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第68話 毒巻デスロール

「バザールのチケット管理システムを使っているので偽名ではないはずなんですが」


 紙燭円山は首をかしげて言いました。


「そうですか」


 ふと思い出してインターネットの検索ウィンドウに天潮鉄路と入れて検索してみました。天潮鉄路は出てきませんでしたが『天潮重工』という武装冒険企業のひとつがヒットしました。


 メメェ(MIYACOのAか)


「はい」


 近畿武装企業連合の構成企業のひとつで、兵庫エリアに本拠地を置いています。

 MIYACOでは新参寄り、MIYACOと名乗る前の近畿武装企業連合の包囲と圧力に屈する形で連合入りした企業で、MIYACOの中の序列は低いと聞いたことがあります。


「双子の兄弟の片方が婿養子に入ったとかやろか」

「今西と天潮が政略結婚して従兄弟同士?」


 群馬ダークと花菱瞳子がそれぞれ推理を働かせますが、結局答えは出ませんでした。


「少し探っておきます。本当にただ偶然滅茶苦茶似てる人がNJMに居たとか、よく似た背格好の影武者とかボディガードとかいう可能性もありそうですが」

「影武者ですか」


 暗殺対策などのために用意された替え玉。

 そういう可能性も念頭において、あとで鷲獅子ネメアー戦のアーカイブを見直してみたのですが、やはり同一人物にしか思えませんでした。

 鷲獅子戦の時点で替え玉だったと考えれば、一応説明が付くのかも知れませんが。


 天潮鉄路の出現で大分混乱させられてしまいましたが、それ以上大きなトラブルはなく、七月三日のキッチンカーの営業は終了となりました。


「夕飯うちで食べてく?」

「良かったら」

「呑んでいいのかい?」

「脱がんでもらえるなら」


 そんな流れでダバイン貴富、華菱瞳子を乗せて農場に戻り、一旦引き上げていた紙燭円山も呼び出して手巻き寿司の準備を始めると爆神暴鬼の個人配信が始まりました。


「こんばんは、爆神暴鬼です! 今回の爆神・エクストリーム配信は蟹座イベントのホットスポット、ヘスペリデスの園の南西部『左足』の巨人像前からお届けいたします」


 爆神暴鬼は今日もヘスペリデスの園に入っていました。

 ヘスペリデスの園は地下空洞ですが、書き割りの空は地上と同じように、もしくは天動説の世界のように書き割りの太陽が巡っていて、地上と同じように夜になり、書き割りの天井には月と星が輝いています。


「皆さん既にご存知かと思いますが、このヘスペリデスの園の中心部には超巨大、超多頭、超鮫頭型の鮫蛇竜モンスターメガサメラドンが陣取っています」


 爆神暴鬼が片手をあげるポーズを取ると、昼間に撮影したらしいメガサメラドンの姿が配信ウィンドウに映し出されました。


<超超やかましい>

<頭千個くらいあるんか>

<千頭だとメガじゃなくてサウザンドサメラドンじゃね?>

<まぁそのへんは勢いと雰囲気で>

<メガサメラドンから抜け落ちた蛇頭が普通のサメラドンになってる模様>

<デカすぎやろがい>

<ガチメガの一〇〇万頭蛇でなかっただけましか>

<そんなことになったら集合体恐怖症で発狂してしまう>

<今も十分キモい>

<はよ倒してくれ>


「集合体恐怖症の皆さんを恐怖のドンズコに陥れているこのメガサメラドン」


<それをいうならズンドコ>

<どん底>

<ズドゴン>


「この討伐の鍵を握ると見られているのが、ヘスペリデスの園の六方に配置されている六体の巨人像。今回はこの一体である『左足』の像の調査を進めている東京冒険者学苑の皆さんの協力のもと、巨人像の秘密に迫ってゆきたいと思います。それでは早速爆神・インタビュー! 『左足』の像の調査を指揮する東京冒険者学苑の導師グル・グルグール先生からお話をうかがいたいと……」


 導師グル・グルグール。

 どういう先生が出てくるのか気になりましたが、残念ながら導師グル・グルグール先生の登場の前に、けたたましい警報音が響き渡りました。


「音響探知ブイに反応!」

「百メートル級の超大型物体!」

「浮上してくるぞ!」


 東京冒険者学苑の冒険者たちが地底湖の水面に向けて警戒態勢を取ります。

 東京冒険者学苑は「旧時代の学校教育の復活」をテーマとする教育・学級型冒険者団。旧時代風の学生服を纏った、十代の冒険者が多いのが特徴です。


「非常事態のようです」


 爆神暴鬼は自撮り杖を操作し、カメラを地底湖に向けました。


<爆神行くところトラブルあり 666 PP>

<厄神アワ鬼と名乗るべき>

<撮れ高の神には愛されてるんだろうな>


 そんなコメントと共に水面が盛り上がり、サソリに似たシルエットの巨大物体が姿を現しました。


「爆神・エマージェンシー! 体長百メートル級の巨大モンスターが姿を現しましたっ!」


 爆神暴鬼がそう叫び、ダバイン貴富とチャット欄が、


「胴体?」

<サソリロボ?>


 と反応しました。


「『胴体』の像の中身でしょうか」

「そうだと思う」


 東京冒険者学苑が投光を行うと、暗い紫色をした金属の装甲が輝きました。

 やはりモンスターではなく、いわゆる巨大ロボットだったようです。


『そこのサソリロボット! 有人なら直ちに停止しなさい。これ以上の接近は攻撃の意思ありとみなす!』


 冒険者学苑の生徒が拡声魔法を使って警告をすると、サソリロボットは若い女性の声で回答しました。


『おーほっほっほっ、もちろん攻撃の意思はございますことよー』


 中に乗っている人間が拡声機能を使ったようです。

 それもかなり知名度の高い人間の声だったのか、


<あっ……>

<毒巻じゃねぇか>

<生きとったんかワレ!>


「……毒巻デスロール?」

「無事やったん?」

「リヴァイヴでもしたのかもしれませんね」


 爆神チャンネルの視聴者たち、ダバイン貴富と群馬ダーク、紙燭円山がそんな声をあげました。


「有名な人なんですか?」


 メェ  (毒巻デスロール。東京毒劇物研究会という冒険者団の『姫』だ)

 メエェ (東京大迷宮で最も厄介な冒険者の一人)

 メメェ (メガサメラドンに突っ込んでブラックアウトしたと噂されていたんだが)


 メガサメラドンに敗北してドロップアウトしたと思われていた人間が『胴体』の主人として再び現れた、という状況のようです。

 それはいいのですが、名前のインパクトが強すぎる気がします。

 バロメッツたちの説明と共に、水上に浮かんだサソリ型ロボットのコクピットが開き、紫色の髪にドレス、そして口元にガスマスクをつけた令嬢風の女性が姿を現しました。


「みなさまごきげんよう。東京毒劇物研究会のプリンセス、毒巻デスロールですわ」


<いつ聞いてもすげぇ名前だ>

<髪の縦ロールとワニとかのデスロールをかけてるらしいが>

<なんでかけようと思った>


「おだまりなさい。配信のコメントくらいみていましてよ」


 毒巻デスロールは爆神暴鬼の自撮り杖をじろりと睨んで言いました。


<こっち見んな>

<こええよ>

<だまらっしゃい 50,000PP>

<赤スパまでしてきやがった>


 だいぶ癖の強いキャラクターのようです。

 爆神チャンネルの視聴者とやりあった毒巻デスロールは、再度東京冒険者学苑の冒険者に目を向けました。


「では皆様、直ちに荷物をまとめて引き上げてくださいまし。そちらの巨人像の『左足』は私が接収し、メガサメラドン様討伐の為活用させていただきます。抵抗は無価値ですわよ」

「勝手なことを言うな!」


 東京冒険者学苑の生徒の一人がそう叫ぶと、


「交渉決裂ですわね。よろしくてよ、攻撃開始ー」


 毒巻デスロールはあっけなく交渉を放棄。

 サソリ型ロボットの尻尾からガスを発射させて、東京冒険者学苑に攻撃を仕掛けました。


「う、うわっ」

「麻痺毒だ!」


<交渉とは>

<はいもイエスもいえない口は必要ありませんことよー 50,000PP>

<こっち来んなつってんだろうが>


 麻痺毒の噴射を受けた東京冒険者学苑のメンバーは次々と動けなくなってゆき、サソリ型ロボットは頭の上に毒巻デスロールを乗せたまま『左足』の像に近づいていきます。『右腕』の像とは違い、まだ魔力の投入が終わっていないのか、光る『左足』は像につながったままの状態になっています。


「同意無しのPvPはダメじゃありませんでしたか?」


 いきなりガス攻撃をしかけてしまっていますがいいのでしょうか。


「像やロボットの周囲は同意無しで攻撃ができる設定になってるみたい」


 ダバイン貴富はそう説明してくれました。

 最初から像やロボットの争奪戦を前提にしたダンジョンのようです。

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― 新着の感想 ―
個性がキッツイのが出てきた感。クラスはケミスト(化学者)、プリンセス、エンチャンター(付与術師)って感じですかね?自作した毒を周りに振り撒くってイメージ。つーか名前がもはや格ゲーの必殺技としか。高威力…
また凄いのが出てきたなぁ 毒の姫というところか とはいえメガサメラドンの毒で一発昇天しているようなので、どれだけ強いのか良く分からんけど これだけ有名なんだから癖が強いだけでなく実力もあるよね?
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