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第54話 サメ+ラドン

「ぐっ、ぐえら……げぼっ……」


 泥を洗い流された爆神暴鬼は、口から泥を吐き意識を取り戻しました。


「だいじょうぶ?」


 吸入型の回復薬を使って手当をしていた黒縁セルロイドが確認しつつ、爆神暴鬼にメガネをかけさせました。


「エッ、アッ、ハイ……ドウモ、スミマセン……」


 呼吸が落ち着かないのか、配信のときとは表情と声の印象が違います。

 自信なさげな、気弱そうな表情に、ぎくしゃくした声でした。

 爆神エクストリーム、だとか爆神エクスプロージョン、といったセリフをいうような人には見えません。


「先に口ゆすいどこか、これ使って」


 アイテムボックスからミネラルウォーターのボトルと紙コップを出した群馬ダークは爆神暴鬼をわさび用の洗い場に連れていってうがいをさせましたが、


「ア、アリガトウゴザイマス……ドーモ……」


 改善は見られません。


「バイタル回復効果のあるものなら色々ありますが」


 なにか食べてもらったほうがいいと思いましたが。

 黒縁セルロイドによると、


「爆神さんはそれで全回復です」


 とのことでした。


「アッハイ、コンナカンジデス、ハイ。ダイタイ」


 爆神暴鬼本人も肯定します。

 普通に立っていると長身でスタイルも良さそうですが、背中もだいぶ丸まってしまっています。


 メェ (意外に気が小さいのか)

 メエェ(配信とはまるで別人だ)

 メメェ(配信するとテンションが上がるタイプだろうか)


「この度は御迷惑をおかけしました。よければ人を呼んで修理を」

「……NJMのひとを、ということでしょうか?」


 群馬ダークはやや警戒した様子で確認しましたが、黒縁セルロイドは「いえ」と首を横に振りました。


「NJMの構成員には群馬ダークさんには干渉するなという指示が出ています」


 意外な指示、ではないのかもしれません。

 表だって群馬ダークや私に手を出すと薬師院連合を怒らせたり、NJMの風評をますます低下させたりする危険があります。

 正規メンバーには手出しを禁じ、例の闇冒険者のような人間を差し向けて圧力をかける方針でしょうか。


「私もそのつもりではいたのですが、悪いタイミングでモンスターの攻撃を受けてしまって。修理についてはNJM以外のツテを頼もうと思います」

「お話はわかりました。ですが、建築家アーキテクトのクラスがありますので、人の手配は結構です」

「では、修理費用のほうをお支払いします」 

「……ツツシンデオシハライイタシマス!」


 爆神暴鬼も電子音声のような口調で宣言しました。

 爆神暴鬼はあくまでNJMの取材をしているだけの配信系冒険者で、NJMのポンチョを着ている黒縁セルロイドも一時雇いの助っ人で、NJM本体の人間ではありません。あまりピリピリしても仕方がないと判断したのか、群馬ダークは小さく息をつきました。


「修理費を請求するかどうかは状況を見てから判断したいと思います。監視カメラの映像を一緒にみていただいていいですか?」


 ざっと泥を流しただけの状態の爆神暴鬼のために建築スキルで仮設シャワー室を出した群馬ダークはそのまま破壊されたフェンスやワサビ田の水路を修復します。

 斜面の上からサメラドンが滑り降りてきた結果上のほうからフェンスと水路が破壊され、最後に私か黒縁セルロイドとの接近に気付いて農場の外に飛び出し、正門側のフェンスをなぎ倒してしまったようです。

 

「とりあえずこんなところかな」


 破壊されたフェンスの残骸や崩された水路の土をキューブ状にして建築用アイテムボックスに収容、新しい素材キューブと入れ替えるサンドボックス式の建築術で、あっと言う間に修復作業が終了します。

 その間にシャワーと着替えを終え、眼鏡をかけた爆神暴鬼が戻って来ました。もともと眼鏡なのではなく、黒縁セルロイドからの「取材の条件」として眼鏡をかけさせられているそうです。

 休憩用の小屋の近くに椅子を出し、監視カメラのウィンドウを開いて、黒縁セルロイド、爆神暴鬼、それとマンドラゴラたちから事情聴取を行います。

 まず黒縁セルロイドと爆神暴鬼の行動目的は、イベント開始直後から高尾山エリア各地で目撃され始めた謎の鮫蛇モンスター、サメラドンの分布状況と、その移動ルートの調査。

 黒縁セルロイドの説によると、鮫蛇モンスターサメラドンの正体は「サメ+ラドン」ヘラクレスの神話に出てくる『黄金の果樹園』の守護竜ラドンに、今回のイベントタイトルであるサメ属性をくっつけたものだそうです。

 今回のイベントのレイドモンスターやクエストはどれもヘラクレスの十二の偉業にちなんだものになっているので、サメラドンの分布を探れば『黄金の果樹園』に対応するダンジョンが見つかるのではないかとのことでした。


「そこまで話してしまっていいんでしょうか」


 NJMの内部情報になるのではないのでしょうか。


「サメラドンの名前がわかった時点で容易な推測です。薬師院連合あたりももう動いています」


 メメェ(NJMで動いているのは君一人なのだろうか)


 レストレイドが訊ねます。


「内部情報になりますので全体としての動きはお話しできませんが、薬師院近辺の担当は私だけです。薬師院連合の勢力圏なので、私みたいな変人に爆神暴鬼プレスの二人のほうが動きやすいと判断しました。あのあたりを歩いていたら地面の下からサメラドンが飛び出してきて、爆神暴鬼と一緒に転げおちてここに」


 黒縁セルロイドはわさび田の向こうの斜面を指さしました。


 メー(確かに、こちらにも映っているな)


 群馬ダークが表示した映像にも、斜面を歩く爆神暴鬼の足元を吹き飛ばしてサメラドンが出現、爆神暴鬼もろとも斜面を滑り落ちてわさび田に飛び込んで来る様子が記録されていました。

 

 メェ (地雷みたいな飛び出し方をする)

 メエェ(初見で回避は難しそうだ)

 メメェ(また妙なモンスターを)


「この時の様子、誰かみとった?」


 ゴゲー


 ゴゴゲー


 マンドラゴラたちからも状況を聞いた群馬ダークは落ち着いた調子で「わかりました」と言いました。


「意図的な誘導などではないようですので、交換したフェンスの材料費だけ負担していただけるでしょうか」

「ハ、ハイ! ウケタマワリマシタ!」

「御迷惑をおかけしました。お詫びのしるしにこの眼鏡もお収め下さい」


 爆神暴鬼が声を震わせ、黒縁セルロイドが何故か眼鏡を出しました。

 ちょうど、その瞬間。斜面のほうからまた地響きがして、


 サメラドドン!


 今度は双頭の鮫頭蛇が飛び出して来ました。

 モンスター情報によると、名前もそのままサメラドドンのようです。

 首の数でドの数が増えるのでしょうか。

 サメラドンと全く同じ場所から地上に飛び出したサメラドドンがわさび田に向けて滑り降りてきます。

 

「排除します」


 わさび田から引き離す時間はなさそうです。フェンスごと撃ち抜く形でアルフォンスを二射。二つの頭を捉えて撃ち抜くと、サメラドドンは呆気なく倒れ、粒子化して消えて行きました。


 サメラドドンを撃破しました。

 アイテム入手:鮫蛇の強皮×2

        鮫蛇の大牙×2

 PP入手   :100,000 PP


 撃破メッセージが表示されましたが、さすがに食べられるモンスターではなかったようです。


「すみません、またフェンスを破ってしまいました」

「気にせんでええけど……変な穴見えへん?」

「見えます」


 サメラドンとサメラドドンの二体が飛び出してきたあたりに、防空壕の入り口に似た石造りの穴が口をあけていました。


 メェ (ダンジョンの入り口か)

 メエェ(『黄金の果樹園』だろうな)

 メメェ(面倒なところに面倒なものが)


 黒縁セルロイドの言っていた『黄金の果樹園』の入り口の可能性が高そうです。

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― 新着の感想 ―
よし、ここは一時休戦して共闘といたしましょう ささ、ダークさんもソルさんも眼鏡どうぞ なに、遠慮されることはありませんよ
なんというかソルさんの周辺は因果律が狂ってそうですね こうもイベントが頻発するのは目立ちたい冒険者にとっては嬉しいんでしょうけれど、生産系として平穏に生きたいソルさんにはありがた迷惑のような それとも…
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