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ドラゴンの庭

砂色のドラゴン

作者: 笹月美鶴
掲載日:2026/10/24

 この世界はドラゴンの庭ほどしかない。

 はるかな山々、広大な草原、巨大な街。

 そのどれもがドラゴンの庭に散らばったおもちゃたち。

 世界は、ドラゴンの庭なのだ。


 これはここではない、どこかの世界に伝わる、ドラゴンのお伽噺。


 砂漠に棲む、砂色のドラゴン。

 砂と同化して、通りかかる人を喰っている。


 あるとき、砂色のドラゴンは美しい娘に恋をした。


 娘が自分のそばにいてくれるなら、人を喰うのをやめてやろう。


 その申し出に、人は娘を差し出した。


 約束通り、ドラゴンが人を襲うことはなくなった。

 けれど、それからドラゴンはどんどん痩せていきました。


 獲物の乏しい砂漠で、人間はドラゴンの重要な栄養源だったのです。

 砂漠に棲む小さなトカゲやねずみでは、とうていドラゴンの栄養には足りません。

 その小さな獲物すら娘の食事としてあげるので、ドラゴンはどんどん痩せていきました。


 砂色のドラゴンはそれでも娘がいなくなるのが嫌で、我慢した。

 長い寿命を持つドラゴンなのだから、少しくらい食べなくたって平気だ。

 人である娘の寿命が尽きるまで、耐えることはできる。

 砂色のドラゴンは、そう、思っていた。


 やがて、小さなトカゲすら狩ることができなくなり、娘に食事もやれなくなった。


 このままでは、娘が死んでしまう。


 砂色のドラゴンは、心を決める。何より大切なのは、娘なのだから。

 砂色のドラゴンが娘に優しくささやく。


 私はもうすぐ死ぬだろう

 人のもとへお帰り


 そう言うドラゴンに、髪は白く、すっかり老婆となった娘はそっとよりそう。


 あれから何十年たったでしょう

 いまさら戻ることなどできません

 あなたのそばで死ねることがなによりの喜びです


 寄り添う砂色のドラゴンと娘はさらさらと風に流れる砂にうもれ、やがて見えなくなりました。


 ほどなく娘は亡くなります。けれど砂色のドラゴンは生きていました。

 娘の躯が骨になっても砂色のドラゴンはその命が尽きるまで、砂の中で娘をずっと抱きしめて、離すことはありませんでした。



 砂色のドラゴンが人を食べることは、もう永遠にありません。





ドラゴンのお伽噺は、シリーズ:ドラゴンの庭 にまとめています。



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