第59話 突入
メェ (20世紀末の国際条約で取り引きが禁止された素材の眼鏡だ)
メエェ(アンデッド災害以前から希少品だった)
メメェ(東京大迷宮のバザールでも取り引き禁止品目に指定されている)
バロメッツたちが解説してくれました。
「危険な素材なんでしょうか」
メェ (いや)
メエェ(絶滅危惧種というやつだ)
メメェ(ウミガメの甲羅を使った生物素材)
「そうですか」
完全に理解できたとは言えませんが、絶滅危惧種という言葉自体はどこかで聞いた覚えがあります。
ともかくお金やPPではなく、レア眼鏡を積まれてNJMについたということでしょう。
「大方の予想通りではありますが、やはり眼鏡で魂を売っていました」
「売っていない。私の魂は眼鏡に捧げた。メガネエイメン」
黒縁セルロイドは真顔で訂正しました。
<巫女装束で邪教めいたセリフを吐く>
<メガネエイメン>
<仁義なく、大義なく、ただ眼鏡あるのみ>
<メガネジャスティス>
「ありがとうございます。続いてご紹介するのは」
〈地味に優秀な爆神スルースキル>
「高尾山エリアの有名生産者のひとり、群馬ダークさんです」
「こんにちは、ドンレミ農場チャンネルの群馬ダークです」
爆神暴鬼の自撮り杖を向けられた群馬ダークは、慣れた表情で挨拶をします。
<え?>
<なんだその組み合わせ>
<一応だけど黒縁セルロイドNJMだよな>
<トラブル中だったよな?>
<なんで地下なんかに潜ってるんだ? 生産専業じゃなかったのか?>
<黒縁、爆神、群馬って謎パーティーすぎんか>
<眼鏡、バカ、農家だっけ>
<バカはやめたれ>
<生産専業だろうが兼業だろうが探索専業だろうがサメからすると関係ないからな>
<群馬ダークがいるってことは、もしかして……>
そんなコメントの中、爆神暴鬼は自撮り棒を操作し、私の姿をカメラに入れました。
<いたああああああああーーーっ!>
<うおおおおお!>
<コムギエル様!>
<大・天・使・降・臨>
<おい爆神そこ代われ>
<10PPやるからどけ 10PP>
<おまえにその空間は勿体ない>
<◯してやるぞ爆神暴鬼>
チャット欄にそんなコメントが流れてゆきます。
◯してやるぞはさすがにどうかと思いましたが、気にした様子のない爆神暴鬼本人から「自己紹介をお願いします」と促されて自撮り杖に視線を向けました。
「生産者ID、BS221B、ソル・ハドソンです」
<本物なのか>
<なんなんだこのメンバーは>
<羨望と混乱で頭がエクスプロージョンしそうだよぅ>
<くそ、マジで脳が破壊される>
<あのバカ神が勝ち組だと……5,000 PP>
チャット欄に何故か怨嗟の声が満ちています。
「と、いうことで、今回の爆神・神コラボパーティーのメンバーは黒縁セルロイドさん、群馬ダークさん、ソル・ハドソンさん。そしてこの僕、爆神暴鬼の四人。東京大迷宮の配信史に残る奇跡のミラクルパーティーといって差し支えないでしょう」
差し支えはありそうですが、口を挟むタイミングを掴めませんでした。
<爆神ゴッドとか奇跡のミラクルとか>
<頭痛が激しく痛みだして馬から落ちて落馬するわ>
「パーティー結成の経緯については後ほど別の配信枠でご説明したいと思いますが、サメラドンへの対応のために急遽結成された、今回限りの臨時パーティーとなります」
<NJMと和解したってわけじゃないのか>
<すればいいのに>
<無理でゲス>
<黒縁セルロイドみたいな眼鏡枠だから成立したマジで奇跡のマッチングだろう>
「今回の配信のテーマは現在大量発生中のサメラドン地下回廊の中ボス部屋攻略となっております! ですが、サメラドン地下回廊はここ以外にも多数確認されています。サメラドン騒動の早期鎮圧のため、先に今回僕達が発見した爆神・攻略ルートを大公開させていただきます」
<そんな爆死しそうな攻略ルートは嫌だ>
<とりあえず聞いてやる 30,000 PP>
<はやくして、しごとでしょ>
<質問コーナーはないのか>
<収拾がつかなくなりかねないからな>
「では早速こちらの録画を御覧ください。爆神・ダイコウカイ!」
爆神暴鬼は黒縁セルロイドが光学観測とレーザー攻撃でサメラドンを掃討する様子や、群馬ダークが床に穴をあけてワープフロアをスルーしていく様子を映像で紹介します。
さすがに真似のしようがないのではないかと思ったのですが。
<変態ビームはまぁおいとくとして>
<床が抜けるタイプなんか>
<言われてみりゃそうか>
<サメラドンが壁とか床破ってくるんだからこっちからでも破れてもおかしくはない>
<ドリルとか持ってけばいいのか?>
<素人がやっても場所がわからんし振動でサメラドンが来る>
<建築家とか大工とか炭鉱夫とかドワーフとかの出番か>
<建築スキルってあんなに綺麗に床を切り抜けるのか>
<あそこまでの速度と精度を出せるのはそうはいないはず>
意外に前向きな検討が始まりました。一人で三つクラスを持っているので『穴が掘れる人間』は探せばそこそこいるのだそうです。
「いかがでしたか? この爆神インフォメーションを活かして、バリバリと攻略を進めていただけばと思います」
ドヤ顔をし、八重歯を光らせる爆神暴鬼。
<参考にはなったがおまえの笑顔が気に入らない 5,000 PP>
<参考になったのが腹立たしい 50,000 PP>
文面的には悪口が多くなるようですが、課金チャットの数字で見ると有益な情報と認められたようです。
「ではいよいよ本題、サメラドン回廊の中ボス部屋の攻略配信を開始したいと思います。まずはこちらで現在確認できている中ボス部屋に関する情報を共有します。他のサメラドン回廊の攻略に役立つかどうかがわかりませんが、なにかの参考にしていただければ幸いです」
他の回廊を攻略している冒険者たち、あるいは私達が全滅してしまった場合の後続冒険者たちに向けて、ここまでに確認した中ボスモンスター、サメデューサの情報を発信し、中ボス部屋への突入を開始します。
先陣を切って飛び込むのは、
「爆神・ショウダウン!」
自撮り杖だけを手に、景気の良い声をあげる爆神暴鬼です。
<いきなり石化しそうだな>
<重麻痺だっけ>
<まぁみてな 3,000 PP>
盛大に扉を開け放った爆神暴鬼に反応し、サメデューサの目が赤く輝き、重麻痺の邪眼を発動します。
それにあわせ、
「天照」
八枚の銅鏡を出した黒縁セルロイドは光量重視で光線を発射、サメデューサに目くらましをかけました。
「突入します」
ゴゲー!
群馬ダークから預かったわさび田のマンドラゴラを三本、ガンベルトのポーチに入れた私とバロメッツたちも中ボス部屋へ突入。
メェ! (対音響防御!)
メエェ!(ヨシ!)
メメェ!(ぶちかませ!)
ゴーーーーッ!
ゴオォォォォ!
ゲェェェェッ!
バロメッツたちが私の耳にイヤーマフをつけると、マンドラゴラたちが大音声を放ち、目眩ましをかけたサメデューサの聴覚を封じにかかります。
<まぶしいわうるさいわ>
<コムギエル様普通に前に出るのか>
<挙動が素人じゃない>
<一方重麻痺を正面から叩きつけられた爆神暴鬼は>
<普通に動けなくなってないかこれ>
爆神暴鬼が立ち止まってしまっているようですが、まずは作戦通り、視覚と聴覚を潰したサメデューサの側面に回り込み、青銅の上体に生えた胴体を狙ってアルフォンスを連射します。
ただ、サメデューサがまとった青銅の鎧は射撃への防御性能が高く、またサメモンスター全般の特徴として水属性攻撃も効きにくくなっています。
高熱を帯びたサメデューサの胴体はすべての水弾を蒸発させてしまいました。
大星石の補正のおかげで、鈍器で殴りつけたくらいの衝撃は入ったようですが、有効なダメージにはなりませんでした。
視聴覚を潰されていても、攻撃の飛んできた方向は察知できたようです。虚空を手刀で斬りつけるようにして『神の血』を発射します。
「散開を!」
バロメッツたちに回避を指示。私自身も『神の血』の射線から飛び退くと、前方に石造りの防壁が生えてきました。
最後に中ボス部屋に入った群馬ダークが建築スキルで立ててくれた対『神の血』用の防壁になります。
防壁の裏、水属性のアルフォンスから、風属性の実体弾を使うシャークグリフへと武器を持ち替えます。
そしてそのタイミングで、今回の作戦の要となる爆神暴鬼が動き出しました。
「爆神・エクスパンション!」
言葉の意味はよくわかりませんが。




