第87話 ドミナンスモード
Ꮚ・ω・Ꮚメー/多いぞこりゃ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/SANチェックが必要
Ꮚ・ω・Ꮚメー/これだけサメがいれば因幡の白兎方式で歩いていけそう
Ꮚ・ω・Ꮚメー/ただし皮は剥がされる
Ꮚ・ω・Ꮚメー/なあにしっかり海水で洗って日光と風を浴びればすぐ治る
Ꮚ・ω・Ꮚメー/オオクニヌシ鬼畜ブラザーズ……
Ꮚ・ω・Ꮚメー/コムギエルが適当な撒き餌でも放り込めばなんとかなるんじゃね?
さすがに撒き餌でなんとかなる規模ではありませんが、出発前から存在が確認できていた相手ですので、出発時点で対処法は考えてあります。
「魔石『大いなる歓心』『大いなる関心』の励起段階をレベル4に移行。レゾナンスシステムをドミナンスモードで始動。ターゲットは周辺のサメ系モンスター群とグリフォン系モンスター群」
「「魔石『大いなる歓心』『大いなる関心』レベル4移行完了」」
「「車載スピーカー二四基、全基展開」」
「「レゾナンスシステム始動」」
バーネットのアナウンスと共に、眼の前に大型のウィンドウが浮かび上がり、レーダーとソナーのように空中のグリフォンたち、水中のサメたちの反応を映し出しました。数が多すぎて、反応と言うより、画面全体が光っているように見えました。
「「ターゲット確認」」
「「レゾナンスシステム、ドミナンスモードで発振準備完了」」
「「待機状態に移行」」
あとは「発振」と指示をするだけですが、実行の前にダバイン貴富に「ドミナンスモードを使います」と連絡を入れました。
『了解』という返事を受けて、
「発振開始」
と指示を出しました。
ドミナンスモード。
南郷村長とのトラブルで使ったジャミングモードとの違いは『音源』にあります。
キッチンカーの調理スペース内の音響情報を使って人間の摂食欲求を喚起、加速、暴走させ、一時的な混乱、魅了状態に陥れるのがジャミングモード。
バーネットの動力、電力源となっている魔石『大いなる歓心』『大いなる関心』を励起させ、そこから作り出した『唸り』を増幅、発信することで周辺のモンスターに圧力をかけ、敵対行動を封じ込めるのがドミナンスモードとなります。
ジャミングモードが攪乱・魅了型だとすると、ドミナンスモードは威圧・制圧型といったところでしょうか。
『大いなる歓心』『大いなる関心』はもともとサメ系、グリフォン系の最上位モンスターであるアークシャーク、グレーターグリフォンから受け取ったアイテムですので、今回のサメ、グリフォンの大群に対しては大きな効果が見込める計算です。
製作者のダバイン貴富によると、
「計算はあくまで計算だから、やってみないとわからないところもあるけれどね」
ということですが、そのあたりは臨機応変に対応していくしかないでしょう。
「「レゾナンスシステム発振開始」」
バーネットのアナウンスと同時に、ボックススピーカーが咆哮を放ちます。
シャシャシャァァーーック!
グリグリグリィィーーーッ!
事前の予測と覚悟より、もう少し反応に困る声でした。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/なんだこの音
Ꮚ・ω・Ꮚメー/サメとグリフォンの声を増幅しているのか
Ꮚ・ω・Ꮚメー/聞き覚えがあるなァ、この声……
Ꮚ・ω・Ꮚメー/去年の蟹座イベントでも聞いた声やで
Ꮚ・ω・Ꮚメー/アークシャークとグレーターグリフォンの声だな
Ꮚ・ω・Ꮚメー/一体何の意味があるんだ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/グレーターグリフォンのドロップアイテムがとんだ産廃でグロ銃と呼ばれておったんじゃ
そんなコメントが流れる中、押し寄せていたサメとグリフォンの群れが音もなく左右に割れ、前方に進路が開いていきます。
「絨毯のように海を埋めていたサメと、竜巻のようなグリフォンの群れが、どちらも左右に割れ、聖書の出エジプトの故事のように道を開いてゆきます、まさに爆神・エクソダス!」
爆神暴鬼の実況が盛り上がり。
「サメソダス? グリソダス? サメガネソダス」
なぜか黒縁セルロイドも出演しています。
ともかく成功のようです。
先行しているアトラスチームのほうは普通に外敵認定を受けたままらしく、サメサメグリグリガジガジガリガリと群がられ、食いつかれてしまっています。
「うっとおしいですわーっ! 散りやがれですわーっ!」
毒巻デスロールが毒霧を撒き散らし、
「お食事ならばこちらをお召し上がりください」
シャケー。
シャケシャケー。
プロフェッサー新巻が虚空からシャケ型モンスター群を海面に投下して牽制します。サメ型モンスターというのは、本物のサメと同様シャケを捕食するのだそうで、滝のように降ってきたシャケ型モンスターの群を追い回し始めます。
その隙に乗じ、トキシンアトラスは本日三度目の合体を果たします。
「トキシンアトラス! 合体ですわーっ!」
水面の上でぴたりと静止した巨大ロボの足元では、囮のはずのシャケ型モンスターの何匹かが逆にサメモンスターを弾き飛ばしたりしていました。
「お先にお行きなさいませ! この場は私たちの晴れ舞台ですわーっ!」
さすがに合体形態になってしまうと、空中のグリフォンたちであってもそうそう手は出せないようです。グリィグリィと吼えるグリフォンの渦の中、トキシンアトラスを仁王立ちさせた毒巻デスロールがなぜか高笑いをしながら言いました。
そしてトキシンアトラスの合体に呼応し、その宿敵メガサメラドンも咆哮をあげ、動き出しました。
メェガァサァメェラァドドドドドドドドドドドォォォォーーーーーーンッ!
『先に行って』
ダバイン貴富からもすすめられました。
「お願いします」
私の手元にはいかにもメガサメラドンに効きそうなヒュドラティスという武器もありますが、今回はアトラス・チームに任せるのが最適解でしょう。
「前進開始」
アクアタルタロスへの一番乗りを目指して進んでゆくと――。
「「警告:水中音響領域に異常波形を検出」」
「「周波数帯:52.87Hz、干渉源推定:水中音波兵器またはソナードローン」」
「「レゾナンスシステムの動作安定性、現在62、61、59%……」」
「「対応プログラム起動──動作安定性60%を維持」」
バーネットがそんなアナウンスを始めました。
道を空けてくれていたサメたちが統制を失い、バーネットの周囲を丸く取り囲むように泳ぎ始めます。
「整然と道を空けていたサメたちが再び我々の前に立ちふさがります! なにが起こっているのでしょうか!」
「外部からの音波干渉。水中に投入されたドローン、または水中音波兵器にレゾナンスシステムの伝達効率が落とされてる」
黒縁セルロイドが淡々と解説し、爆神暴鬼が「ヒエッ」と悲鳴をあげました。
「ドローンの妨害電波とかは出せる?」
「すみません、そこまでの機能は……」
技術的、予算的には積めないこともなかったのですが、完全な戦闘車両にするつもりはなかったので見送ってしまいました。
「水中戦だと光学的攻撃は難しい。ウィークメガネ」
「バーネット、座標と数は特定できますか」
「「干渉源座標、特定完了」」
「「距離:後方約1.3km」」
「「水深60m、移動体×3」」
ソナー画面に光点が三つ表示されました。
場所はわかりましたが、もうひとつ、確認しないといけないことがあります。
「相手はモンスターですか?」
「「ネガティブ、戦闘区分はPvP」」
メェ (他の冒険者からの干渉か)
メエェ(NJMの妨害工作の可能性がちらつくな)
メメェ(事前の分析なしでいきなり音波干渉などできるはずがない)
「わかりました。とりあえず音波干渉を停止するよう呼びかけてみてください」
「「警告メッセージ、送信開始」」
「「応答なし」」
「そのまま続けておいてください」
そう指示を出してから、もう一度ダバイン貴富に連絡を取ります。
「すみません貴富さん、スパインスコーピオンのサルベージで使った潜水ドローンを貸していただけませんか?」
『わかった。今送った。気をつけてね』
トキシンアトラスのセンサー情報でも、ある程度の状況は把握できていたようです。アイテムボックス経由で、すぐに潜水ドローンが届きました。
『できるだけ援護はしたいけど、しばらくはメガサメラドンで手一杯かも知れない』
という通信と同時に、
「ファイナル・デッドスラッシュですわーっ!」
ここまでは一撃必殺だったトキシンアトラスの必殺剣が炸裂します。
ですが、メガサメラドンは最初からトキシンアトラス(正式名称グラン・アトラス)との対決を前提に作られたモンスターとなります。巨大ビルのような太い胴体を深々と切り裂かれながらも、あっという間に再生してしまいました。
今度は自分から大波を立てて突進したメガサメラドンはトキシンアトラスと激突。トキシンアトラスの巨体を、水柱を巻き上げるように水面に叩きつけてしまいました。




