第92話 撃滅、メガサメラドン
ヒュドラティスの毒を使い切ってしまった私は、カルキノクラストでバーネットのところまで移動します。
その上空では、六体に分離したアトラス・ロボは、宿敵メガサメラドンとの戦いのクライマックスに突入しようとしています。
「最後くらいは正規合体で行こうか」
「いたしかたありませんわね、よろしくてよ」
ダバイン貴富の提案を、毒巻デスロールは気乗りしない雰囲気ながら受け入れました。
トキシンアトラスが正規合体で、ただ変な名前で呼んでいるだけかと思いましたが、まだ不正規の合体だったようです。
「それでは皆様! 参りましてよ!」
「「アセンブリ・グランコード!」」
テンションが高かったり低かったり、乗り気だったり引き気味だったりと様々ですが、ともかく声を揃えた合体コードが響き渡ると、アトラス・ロボットに内蔵されたスピーカーから音楽が聞こえはじめます。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/なるほど
Ꮚ・ω・Ꮚメー/ここで主題歌
Ꮚ・ω・Ꮚメー/一体何を聞かされているのか
Ꮚ・ω・Ꮚメー/蛇蟹ェ……
Ꮚ・ω・Ꮚメー/スタッフに懐古厨のおっさんがおったんやろなぁ
バーネットに戻った私のゴーグルの中にそんなコメントが流れてゆきます。
闇を裂いて♪
走れ雷鳴♪
希望のシグナル♪
この空に掲げろ♪
六機の鼓動が今♪
ひとつになる時♪
目覚める鋼の魂♪
男女混成、朗々としたコーラスです。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/歌い手もオケも無駄に豪華で草生える
Ꮚ・ω・Ꮚメー/ぽるネキ参加しとったんか
Ꮚ・ω・Ꮚメー/悲報、爆神暴鬼呼ばれてない
Ꮚ・ω・Ꮚメー/歌枠やったこともないしそらそうよとしか
あとで知ったことですが、運営側が東京大迷宮で人気の音楽系冒険者を秘密裏に集めてテーマソングを収録していたそうです。東京大迷宮公式チャンネルで公開されたPVによると、シュバリエのゴーシュ駒人もオーケストラとしてクレジットに入っていました。
六機のアトラス・ロボットが紫から本来の色を取り戻し変形開始。
大蠍スパインスコーピオンが胴体に。
一角獣ライトアーシー、黒山羊レフトアーシーが白と黒の粒子をまとって二本の足となり合体。
「悲しみも怒りも力に変えて! 信じた絆が導になる!」
妙にテンションの高い台詞が挿入されました。
猛牛ライトカイナー、大鷲レフトカイナーが砂塵と旋風を放って両腕に。
グラン・アトラス♪
正義の刃♪
絶望に立ち向かえ♪
六神の光♪
その名を叫べ♪
未来を掴め♪
六合合体♪
今、伝説が動き出す♪
最後に赤獅子ライオメットが頭部に変形し合体。
「グラン・アトラス、完成ですわ―っ!」
毒島デスロールの宣言と共に、海面に降り立った巨神グラン・アトラスの背後で六色の爆発が起こります。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/なんでこんな演出に気合入ってんだよ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/良かったな運営、ちゃんとサルベージしてもらえて
Ꮚ・ω・Ꮚメー/下手すりゃヘスペリデスの園で水没エンドだったんだぞ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/その水没エンドにもっていきかけた毒巻デスロールが今のメインパイロットでなのである
Ꮚ・ω・Ꮚメー/主人公が主役ロボを強奪するのもお約束ってもんよ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/そういうパターンの強奪じゃなかったと思うが
「それでは皆様、ケリをつけますわよ!」
「アトラスラッシュ顕現」
グラン・アトラスの右手に、赤銅色に輝く大剣が浮かびあがります。
ヒュドラティスの毒ダメージで残存バイタルの四割を削られたメガサメラドンは、まだ戦意は旺盛なものの、持ち前の再生能力も停止しているようです。紫に変色して動かなくなった蛇頭の束をぶら下げたまま、グラン・アトラスめがけて突進を開始します。
グラン・アトラスもまた、水面を滑走するような姿勢で前進を開始。右手の大剣アトラスラッシュを振り上げます。
「タイタニック・グラン・ストライクですわーっ!」
全身から黄金の光を、大剣からは真紅の光を放って一閃。
武器の名前も、必殺技の名前もそれが正式名称だったようです。
真紅の軌跡を描いた大剣が、メガサメラドンの胸部に一直線に突き刺さります。
メェガァサァァメェェェラァァァァァァドドドドドオオオオンッッ!!!
そんな咆哮とともに、メガサメラドンの全身から真紅の光芒が吹き出し、轟音、閃光とともに爆発。
300m級の巨体が跡形もなく、光の粒子になって消し飛びました。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/やったか……
Ꮚ・ω・Ꮚメー/やめい
Ꮚ・ω・Ꮚメー/まぁいうてさすがにこれは
Ꮚ・ω・Ꮚメー/撃破アナウンスまだ出ないのか
警戒気味のコメントが流れる中、飛び散った光の粒子が再び水面へと集まり始めます。
「まだ復活しますの?」
「いや、違うみたいだね」
ダバイン貴富が静かな声で告げました。
一箇所に集まった粒子の群れは輝く山のような形を取り、やがてふっと光を失っていきます。そしてそれは、アクアタルタロスの大穴のすぐ近くに浮かぶ、平らな島に姿を変えました。
その中心には、緑色に輝く光の柱のようなものがそびえています。
次いで二枚のメッセージウィンドウが表示されました。
ひとつは通常の撃破メッセージで、
ボスモンスター、メガサメラドンを撃破しました。
アイテム入手:魔笛ポセイドンラース
PP入手 :1,000,000 PP
貢献度ランキング:4位
と言う内容になります。
スラコンミニによる魔笛ポセイドンラースの鑑定データは以下の通り。
魔笛ポセイドンラース
レアリティ:レア
品質:最高
属性:水
使用効果:友好度の高い鮫系モンスターを召喚・使役する
友好度の高い鮫系モンスターというと背脂研究所のアークシャークになりそうですが、背脂所長の指揮下で動いているアークシャークを呼び出してしまうのはまずい気がします。
もうひとつのメッセージは、東京大迷宮の冒険者全員にあてられた同報メッセージです。
ゲートモンスター、メガサメラドンが撃破されました。
アクアタルタロス前にイベント特別ゲートが解放されました。
というものでした。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/なるほど
Ꮚ・ω・Ꮚメー/倒すとゲートが開くタイプのボスであったか
Ꮚ・ω・Ꮚメー/こりゃ最初からヘスペリデスの園で倒させるつもりなかったな
Ꮚ・ω・Ꮚメー/こういう場所で倒さないと意味が薄い
Ꮚ・ω・Ꮚメー/そんなことよりゲートが開いたってことは
Ꮚ・ω・Ꮚメー/近所のゲートからバリバリ乗り込めるようになったってことだな
Ꮚ・ω・Ꮚメー/も・り・あ・が・っ・て・ま・い・り・ま・し・た
Ꮚ・ω・Ꮚメー/アクアタルタロスランド開園
Ꮚ・ω・Ꮚメー/わぁい
Ꮚ・ω・Ꮚメー/のりこめー
Ꮚ・ω・Ꮚメー/かちこめー
Ꮚ・ω・Ꮚメー/祭りはこれからじゃー
Ꮚ・ω・Ꮚメー/行くぞてめーらー
メガサメラドンの撃破で、一気に盤面が動きました。
これまで水とサメ、グリフォン群が障壁となりアクアタルタロスへの侵入を阻まれていた冒険者たちが、これからは容易にアクアタルタロス攻略に参加できるようになります。
「急いだほうがいい。ゲートからのアクセスが始まると混乱するはず。カオスメガネ」
「そうですね。アクアタルタロスに全速で突入を」
黒縁セルロイドの提案を受け、バーネットを加速させます。
穴の向こう側のNJMの装甲列車隊も同様の決断を下したようです。
群がるサメとグリフォンたちの合間を強引に突っ切り、アクアタルタロスへの突入を試みる様子が目に入りました。
こちらにはドミナンスモードがありますし、アトラス・チームとメガサメラドンの格闘がサメとグリフォンを追い散らしてしまっています。
アクアタルタロスの大穴に、まっすぐに突入します。
穴の底は真っ暗闇。なにがあるのかはわかりませんが『重力が弱い』ことだけはわかっています。
闇の中を、バーネットはゆっくりと落ちていきます。
「ば、ばばば、爆神エントリー! そしてフォールダウン! この先には一体なにが待っているのでしょうか!」
爆神暴鬼の声が響く中。
グラン・アトラスのダバイン貴富から通信が入りました。
「今大丈夫?」
「はい、穴をゆっくり落ちています」
「グラン・アトラスのセンサーに大型の潜水艦らしい反応が引っかかった。例のソナードローンと、南郷フミヒコの電波の発信元だと思う。東京湾の中心部、ちょうど浦賀水道の深層付近だと思う。僕らで捕まえに行ってみる」
「アトラス・チームで、ですか?」
「うん、まだ毒巻さんが物足りないみたいだし」
「温すぎですわよーっ! まだまだ暴れ足りませんことよーっ」
確かに元気そうな声が通信に入ってきています。
「わかりました。気をつけて」
「うん、そっちもがんばって」
通信終了。
それと同時に、バーネットのアナウンスが車内に響きます。
「「落下終了まであと三〇秒、耐衝撃姿勢を」」




