第99話 決戦アクアケルベロス
「絆ってのは元々、家畜をつなぐ紐のことだったっけ。そっちの意味かね」
華菱瞳子がそんなことを呟きました。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/さすがにアポカリプスの度がすぎる
Ꮚ・ω・Ꮚメー/頭アポカリプスかよ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/アクアタルタロスがガチめの地獄めぐりになってるのは蟹蛇の計算通りなんだろうか
Ꮚ・ω・Ꮚメー/蟹と蛇のひとそんなこと考えてないと思う、と言いたいがさすがに今回は狙ってやってるな
Ꮚ・ω・Ꮚメー/なんてこというの、と一応言っておく
Ꮚ・ω・Ꮚメー/事実上のクライマックスになりそうではある
Ꮚ・ω・Ꮚメー/このあと隠しダンジョンとかイベントボスとか出してもNJM超えは難しそう
Ꮚ・ω・Ꮚメー/ガチモンのクソ外道をイベントに組み込むのはやはり反則の度が過ぎる
そんなコメントが流れて行きます。
ランタン・ラボのマップなども手に入りましたので、オペレーター役の群馬ダークに送って探索を再開します。
相変わらずモンスターの姿は少なめでしたが、別ルートで突入した天潮鉄路、佐々木ユキウサギ、鞍居夜半、バサクロたちは、モビー・ディスクという大型モンスターと遭遇していました。
モチーフは海洋小説『白鯨』に出てくる大鯨モビー・ディックと記録媒体のディスク。クジラの骨格標本に、割れた光ディスクや壊れたハードディスク、SSDなどが融合したゴースト系のモンスターとして姿をあらわしたそうです。
決して弱いモンスターではなかったと思われますが、やや相手が悪かったようです。
ニャガーッ!
暫定的に鞍居夜半が所持管理していた従魔石から飛び出した『ニャーサーカー状態』のバサクロに頭に噛みつかれ、そのまま、びったんびったんがっしゃんがっしゃんと振り回されて解体され、【喪われたはずのデータの亡霊】という、光学ディスク型アイテムをドロップして消えていったそうです。
あとで調べたところ、アクアタルタロスによる吸収前に破棄されたはずのランタン・ラボの機密データの断片が見つかったそうです。
そうして私達は深部に向かって、長い螺旋階段を下りてゆきます。
やがて、青い光に照らされたギリシャの神殿風の構造物が見えてきました。
その前に待っていたのは、体高三十メートルクラスのボスモンスター。アクアケルベロスです。
三頭の地獄の番犬として知られるケルベロスに、七月イベントのテーマであるサメとグリフォン要素を組み込んだモンスター。
左右にサメとグリフォン、真ん中が猟犬の頭。ライオンのような体に猛禽の羽根、後ろ足に八本のタコ足、海蛇のような尻尾を生やしています。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/いよいよおいでなすったか
Ꮚ・ω・Ꮚメー/タルタルソースといえばケルベロース
Ꮚ・ω・Ꮚメー/なぜロースを伸ばした
Ꮚ・ω・Ꮚメー/ケルベロース肉のカツレーツにタルタルソースをかけていただきたい
Ꮚ・ω・Ꮚメー/さすがに食材モンスターではなさそうだが
コメント欄はいよいよアクアタルタロスにおける最終決戦か息を呑んでいます。
ただ、こちらとしてはまだ、戦闘をするかどうかは決めていません。
アイテムボックスから、はちみつ菓子を出しました。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/琥珀色の座布団みたいなのが出てきた
Ꮚ・ω・Ꮚメー/武器じゃないのか
Ꮚ・ω・Ꮚメー/これは、まさか、カステラか……
Ꮚ・ω・Ꮚメー/一〇キロ以上あるぞ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/工場サイズってやつか
Ꮚ・ω・Ꮚメー/ケルベロススケールと呼ぶべきか
Ꮚ・ω・Ꮚメー/略してケルベロスケール
Ꮚ・ω・Ꮚメー/食い物で釣るつもりか
Ꮚ・ω・Ꮚメー/よもやの海中のグルメ大決戦が幕を開ける
Ꮚ・ω・Ꮚメー/いいぞがんがんやれ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/さすがにこれはワンパン不可避か
Ꮚ・ω・Ꮚメー/パンだけに
Ꮚ・ω・Ꮚメー/はははこやつめ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/死刑
ギリシャ神話では、ケルベロスをおとなしくさせるには蜂蜜入りのお菓子を食べさせるのが有効だそうです。
とりあえず一品目。
ガラガラメー/まずは小手調べだ
ゴロゴロメー/はちみつカステラ『琥珀の絨毯』
スイスイメー/ザラメの歯ざわりも楽しんでくれたまえ
約三キロずつに切り分けた巨大カステラをバロメッツたちが台車に乗せて搬送。三つの首の前に届けます。
サメェッ!
グリィッ!
ケルゥッ!
サメ、鷲、犬の三つの首が即座に食らいつき、その巨体からまばゆい光を放ちます。
サメメメメメメェーッ!
グリリリリリリィーッ!
ケルルルルルルゥーッ!
口に合わなかったわけではなさそうですが、満足したわけでもないようです。
燐光をまとったアクアケルベロスは鋭い目でこちらを見下ろしました。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/なにィッ!
Ꮚ・ω・Ꮚメー/なん、だと……。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/あのカステラで納得しない?
Ꮚ・ω・Ꮚメー/なんて貪欲さだ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/おれたちの脳はもう破壊され始めているのに
Ꮚ・ω・Ꮚメー/久しぶりにボスキャラらしい迫力を感じるぜ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/まるで料理漫画の審査員みたいな目をしてやがる……。
「……強敵ね、ビッグメガネ」
カステラの切れ端をくわえた黒縁セルロイドが真顔で呟きます。
「ば、爆神インクレディブル! アクアケルベロス! あのカステラを完食しながらネコ落ちなし! 威厳を失っていません!」
爆神暴鬼も絶叫しています。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/口元にカステラの切れ端がついてるあたりで威厳は既に損なわれているが。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/だがまだ尻尾は振っていない!
Ꮚ・ω・Ꮚメー/すげぇやつだ!
Ꮚ・ω・Ꮚメー/オラワクワクしてきたぞ
全体的におかしな盛り上がり方になってきてしまいました。
こうなるとこちらも意地、とまでは言いませんが、物理攻撃への移行はしにくい雰囲気になってしまいました。
従魔石からバーネットを開放し、アイテムボックスから神代牛のスペアリブを取り出します。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/デカァァァァイ!
Ꮚ・ω・Ꮚメー/もはや説明不要!!
Ꮚ・ω・Ꮚメー/だれだこの魔王に神代牛なんか渡したやつはっ!
Ꮚ・ω・Ꮚメー/地獄のオーブンが口を開けて焼き上げるぜ!
華菱瞳子に譲ってもらったアップルブランデーのレスプリ・ダヴァロンを料理酒に使い、たまねぎ、しょうゆ、はちみつ、しょうがを使ったつけだれを作り、熟成用アイテムボックスで巨大なスペアリブになじませます。
そこからオーブン・石窯召喚スキルを使って塊のまま焼成を開始。
あえてレゾナンスシステムは使ってはいませんが、無関心ではいられないようです。
サ、サ……サメ……サメメメァーーッ!
グリグリグリグリグリリリリリィーッ!
ケ、ケ、ケルルルルルルゥゥゥゥーッ!
アクアケルベロスがよだれを流し、もがくように床を踏みならし、床に爪を立てています。
尻尾のヘビもヘビビビビビビ、ともがいています。
お菓子でなくても普通に食欲は刺激できているようです。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/……のたうちまわってやがる
Ꮚ・ω・Ꮚメー/なんのダメージも受けてねえはずなんだがな
Ꮚ・ω・Ꮚメー/きもちはわかる
Ꮚ・ω・Ꮚメー/オレもウィンドウにくいつきそう
Ꮚ・ω・Ꮚメー/よく襲われねぇもんだ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/わかってるんだろうな、今襲ったら負けどころじゃすまないって。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/レベルの高い戦いなのか低いのかわからん
Ꮚ・ω・Ꮚメー/単純なサイズでいうと史上最大の飯テロ決戦であるのは間違いない
Ꮚ・ω・Ꮚメー/とにかく食いたい
焼き上がった神代牛のスペアリブが、黄金の光と燐光を放ちます。
こちらも三つに切り分けてからはちみつとマスタードのソースをかけてバロメッツの台車でデリバリーをしてもらいます。
ガラガラメー/お待ちかねの肉料理だ
ゴロゴロメー/神代牛のスペアリブ、アヴァロン・アップル仕立て
スイスイメー/この味わいは神話や伝説を越えた語り草となろう
サメェーーッ!
グリィーーッ!
ケルゥーーッ!
ヘビィーーッ!
三つの巨大な首、さらに小さな蛇の首が伸びてきてスペアリブに食らいつき、骨ごと噛み砕いて飲み下して行きます。
アクアケルベロスの巨体がさらに強い光を放ち、
サメニャーッ!
グリニャーッ!
鮫の頭と鷲の頭がのけぞり、それぞれ目玉を星空のように光らせながら、そんな声を上げました。
「爆神スマッシュヒット! 神代牛のスペアリブでネコ落ち二枚抜き!」
爆神暴鬼の実況が響きます。




