
寄り添う砂色のドラゴンと娘はさらさらと風に流れる砂にうもれ、やがて見えなくなりました。
ほどなく娘は亡くなります。けれど砂色のドラゴンは生きていました。
娘の躯が骨になっても砂色のドラゴンはその命が尽きるまで、砂の中で娘をずっと抱きしめて、離すことはありませんでした。
砂色のドラゴンが人を食べることは、もう永遠にありません。
ドラゴンのお伽噺は、シリーズ:ドラゴンの庭 にまとめています。




