第88話 サメ、花火、拷問
Ꮚ・ω・Ꮚメー/まじか
Ꮚ・ω・Ꮚメー/ぼくらのアトラスさんが
Ꮚ・ω・Ꮚメー/ロボバトル部門のボスやからな
Ꮚ・ω・Ꮚメー/ワンパンとはいかんやろ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/がんばえー
メガサメラドンとの水中での格闘戦に突入したトキシンアトラスですが、サメ要素が入ったメガサメラドンを相手に完全水中戦はやや不利のようです。
「くそったれですわーッ!」
「うにょうにょにょろにょろすんなですわーっ!」
災害じみた大波と水音、そして毒巻デスロールの怒りの声が聞こえてきます。
メェ (苦戦しているようだが)
メエェ(あの様子なら心配あるまい)
メメェ(こちらはこちらのミッションをこなしていこう)
「はい」
こちらはバーネットの呼びかけを無視して音波干渉を続けている水面下の妨害勢力排除を優先することにします。
アイテムボックスから、ヘスペリデスの園で拾ったクルミとヘーゼルナッツで作ったキャラメルナッツタルトを出し、爆神暴鬼以外の全員のお腹に入れておきます。
黄金樹のキャラメルナッツタルト(1/6)
レアリティ:エピック
品質:最高
食事効果:バイタル2段階回復
メンタル2段階回復
プロテクション (中・12時間)
レジスト (中・12時間)
属性攻撃耐性 (中・12時間)
ステータス異常耐性(中・12時間)
バイタル自動回復 (中・12時間)
カリカリメェ(ナッツの一粒一粒が奏でる荘厳にして軽妙なる音色)
バリバリメェ(甘みと香気を閉じ込めた濃密にして芳醇なるキャラメル)
サクサクメェ(タルト生地の歯ざわりのみで心震える!)
Ꮚ・ω・Ꮚメー(これが伝説のキャラメルナッツタルト……)
Ꮚ・ω・Ꮚメー(ゴクリ……)
Ꮚ・ω・Ꮚメー(微妙に違う?)
Ꮚ・ω・Ꮚメー(まあ我々のお腹には入らないことでは一緒だガハハ)
Ꮚ・ω・Ꮚメー(悲しいけどこれ配信なのよね……)
「工程と味はそんなに変わりませんけれど、獅子王樹のタルトに比べるとひとまわり効果が下がります」
少しだけ視聴者に解説します。
ヘスペリデス産のナッツもグレードは高いのですが、グリフォンナッツにはやや及ばないようです。
「ば、爆神・トーチャリング……」
バフの効果とデバフの効果が逆転してしまう天邪鬼というクラスの為にタルトに手を出せない爆神暴鬼が血を吐くような声をあげました。
Ꮚ・ω・Ꮚメー(爆神拷問と書いてバクガミ・トーチャリングと読む)
Ꮚ・ω・Ꮚメー(東京難儀な女オブジイヤー)
Ꮚ・ω・Ꮚメー(強く生きろ爆神)
Ꮚ・ω・Ꮚメー(今我々はおまえと同じ苦しみを共有している)
Ꮚ・ω・Ꮚメー(もはや同志)
Ꮚ・ω・Ꮚメー(バクガミ・マイフレンド)
視聴者からの共感の声が集まっているようです。私が何か言っても救いになりそうにありませんので、この場は静かに準備を進めます。
水中の妨害者――恐らくNJMの偵察・工作用のドローンのところまで潜水ドローンに掴まって潜航し、カルキノスに貰ったカルキノクラストで殴って壊せばミッション完了となります。
大星石の加護で私の水中戦適性は理不尽なレベルになっていますので、ひとりで行くつもりだったのですが、「ぼうっとしてても仕方ないし私も出るかね」と華菱瞳子が参加を申し出ました。
大星石のような水中行動支援アイテムがないとどうしようもない場面ですが、華菱瞳子の場合は手持ちアイテムに西遊記の孫悟空の武器として知られる如意棒があり、それを持っていれば水中でも普通に行動できるそうです。
ちょっと脈絡がわかりませんでしたが、西遊記の原典によると如意棒とは元々中国神話に出てくる伝説の王、禹王が海の深さを測るために使った重りを孫悟空が持ち出して武器にしてしまったものらしく、その逸話を反映している東京大迷宮の如意棒は、重いので持つと水に沈む。ただし水中呼吸もできるので海底を歩き回り、走り回れるという、やや癖のある水中適性を備えているのだそうです。
「通信接続ヨシ、グッドニャックメガネ」
通信、配信機能のついた水中用ゴーグルを黒縁セルロイドから提供してもらい、バーネットの屋根の上に出て、作戦開始です。
作戦の第一段階は陽動。
メェ (はじめよう)
メエェ(バケットの投下を開始する)
メメェ(特別ご奉仕だ)
水上に残ったバロメッツたちが半径五〇メートルギリギリのところまで飛んでゆき、「またしても爆神・トーチャリングぅぅぅ……」と呻く爆神暴鬼が切り分けたバケットをばらまき、サメ型モンスターたちを水面近くに誘導します。
「じゃ、行くとするかね」
如意棒手に飛び込んだ華菱瞳子がスカイダイビングのようなスピードで水底へ消えてゆきます。
現在のドミナンスモードの制圧エリアは、バーネットを中心に半径五〇メートルほどで、そこを出るとサメ系モンスターたちの攻撃対象になってしまいます。先に五〇メートル圏外まで飛び出して水底に到着した華菱瞳子は、早速群がってきたサメたちを如意棒を振り回し、さらに水中花火を爆発させて消し飛ばし、昏倒させて蹴散らして行きます。
華菱瞳子のクラスは酒呑童子に花火師と元締なので、花火をぶつけるのが、普通に戦闘手段になるそうです。アイテムボックスから引っ張り出した一尺、二尺サイズの打ち上げ花火を手に持ったままサメの口に突っ込んだり、体に押し付けたりして起爆する、荒っぽい戦法です。
水中でも花火が爆発するのが少し不思議でしたが、あとで聞いたところ、酸素は花火の中の酸化剤から供給し、着火は魔力で行っているのだそうです。
華菱瞳子を追いかける恰好で、私も潜水ドローンに掴まり移動を開始します。バロメッツたちの陽動と、先行して大暴れする華菱瞳子の御陰で私に向かってきたサメ型モンスターは三匹で済みました。
少ないとまでは言えませんが、対応可能な数ではあります。
サメェェェェェッ!
体長一五メートル、いわゆるメガロドンサイズの巨大ザメの鼻面に大バサミモードのカルキノクラストを繰り出すと、巨大なエネルギーの鋏が展開。巨大ザメを鼻先から尻尾あたりまで、チョキンと挟み切ってしまいます。
返す刀でもう二匹。
今度はスコップモードで切りつけるようにカルキノクラストを振るうと、今度はギロチンのようなエネルギー刃がサメたちを両断します。
スコップサイズの武器を水中で振り回している格好ですが、大星石の水中行動補正もあって、水の抵抗も感じません。
配信をしていたらまた大騒ぎになりそうな威力ですが、こちらの動きが筒抜けになってしまうので、現在配信をしているのはバーネットの車載カメラの映像となります。
Ꮚ・ω・Ꮚメー(バロメッツによるサメ餌付け祭り)
Ꮚ・ω・Ꮚメー(なんでバケットでこんなにサメが集まるのか)
Ꮚ・ω・Ꮚメー(肉食とちゃうんかおまえら)
Ꮚ・ω・Ꮚメー(まるでコイだな)
水中活動用ゴーグルの隅を流れるのは、バロメッツたちの陽動作戦を眺めている視聴者コメントのみとなります。
再び潜水ドローンにつかまって進んでいくと、問題のソナードローンの姿が見えてきました。
「「こちらBSスペクターズ。諸君らの音波照射によって、当方はアクアタルタロスへの進行を妨害されている。音波照射の即時停止を要請する。これ以上の音波照射継続は、当方へのPvPの申し入れと見なし実力で排除する」」
バーネットの収束型スピーカーからの呼びかけを受けながら待っていたのは――三体の小型潜水ドローン。そして水中作戦用の航行ユニットや魚雷発射管、イベント用のチェーンソー『フィン』、大剣グロスメッサーなどで武装したサイボーグ系の冒険者。
NJM町田支部の佐々木ユキウサギです。