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手に入らないなら手に入るようにすればいいのよ

作者: 千子

イリスは家族を愛しているし愛されている。

その溺愛さは、社交界でも話題になる程だった。

数多のタンスの誘いを断り、兄や父としか踊らず縁談にも断りを入れ続けていた。

籠の姫と揶揄されていてもイリスは気にしていなかった。

なにせ、彼女は家族を愛していたのだから。


そんなイリスの幸せが崩壊したのは、新しい家族、義理の弟が出来てからだった。


家族は両親を亡くし、天涯孤独の身として親戚をたらい回しにされてきた義弟を可愛がった。

イリスは憤慨した。

そこは自分の位置であるのに、と。

イリスは家族を愛していた。

それはもう過去形になった。

イリスのみを愛さない家族なんて必要ない。

イリスは家族の溺愛も義弟からの歩み寄りもすべて跳ね除けて全寮制の学園に入ることにした。

しかし、イリスは友人の作り方なんて知らなかった。

ずっと家族がいればいいと思っていたのだから、他人との関係の作り方なんて知らなかった。

しかし、それがイリスの価値を高めていた。

才色兼備のイリスを高嶺の花として羨む生徒が多くいた。

生憎と、イリスは気付かなかったけれど。

「どうしてこうなったのかしら」

イリスは後悔していた。

突然現れた一つ下の義弟を、何故ここまで受け入れられないのか。

考えても理由はわからない。

あの瞳に見られると、不思議と胸が高鳴る。

顔に熱が集まり挙動不審になる。

イリスはこれが初恋だとは気付かなかった。

一目惚れなんてしたことがなく、恋もしたことがなかったイリスはその戸惑いのまま原因の義弟から離れることにした。

その胸の内を母にだけは手紙にして知らせた。

なにせ、イリスは家族を愛していた。

なんでも話すのが家族の証だと思っていた。

全てを察した母は、その一年後、義弟をイリスと同じ学園に通わせることにした。

途端に距離を詰めてくる義弟。 

高嶺の花のイリスが義弟の前ではポンコツになり、幼い語彙で罵っている様を見て周囲も察した。そして、見守ることにした。

しかし、空気を読まないものが一人いた。

王子からは嫌われて騎士からは訓練の邪魔だと鬱陶しがられ、魔術師の卵からは出会うと悲鳴を上げられ逃げられる始末だけれど、本人曰く「バグの多い乙女ゲーね!」と言い切って、彼女曰く攻略対象の面々に対して付き纏い行為を止めることはなかった。

それは義弟に対してもそうだった。

悪役令嬢とイリスを罵り、義弟に擦り寄った。

しかし、それで心を開く義弟ではなかった。

むしろ嫌悪感の方が強かった。

勝手にあなたのことはわかっていると言われて、なら離れてくれと言っても通じない。

それを見ていてイリスは拳を固めた。

「わたくしの義弟に嫌がらせしないでくださいませ」

しかし、少女は怯まなかった。

むしろイリスが提言する度にバグが直ったのかしら?と意味不明なことを言う。

相変わらず見目いい男子生徒には上機嫌で声を掛けて同性には態度が悪い。

彼女の評判は地に落ちるどころか地中に埋まっていた。

やがて彼女は修道女になることになった。

彼女の両親がこれ以上人様に迷惑をかけるくらいならと苦渋の決断だった。


しかし、彼女が教会へ辿り着くことはなかった。


送られる馬車が途中で崖から落ちたらしい。

「よかったわね」

彼女が教会へ行くまで、数ヶ月体調を崩して誰もいない屋敷で過ごしていたイリスは微笑んだ。

「不謹慎だよ、義姉さん」

「そうね。そうだわ」

「そういえば義姉さん、いつの間に王子達と仲良くなったんですか?今日はこれからお茶会なんですよね?」

「そう!あなたもいらして。きっと楽しいわ」

そうして浮かれる様は少女を思い出された。

「義姉さん。義姉さんは義姉さんですよね?」

昔の義姉ならそんなふうに他者と関わろうとしなかった。

変な汗が出て、違和感と何か言い得ぬものがあった。

尋ねると、少女とよく似た笑い方で言い切った。

「ええ。わたくしこそがイリスですわ」




手に入らない人は、一生手に入らなくなった 

(義弟サイド)


義姉がおかしいと思ったのはいつ頃からだろう。

少なくとも、こうして王子達と積極的に話し掛けたり交流を持とうとする人じゃあなかった。

毎日の実家への手紙もやめた。

距離を置いていた僕とも接点を持とうとした。

おかしいことだらけだ。僕だけが取り残されたようだった。


違う、義姉さんはそんな口を開けて笑ったりしない。

もっと、お淑やかで、高嶺の花なんて言われて、貴族と平民に区別があるなんておかしいなんて馬鹿なことを言ったりしない。

攻略対象?なんだそれは?

ヒロインが無理なら悪役令嬢ものならいける?

ヒロイン?悪役令嬢?なんだそれは?

わからないことばかりだ。


「義姉さん」

誰もいない場所で呼んでみる。

わざとらしい笑顔。

義姉さんがそんな顔をするわけがないだろう。

この既視感。君は彼女だ。

どうやって義姉さんに成り変わったんだ?

その顔はどうした?

……本物の義姉さんはどうした?

義姉さんの顔をした彼女が言う。

「馬鹿な子ね。わたくしはイリスだというのに」

「違う!そんなはずない!」

義姉さんは、僕が恋した義姉さんは……。

そこで僕は初めて義姉に恋心を持っていたことを思い知った。


もう、すべてが手遅れだけれど。


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