第91話 ドレインアトラスの逆襲
追いかけてきたバーネットに合流し、再び水上に戻ると、大きく水面が揺れ、毒巻デスロールの怒鳴り声が聞こえてきました。
「くそですわーっ! は・な・れ・や・が・れ・ですわー!」
「オープンアトラス!」
メガサメラドンと格闘戦を演じるアトラスチームはやや膠着気味の様子です。
そして今西大道、天潮鉄路という二人の鉄道王を擁するNJM本隊が姿を見せていました。
メガサメラドンを迂回するコースで水上に敷設したレールに二両の装甲列車が走っている様子が見えました。メガサメラドンを避けても他のサメやグリフォンがいますので、一気に突入とはいかないようですが。
NJM本隊が足踏みをしている隙にアクアタルタロスに突入したいところですが、その前に、目の前、もしくは頭上で死闘を展開している巨大な不確定要素をどうにかしておくことにします。
NJM以外の勢力、シュバリエや三帝なども戦力を展開してきてはいるのですが、三百メートルクラスの巨大モンスターと巨大ロボットが取っ組み合いの影響でうまく動けていない様子です。
アクアタルタロスに突入をかける前に、いかにもメガサメラドン特効アイテムといった雰囲気のヒュドラティスで一撃を加えることにしました。
水中箒のBモードに設定したカルキノクラストに掴まり移動開始。大波を立てて立ち回りを演じるトキシンアトラス、メガサメラドンに接近します。
なお、メガサメラドン周辺の水域には、
サメラドーン!
サメラドドーン!
サメラドドドーン!
通常サイズの蛇鮫たちが泳ぎ回っていましたが、Bモードの巡航速度と運動性で振り切り、鮫特効武器のチェーンソーで切り裂いて前進して行きます。
ある程度、安全が確保されたところで水上に顔を出し、トキシンアトラスに搭乗しているダバイン貴富に無線を入れました。
「ソルです。少しだけ介入します。左側面から突入してヒュドラティスで近接攻撃を仕掛けます」
「わかった。いったん距離を取る。トライコーンドリルを」
殴り合いの操作は毒巻デスロールですが、武装関係の指揮はダバイン貴富が担当しているようです。
ユニコーン型の右膝から一本、山羊型の左膝から二本の角がドリルとなって伸び、トキシンアトラスにのしかかっていたメガサメラドンの胴体をえぐり、後退させました。
「突入します」
水面下をBモードで疾走。
メガサメラドンの尻尾を狙ってヒュドラティスを繰り出します。
メガサメラドンは尻尾の先にも三つ首の鮫の頭が生えていて、噛みついて来ましたが、そこにヒュドラティスの先端を当てて離脱しました。
うまく通れば残存バイタルの四割を削ることができるのですが、やはりそう簡単に通る攻撃ではないようです。
サァメェラァドォドドドドドドドドォォォォォォーーーーッ!
相変わらず反応に困る絶叫を放ったメガサメラドンは、苦悶するように身をくねらせましたが、紫色に変色した尻尾側の鮫頭がぼろぼろと崩れ落ちると、すぐに同じような鮫頭を生やして再生してしまいます。
メェ (今一つか)
メエェ(ヒュドラティスの毒を鮫頭に回し)
メメェ(切り離して体外に排出した)
今回は空中をついてきているバロメッツたちが呟きます。
やはり一筋縄では行かないようです。
ヒュドラティスの毒攻撃の残り使用回数はあと一撃。
メガサメラドンが放った毒液攻撃を水中に潜ってかわすと、
<なんですの今の毒使いは! せっかくの毒がもったいないですわ!>
毒巻デスロールから叱責の声が飛んできました。
毒使い、という単語は初めて聞きました。
<毒攻撃をするモンスターに素で毒属性を当てて通じるはずがないじゃありませんこと? 貴女に使われる毒が可哀想ですわ! 毒が泣いていますわ!>
<じゃあ、毒島さんならどうするの?>
だいぶ興奮している様子の毒巻デスロールをなだめるようにダバイン貴富が言いました。
<事前にディス・ディスポイズンを撃ちこんで毒耐性を削ってから本命の毒を胴体に撃ち込みますわ! それくらい淑女の常識でしてよ>
さすがにそれは淑女の常識ではない気がします。
<なるほど、ソルさん、もう一撃行けそう?>
<一撃だけなら、今日はそれで使用回数がなくなります>
<わかった。毒巻さん。ディス・ディスポイズンを>
<仕方がありませんわね。では再合体ですわ、行きますわよスコーピオンちゃん! オープンアトラス!>
トキシンアトラスが六体に分離。獣型、蠍型ロボットに変形します。
同時に胴体となるスパインスコーピオンのボディが水属性の青色から毒属性を示す紫色に変わります。
<トキシックウェーブ、照射ですわ>
さらにスパインスコーピオンは機体全体から怪しい紫色の波動を放ち、残るロボットを捕捉、やはり自分と同じ紫色に染めて行きます。
<いきましてよ! 毒身合体ですわーっ!>
毒巻デスロールの宣言と共に、五体のロボが変形、無理やり引き寄せられるような形でスパインスコーピオンと合体しました。
<ドレインアトラス様再臨ですわーっ!>
他のロボットの協力を得ず、毒属性の魔力で外的にコントロールし合体することで完成する毒属性の不正合体フォーム、紫の巨人ドレインアトラスが再び水上にその姿を浮かび上がらせます。
ヘスペリデスの園でメガサメラドンと激突、相打ちになった形態でもありますが、ディス・ディスポイズンという毒系統の攻撃を行うには、こちらの形態のほうが都合が良いのでしょう。
「ドレインファイヤーですわーっ!」
ドレインアトラスの左の手のひらに右の親指と人差し指が押しつけられ、Dの字を描きます。
そこからDの形をした光が飛んでメガサメラドンを直撃、紫の炎で包みます。
「スコルピエール!」
ドレインアトラスの胴体になっているスパインスコーピオンの尻尾の先から紫の瘴気が放たれ、一本のレイピア風の武器スコルピエールへと変わります。
「ヴァイタル・ヴェノム・スティングですことよーっ!」
フェンシング風の構えから、水上を滑るような動きで突進。スコルピエールがメガサメラドンの胴体に突き刺さり、注射器のように毒液を注入します。
直接ダメージを与える毒ではなく、毒への耐性を破壊、毒消し系のスキルやアイテムの効果を阻害するディス・ディスポイズン。
サァメェラァドォドォドォドォドォゥンッ!
直接的なダメージを与える種類の毒ではないため、メガサメラドンは大きな痛痒を感じなかったようです。
無数の鮫頭を一気に動かして、目の前のドレインアトラスに食らいつきにかかります。
「甘くってよ!」
ドレインアトラスを更に踏み込ませた毒巻デスロールはメガサメラドンの胴体を鋼の腕で羽交い締めにします。
多頭蛇鮫竜メガサメラドンもドレインアトラスの全身に食らいつき、歯を突き立てますが、ドレインアトラスは力ずくで機体をひねり、メガサメラドンの腹の部分をこちらに向けさせました。
「今ですわ! 貴女様の毒を叩っこんでやってくだせぇましっ!」
最後のほうの口調が少しおかしい気がしますが、頃合いのようです。
カルキノクラストのBモードで再突入。メガサメラドンの腹部をヒュドラティスで切りつけて離脱します。
メガサメラドンの巨体から考えると、ごく微小なサイズの傷から紫色の毒が波紋のように広がっていきます
サ……サ、メ……ラァァァァァーーーーッ!
今度こそ、ヒュドラティスの毒が効果を発揮します。
無数の目と口から黒い血を流し、咆哮するメガサメラドンは、仇敵だけでも道連れにしようとするようにドレインアトラスに食らいつき、絡みついていきます。
「なんの! 白雪姫の毒リンゴより甘いですわ! オープンアトラス!」
毒巻デスロールはドレインアトラスを分離させて、メガサメラドンの拘束を抜け出します。
ところで白雪姫の毒リンゴというのは甘いものなのでしょうか。
なんとなくですが、酸っぱそうな気がします。