惑星の移住者たち
宇津木由来です。
宇宙ジャンル、宜しくお願いします。
セリフが少な目、主人公無し。
バッドエンドが苦手な方は、ご注意ください。
惑星アクターノは、美しい星だった。
青い海と広大な森林に恵まれたその星では、高度な文明が築かれていた。アクターノの者たちは科学技術を発展させながら自然と共存し、争いとは無縁の平和な日々を送っていた。
だが、その繁栄は突然終わりを迎える。
遠方の宇宙空間で発見された巨大隕石。
それが、一年後にアクターノへ衝突することが判明したのだ。
当初は軌道変更計画も立案された。しかし隕石の規模はあまりにも巨大であり、文明が保有する兵器や最新装置を総動員しても進路を変えることは不可能だった。科学者たちは何度も計算を繰り返したが、導き出される結論は変わらない。
──アクターノが滅びる。
その事実を前にして、世界政府は苦渋の決断を下した。
すべての住民を避難させることはできない。そこで文明を存続させるため、厳選された者だけを巨大な宇宙移民船へ乗せる計画が実行された。
科学者、技術者、医師、教育者、未来を担う多くの子どもたち。そして、膨大な知識を記録したデータベースと環境開発のための最新装置。
彼らは文明を繋ぐ者として選ばれたのである。
出発の日、スペースポートには大勢が集まった。
残される者たちは、自分たちに未来がないことを理解している。けれども、暴動は起きない。
誰かが生き残らなければならない。
誰かが歴史を未来へ伝えなければならない。
その思いだけが、絶望に沈む者たちを支えていた。
移民船団が宇宙へ飛び立った数時間後、アクターノは巨大隕石の直撃を受けた。
観測装置越しに見えた故郷は、一瞬で閃光に包まれた。大陸は砕け、海は蒸発し、大気は吹き飛ばされた。やがて惑星そのものが崩壊し、宇宙空間へ無数の破片を撒き散らした。
彼らの故郷は、その瞬間に消滅したのである。
船内を沈黙が包む。
誰もが涙をこらえ、ただ無言でモニターを見つめていた。
◇
それから長い放浪の時代が始まった。
移民船団は何十もの恒星系を訪れたが、理想的な移住先は見つからなかった。重力が強すぎる惑星、猛毒の大気を持つ惑星、極端な温度環境に支配された惑星ばかりだった。
何十年もの歳月が流れても、探索は成果を上げられない。かつて彼らを支えていた希望は次第に色褪せ、船内には静かな絶望と諦めが広がっていた。
そんなある日、探査機が一つの惑星を発見する。
恒星との距離は理想的であり、重力もアクターノに近い。酸素はほとんど存在せず、水も確認できなかったが、環境開発を行えば十分に居住可能になると判断された。
移民たちは歓喜した。
ようやく終着点を見つけたのである。
彼らは巨大な環境開発装置を設置し、長期計画を開始した。大量の酸素を生成し、水蒸気を冷やして水を確保する。さらにアクターノから持ち出した植物の種子を植え、生態系の基盤を作り上げていった。
開拓は困難だったが、故郷を再建するという夢を胸に、移民たちは努力を続けた。
数十年後には、海ができ川が流れ、植物が大地を覆うようになった。百年が経過する頃には森林や湖が形成され、ようやく安定した生活を送れるようになっていた。
誰もがこの惑星を第二の故郷と呼び始めていた。
◇
ある日、巨大な宇宙船が惑星軌道上に出現した。
それはアクターノのものとは比較にならないほど巨大であり、技術水準も明らかに上だった。
緊急通信が送られた。
移民政府は友好的な接触を試みたが、返ってきたのは冷淡な回答。
「これは不法占拠だ」
その言葉に誰もが困惑した。
──不法占拠とはどういう意味なのか。
すると相手は淡々と説明した。
この惑星は数百年前に購入された私有惑星だった。銀河規模の不動産管理機構に正式な登録が行われており、所有権は確定している。
移民たちは耳を疑った。
──惑星を買う?
そんな発想自体が彼らにはなかった。
だが宇宙には巨大な経済圏が存在し、惑星の売買すら行われていたのである。
やがて所有者の姿が映し出された。
灰色の皮膚。
大きな黒い瞳。
細い身体。
彼は自らをアヌンナキと名乗った。
アヌンナキはこの惑星を将来の実験場として利用するために購入していた。しかし開発計画に未着手のまま数百年が過ぎ、その間にアクターノ人たちが住み着いてしまったのである。
移民たちは必死に交渉した。
自分たちは故郷を失った難民であること。
ここで百年以上生活していること。
今さら別の星へ移住することは不可能であること。
しかしアヌンナキは首を横に振った。
彼にとって、それは感情の問題ではなく、権利の問題。自分の土地に無断で住み着いた侵入者を排除する。ただそれだけの話である。
とはいえ、彼は虐殺を好まない。
「君たちの種は存続させよう」
アヌンナキがそう宣言すると、アクターノ人は歓喜する。
「百年後に、また来る」
彼がそう言うと、惑星全域に特殊な閃光が放たれた。
◇
アヌンナキが去った後、最初は異変に気づく者はいなかった。だが十年後、その変化は少しずつ姿を現し始めた。
研究者は複雑な計算ができなくなる。
技術者は機械の構造を理解できなくなる。
教師は知識を伝えることができなくなる。
そして五十年後には、文字を読める者すら存在しなくなった。
やがてアクターノ文明は完全に消滅する。
それでも、彼らは生き続けていた。
海へ入り、魚を捕らえ、群れを作って暮らす。本能のままに生きていた。
丸くて巨大な頭部。
柔軟な身体。
触手のような長い腕。
かつて星々を旅した民は、知識を失い、言葉を失い、海洋生物として生き続ける。
一方、アヌンナキは計画通り新たな生命創造実験を開始した。彼は何億年にも及ぶ時間をかけて生態系を設計し、多種多様な生物を誕生させた。
そして最終段階として、一つの種族を生み出した。二本の脚で歩き、道具を使い、文明を築く存在。
──人間。
人類は自らをこの星の主人公だと思っていた。そして文明を築き、発展を重ねながら現代へと至る。
人類は誰一人として知らない。
──海の底で静かに生きるタコたちが、かつて宇宙を旅した難民の末裔であることを。
タコには宇宙起源説があります。
「もし真実なら、こんな可能性があるのでは?」
そう思いながら、書かせていただいた作品です。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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