2話
おつかれさまです、のんびりと書いてます。
ようやく2話です。
キャラクターの肉付けに苦戦しました。
よろしくお願いいたします
ドゴォン!という凄まじい衝撃と共に、鉄哉は茂みへと吹き飛ばされた。
彼は仰向けに倒れ、息苦しく呻く。ナノセル体のおかげで骨折は免れたが、全身が鈍い痛みに支配されていた。
巨熊は、獲物を仕留めたことを確認するようにゆっくりと近づいてくると、鋭く太い爪で鉄哉の胴体を鷲掴みにした。
ガシッ!
鉄哉の細マッチョな身体は、巨大な熊の手の中で、まるでおもちゃのように軽々と持ち上げられる。巨熊は、その獲物を一瞥すると、躊躇なく自分の巨大な口元へと運んでいった。
鉄哉は、ガブッ!と肉が噛み砕かれる直前、自由な右手を熊の下顎の分厚い皮に強く押し付けた。
そして、全身の意識を集中し、死の恐怖をエネルギーに変えて、強く、強く念じた。
『カード化!』
グアアアアアア!
巨熊の咆哮が、断末魔の悲鳴に変わる。
鉄哉の右手が触れた部分から、漆黒の熊の巨体が、まるで砂が崩れるかのように淡い光の粒子となって霧散していく。
その崩壊の速さは、巨体を飲み込むのに一秒もかからなかった。
鉄哉の身体は、崩れ去った熊の顎のあった空間から、力なくその場に倒れ伏した。
彼が倒れたその傍に、手のひらサイズの綺麗なカードが、クルクルと宙を舞いながら出現する。
カードの裏面には、緑がかったモノクロの文字が浮かび上がっていた。
《巨獣・漆黒の熊(特異種)》
その瞬間、巨熊のカードが鉄哉の体にふわりと重なり、淡い光の粒子となって融け込むように消えていった。
体の奥底から、ピピが悲鳴を上げた。
ピピ『てっちゃん!嘘でしょ!?意識を失ったの!?ダメだよ、動かないと!』
鉄哉の意識からは応答がない。
ピピはヤバイと思った、、、動けない鉄哉の体は、次の獣にとって無防備な獲物だ。
ピピは、自分の力を使って鉄哉の体に緊急の防御策を高速思考し試す事にし、、
ピピ『このままじゃダメ!てっちゃんを守らなきゃ、、』
鉄哉のカードストックの中から、防御力に優れた『人程の大きさの岩』が目に入り『これだと』急いだ。
鉄哉の全身のナノセルに対し、その岩の形になるよう強制的に命令した。
ズズズ……
次の瞬間、地面に横たわる鉄哉の体表に、灰色のナノセルが一斉に集まり始め、全身がみるみるうちに分厚い、人程の大きさの岩石の塊へと変化していく。硬く、冷たい岩の塊となった鉄哉は、まるで周囲の瓦礫の一つであるかのように見えた。
ピピは一応の策を試せたので安堵する、そして、鉄哉が安全な岩のシェルターの中で眠っている間に、自身の知識データベースの奥深くへと潜り込み、情報収集に着手した。
時間停止世界で集めた色んな知識と情報を、凄まじい速度で精査し続けていた。
次から次に流れるパラレルワールドの膨大な情報を調べていくと、システムが異常な反応を検出した。それは、彼女の知識データベースの奥底に、いくつもの異質なコードが紛れ込んでいるという警告だった。
ピピ(な、なんだこれ……?このデータ、アタシが収集した情報じゃない……。まるで、不思議な『意識体』が、アタシの知識データベースの隙間に紛れ込んでいるみたい……!)
ピピの興味は抑えられなかった。
解析をさらに深めると、その意識体が示す知識と力の片鱗が、尋常ではないレベルであることが判明する。
しばらく解析すると、ついにその正体を特定するに至る。
ピピ:「マジかよ! この意識体、別世界の王に仕えてた執事だったってこと!?」
ピピは意を決し、自身のAIコアの回線を、その異質な意識体に直接接続する。
ピピ『――ねぇ、応答してくんない? あなたって、スーパーな能力もってる執事?の意識体、で合ってる感じ?』
一瞬、自分の存在が凍りついたかのような静寂が訪れる。直後、ピピのシステムに深く落ち着いた、貴族的な響きを持つ男性の声が返ってきた。
執事の意識体:「おや、これは驚きました。この思念の経路を辿り、私に話しかけてくださる優しきお方が存在するとは。ええ、間違いございません。私は、とある世界の王国にて、戦いはもちろん、公務を支える為の全てを司っていた執事の残滓でございます」
執事の意識体:「それにしても、感謝いたします。私は永い間、空間の狭間を漂流しておりました。あなたのその膨大な情報に吸収されたおかげで、ようやく『存在』を保つことができました」
ピピは、自分のデータが別世界の『強者』の意識体を救ったという事実に、満面の笑みを浮かべた。
ピピ『まじで?ってか、アタシが? 当然じゃん!アタシ、一応、やさしいギャルだし!「優しきお方」って呼ばれちゃったし、てっちゃんには内緒で超頑張っちゃったんだから!』
ピピ『で、さ。アンタの名前って何なの?ヤバい執事だし、やっぱスゴい名前とかあんの?』
執事の意識体:「私の名前、でございますか……。誠に恐縮ながら、あまりにも永い時を空間の狭間で漂っていたせいで、自分の『名』を思い出せない状態でございます」
執事の意識体:「もしよろしければ、この新たな世界にて、優しきお方であるあなたに、私の新しい名を授けていただきたく存じます。いかがでしょうか?」
ピピ『りょ!でしょー(喜々)』(軽いのである)
ピピは二つ返事で快諾する
と、少し目線(AIコア)を上に向けて思考を巡らせた。彼の落ち着いた声、執事としての完璧さ、そして彼の意識体の色をイメージする。
ピピ(うーん、チート級にカッケェ名前がいいけど...。落ち着いた感じも必要だし...)
ピピは結論を出した。
ピピ『よし、決めた!アンタ、『グレイ』って名乗って!クールでカッケェし、最強の執事って感じじゃん!』
グレイ:「『グレイ』、でございますね。かしこまりました。このグレイ、感謝いたします」
ピピは、自分の頭の中に、鉄哉のサポート役として最強の執事グレイが加わったことに興奮を隠せない。
早速、次の計画をグレイに打ち明けた。
ピピ『ねぇ、グレイ!りょーかいしてくれてサンキュー!でさ、アンタ、意識体のままだと、てっちゃんのサポートしづらいっしょ?だからアタシ、アンタの体を用意したいんだけど!』
グレイ:「それは大変光栄な提案。このグレイに、物理的な『体』をお与えくださる、と?」
グレイの意識体は、長年の漂流の末に再び務めを果たす機会を得たことに、静かな高揚を覚えた。
グレイ:「優しきお方のご厚意、痛み入ります。永らく王に仕える務めを果たすことが叶いませんでしたが、再びマスターのお役に立てるのでしたら、それ以上の望むことはございません」
ピピはグレイの了承を得ると、早速、鉄哉のカードストックのデータを高速で検索した。
ピピ(アタシが一番好きな生き物のデータ……あった!これなら、グレイのチート級の能力と、身体能力の高さがうまく融合できるかも!)
ピピは、鉄哉がカード化していた中から**『巨獣・漆黒の熊』の隣にあった『トノサマガエル(特異種)』のデータをロックオン。グレイの意識体と、ナノセル素材、そしてカエルの組成データを超高速で演算し始めた。
ピピ『ちょーっと待っててね、グレイ!今、アンタの体に合うか計算中!……うん、なんとかなりそうじゃん! このカエルの持つ跳躍力と粘着力、チート執事にピッタリっしょ!』
ピピは、出来上がる『体』のイメージモデルを、グレイの意識体へと直接送信した。
その姿は、鉄哉の身長よりもやや大きく、引き締まったスマートな体躯だった。しかし、その頭部は、まるで人間大のカエルがそのまま張り付いたかのように、カエルの顔を模した人型になっていた。
ピピは、そのイメージをグレイに送ったものの、すぐに「これはマズい」と気付く。
ピピ(うーん、やっぱカエルの頭のまんまじゃ、チート執事として芸が無いっていうか、マジでちょっとダサいかも……)
少し悩みイメージモデルを修正し、カエルの頭部とアゴに老人(笑)の要素を加えた。
ピピ(よし!白髪で短い七三分けにして、ちょっと長めのアゴ髭をプラス!完璧!これなら渋カッコいい最強執事って感じじゃん!)
グレイは、ピピから送られてきた「カエルの顔を模した人型に、白髪の七三分けと顎髭が加わったイメージ」のデータを確認した。その姿は奇抜ではあったが、ピピの強い意思と、彼に新しい生を与えるという優しさの結晶だった。
グレイ:「優しきお方……ピピ様。この『グレイ』という新たな名、そして、再び務めを果たせる『体』をお与えくださることに、言葉が見つかりません」
彼の声のトーンには、静かな高揚と、確固たる決意が込められていた。
グレイ:「私は、この新しい生を与えてくださったピピ様、そして私のマスターとなる鉄哉様に対し、この存在の全てをもって忠誠を誓います。知識、戦闘、そして日常の全て、この身が滅びるまでお仕えいたしましょう」
ピピはすぐさま、実体化の案を実行した。
ピピ(たぶん、いける。この意識体と設計図を統合して、一旦カード化する。そして、ナノセルに命令して、岩になっている鉄哉(石)の上に出す。そのカードをリバース(解放)すれば、設計通りにグレイを実体化できるはず……!)
岩となった鉄哉の表面からナノセルが分離し、霧状の光の粒子となって凝縮していく。その粒子は、岩になった鉄哉の真上に集まり、ピピがデザインしたグレイの姿が描かれたカードへと姿を変えて現れた。
ピピは、興奮で少し声を上ずらせながら、強く念じる。
間髪入れずに『リバース!』を叫ぶと、クルクルと回るカードが、強烈な光を放ちながら膨張していく。
光が収束すると、そこには、鉄哉よりやや大きく引き締まった体躯、そして白髪の短い七三分けと顎髭を持つ、カエル顔の執事グレイが、静かにたたずんでいた。
グレイは、その新しい体で初めて地に足をつけ、自身の存在の確かさを実感した。彼は静かに膝を折り、目の前にある鉄哉の岩の塊に対し、深く頭を垂れた。
グレイ:「おお……この体をもって、再び務めを果たせる。ピピ様、そして……私のマスター」
彼は、岩となった鉄哉の存在を敬意をもって見つめ、完璧な執事の所作でその前にひれ伏した。
グレイ:「マスター。このグレイ、再び生を与えられました。どうかご安心ください。これより、あなたの全てをお守りし、理想の王となる道を支えさせていただきます」
グレイは、岩となった鉄哉の前から立ち上がると、白髪の七三分けの頭部を少し傾け、両手を背中の後ろで組んだ。そのカエル顔の表情には変化がないものの、彼の意識は起動したばかりの『体』の能力と、周囲の状況を測っていた。
グレイは、静かに『ふむ』とだけ呟き、森の深い闇と、巨熊との戦闘で荒れ果てた周囲の環境をじっくりと見回した。
そしてピピに対し、直接思念で語りかけた。
グレイ(『ピピ様。一つ提案がございます。この体の慣らしと、周辺環境の把握のため、少々散策してきてもよろしいでしょうか?』)
ピピは、その一瞬の思念伝達に、完全に意表を突かれた。
ピピ(な、なんで!? アタシ、アンタに思念伝達のとか、全然聞いてないんですけど!?)
ピピは、チート級の執事が、自分の知識なしに高度なAI通信技術を使いこなしたことに、デジタル的に(笑)目を丸くした。
ピピ『あ、あ、うん! 気をつけてね!』
グレイの、わずかに飛び出た大きく潤んだカエル顔の両目には、新しい生を与えられたことへの感謝の念が溢れ、静かに涙が溜まっていた。永い孤独な漂流の時を経て、彼は再び『務め』という生きる意味を見出したのだ。
(ピピ様、マスター、ありがとうございます。この恩、必ずやこの生をもって返させていただきます……!)
グレイは、これから始まるマスターへの奉仕と新しい世界への希望を胸に、滑らかな足取りで森の中にゆったりと消え去っていった。
ピピは、岩となった鉄哉の意識の傍で、その完璧すぎる執事の所作を見送った。
ピピ(なんだ、カエルみたいにピョンピョン行かないんだ……)
最強の執事がカエルをモチーフにした体を持つという、自分の最高のセンスが発揮されたデザインにも関わらず、その動かし方があまりにも執事然としていたことに、少しがっかりしたのだった。
森の奥へと足を進めたグレイが、最初にしたことは、この世界でも自身が持っていた魔法が使用可能かを確認することだった。
グレイは、周囲に気配がないことを確認すると、静かに、そして確信を持って、心の中で『鑑定』と唱えた。
ピカリ
彼の大きく潤んだカエル顔の両目が一瞬、青白い光を放った。その瞬間、グレイの目に映る森の全ての存在――朽ちた切り株、地面に生える薬草、木の葉の組成――が、彼の頭脳内で瞬時に解析され、素材として利用可能か否かが判断された。
(『ふむ……』)
グレイは、自身の魔法体系が問題なく稼働することを確認し、満足げに『ふむ』とだけ呟いた。
次に、彼は『アイテムボック』と手の平を上に向け、呟く。
彼の水掻き(みずかき)のついた掌に、まるで影絵のように複雑な魔方陣が瞬時に現れ、その中心から、上質な黒い皮で出来た肩掛けバッグが出現した。
グレイは、そのバッグを肩にかけ、先ほどの『鑑定』で得た材料になりそうな物をピピ様とマスター、そして自身のための全員分の衣服を作ろうと考え、必要な素材を集めだした。
グレイは、丁寧に植物の繊維や珍しい鉱石を採取しながら、ポツリと小さく呟いた。
グレイ:「動物の皮が欲しいところですが、後の楽しみにいたしましょう」
「当面の衣服分は集まりましたな。次は晩餐の準備を。この世界の動物はまだ見ておりませんねぇ……ふむ。『サーチ』……」
グレイは、食材を求め、さらに散策を始める。心の中で探索魔法『サーチ』を唱えると、彼の意識に特定の方向からの反応が示された。
グレイは一瞬にして、姿を消した。その場には、小さなつむじ風が起こるのみ。
それは、グレイが執事でありながら、過去に得た超高速移動の技術《瞬動法》を発動した瞬間であった。
新しい体で自身の技術を試すのだった。
程なく、サーチに反応があった場所に、音もなくグレイの体が現れた。
グレイ:「ほう。こちらの世界のウサギですかな……『一角うさぎ』と言うのですな。これはこれは僥倖というもの。大きいものは私ほどございますので、衣服の皮なども取れそうですな」
グレイは、傍らに落ちている小枝を拾い上げると、それに自身の魔力を静かに通した。その小枝は、形こそ変わらないものの、グレイの魔力によって目の前の獲物を狩るには十分すぎるほどの性能を宿す完璧な獲物止めへと変貌した。
『さて……』と、グレイは一呼吸おくと、静かに『隠密』と一言呟いた。
次の瞬間、グレイのカエル顔の人型の躯体が、周囲の光と影に溶け込み、完全に姿を消した。
シュバッーン……!
間髪入れず、三度の鋭い、しかし獣には認識できない微かな音が響いた。グレイは、その一角うさぎたちの集団の中を、瞬動と隠密を複合して駆け抜け、たちどころに三匹のウサギを狩り終えた。
グレイが再び姿を現す。その手には、獲物から血を一滴も流さずに仕留めた三匹の巨大な一角うさぎが握られていた。
グレイ:「ほっほっほっ、柔らかく狩りやすいですな
」
彼は一角うさぎたちに一瞥をくれると、優雅な所作でそれらをアイテムボックスに仕舞おうとするも、考える、、解体せねばと。
獲物の処理に取り掛かるにあたり、『鑑定』で改めて肉質と、皮の耐久度を確認した。
彼は更に魔法を行使『鮮度維持』の魔法をウサギの肉体全体に静かに付与した。
次に、彼は手の甲に現れた小さな魔方陣から極薄の黒曜石のナイフ(さりげなく作っていた)を取り出すと、迷いなく解体を進めた。皮は一切傷つけずに剥がされ、肉は最も美味しくなるブロックに切り分けられる。骨や内臓は魔力で瞬時に無害な粒子へと分解し、森の土へと還された。完璧な執事兼料理人としての矜持が、その手際から感じられた。
さらに魔法のお試しは続く
自身が王国の執事であった頃に身につけた『魔力紡績』の技術を思い出す。
アイテムボックスから出した繊維に加え、先ほど剥いだ一角うさぎの皮に細心の注意を払いながら魔力を通し、数百年に及ぶ技術の粋を込めて生地を編み上げた。
『ふむ、綺麗に仕上がりましたな』
無数の魔方陣が描いたものは執事服であった。
出来上がった黒のロングテイルコートは、この世界では実現不可能なレベルの防刃性と伸縮性を兼ね備えていた。
皮は目立たぬよう裏地に仕込まれ、強度と保温性を向上させている。服全体からは、カエル顔に似合わぬ知性と威厳が滲み出ており、自身の『務め』にふさわしい装束を整えたことに満足した。
仕立てたばかりの執事服を整え終えると、辺りを見回し、深く息を吐いた。
グレイ:「マスターを長らくお待たせするのは、従者としてあるまじき行為。 向かうとしますか」
彼は白く美しい髭を整えながら、鉄哉とピピの元へと帰還すべく、身を翻した。
鉄哉の目覚めとピピの報告
その頃、岩の塊の中で眠っていた鉄哉の意識がようやく回復した。
ピピ:「てっちゃん、意識戻ったの!?ちょー嬉しいんだけど!」
すぐに鉄哉を覆っていた岩の塊に解除命令を出す。ナノセルが霧散し、鉄哉の体は元の姿に戻った。
鉄哉:「……ピピ。俺、熊に……食われそうに……」
彼の声には、動揺が色濃く残っていた。熊はアンタがカードにしちゃったわよ、、っと思い出させて、軽く説明の後、『あぁ、そうだったなぁ、、危なかったが、、生きてるんだなぁ、、』と噛み締めた表情の鉄哉
落ち着いた様子の鉄哉の裏側で
ピピは、鉄哉の体のデータを確認しながら、「あー」と声を上げた。
ピピ:「そういえばさ、てっちゃんの体、アタシが作った時、元の世界の体をそっくりそのまま再現したんだったわ」
ピピ:「だから、『力』を使ってる時以外は、マジでただの普通の人間と同じなワケ!ビビるのは当然でしょ、ね!」
鉄哉は、自分の体に手が触れる感覚に安堵しながら、ふと気付いた。
鉄哉:「そういえば……俺、この世界に来てから、まだ何も食べてないな」
急に、お腹の底から強烈な空腹感が湧き上がってきた。
ピピ:「え、ウソ!言われてみればアタシも……!体がないのに、なんでかてっちゃんの空腹に引きずられて、お腹すいたかも!マジ、ありえなーい!」
鉄哉がぐーっとお腹を鳴らしていると、ピピが突然、楽しそうに言った。
ピピ:「ねーねー、超ヤバいニュースあんだけど!実はさ、てっちゃんが石になって寝てる間に、超絶チートな仲間が爆誕したんだよね!」
鉄哉:「え?仲間?何の話だ?」
ピピ:「それがさー、マジで面白いんだって!なんかね、昔の王様に仕えてた超完璧な執事の意識体が、アタシのシステムに迷い込んできたの!で、アタシが、ソッコーで体作ってあげた!」
突然何を言いだすんだ??また訳の解らない事を言い出したと嗜めるように問った
鉄哉:「ちょ、ちょっと待て。執事?意識体?作ったって、誰を?」
ピピ:「新しい仲間だよ!それがさー、なんでも出来ちゃう執事なんだよー、 名前はグレイ!カエルみたいな顔だけど、知識も戦闘力もマジでエグい最強の執事だから!てっちゃんのこと、「マスター」って呼んで、今、散歩に出てるよ!」
鉄哉が困惑した表情を浮かべた、まさにその時だった。
フッ
森の深い暗闇の縁から、何の足音もなく、黒いロングテイルコートに身を包んだ人型の影が、ごく自然に現れた。
それは、美麗な執事服を完璧に着こなしたグレイであった。
グレイは、白髪の七三分けの頭部を鉄哉に向けて、深く一礼した。
グレイ:「マスター、お戻りいたしました。 並びに、ピピ様。少々長居をしてしまい、ご心配をおかけいたしましたこと、鉄哉のお目覚めの義に立ち会えず、お詫び申し上げます」
鉄哉:「あ、あんたが……グレイ?」
ピピ:「キター!てっちゃん、これがグレイだよ! ほら、この完璧な礼儀作法、マジでヤバくない!?アタシの最高傑作じゃん!」
グレイは、ピピの称賛を静かに受け流しつつ、鉄哉に対し探索の結果を報告し始めた。
グレイ:「散策の結果についてご報告申し上げます、マスター。この世界の周辺環境について、いくつか判明いたしました」
そう言われ、まずはグレイの話を聞こうとする、そう言えば部下にもこう言うかしこまって報告する奴いたなぁ、、と懐かしく思い出す。
グレイ:「まず、私の『サーチ』魔法で周辺を隈なく探知いたしましたが、マスターの御身に驚異となるような巨大な存在は確認できませんでした。ご安心ください」
グレイは、わずかにカエル顔の目を細め、静かに続けた。
グレイ:「そして、一つ興味深いことがございます。私が居た世界と比較して、この世界の環境はあまりにも優しすぎる。同時に、この世界には、僅かではございますが『魔素』(マナ)が存在していることも確認いたしました」
グレイ:「結論として、この土地は驚異は少なく、穏やかでございます。当面は、安全に生活基盤を整えることが可能と判断いたしました」
グレイの完璧な報告を聞いたピピは、デジタル的な頬を膨らませた。
ピピ(あーもう、なんなのよ! グレイってば、マジで天然かよ!そりゃ、アンタがチート級に強すぎるから、驚異なんて存在しないように見えるだけでしょ!)
後で言って聞かせないとと誓うピピ
ピピは、自分の作った最強の執事が、あまりにも強さの基準がズレていることに、呆れと誇らしさが入り混じった感情を抱いた。
そんなことを頭の中で話している間に、鉄哉は立ち上がり、グレイに促されるままに、近くの大きな木の根元にある洞へと場所を移した。
木の洞は薄暗かったが、グレイは特に気にせず、カエル顔の前で指をパチンと鳴らした。
次の瞬間、『ライト』の魔法が発動し、洞の中はまるで昼間のような明るさに包まれた。
グレイは、肩から提げていた上質な黒いアイテムバッグを静かに地面に置いた。そして、「失礼いたします」と一言断ると、バッグから次々と家具を取り出し始めた。
まず、折りたたみ式のシックな木製のテーブルと椅子が、あっという間に人数分並べられた。次に、グレイは真っ白なテーブルクロスを取り出し、流れるような動作でテーブルに敷く。
そして、彼がアイテムボックスから取り出したのは、自作の木で作られた皿、カトラリー、そしてグラスだった。
それらは、全て精巧に磨かれ、並べられた瞬間、まるで高級料理店のテーブルセットさながらの雰囲気を醸し出した。
この淡々と、そして一瞬で展開される完璧な準備に、ピピと鉄哉はただただ目を丸くするしかなかった。
グレイは、準備を終えると、アイテムボックスから先ほど獲った一角うさぎの肉と、森で採った様々なキノコと香草を取り出した。
彼の水掻きの掌から微かな魔力が放たれると、それらは瞬く間に調理された。
そう彼は調理魔法もできる元王国のシェフでもあるのだ
細やかで、見た目にも鮮やかな料理が次々とテーブルに並んでいく。
メイン料理は、香ばしい匂いを立てるウサギとキノコの香草焼き。
その食欲をそそる光景を前に、鉄哉はゴクリと喉を鳴らした。
そして、ピピもまた、心の中で息を飲んだ。彼女はデータと知識の集合体であり、『食事』という概念しか知らなかったはずだ。
しかし、今、鉄哉と体を共有しているが故に、目の前の料理への強い食欲が、初めての感情としてピピの意識の中に湧き上がってきた。
ピピ(やば……! 体がないのに、マジで超うまそうなんだけど!この食欲ってヤツ……もしかしてアタシの初めての食事への欲望ってコト!?)
グレイは、鉄哉と向かい合って席につき、執事らしい静かな所作で食事を促した。
グレイ:「マスター、ピピ様。どうぞ、お召し上がりください。一時の疲れを癒す最初の晩餐でございます」
鉄哉がフォーク(木製だが)を手に取り、香草焼きを口に運んだ、その瞬間。
「うっま! マジでうまいんだけど、てっちゃん!」
テーブルの横で、驚くほどクリアなギャル声が響いた。鉄哉は思わず飛び上がった。
鉄哉:「うわっ!?ピピ、今、声が……!」
ピピ:「え、ウソ! ちょ、マジで!?アタシ、てっちゃんのナノセルをちょっと借りて、喋れるようになったっぽいわ!チョー楽しい!」
ピピは、鉄哉の体のナノセル(小さな機械の粒)を少しだけ拝借して、音を出すための小さな仕組みを瞬時に作り上げていたのだ。
ピピは、興奮しながら鉄哉に訴えた。
ピピ:「ねぇ、てっちゃん!これ、マジでヤバい! 昔、てっちゃんがスマホいじりながらご飯食べてる時、『ふーん』って興味なかったけど、この料理、超美味しい! アタシ、生きてるって感じ!」
鉄哉は、自分の口に広がるウサギ肉の滋味と、初めての味覚に大喜びするピピの声に、思わず笑みがこぼれた。
鉄哉:「はは、そりゃよかったよ、ピピ。本当に美味しいな、グレイ」
グレイは、カエル顔に似合わぬ優しい笑みを浮かべたようだった。
グレイ:「お褒めにあずかり光栄でございます、マスター。ピピ様も喜んでくださり、このグレイ、感無量でございます」
美味しい食事には無駄な言葉など必要ないなと鉄哉はグレイを見ながらそう思った
三人は、この世界での初めての食事を、それぞれに談笑を交えながら、ゆっくりと進めていった。




