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第4話 この輝きは!

 メェッ!(この輝きは!)

 メエェ!(レア! いや、違う!)

 メメェ!(エピックパンだと!?)


 どこからかサングラスを出したバロメッツたちが驚きの声をあげます。

 レアなパンが焼けると謎の発光現象が起こるようです。光の具合がクラス付与のカードのときとよく似ています。

 バロメッツの様子からすると、レアパンどころでないものが出来ているようですが。

 やがて光が和らぎ、湯気と光の粒子が入り交じったようなオーラを放つ六つのパンが姿を現します。

 五つは銀色のオーラ、ひとつだけ金色のオーラを放っています。


「レアパンとエピックパン、なんでしょうか?」


 発光具合と驚き具合からすると、そういうことになりそうです。


 メェ (そのようだ。鑑定してみるといい)

 メエェ(ひとつふたつレアが出来てもおかしくないとは思ったが)

 メメェ(この材料からエピックまで出すとは)


 レジェンダリーベーカーの力が早速威力を発揮してしまったようです。

 オーブンから取り出すと、六つのパンが放つオーラは収まり、代わりに小麦の香りが漂いました。

 まずは鑑定、と念じてみます。

 白く光った五つのプチフランスの鑑定結果は。


 秀逸なプチフランス×5

 レアリティ :レア

 品質    :最高

 食事効果  :バイタル2段階回復

        ストレンクス(小・6時間)


 というものでした。

 バイタルは冒険者がどれだけのダメージを受けているかを示す指標で、グリーン、ブルー、イエロー、レッド、ブラックの五段階。

 無傷でグリーン。

 行動に支障の無い程度のダメージを受けるとブルー。

 行動に悪影響のあるダメージを受けるとイエロー。

 戦闘不能一歩手前の段階でレッド。

 ブラックアウトで戦闘不能となり、意識を喪失してホームエリアに送還。七十二時間以内に復活スキルやアイテムの使用がなければ所持PPの半分と引き換えに復活リスポーンという流れになるそうです。

 なお、東京大迷宮での戦闘やトラップなどで受けるダメージはブラックアウトが上限となっており、人が死なないようになっています。

 持病や老衰といった東京大迷宮以外の要因による死はさすがに回避できないそうですが。

 今回できあがった秀逸なプチフランスは食べるとバイタルが2段階回復。

 ダメージ累積状態のイエローからなら全回復、瀕死状態のレッドからでも軽傷のブルー状態まで回復。

 かなり強力な効果ではないでしょうか。


「ストレンクスというのはなんでしょう?」


 メェ (筋力、持久力を一時的に上昇する)

 メエェ(小ならば筋力依存の攻撃力が20%アップ)

 メメェ(肉体労働時の作業効率もあがる)


 これも悪くない効果のようです。


 続いて最後の一つ。

 金色のオーラを放っていたプチフランスを鑑定してみます。


 神餐しんさんのプチフランス

 レアリティ :エピック

 品質    :最高

 食事効果  :バイタル全回復

        メンタル全回復

        ステータス異常回復(大)

        ステータス異常耐性(大・24時間)

        ストレンクス   (大・24時間)

        プロテクション  (大・24時間)

 

 大変なことになっているようです。


 メェ (プロテクションは防御力アップだ)

 メエェ(大だと80%程度あがる)

 メメェ(攻撃力と防御力が1.8倍になってステータス異常を完全に防ぐ)


 小麦粉とイーストと塩と水で作れて良いものではない気がします。


 メェ (問題は、ステータス異常回復の(大)だ。大抵のステータス異常を回復するんだが)

 メエェ(アンデッド因子感染症に対する効果は不明だ)

 メメェ(効くかも知れないし効かないかも知れない)


「過去に試した事例がない?」


 メェ (そういうことになる。安全策をとるならバザールに出すのも手だ)

 メエェ(相当の高値になるだろう)

 メメェ(万能薬はともかく因子抑制剤の購入予算になる)


 誰も試したことがないので、効くとも効かないともいえない。

 上手く行けばアンデッド因子感染症を回復できるが、無駄になってしまう可能性もある。

 売りに出して万能薬やアンデッド因子抑制剤の購入にあてたほうが堅実なようですが――。


 ここは。


「食べてみます」


 メェ (分の良い賭けではないと思うが)

 メエェ(バザールに出したほうが確実に延命につながる)

 メメェ(それでもやるかね)


「生まれて初めて焼いたパンを、いきなり売りに出す勇気はありませんから」


 鑑定結果はともかくとして、どんな味がしているのかもわからないものをいきなり売りに出すのはどうかと思います。

 エピック級の食べ物をいきなり口に入れるというのも別の意味で勇気が必要ですが。

 ウォーミングアップというのも変ですが、まずレアの秀逸なプチフランスをひとつ食べてみることにします。

 焼きたてのパン、と言う言葉の響きはおいしそうですが、オーブンから出した直後となるとさすがに熱すぎますので、発酵用アイテムボックスを使って一時間分寝かせます。

 加速機能を使っているので実際の所要時間は五分程度。

 時間感覚がおかしくなってきます。


 メェ (折角なのでご相伴にあずかりたい)

 メエェ(秀逸なプチフランスをひとつ譲ってもらえるだろうか)

 メメェ(8,000PPでどうか)


「材料費や場所代もいただいていますから、代金は結構ですよ」


 メェ (気持ちはありがたいが)

 メエェ(我々はナビゲートモンスターなのでね)

 メメェ(ダンピングをするわけには行かない)


 立場的にただには出来ないということのようです。


「わかりました、8,000PPでお譲りします」


 メー (よし、商談成立だ)

 メエェ(早速振り込んでおいた)

 メメェ(所持PPを確認してくれたまえ)


 ステータス画面を開いてみると『8,000PPが振り込まれました』というメッセージが表示され、所持PPが108,000に増えていました。

 未経験者が生まれて初めて焼いたパンひとつで受け取っていい額には思えません。


「確認しました」


 ジュルメエ (ではいただこう)

 ジュルルメエ(お楽しみの時間だ)

 ジュルリメエ(フハハハハハ)


 少しおかしな様子になったバロメッツ達はオーブン皿から秀逸なプチフランスをひとつ取り上げると、二匹がかりで左右に割り、一匹が真ん中から白い内層クラムに食いつきました。

 羊、もしくは羊型植物モンスターがパンを食べるのかどうか、という疑問も感じましたが、問題は無いようです。


 バリバリ(クープは香ばしく歯ごたえがすばらしい)

 パリパリ(クラストは軽やかだがしっかりしている)

 モチモチ(クラムは柔らかくももっちり)


 バリー!(マーヴェラス!)

 パリー!(追加オーダーを!)

 モチー!(バターをつけていただこう!)


 お気に召したようです。

 バロメッツたちは、どこからかバターやチーズ、ピーナツバターなどを出して、追加注文をしてきました。

 食事効果が発生したことを示しているのか、周囲に光の粒子が舞い散っています。


「4,000PPでいいでしょうか?」


 さすがにまた8,000PPもらう気にはなれません。


 メー (了解した)

 メエェ(振り込みを完了した)

 メメェ(宴を続けよう)


 ふたつめのプチフランスを器用に分割し、バターやチーズ、ピーナツバターなどをつけて食べるバロメッツたちを横目に、私も秀逸なプチフランスを手に取り、口に運びます。

 パリパリした皮の歯ごたえ、もっちりした内層クラムの食感、小麦の甘みと香りが広がって、気が付いたときには、手の中からなくなっていました。

 頬袋に木の実をつめ込むリスのような勢いで食べることに没頭してしまっていました。

 美味しいとか美味しくないとかいう次元を超えて、ただ食べることに夢中にさせてしまう魔性を持った食物。

 そういうもののようです。

 禁断の果実、という言葉が脳裏に浮かびました。

 レアでこうなると、エピックやレジェンダリーというのは一体どういうものなのかと恐ろしくなります。

 バイタル回復やストレンクスといった食事効果が発生しているようです。周囲に光の粒子が舞い散って、体の内側から活力のようなものが湧き上がって来るのがわかりました。

 バロメッツ達も二つ目のプチフランスを平らげました。


 メェ (おかわり、と言いたいが自重しよう)

 メエェ(バザールのチュートリアルに使うものがなくなってしまう)

 メメェ(メインイベントに取りかかろう)


 メー♪

 メメメメー♪

 メーメー♪


 歌うような声を上げたバロメッツ達はまたどこからか赤いテーブルクロスや、正体不明の銀の大杯を出すと、その上に神餐のプチフランスを乗せ、小皿に乗せたバターとチーズ、ピーナツバターと一緒にテーブルに並べ、さらにティーセットを出して器用に淹れました。

 

 メェ (準備完了だ)

 メエェ(掛けたまえ)

 メメェ(立ったまま口にして倒れてはいけない)


 随分大げさなことになってしまいました。

 レアパンの段階で心神喪失状態になりかけていますので、エピックパンとなると確かにどうなるかわかったものではありません。

 勧められたとおり席に座ると、バロメッツが紅茶を注いでくれました。


 メー (茶葉はイングリッシュブレックファスト)

 メメー(アッサム茶、セイロン茶、ケニア茶をブレンドしたものとなる)


「ありがとうございます。いただきます」


 緊張しつつ手を伸ばし、神餐のプチフランスを手に取り、割ってみます。

 金色の粒子の混じった湯気と香気がふわりと、けれど存在感を持って広がりました。


 ジュル (なんと濃密で優雅な香りか)

 ジュルル(女神の肌のごとき美しきクラム!)

 ジュルリ(アートを超え最早テロリズム!)


 バロメッツたちの様子がおかしくなっていきます。


 ジュル…… (ぐっ、いかん、これは)

 ジュルル……(これほどまでの衝動を呼び起こされようとは……)

 ジュルリ……(我々の正気が残っているうちに口に運んでくれ……)


 バロメッツ達の声に押されるまでもなく、私自身もたまらなくなっていました。

 半分に割った神餐のプチフランスの一方を口に運び、かじりつきました。

 濃い香気が嗅覚を蕩かし、パリパリと音を立てる皮の部分が歯の神経と聴覚を心地よく刺激します。

 弾力を保ちながら、ふわふわと軽やかな感触が、わずかな塩の味と、頭の芯が痺れるよう旨味を残して喉を通り抜け、お腹の中に落ちて行きます。

 お腹の底に温もりと、陶酔に似た幸福感が染み渡って――。


 メェ? (レディ?)

 メメェ?(大丈夫か?)

 メエェ!(気をしっかりもつんだ!)


 バロメッツたちの呼びかけで、はっと我に返りました。

 エピックパンがもたらす五感、精神への刺激が強すぎて、意識が飛んでしまっていたようです。

 目をやると、神餐のプチフランスの半分がなくなっていました。


 ジュルルル (すまないが、急いでほしい)

 ジュルルルル(理性がどんどん削られている)

 ジュルジュル(ハァハァ……)


 冗談ではなく本当に必死で自分を抑えている様子でバロメッツたちが訴えたとき、

一枚のメッセージウィンドウが表示されました。


 ステータス異常耐性(大)ストレンクス(大)プロテクション(大)が付与されました。


 ステータス異常、アンデッド因子感染症(潜伏型)が治癒しました。

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構成を変えて、余命設定をもう少し引っ張るかな?と思ってましたが・・・ アンデッド因子「やっぱり小麦には勝てなかったよ」
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