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第97話 わかっていない

 黒い竜人の体から引き剥がした従魔石は、そこに住まう黒竜バサクロの憤怒を示すように赤く明滅しています。

 少し不穏なものを感じましたが、ともかく回収し、カルキノクラストでアークシャークと並んでアクアタルタロスへと帰還します。

 待っていたのは、微妙な静寂でした。


 Ꮚ・ω・Ꮚメー/ポカーンという擬音が似合う

 Ꮚ・ω・Ꮚメー/脈絡無視の横から鮫殴りは無法の度が過ぎる

 Ꮚ・ω・Ꮚメー/我々常駐視聴者ですら頭に???が浮きまくったからな

 Ꮚ・ω・Ꮚメー/NJMから見たらもっとわからんだろう

 Ꮚ・ω・Ꮚメー/今西おじの顔が面白いことになっている


 NJM内部の人間関係や政治的背景などを一切無視してアークシャークを呼び出し、突っ込んでいったせいで話の腰をへし折ってしまったようです。

 そんな中、唯一憤怒の炎を燃やし続けていたのは、竜人化のかたちで自分の力を勝手に利用されたバサクロでした。

 従魔石が赤と紫の入り混じった光を放ち、本来在るべき姿、ブラックドラゴンに戻ります。


 ウオオオオオオオオン!


 空中に浮かび、凄絶な咆哮を放ったバサクロは大きく息を吸い込むと、閃光のブレスを放ち、今西大道側の冒険者たちを薙ぎ払いました。


 Ꮚ・ω・Ꮚメー/また同士討ち?

 Ꮚ・ω・Ꮚメー/むちゃくちゃだなNJM


「爆神・ランページ! ブラックドラゴンがNJM主流派を消し飛ばします! あちらのブラックドラゴンは本来NJM町田支部に帰属。佐々木ユキウサギ氏、鞍居夜半氏と同様天潮派だったところを変形者(シェイプチェンジャー)の能力で強制利用されていた模様です! すさまじい破壊力!」


 やや混乱している視聴者に向けて、爆神暴鬼が解説を入れてくれました。

 ブレスの一閃は逃れたものの、腰を抜かした様子の今西大道は、這うようにして逃げ出そうとしますが、バサクロはその足をくわえ、逆さ吊りにして持ち上げました。

 天潮鉄路との差異を誤魔化すための仮面が剥がれ落ちていきました。


 Ꮚ・ω・Ꮚメー/顔バレ

 Ꮚ・ω・Ꮚメー/こうしてみると大分違う

 Ꮚ・ω・Ꮚメー/頬が緩いな

 Ꮚ・ω・Ꮚメー/ぷるぷるぶるどっく

 Ꮚ・ω・Ꮚメー/体のお肉も重力で


「……は、はな、せっ……分家の分際でっ……こ、こんなことを、して、ただですむと……」


 逆さ吊りなので普通に話すのも難しいようです。息も絶え絶え、といった調子で今西大道は威嚇しました。


「だ、だれか、たすけ……」


 まだ生き残っている冒険者たちにもそう訴えますが、反応はありませんでした。


 Ꮚ・ω・Ꮚメー/これは無惨

 Ꮚ・ω・Ꮚメー/ここで助けても本当に何のメリットもねぇからな……


 バサクロはだまって首をふりあげ、今西大道の体を大きく持ち上げました。

 以前のゲリュオン戦の時と同じ、「びったんびったん」の構え。実行したらそれで終わり、その前に天潮鉄路が「待ってくれ」と呼びかけました。


「確認したいことがある」


 その声を受けたバサクロは面白くなさそうに鼻を鳴らしつつ、天潮鉄路らの方に今西大道の体を吐き捨てました。


 Ꮚ・ω・Ꮚメー/ぺっ、て感じで

 Ꮚ・ω・Ꮚメー/まずそう


 口直しに、というわけでもありませんが、竜人化に使われた影響で消耗しているようでしたので、神代牛のローストビーフを渡しておきました。

 またしてもニャギャー、という声をあげさせてしまいましたが気にしないことにしておきます。


 Ꮚ・ω・Ꮚメー/しれっとニャンドラゴン降臨

 Ꮚ・ω・Ꮚメー/とりあえず、みたいなノリで何を食わせているのか

 Ꮚ・ω・Ꮚメー/いともたやすくおこなわれるえげつないめしてろ


 コメント欄の動きはさておき、改めて天潮鉄路らと今西大道の対決が始まりました。

 戦闘のほうはもう決着していますので、対話と言う名の対決となりますが。

 地面の上にへたり込んだまま、落ち着きのない様子で、助けを求めて視線を走らせる今西大道。

 そこに歩み寄った天潮鉄路は、自陣営の装甲列車のほうに視線をやると、「夢姫さん、撮影を」と告げました。

 

「はーい♡」


 と声をあげて姿を見せたのは、爆神暴鬼と同じ蟹座イベントのアンバサダー冒険者のひとり、アイドル風冒険者夢姫ぽるるでした。

 お姫様のような白いアイドル衣装に身を包み、大目玉型の従魔イビルアイを連れて、今西大道を撮影するためのポジションを確保します。

 同じアンバサダーであり、私達のパーティーにおける爆神暴鬼と同じ記録、実況役ということで対抗心を燃やしているようでした。

 途中で一瞬、爆神暴鬼のほうをギラリとした目で睨みつけ、ヒッと悲鳴をあげさせていました。

 ライバルというより怯えている様子の爆神暴鬼も自撮り杖を構えて準備完了。

 天潮鉄路は改めて口を開きます。


「この施設、ランタン・ラボのことを、貴方はどこまで知っている?」

「MIYACO、NJMの研究系冒険者によるアンデッド因子感染症の研究施設だ」

「具体的に何が行われていたのか。貴方や、南郷フミヒコらがNJMの共有財産のように扱っていたこのブラックドラゴン、バサクロの本来の主人である六堂真尋については、どこまで知っている?」

「……なんだその質問は、そんなことを聞いてどうする。ランタン・ラボの研究内容とその収容患者についてのことは機密情報だ。う、裏切り者に話すことなどなにもない!」

「六堂真尋がランタン・ラボの収容患者だ、という程度のことは把握しているわけか。安心した。そこから知らないと言い出しかねないと思っていた」


 天潮鉄路は冷然と言いました。


「まぁNJMにはアンデッド因子感染症患者なんかいない、とか口走った人もいましたけどね」


 鞍居夜半が茶化すように付け加えます。


「い、一体なにを言いたい! 私を脅しているつもりならもっとはっきりとものを言えっ!」


 メェ (これは、まさか……)

 メエェ(この男、本当に……)

 メメェ(何もわかっていない?)


 バロメッツたちが唖然としたような声をあげました。

 はっきりした回答をしてくれる人はいませんでしたが、天潮鉄路らは「今西大道はなにもわかっていない」という前提で話を進めていくようです。


「これから我々は、アクアタルタロスに吸収されたランタン・ラボの収容患者、及び研究職員の身柄を確保し、同時にランタン・ラボにて行われていた、六堂真尋に対するアンデッド因子の継続投与に関する情報公開、証拠保全を実施する」


 その宣言に対する今西大道の反応は、完全な困惑の表情でした。


「アンデッド因子の……え、なんと言った?」


 信じられない、といった調子でも、誤魔化そう、といった調子でもありません。


 メェ…… (シンプルにバカ面、とは……)

 メエェ……(笑えん)

 メメェ……(むしろホラーだ、これは)


 本当にランタン・ラボという重要施設の内情をなにも知らず、すぐ近くで前線を担っていた六堂真尋やブラックドラゴンの背景に興味を持つこともなく、ここまでやってきたのでしょうか。

 レストレイドのいうとおり、あまりに無関心、無頓着ぶりの度が過ぎて、背筋が寒くなりました。

 自分以外、あるいは自分と同じランクでない人間のことには、本当に、何の興味も持っていない。

 そんな人間の表情に見えました。

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― 新着の感想 ―
今西大道って、自分より下の立場の人間って、認識したら、それは全部自分がアゴでこきつかって良いとか思っていそう。天潮に対しても自分は本家でお前は分家、だから従えって、どこの田舎の人間ですか?前時代的な頭…
逆に言うと胸糞悪いアンデッド因子再投与の話に関わってないともいえるので、にんともかんともというところではあるが・・・ なんだろうね、自分の能力を派手に使うことにしか興味がない? あと、ぽるネキおっす…
自分で考える事も責任を取る事も放棄して、ただただ与えられた権威とスキルを振り回して生きてきた、外面だけ整えられた中身空っぽの神輿…………。こんな奴の影武者やらされてきた天潮が哀れで仕方ないわ。明らかに…
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