第69話 7月3日夜
「毒巻デスロール無法の襲撃! 東京冒険者学苑も反撃に出ますがサソリロボットには歯が立たない!」
天邪鬼の効果で麻痺毒をプラス補正に変えた爆神暴鬼が元気に実況を続けます。
その間に東京冒険者学苑の生き残りの生徒たちも魔法や飛び道具、イベント補正武器などで迎撃を試みますが、サソリロボットに有効なダメージを与えることはできませんでした。
<お前は戦わんのか>
<さすがにここは配信継続のほうが有益だろう>
<ヘイト玉も効きそうにないしな 666 PP>
<サソリロボットでなくスパインスコルピオちゃんですわー 50,000 PP>
<PPで殴りながらの無法行為>
<背骨サソリか>
<言われてみると背骨と肋骨っぽく見えんこともない>
<どう見れば>
<頭から尻尾が背骨で足が肋骨かな>
<しかし誰も止められんのか>
<一体でちょっとしたレイドモンスター級の戦力はありそうだし乗ってるのが毒巻だからなぁ>
<毒巻とサソリロボは相性良すぎてずるい>
東京冒険者学苑の攻撃を意に介さず巨人像の目の前にやってきたサソリロボことスパインスコルピオは尻尾の毒針を輝く左足に突き刺しました。
巨大な左足が放つ黄金の光が色を変え、紫色になってゆきます。
そして石の表面部分が崩落すると、スパインスコルピオと同色となる紫の山羊型のロボットが姿を現しました。
「紫の山羊?」
なんとなく六体のロボットは全部色違いだと思っていましたが、色かかぶってしまっています。
「本来は闇属性の黒い山羊だと思う」
ダバイン貴富が言いました。
「毒属性で無理やり駆動してる」
「無茶苦茶しよる」
ゴゲー。
群馬ダークとマンドラゴラが呆れ気味の声を上げました。
「天才ではあるんですよねー、悪役趣味が強すぎますけど」
酢飯をうちわであおぎながら紙燭円山が言いました。
「それでは引き上げますわよー! ごめんあそばせーっ!」
スパインスコルピオの頭の上で高笑いした毒巻デスロールはそのまま紫の山羊を連れ、悠々と地底湖へ姿を消しました。
「ば、爆神・ビッグインシデント! 毒巻デスロールが巨人像の『左足』を強奪! 夜の地底湖へと去って行きました!」
爆神暴鬼の実況が盛り上がり、
<爆神大事件て>
<実況してただけだろ>
<そのいい方だと自分が犯人みたいにならんか>
<お前が毒巻呼んだんか 5,000 PP>
視聴者からツッコミを受けていました。
今日もまた爆神暴鬼が撮れ高を持っていってしまいましたが、二一時からはいつも通りの蟹座イベントニュースがはじまりました。
今日のアンバサダー冒険者はパーリーピーポーズという『パリピ系冒険者』三人組。
トップニュースはやはり毒巻デスロールが起こした巨人像襲撃事件でしたが、ゲリュオンの赤い牛が更に二体撃破されて残り一体になったこと、水面下で修復が進んでいた首都高速環状線が浮上、そこに巨大な鹿が走り回り始めたことなども伝えられました。
公式からの発表によると『ケリュネイアの鹿チャレンジ』時速300キロで首都高速環状線を走り回る巨大鹿においつき、追い越すことをクリア条件とするレース系イベントだそうです。
ダバイン貴富が興味を示していましたが、走り屋、チューナー系冒険者というわけではないので参加してもお遊び程度、ということでした。
ヘスペリデスの園については姿を消した毒巻デスロールの動向待ち。私達にやれることもあまりなさそうです。
当面は生産村上空に球体状態で浮かんでいるゲリュオンへの対応が最重要課題となりそうです。
残り一体の赤い牛が倒されたらいつ動き出してもおかしくありませんし、そうなったらドンレミ農場や玩具流通センターもどんな危険が及ぶかがわかりません。
生産村の中心部上空、つまり南郷村長の本拠地である村役場の上空に浮いていますので、最初に対応するのはやはりNJMとなりそうですが、最も警戒が必要な時期でしょう。
赤い牛の最後の一体は既にNJMが所在を確認、監視下においていて、七月四日の一〇時から攻撃を開始するとのアナウンスを出しているそうです。
そんなニュースを見ながら手巻き寿司を食べ、片付けを終えると、
「では、ごちそうさまでしたにゃ。もうひと仕事してきますにゃー」
そんな言葉を残して紙燭円山は仕事に戻って行きました。
にゃーになってしまったのは神代牛を使ったローストビーフ寿司と、デザートのチーズケーキの影響となります。
一応の毒巻デスロール対策として毒耐性効果のあるミルクのミニクッキーと毒消し用のココアのミニクッキーを渡して見送り、お酒を飲んでいい気分になってしまった華菱瞳子を寝床に運んで一日を終えました。
ゲリュオン出現目前という状況を考えると一緒にいたほうが良いということで、ダバイン貴富にも泊まっていってもらって迎えた七月四日。
朝一番のニュースは昨日に続き毒巻デスロール。
NJMが確保していた『右足』の一角獣の奪取が伝えられていました。
ヘスペリデスの園から撤退を決め、小規模な戦力しか残していなかったNJMが毒巻デスロールの引き渡し要求を受け入れ『右足』の一角獣型ロボット、ライトアーシーを引き渡したそうです。
『右足』の名前から類推すると、東京冒険者学苑から強奪された『左足』の山羊はレフトアーシーということになりそうです。
「NJMとしちゃ、すんなり薬師院連合に確保されるのも面白くないはずだからね。毒巻みたいに場を荒らしまくるタイプが出てきたのは好都合だったんだろうよ」
割烹着を着て味噌汁と焼き魚を作り始めた華菱瞳子がそう解説してくれました。
焼き魚に味噌汁、おひたしにご飯という自分では作らないタイプの朝食を取り、農場や玩具流通センターの防災対策を固めつつ、赤い牛への攻撃開始時間を待っていると九時頃からNJMの公式配信が始まりました。
これまでのNJMの配信はプロモーションやプロパガンダを重視し、ネガティブな要素を削除した編集済み映像を流すことが多かったのですが、広報・医療部長の牧島国母の出現によって方針転換があったのか、今回はリアルタイムでの配信になっていました。
最初に登場したのは、NJMの広報・医療部長の牧島国母。
「おはようございます。NJM広報・医療部長の牧島国母です。この配信では、本日午前一〇時より実施するレイドモンスター、赤い牛の九体目の討伐。これに呼応して活動を開始すると思われるレイドモンスター、ゲリュオンの動向、及びゲリュオン討伐の様子を生配信にてお伝えします。この配信が、高尾山エリアにお住まいの皆様の安全確保、あるいは高尾山エリアにて探索活動を行う皆様の円滑な探索活動に資する情報となれば幸いに存じます」
そんな挨拶をした牧島国母が赤い牛討伐作戦の概要、赤い牛の全滅に呼応して活動を開始するとみられるレイドモンスター、ゲリュオンの包囲と監視体制、生産村住民の避難所などに関する解説を始めます。
高尾山から西に九キロ、陣馬山の山裾に陣取っている九体目の赤い牛の討伐にあたるのは、鼈甲の眼鏡に釣られた用心棒にしてNJM最大戦力の一角、黒縁セルロイドとNJMの列車砲部隊。
鉄道王今西大道が七月三日に敷設しておいた軌道上の並行世界製列車砲ヴァイゼ・グスタフによる長距離砲撃と黒縁セルロイドの光学魔法、歩兵部隊の火砲の火力を集中させて赤い牛を葬り去る作戦だそうです。
「ごめん、ちょっと面白そうかも」
ダバイン貴富がそう呟いて。
「貴富さんが好きそうなんはちょっとわかる」
群馬ダークが苦笑していました。
主戦力となる今西大道、そしてブラックドラゴンを擁するNJM町田支部のメンバーはゲリュオンの出現に備えて生産村で待機。
陣馬山に設置したものに似た並行世界製列車砲が更に二門、シュテルン・グスタフ、シュラハト・グスタフというものが設置され、ゲリュオンの黒い球体を照準しているそうです。




