第74話 ゲリュオン戦の裏で
NJMが発表したゲリュオン討伐戦の貢献度ランキングは、
一位 六堂真尋
三位 佐々木ユキウサギ
四位 黒縁セルロイド
五位 鞍居夜半
というものでした。
二位が抜けているのはNJMのメンバーでない華菱瞳子が同率一位に入っているためです。
もう一つ気になる点は、十位までのメンバーの中に今西大道の名前がないことです。
NJM公式の説明によると、公平な立場で指揮にあたるため、NJM総監である今西大道は貢献度ランキングには不参加だそうです。
このあたりの設定は冒険者システムのウィンドウ操作で簡単に行えますが、貢献度に応じた討伐報酬がもらえなくなり、また一度設定すると一ヶ月再設定できないそうです。
「やっぱり途中で入れ替わっているんでしょうか」
ゲリュオン戦序盤の頃の指揮車の中の今西大道と、中盤戦以降の屋根に乗っていた今西大道が別人で、途中で入れ替わっていた場合、普通にランキングに参加してしまうと今西大道の名前が二回出てきたり、あるいは二人のうち一人の本当の名前が出てくることになりそうです。
キッチンカーに顔を出した天潮鉄路のイメージがふと脳裏に浮かびました。
ランキングに参加はするが名前を出さない、という設定もできますが、東京大迷宮サイド、特にイベント主催の蟹蛇コンビあたりからは、おかしなことをしていることはまるわかりのはずですし、紙燭円山のような、分析家といったクラス保持者もいますので、そのあたりからもつつかれることになるかも知れません。
そういったリスクを避けるために、ランキングは不参加にしている可能性が高そうです。といっても、今西大道が二人いる、という決定的証拠は今のところないのですが。
今西大道の謎に、おかしな大暴走をしてしまったブラックドラゴン。
すっきりと終わったとは言い難いものの、ともかく一応の決着を見たゲリュオン戦の一方、ヘスペリデスの園では東毒連の姫こと毒巻デスロールが大暴れして、シュバリエが管理していた『右腕』のライトカイナーの強奪に成功。
更に横須賀海上冒険者団が所有する『左腕』レフトカイナーをメンバーになりすまして潜り込んでいた怪人明智ドボロウが盗み出し、最後の三帝重工の所持する『頭部』のライオメットについては、東京大迷宮最強の怪人と名高い鮭頭に車椅子の怪紳士、プロフェッサー新巻と、その従魔である巨大熊クマタウロス、そして推定百万匹を超す飛行ジャケの群が強襲、紙燭円山もさすがに対応しきれずに強奪を許してしまったそうです。
毒巻デスロールと明智ドボロウ、プロフェッサー新巻の三者は結託して行動をしていたそうで、六体の巨人のパーツを手に入れると、圧倒的な分析力を見せつけて解析と制御に成功。『毒神合体ドレインアトラス』を完成させて、意気揚々とメガサメラドンに挑んで行きました。
本来はそんな名前ではなく、毒巻デスロールの毒使いの能力で、六体を無理やり同調させて制御した結果、ドレインアトラスという紫色の巨人になってしまったそうです。
「カラーリングは嫌いじゃないけど、さすがに強引すぎるかな」
現地の配信者が始めた実況配信を眺めるダバイン貴富が呟く中。
「おーほっほっほっほっ! お喰らいなさりあそばせ! ジェネリック! ヒドラドリラーですわーっ!」
胴体に毒巻デスロール、残りの五つのパーツにプロフェッサー新巻、明智ドボロウとその一味を乗せた大巨人ドレインアトラスは渦巻く紫色の毒液で巨大なドリルを作り出して右手から繰り出しました。
メェ (ジェネリックヒドラ毒)
メエェ(実際そんなものがあるなら大したものだが)
メメェ(一体どんなものかな)
ギリシャ神話のラドン殺しに使われたヒドラの毒を模した毒攻撃のようですが、この世界におけるヒドラポジションのヒュドーラはレルネータワーに陣取って健在。その毒はまだどこにも出回っていません。
現物がないのにどうやってジェネリック毒を作ったのでしょうか。
ギュイイイイイン!
メェガァサァメェラァドドドドドドドドドドォォォォォォォンーーーーーッ!
「無駄ですわぁぁぁぁーーーーーっ!」
メガサメラドンが吐き出す毒のブレスをものともせず、むしろ吸収しながら接近、毒のドリルを直撃させたドレインアトラスですが、やはりジェネリックではメガサメラドンに対する決定打にはなりえなかったようです。
毒ドリルは数百本の小さな鮫蛇頭を腐食させて薙ぎ払いましたが、決定的なダメージを与えるには至らず静止し、砕け散ってしまいました。
「こうなったら撲殺あるのみですわーっ!」
荒っぽい台詞と共にドレインアトラスをメガサメラドンに襲いかからせた毒巻デスロールとプロフェッサー荒巻、明智ドボロウとその一味は、ぶっつけ本番ながら全長三百メートル級の巨大ロボットを見事に制御し、やはり体長三百メートルの鮫頭の多頭蛇に徒手空拳で掴みかかって行きました。
神話的、もしくは原始的な戦いの末。
ドレインアトラスはメガサメラドンと絡まりあいながら、地底湖の底へと沈んで行きました。
<無茶しやがって>
<そんな毒まみれの巨大廃棄物を水に沈めるな>
<親指を立てて沈むんじゃない>
<涙よりもため息が出るわ>
<水ポチャオチなんてサイテー>
配信画面のチャット欄の反応は散々なものでしたが、メガサメラドンへの対応としてはそこまでだめなものではなかったらしく。メガサメラドンが水没している間に紙燭円山がするりと黄金の果樹園に潜入し、クリア条件となる黄金の林檎の入手に成功。
イベントダンジョン、黄金の果樹園を制覇しました。
なお、ドレインアトラスと共に水中に消えたメガサメラドンですが、地底湖のどこかが東京湾につながっていた設定だったようで、それ以降は東京湾のほうで目撃されるようになりました。
ダバイン貴富によると「怪獣映画によくあるオチ」だそうです。
それから二日が過ぎた七月六日、ダバイン貴富と私はクリア済みとなったヘスペリデスの園に入り、水没したドレインアトラスを見に行きました。
水深五百メートルほどの深度に沈んでいるとのことですが、元が巨大なのと、水が澄んでいるので輪郭ははっきり見て取れました。
中にいた毒巻デスロールたちはもうブラックアウト、またはギブアップをしてホームエリアに戻ったらしく、全部紫だった色合いも、元の六色に戻ったようでした。
どこから見ているのかというと、水上に浮かべたバーネットの窓からとなります。アークシャークからもらった聖石の効果と、車体後方から出し入れできるスクリュー、それとダバイン貴富がハードポイントに接続した水中モーターの推力で、水上を航行してきました。
潜水まではさすがにできません。
今回の目的は水没したドレインアトラス、もとい巨大ロボアトラスの被害状況とサルベージの可能性の確認となります。
黄金の果樹園の攻略は終わっていて、無理にメガサメラドンと戦う必要はなく、アトラスも沈めたままでも特に問題はないのですが、ダバイン貴富の趣味として、もう少し触ってみたいそうです。
ダバイン貴富の小型潜水ドローンを潜行させて、バーネットの車内から被害状況を確認したあと、潜水ドローンにつかまって潜行し、ドレインアトラスの胸部コクピットに近づきました。
深度は五百メートル。普通なら素潜りができる深度ではありませんが、大星石の水中行動支援(極大・永続)の御陰で全く問題なく到達できてしまいました。
ダバイン貴富の指示に従ってコクピットのロックを解除すると、やはり内部は無人になっていましたが、メカニズムとしてはまだ生きているようで、計器類が光っているのが見て取れました。




