第60話 きれいな爆神暴鬼
爆神・エクスパンション。
直訳すると拡張、膨張。
意訳するとパワーアップくらいの意味だそうです。
爆神暴鬼のクラス構成は天邪鬼、配信者、偽者。
天邪鬼のクラス特性で、サメデューサが放った重麻痺による行動不能ペナルティを腕力強化、反応強化、防御強化などのプラスのバフに転換。
さらには、
<爆神タンがんばえー>
<がんばれ♡ がんばれ♡>
<期待してるぞー>
<負けたら……おわかりですよね>
<戦犯♡ 戦犯♡ 3,535 PP>
煽り混じりの応援をプレッシャーという名のデバフとして受け取ってからプラスのバフに変換するという、こじれた過程を経て力にして行きます。
短めの黒髪が急激に伸び、そして額から生えた二本の角が黒曜石のような色合いと透明感を帯びたものに変化し、長く、大きく膨れ上がって行きます。
<……誰>
<きれいな爆神暴鬼である 5,000 PP>
<アイデンティティがなくなったんじゃが>
<素材はいいんだよ素材としては……>
目潰し状態ではありますが、異様な気配を感じ取ったようです。サメデューサは水面下のサメのヒレと上部の翼で水と空気を叩いて飛び出し、サメ顎で爆神暴鬼に食らいつきにかかります。
ここまでの爆神暴鬼のイメージなら、爆神なんとかと叫んで実況をはじめるか、あるいは悲鳴をあげそうな場面ですが、爆神暴鬼は無言で自撮り杖を地面に立てて跳躍、巨大ザメの顎を縦に断ち割りました。
常軌を逸した瞬発力とジャンプ力。使った武器は爆神暴鬼自身の頭から折り取った黒曜石の角の一本でした。
手の中で変形し、刃渡り一メートルほどの鉈のようになっていました。
斜め上方向に、対空砲めいた勢いで跳びあがってサメデューサの顎を叩き切っていった爆神暴鬼はそのままの勢いで天井に黒曜石の鉈を突き立て、宙吊りになりました。
<おいまて>
<えええええ!>
<なんだそのフィジカル>
<爆神おめぇ強かったんか! 8,888 PP>
<強いデバフ食らうほど強くなるのよこの様子のおかしい配信者はwwwww 31,500 PP>
<重麻痺なんて強いマイナスぶつけたらもう野菜人みたいなもんだろうな>
サメの顎を叩き切られたサメデューサですが、メデューサの部分は無傷です。強く目を見開いて再び重麻痺の邪眼を叩きつけにかかります。
爆神暴鬼に向けられるぶんにはプラス補正にしかなりませんので、私も黒縁セルロイドも妨害はしませんでした。
逆デバフによるパワーアップ状態の間は、精神面も強くなるようです、天井にぶら下がったままの爆神暴鬼は落ち着いた表情でサメデューサの姿を見下ろしました。
<ふつくしくて草 10,000 PP>
<素材はいいんだよもとから 5,000 PP>
<クラス構成と性格の癖があまりにもエクスプロージョンなだけで>
<一体誰が育てたと小一時間問い詰めたいマジで 30,000 PP>
背中の翼で空中に静止したサメデューサは髪の鮫頭蛇の群から『神の血』を一斉発射して爆神暴鬼を狙います。
爆神暴鬼は角の鉈から手を離して『神の血』の弾幕を回避。
狙いを外した『神の血』が天井に着弾し、嫌な匂いと煙をあげました。
「牽制します」
青銅の鎧のないサメの体を狙ってシャークグリフを発砲、二発着弾。
イベント補正はありませんが風属性の実体弾、大星石の持つ海産物特効の効果も乗っていますので、無視できない程度のダメージにはなったようです。
反射的に動いた髪の鮫頭蛇が『神の血』を撃ち込んできましたが、遮蔽に隠れてやり過ごします。
その攻防の間に、爆神暴鬼は二本目の角を折り、短い手斧のような形に変えました。
手斧を振って届くような距離ではありません。落ちながらの投擲で、サメデューサの顔面を捕捉、青銅の仮面の真ん中に突き立てました。
<直撃!>
<やったか!>
<おいばかやめろ>
手斧を投げた爆神暴鬼は水面に落下して水柱をあげます。
顔面に黒い斧の直撃を受けたサメデューサのほうは、巨大マキビシのように敷設された消波ブロックの群の上に落下し、
ゴガァッ!
と異様な悲鳴をあげました。
<あんなんあったか?>
<なかったはず>
<痛そうだ>
突入時にはなかったはずの消波ブロックの存在にコメントが困惑します。
<あれこそは、群馬忍法コンクリマキビシの術!>
<建築用アイテムボックスに入れておいた消波ブロックを相手の落下先に設置して大ダメージを与える建築忍法!>
<胡乱な解説を>
<出典はなんとか書房だろ>
<群馬ダークの仕業か>
<なんで消波ブロックなんて常備してるんだよ>
さすがに忍法ではなく、消波ブロックの常備もしていませんでしたが、群馬ダークが「使えそうな気がする」と作戦会議の途中でバザールで仕入れ、サメデューサの隙を突いて敷設したものになります。
本来の目的は打撃ダメージではなく、サメデューサが空中に居る間に水場を埋めることでサメデューサを水に戻れなくすることでした。
水場に戻れなければ、シャークグリフの銃撃でそれなりの打撃を与え続けられますし、特攻武器となるイベントチェーンソーも当てやすくなります。
直接消波ブロックを上から落とせばかなりのダメージが出そうですが、建築用アイテムボックスの仕様で、人やモンスターの上から重量物を落とすことは制限されているそうです。
そしてサメデューサ討伐作戦は最終段階に入ります。
翼を広げ、空中に逃れたサメデューサは水に落ちた爆神暴鬼に両手を向け、指先からの『神の血』で焼き尽くしにかかります。
その側面に回り、私はアイテムボックスから出した水風船を投げました。
ダバイン貴富から仕入れた水・爆発属性のイベント特攻アイテム。水属性の効きは良くない相手ですが大星石の水属性強化と海産物特攻効果、イベント補正で文字通りに水の爆弾といえるレベルまで強化された水風船の炸裂は、サメデューサの両手を吹き飛ばす、とまでは行きませんが大きな衝撃を与えて跳ね飛ばし『神の血』の発射を阻止します。
その間に濡れた着物を脱いだ爆神暴鬼は競泳水着姿で水から飛び上がり、サメデューサに飛びかかります。
<躊躇なく脱いだ!>
<いきなりレーティングをあげるんじゃない>
<いいぞ>
<切り抜きよろしく>
サメの頭の上まで一息に跳び上がった爆神暴鬼は大きく息を吸い込むと、口から黒い霧の塊を吐き出しました。
巨大な髑髏のような陰影を持った霧が、サメデューサの上半身を飲み込むように直撃します。
その正体は、触れたものを腐食する強烈な酸と毒の混合物。
<黒吐>
<腹のなかに溜め込んだ心の毒を本物の毒にして吐き出すドロドロ系必殺奥義>
<きれいで黒髪水着お姉さんスタイルからお出しするのがこれである 30,000 PP>
<性癖が歪む>
<おれたちのクソコメがストレスとなり毒に変じて敵を撃つ 1,000 PP>
<だがそれがいい 50,000 PP>
<クソコメ反省しろ>
<つよくいきてほしい 5,000 PP>
<嫌な◯気玉だなぁ>
<毒気玉かもしれん>
だそうです。
<あーばーき! 2,525 PP>
<あーばーき! 25,252 PP>
『爆神暴鬼コール』も始まりました。
ヒギャアアアアアーーーッ!
黒い毒霧はサメデューサを絶叫させながら、青銅の外皮や翼を侵蝕。変色させ、崩壊させてゆきます。
やがてサメデューサは飛行能力を失い、落下を開始。
爆神暴鬼は更に踏み込みます。
メデューサ部分の顔面にめり込んだ黒い斧を更に蹴りつけ、サメデューサの絶叫を断ち切ると、その反動で飛び退ります。
上半身のメデューサ部分については、それがとどめになったようです。サメデューサの巨体が再び消波ブロックに叩きつけられると、メデューサ部分は燃え尽きた炭のように砕け散りました。
<やったか>
<やってないな>
<サメのほうがまだびったんびったんしとる>
配信コメントの通り、巨大ザメの部分はまだ生きて動いていましたが。この状態で水上に打ち上げられてしまうと、もはや打つ手はなかったようです。
「とどめ」
「ご安全に」
ゴゲゲー。
ギュイイイイン!
建築スキルで足場を組み、工事用のヘルメットをかぶった群馬ダークと黒縁セルロイドがイベントチェーンソーを出して接近し、あっさりばらばらにしてしまいました。




