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魔王城 受付録 ~会議室には入れません~  作者: 叶詩


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1/3

勇者が来すぎたので受付を始めます

魔王城には、会議室がある。

そして、その手前に受付がある。


会議室では、世界の行方が語られ、

勇者や魔王や「正しさ」について、

とても静かに、理性的に議論が行われている。


一方、受付では――

今日も勇者が名乗りを上げている。


一人ではない。

なぜか、何人もだ。


彼らは自分が勇者だと信じて疑わず、

こちらの都合や予定表など、まったく気にしない。


受付係は今日も、

「勇者は予約制ではありません」と説明している。

そして今日も、なぜか納得されない。


この記録は、

会議室に入ることを許されなかった者たちの視点で綴られる。


世界がどうなるかよりも、

次に来る勇者が何人かの方が切実な場所。


――これは、

魔王城 受付の、静かで騒がしい日常の記録である。


なお、

会議室には入れません。

 魔王城の受付は、今日も通常業務から始まった。


 城門は無事。

 警報は鳴っていない。

 壁も天井も、特に問題はない。


 つまり、平和だ。


「本日はどのようなご用件でしょうか」


 受付係は、いつも通りの声でそう尋ねた。

 相手が誰であっても、対応は変えない。


「勇者です」


 想定内だった。


「……お名前を伺っても?」


「名乗るほどの者ではありません」


「では、職業を」


「勇者です」


 受付係は、用紙にそのまま書いた。


「……目的を」


「魔王討伐です」


 ここまで、すべて規定通りである。


「確認いたしますが」


 ペンを止めずに言う。


「本日は、すでに六名ほど勇者の方が来城されています」


「七人目ですね」


 勇者は誇らしげにうなずいた。


「本日は大変混み合っております」


「では、並べばいいのか?」


「現在、会議中のため」


「会議?」


「はい。魔王城 会議です」


「俺も出る」


「出られません」


 即答だった。


「なぜだ」


「受付だからです」


「魔王城だぞ?」


「受付です」


 役職は、城より優先される。


 勇者は少し考え込み、やがて真剣な顔で言った。


「……俺、選ばれし者なんだが」


「承知しました」


 受付係は、うなずいた。


「ですが、本日はお通しできません」


「なぜだ」


「会議中ですので」


「その会議に俺が必要だ」


「必要かどうかは、会議で決まります」


「だから出る」


「出られません」


 同じやり取りが、三度続いた。


 その間にも、受付の前には人が増えていた。


「勇者です」


「勇者だ」


「一応、勇者です」


 受付係は順番に対応していく。


 名簿は埋まり、控え席も埋まり、

 それでも勇者は減らなかった。


「受付の方」


 最初の勇者が言った。


「いつまで待てばいい」


「未定です」


「魔王はいつ出てくる」


「未定です」


「世界はどうなる」


「未定です」


 勇者たちは、不満そうに顔を見合わせた。


「世界が困っているんだぞ」


「承知しています」


「なら――」


 そのとき、奥の扉がわずかに開いた。


 幹部が顔を出し、静かに言う。


「受付、今何人だ」


「七名です」


「……増えたな」


「はい」


「会議は長引きそうだ」


「承知しました」


 扉は閉じた。


 勇者たちは、その音を見送った。


「……今の、何だ」


「会議です」


「魔王は?」


「中です」


「出てこないのか」


「出てきません」


 勇者の一人が、ぽつりと言った。


「俺たち、必要とされてないのか?」


 受付係は、一瞬だけ言葉を選んだ。


「現在は、そういう段階ではありません」


「じゃあ、俺たちは何だ」


「待機です」


 勇者たちは黙った。


 しばらくして、一人が言った。


「……今日は帰るか」


 別の勇者もうなずく。


「また来ればいい」


「そうだな」


 彼らは、来たときより静かに去っていった。


 受付係は、その背中を見送りながら名簿を閉じる。


 本日の来訪者欄は、きれいに埋まっていた。


 城内は、相変わらず静かだ。


 魔王は会議中。

 勇者は帰った。

 世界は、特に変わっていない。


 受付係は、次の来訪に備えて声を整える。


「本日はどのようなご用件でしょうか」


 仕事は、まだ終わらない。

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