第115話 #ABK
寡婦形態となったアクアヘーラーの最後の仕掛けは異様な勢いで生成される髑髏の巨兵スパルトイの軍勢と、恐怖と混乱を振りまく二つの小惑星、フォボスにダイモス。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/最終狂乱モード
Ꮚ・ω・Ꮚメー/クソボス感出てきた
Ꮚ・ω・Ꮚメー/だがしかし
Ꮚ・ω・Ꮚメー/デカいデバフ系ギミックを出したのはクソデカ墓穴でしかないのである
Ꮚ・ω・Ꮚメー/スパルトイだけでやめておくべきじゃったな
静かに息を吸い込み、アクアへーラーの振りまくデバフやバッドステータスの全て、ネット経由のヘイトやプレッシャーの全てを受容し、心身の健康を削りながら『天邪鬼』のクラス効果で根こそぎ力に変えた爆神暴鬼は渦巻くブラックホールを思わせるオーラを放ち、アクアヘーラーの放つ圧力を押し返し、食い荒らしていきます。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/だからなんなのこの子
Ꮚ・ω・Ꮚメー/ご存じないのですか
Ꮚ・ω・Ꮚメー/彼女こそ炎上や裁判沙汰からチャンスを掴み
Ꮚ・ω・Ꮚメー/アイドルの座を駆け上がったり転げ落ちたりしている
Ꮚ・ω・Ꮚメー/超ボンクラシンデレラ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/爆神暴鬼ちゃんです!
Ꮚ・ω・Ꮚメー/普通にご存知ないわい
Ꮚ・ω・Ꮚメー/まぁここまでやべー女だとはこっちもおもわんかったが
Ꮚ・ω・Ꮚメー/ここまで来たらがんばってほしい
Ꮚ・ω・Ꮚメー/A・B・K! A・B・K!
Ꮚ・ω・Ꮚメー/あーばーき! あーばーき!
ダンジョンネットのハッシュタグ#ABK がトレンドをかけあがり、現場で真面目に戦っている冒険者たちも肉声で、「A・B・K! A・B・K!」「あーばーき! あーばーき!」とシュプレヒコールをあげます。
マンドラゴラたちも雰囲気に乗って、ゴーゴーゲ! ゴーゴーゲ! ゴーゴーゲーゲーゴーゴーゲーッ! と叫び始めました。
三三七拍子のようにも聞こえます。
「あーばーき、あーばーき、ばーくーがーみーあーばーき」
メェ! (レディの脳が侵食されはじめた!)
メエェ (まぁこの空気では仕方のないところか)
メメェ (アクアヘーラーのほうに同情したくなる)
アアアアアアアーーーッ!
牧島国母個人の因縁は私のほうが上だったと思いますが、アクアヘーラーとしてのヘイト度は爆神暴鬼が私を超えて上になってきたようです。
逆上した声をあげたアクアヘーラーは、爆神暴鬼めがけて暗黒の炎のブレスを放ちます。
対する爆神暴鬼もまた、口から漆黒の霧の弾丸を吐き出しました。
〈黒吐〉
アクアヘーラー自身が放ったデバフ、ダンジョンネットを通して東京大迷宮全域から集められた応援と言う名のプレッシャーと、何割かの本物の悪意。それらを毒と酸に変え、すべてを腐食しつくす呪詛寄りの塊として吐き捨てる暗黒の必殺技。
吐出と同時に炸裂するように巨大化した黒いエネルギー塊は前方から押し寄せるスパルトイの群れを一気に飲み込んで腐食、分解、消滅させて加速して行きます。
アクアヘーラーのブレスがそこに直撃しますが、〈黒吐〉の中にあっけなく吸い込まれ、掻き消えました。
アクアヘーラーの側に浮かんだフォボス、ダイモスの二つの衛星が風化するように崩れ、消えて行きます。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/A・B・K! A・B・K!
「あ・ば・き! あ・ば・き!」
ゴーゴーゲー! ゴーゴーゲー!
ネットに、現地に響き渡るシュプレヒコールとともに、黒の塊がアクアヘーラーの巨体を飲み込みます。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/爆神暴鬼の炎上がすべてを救うと信じてっ!
「決めろーっ!」
ゴゲーッ!
アアアアアアアアーーーッ!
凄絶な絶叫とともに、アクアヘーラー、あるいは牧島国母の体が溶け崩れ、形を失ってゆき、最後には、どろりとした泡の塊と、百人を超す水難者の群れとなり、水上に散らばって行きました。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/オワタ……。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/どざえもんがぷかぷか浮いとる
Ꮚ・ω・Ꮚメー/これは、殺ってしまいましたなぁ……
Ꮚ・ω・Ꮚメー/ひどいよあばきちゃん……
そんなコメントを眼にした爆神暴鬼はヒッと声をあげて立ち尽くします。
システムメッセージが表示されます。
特別レイドモンスター『アクアヘーラー・ケーラー』が撃破されました。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/やりおった
Ꮚ・ω・Ꮚメー/相性とボンクラダンジョンネット文化の勝利か
Ꮚ・ω・Ꮚメー/これはチャンネル登録者数爆神増不可避
Ꮚ・ω・Ꮚメー/#おめでとう爆神 #爆発しろ爆神
Ꮚ・ω・Ꮚメー/A・B・K! A・B・K!
ゴーゴーゲー! ゴーゴーゲー!
称賛の熱狂の声があがる中、当の爆神暴鬼は活動限界を迎えたのかその場にへたり込んで白目をむいていました。
取り急ぎ爆神暴鬼の回収に向かうと、泡に取り込まれて浮かぶ牧島国母らの上に、ヒュドーラとカルキノスの蛇蟹コンビが現れました。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/蛇蟹?
Ꮚ・ω・Ꮚメー/なにしに来やがった
そんな不審の声があがる中、ヒュドーラは水上でカーテシーを決め、カルキノスは鋏で敬礼をします。
「特別レイドモンスター、アクアヘーラーの討伐おめでとうございます。ラスボスを片付けたような雰囲気になってしまいましたが、夏イベントの日程はまだ10日を残し、隠しボスや大富豪大会、そして私達との戦いなども控えていますので、引き続きお楽しみください♡」
「こちらの人間たちの身柄については自殺のリスクが有るのでしばらくこちらで預かっておくチョッキン、カッチン」
カルキノスが鋏を打ち鳴らすと、牧島国母を始めとする潜水艦、潜広の乗組員たちは、ヒュドーラ、カルキノスと一緒に姿を消してしまいました。
蟹座イベントについてはそれからも十日ほど続きましたが、私個人はだいぶ燃え尽きてしまいましたので、残っている東京レルネータワーの攻略や、本来のクライマックスである隠しモンスター、アクアヘラクレスとの決戦については参加を見送り、当初の予定通りキッチンカーの営業を中心に日程を消化し、イベント最終日を迎えました。
結局、レルネータワーのほうは戦闘での攻略は不可能だったので、私の胃袋攻略で全クエスト消化、ということになりましたが。
東京でイベントが進行している一方で、近畿・東海地方では東海武装企業連合グラン・ユニオンが企業連合MIYACOへの進攻を開始、蟹座イベントの終結より先に全面降伏においこんでいました。
そうしてやってきたイベント最終日。
一日前にキッチンカーの最終営業を終えた私は東京を離れ、滋賀県の児童養護施設跡地に足を運びました。
もちろん目的があってのことですが、最終日になると色々騒がしくなりそうな予感がしたので、避難を兼ねて、といったところでしょうか。
現在はアンデッド災害で周辺の集落ごと壊滅、放棄状態ですが、物心ついた頃から奨学兵になるまでを過ごした場所になります。
メェ (さて)
メエェ(慰問の時間だ)
メメェ(楽しんでくれ)
ダバイン貴富が作ってくれた『空気でっぽうの原理でパンを飛ばすリボルバーランチャー』を使い、バロメッツ達が円筒型のパンをばらまくと、施設内に潜んでいたアンデッドが誘引されてパンを摂取。元の人間や動物の姿に戻っていきます。
「確保ー!」
兵員輸送車で同行した紙燭円山指揮下の三帝重工冒険者団と私設軍の兵士たちが前進、救護作業を進めていきます。
「内部は問題なさそう」
廃墟をめぐってメガネを探す、ということで同行した黒縁セルロイドが天火明の鏡を入れて施設の内部状況を確認してくれました。
「侵入します」
バロメッツたちを連れ、紙燭円山と一緒に施設に進入、探索を開始します。




