第78話 混沌
アークシャークの背中には背脂所長とスラコンが乗り、グレーターグリフォンはワイヤーでシュバリエのエンブレムのついたコンテナを吊り下げています。
地上ではシュバリエの顧問弁護士であるゴーシュ駒人が全力疾走をしていたようです。砂煙をあげ、一番に到着してしまいました。
議論でも暴力でも勝ち目のない怪物の登場ですが「ソル・ハドソンはアンデッド因子感染症患者」という事実の暴露に成功した南郷村長は引き際を誤らず。
「今日のところはここで失礼させていただきます。なお本日夜九時より! 南郷フミヒコの論破神TVにて、ソル・ハドソンさんのアンデッド因子感染問題についての特別配信を行います! BS221Bチャンネルの視聴者の方々も是非チェックしてください!」
Ꮚ・ω・Ꮚメー/ココ→南郷フミヒコの論破神TV
Ꮚ・ω・Ꮚメー/南郷フミヒコの華麗なる勝ち逃げ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/脳筋弁護士を相手にせず
Ꮚ・ω・Ꮚメー/論破神南郷フミヒコ大復活!
Ꮚ・ω・Ꮚメー/うぜぇ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/一体何人工作員入れてんだよ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/工作員認定乙
Ꮚ・ω・Ꮚメー/自称大天使の養分の阿鼻叫喚で心地よい
Ꮚ・ω・Ꮚメー/脳内で処刑用BGMがエンドレスで流れてる
Ꮚ・ω・Ꮚメー/待機→南郷フミヒコの論破神TV
そんなコメントが流れる中、意気揚々と引き上げようとした南郷村長たちですが、その行く手に弁慶頭巾を被った新たな一団が忽然と姿を現しました。
先頭に立っているのは紙燭円山。大規模転移で連れてきたようです。
ただ、紙燭円山はあくまで輸送役というポジションなのか、すぐに再転移をして消えて行きました。
残ったのは新しいオフライン弁慶三十人。
「オフライン弁慶団第二陣推参!」
先頭に立った火消し用の纏を持った纏弁慶が、雄々しく声をあげました。
「炎上村長の放火を消し止めに来たにゃ!」
「ここから引き上げたくば我々の屍をこえてゆけにゃー!」
「「「「にゃー!」」」」
Ꮚ・ω・Ꮚメー/ニャンギマリ弁慶団……。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/何人居るんだよオフライン弁慶団
BS221Bチャンネルで混乱の声があがる一方。
(っ'-')╮三卍 シュッ/なにこれしらんでござる
(っ'-')╮三卍 シュッ/知らん弁慶がいっぱい来たでござる
オフライン弁慶団の母体である群魔忍群のチャットでも混乱の声があがっていたそうです。
もともと活動していたオフライン弁慶団のメンバーに加え、薬師院探索拠点にいた有志の冒険者たちが弁慶頭巾をつけ、キッチンカーで私が売ったクッキーなどを食べて乗り込んできていたそうです。
(っ'-')╮三卍 シュッ/ぽっと出の弁慶どもに後れを取るなでござる!
(っ'-')╮三卍 シュッ/群テスの興廃この一戦にありでござる!
(っ'-')╮三卍 シュッ/のりこめーでござる!
続いて、
ゴゲー!
ゴゴゲー!
農場から飛び出してきたマンドラゴラの大群と群馬ダークが走ってきます。
「ソルちゃん! 大丈夫?」
「はい」
なんだか混沌とした状況になってきましたが。
遅れてやってきたアークシャークが背中から背脂所長とスラコンをおろし、グレーターグリフォンが吊り下げていたコンテナを降ろします。
そのままこちらに近づいてきた背脂所長は、「シュバリエから救世光に関するニュースリリースを出す。ソル・ハドソンの名前を出す許可をもらいたい」と言いました。
「今すぐですか?」
「アレになすりつけられたクソを洗い流すにはそれが一番話が早い」
「わかりました」
ここまで来たら、こちらも全力で殴り返す他にないでしょう。
グレーターグリフォンが運んできたコンテナの中身になんとなく不穏な気配を感じますが。
無用なトラブルや攻撃を避けるため、アークシャークとグレーターグリフォンは高空に去って行きましたが、なにか気になるものがあったのか、NJM町田支部の面々に、警戒するような視線を向けていました。
その間に、新たなオフライン弁慶たちがやはり紙燭円山に運ばれて参戦してきます。
「オフライン弁慶団第三陣参上!」
ニャンギマリのほうの弁慶団とは違って、以前から農場近くで活動していた元祖オフライン弁慶団のメンバーのようです。シフト外の弁慶たちが、ゲイボルグ弁慶の敗北を受け集まってきたのでしょう。
「オフライン弁慶団第四陣見参!」
さらによくわからない、今度はもう弁慶と関係のなさそうな覆面冒険者たちが現れます。
あっと言う間に八十人規模になってしまいました。
「き、緊急で動画を回しています! 今私は生産村で迷惑行為をしている反社会的冒険者集団、オフライン弁慶団に取り囲まれています!」
カメラの目を武器に、オフライン弁慶たちに道をあけさせようと考えたのか、南郷村長は村役場の職員たちにカメラを回させてライブ配信を始めます。
そんな様子には目もくれず、私から情報公開の同意書にサインを取った背脂所長は、スラコンに「開けてくれ」と指示をしました。
テケー。
という声と共にコンテナが開いてゆきます。
中にアンデッド因子感染者でもいるのかと思い身構えましたが、さすがに「者」は居ませんでした。
入っていたのはアンデッド化をし、半分腐敗した体でガラスのケージ内にうずくまるタヌキ、遠吠えのような声をあげて歯を剥く眼球のない鹿、ケージに体当たりをして暴れる馬でした。
東京圏外で捕獲された実験用動物アンデッドのようです。馬はサラブレッドなどではなく、野生化した北海道の道産子の成れの果てだそうです。
「……アンデッド?」
群馬ダークが戸惑いと警戒の声をあげ、マンドラゴラたちもゴゲ! と身構えます。
周囲の弁慶たちもざわめき、
Ꮚ・ω・Ꮚメー/アンデッド?
Ꮚ・ω・Ꮚメー/なに考えてんだ一体
Ꮚ・ω・Ꮚメー/シュバリエのマークがついてる
Ꮚ・ω・Ꮚメー/ここみろ、なんかとんでもねぇリリースが出てる→特殊酵母《救世光》の治癒効果を確認― 《アンデッド因子感染症》に対する非医薬的アプローチ ―
Ꮚ・ω・Ꮚメー/なんだこれ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/どういうことだ?
Ꮚ・ω・Ꮚメー/大天使の作ったやべぇ酵母を使うとパンでアンデッド因子感染症が治るようになる
Ꮚ・ω・Ꮚメー/しかもお安く
Ꮚ・ω・Ꮚメー/ええええええ……
Ꮚ・ω・Ꮚメー/ふざけんな
Ꮚ・ω・Ꮚメー/そんないい加減な話があってたまるか
Ꮚ・ω・Ꮚメー/その実証の道具があのアンデッドか
Ꮚ・ω・Ꮚメー/リリース通りならあのアンデッドが回復するんか
Ꮚ・ω・Ꮚメー/ありえねぇだろ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/成功したら、南郷もここの荒らしも全員終了だねぇ(ニチャア)
Ꮚ・ω・Ꮚメー/オラなんだかワクテカしてきたぞ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/南郷どころか日本全体のパワーバランスが変わるぞ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/NJMどころかMIYACOそのものの終わりの始まりである
Ꮚ・ω・Ꮚメー/新時代におまえらの居場所ねーから
Ꮚ・ω・Ꮚメー/大天使を超えて大大大大大天使であった
Ꮚ・ω・Ꮚメー/神とかにはならんのか
Ꮚ・ω・Ꮚメー/天使のほうが響きがいいからな
BS221Bチャンネルのほうも風向きが変わり始めます。
シュバリエの公式チャンネルでライブ配信を行うようです。スラコンの体から、大型のカメラが突き出して録画と配信を始めました。
三帝の報道チームもやってきてカメラを構え、更に報道の腕章をつけた爆神暴鬼もやってきます。
スラコンのカメラの前に立った背脂所長が、冷静な調子で、
「特殊酵母《救世光》公開動物実験。被検体、中型哺乳類、ホンドタヌキ、オス、感染レベルⅣ、個体番号TNK003」
と告げました。
実況配信というより実験映像のスタイルで進めるようです。
代わりといってはなんですが、「爆神・ジャーナリズム!」という爆神暴鬼の声が聞こえてきました。
実験ではなく、オフライン弁慶団とNJMのトラブルを嗅ぎつけてやってきていたそうです。
<おまけ:ニュースリリース>
特殊酵母《救世光》の治癒効果を確認
― 《アンデッド因子感染症》に対する非医薬的アプローチ ―
武装冒険企業「シュバリエ」(本社:大宮)は本日、進行性肉体変容および意識錯乱を伴う高リスク感染症――《アンデッド因子感染症》に対し、決定的な症状回復効果を有する特殊酵母《救世光》の存在を公式に確認したと発表いたします。
本酵母は東京大迷宮で活動中の生産系冒険者ソル・ハドソン氏によって製造されたものであり、本酵母を利用して焼成したパンは、感染個体に対して極めて高い治癒効果を発揮することが実証されました。
■医療の枠を越える「発酵由来治癒」
《救世光》は、焼成後も発酵過程で形成された生体活性因子が機能を維持し、感染個体に対して以下の効果を示しました。
◇崩壊・変異した筋組織および神経伝達経路の再活性化と正常化
◇循環系・脳幹反応の正常域への回復
◇意識明瞭化および自己同一性の完全回復
これらは従来の抗因子処置や義肢再生補助とは根本的に異なる作用機序に基づくものであり、高価な東京大迷宮産アイテムに代わる実用的かつ低コストな代替手段としても注目を集めています。
■ 培養不可能な“焼成奇跡”
《救世光》はソル・ハドソン氏のスキルによって発生する特殊酵母であり、当社研究機関において再培養には一切成功しておりません。
本酵母は再現性のない「生成物」として扱われ、現時点では同氏による生酵母、乾燥酵母のみが供給源です。
■ 実験映像の公開
本酵母を用いたパンによる治癒反応を記録した実験映像は、本日よりシュバリエ公式チャンネルにて順次公開されます。
映像には《アンデッド因子感染症》により脳機能と運動能力の変異を示していた被験者が、パンの摂取から約40秒で行動安定化・意識回復を見せる過程が収録されています。
【補足】《救世光》とは
ソル・ハドソン氏が東京大迷宮内で発見、培養に成功した特殊酵母性活性因子。
発酵過程で発生する高波動構造体が、パンに封じ込められる形で安定化し、焼成後も治癒波長を維持する特異な性質を持つ。
ソル・ハドソン氏以外の培養は不可能であり、再現性はソル・ハドソン氏のスキルに完全依存。
効果はパンの腐敗などによって失われるが、冷凍などにより保存期間の延長も可能。
シュバリエ社は今後も、ソル・ハドソン氏との技術協力を継続し、同酵母パンの実用展開に向けた制度設計および供給体制の検討を進めてまいります。




