第89話 よく見るとDSS
どうやら、私達が来るのを待っていたようです。
佐々木ユキウサギは脚部一体型の航行ユニット、右腕に固定したチェーンソー・ユニットを起動。白い泡を立てて戦闘モードに移行します。
薄いラッシュガードの下に紐のような水着をつけているのが見て取れました。以前見かけたデンジャラススイムウェアを装備効果重視で装備しているようです。
ラッシュガードで露出度を下げると、装備効果はだいぶ落ちてしまうそうですが。
<魚雷管の蓋が開いた。メガネワーニング>
私と華菱瞳子のゴーグルからの情報をバーネットの車内でモニターする黒縁セルロイドが警告をします。
佐々木ユキウサギの両脚部に設置された魚雷発射管から二本の小型魚雷が放たれます。
<回避不要、当たらない。ハズレメガネ>
一応私と華菱瞳子に一本ずつ飛んできた魚雷は、少しずつ狙いを外し、被害が出るか出ないか微妙、もしくは絶妙な距離感で炸裂しました。
<メェ (わざと外したな)>
<メエェ(NJMからの先制攻撃)>
<メメェ(大義名分のプレゼントか)>
水上で待つバロメッツたちのコメント通り、敵のソナードローンを破壊しやすいよう、NJMの先制攻撃を仕掛けた体裁にしてくれたようです。
「「佐々木ユキウサギの脊髄部からビーコン信号を確認」」
「「佐々木ユキウサギの所在をNJM側がモニターするためのものと推定」」
<メェ (なるほど)>
<メエェ(これでは身動きが取れん)>
<メメェ(NJMを出し抜いて連れ出しても所在が筒抜けになってしまう)>
バーネットが分析し、バロメッツたちが解説をしてくれました。
佐々木ユキウサギの目標は、日向真尋の救出ですが、体内にビーコンがあっては遂行困難。私達とぶつかってソナードローンもろとも排除されることが最適解と判断したのかも知れません。
先制攻撃の二発の魚雷は、攻撃ではなく援護射撃と見なすべきでしょう。
常軌を逸した冷静さと冷徹さですが、佐々木ユキウサギの素性は、日向真尋の父日向義輝が探索中に発見したスペランカー・ユニットという並行世界産の機械系人造人間で、思考回路は人間でなくアンドロイドのそれに近いのだそうです。
ラッシュガードとの重ね着とはいえ、デンジャラススイムスーツを真顔で実戦投入できるのもその関係かもしれません。
「「NJMから佐々木ユキウサギへの暗号化メッセージを傍受」」
「「復号開始」」
バーネットのアナウンスと共に。
【佐々木さーん、ご説明しましたよねぇぇ? “先に撃たせて”って筋書きー。なんのおつもりですかー、ご自分たちの立ち位置わかっていらっしゃいますかー】
聞き覚えのある声が、復号されて流れてきました。
<メェ (南郷フミヒコか)>
<メエェ(妙なところで指揮をとっているな)>
<メメェ(挑発して先制攻撃されたと騒ぎ立てるつもりだったのだろう)>
生産村の村長を辞任、夜逃げのように姿を消したと言われていた南郷フミヒコですが、しっかりNJMの保護下に戻っていたようです。
さすがに妨害作戦全体の指揮を執れる立場でないと思いますが、挑発、扇動のエキスパートとして抜擢されたのかも知れません。
あのソナードローンが南郷節でなにか喋りだしたら、不愉快になって突撃していたかも知れません。
【いいですかー、これ以上の失敗はありませんよー。ここで全員ブラックアウトさせてくださーい。お願いしますよぉー、本当にぃー】
暗号化された通信ということで、第三者を意識していないのでしょう、これまでより更に粘ついた声になっています。
南郷フミヒコの圧力を受けた佐々木ユキウサギは無表情でチェーンソー・ユニットをドライブ。脚部航行ユニットのアクアジェットを始動し本格的な戦闘行動に移行します。
最初にターゲットにされたのは潜水ドローンにつかまり行動する私です。
二射目の魚雷は直撃軌道。
潜水ドローンから手を離してカルキノクラストを一閃し、切断しましたが、同時に魚雷が爆発。大星石の加護で私は無事でしたが、ドローンは衝撃波に破壊されてしまいました。
さらに距離を詰めてくる佐々木ユキウサギが繰り出したチェーンソーをカルキノクラストのスコップモードで迎撃。チェーンソーの回転刃を切り飛ばしましたが、全体的なパワーでは佐々木ユキウサギのほうが上となります。大きく跳ね飛ばされてしまいました。
すかさず三体のソナードローンたちが魚雷を撃ち込んできましたが、今度は華菱瞳子が三尺サイズの水中花火を投げ込んで魚雷を一掃。
さらに海底を超高速で駆け抜けてソナードローンの一機を如意棒で一撃、粉砕します。
水の抵抗という概念を完全に無視したスピードで動き回っています。
【なにをやっているんです! カバーも満足にできないんですか!】
南郷フミヒコの罵声が電波に乗り、復号されて行きます。
<この通信を配信に乗せる。爆神ブロードキャストメガネ>
<ハイヨロコンデー! 水中からの怪音波の正体を探るべく水面下に突入した。ソル・ハドソン、華菱瞳子両氏ですが、水上で不審な電波を受信しました。それではお聞きください、爆神・デコーディング>
<メェ (面白い趣向だな)>
<メエェ(こちらでも流すとしよう)>
<メエェ(ポチッとな)>
【ぶち殺してください! すぐにっ!】
Ꮚ・ω・Ꮚメー/うお
Ꮚ・ω・Ꮚメー/びっくりした
Ꮚ・ω・Ꮚメー/いきなりのおっさんの罵声
Ꮚ・ω・Ꮚメー/不具合?
Ꮚ・ω・Ꮚメー/爆神チャンネルによると、水中に飛んでる暗号通信を復号したボイス。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/今ひとつ状況がわからん
Ꮚ・ω・Ꮚメー/某村長を思い出すがどうなんだ
南郷フミヒコの声だけではうまく状況が伝わらないようです。
ゴーグルのカメラレンズ近くを指で叩いて合図を送ります。
<メェ (映像を出せと?)>
ホームズが察してくれました。
瞬きを一回して、ゴーグル内蔵のアイトラッカー機能で「はい」と応答します。
<メエェ(了解した)>
<メメェ(映像入れるぞ)>
配信画面に、私のゴーグルから見える水中の映像が映し出されました。
中心に捉えているのは水中戦装備でソナードローンのカバーに入ろうとする佐々木ユキウサギの姿です。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/これは
Ꮚ・ω・Ꮚメー/ラッシュガードをつけてはいるが……
Ꮚ・ω・Ꮚメー/まさかのD・S・S
Ꮚ・ω・Ꮚメー/デンジャラススイムスーツのロボっ娘!
Ꮚ・ω・Ꮚメー/ちがうそうじゃない
Ꮚ・ω・Ꮚメー/どうみてもNJMです本当にありがとうございます
Ꮚ・ω・Ꮚメー/やってしまいましたなぁ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/てことはこの心イラつかす汚っさんボイスは
Ꮚ・ω・Ꮚメー/安定のミスターナンゴーかよ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/ディープフェイクだろこんなの
Ꮚ・ω・Ꮚメー/深海だけにってか
Ꮚ・ω・Ꮚメー/深海ってほど深くはなさそうじゃが
Ꮚ・ω・Ꮚメー/いやぁNJMさんもこの期に及んで妨害活動とは恐れ入りますなぁ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/偶然音波が干渉しただけかもしれんだろ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/アクアタルタロスにあるのはMIYACOの機密施設だぞ。守ろうとするのが当たり前だろ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/妨害してなにが悪い
Ꮚ・ω・Ꮚメー/普通のイベントの駆け引きだろなんの問題もねぇわ
【佐々木さーん、ご説明しましたよねぇぇ? “先に撃たせて”って筋書きー。なんのおつもりですかー、ご自分たちの立ち位置わかっていらっしゃいますかー】
時系列を無視して、最初に拾った南郷フミヒコの声が配信に差し込まれました。
<お詫び:操作ミスで録音データを配信に乗せてしまいました>
画面にそんなテロップが表示されます。
バロメッツたちの悪戯でしょう。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/あっ……
Ꮚ・ω・Ꮚメー/ここで論破神クオリティ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/安定のクソ野郎ぶりにむしろ安心した
Ꮚ・ω・Ꮚメー/がんばってた擁護のひとがかわいそうだろ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/南郷節全開である
Ꮚ・ω・Ꮚメー/なんでまだ使ってんだよこんなオワコンおじたん
Ꮚ・ω・Ꮚメー/煽りのエキスパートだからな、ボイチェンとかテキストベースなら使えると思ったんじゃね
Ꮚ・ω・Ꮚメー/まぁ普通暗号通信ぶっこ抜いて配信に乗せるとか想定せんわな
Ꮚ・ω・Ꮚメー/ハッキングじゃねぇか
Ꮚ・ω・Ꮚメー/と、個人情報ぶっこぬきおじさんの支持者の皆さんがお怒りです
気がつけば水上組が広報戦を始めてしまいましたが、水面下では気の抜けない状況が続いています。
二機目のソナードローンを狙って動く華菱瞳子、それを阻止しようと追跡する佐々木ユキウサギ。
その後を追う形で私も動きますが、大星石だけではアクアジェットで水中を高速移動する佐々木ユキウサギに追従するのは難しいようです。
カルキノクラストのハサミを開き、アイテムボックスから出した大星石を挟み込むようにセット。
ロケットランチャーを構えるような恰好で、三機目のソナードローンに狙いを定めました。
二本の爪が左右にTの字を描くように開き、青い光を放ち始めます。




