第113話 爆神ビッグエロ
珊瑚の壁が侵食され、黒く変色し始めます
アアアアアアアアアァ……。
血の涙、というよりは黒い腐汁のようなものを眼窩から溢れさせたアクアヘーラー寡婦形態は、骨のような手を伸ばして珊瑚の壁に触れ、引き裂くように崩壊させてゆきます。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/ガチ目でこわいんじゃが
Ꮚ・ω・Ꮚメー/魔法も銃撃も投擲もゴゲ砲も弱体化されるんか
後退する冒険者たちが魔法や銃撃を放ち、マンドラゴラたちが再度の音響衝撃波攻撃を仕掛けますが、アクアヘーラーが纏った黄色い炎に触れると威力を殺されてしまい、有効なダメージを与えられないようです。
紙燭円山の分身攻撃、横須賀海上冒険者団の砲撃、バサクロのブレス攻撃なども効き目は薄いようです。
近づくと瘴気でデバフとバッドステータスを大量に受けてしまうので近接攻撃も困難です。
体のサイズは水上から百メートルほど。これまでの形態よりはだいぶ小型化していますが、十分に圧倒的なサイズです。
そしてチャット欄では――。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/さすがに一筋縄ではいかんな
Ꮚ・ω・Ꮚメー/やべー女オブジイヤーのマジキチ部門一位候補は伊達じゃねぇか
Ꮚ・ω・Ꮚメー/ネタにできん方向性で毒巻超え果たしやがって
Ꮚ・ω・Ꮚメー/だがやべー女の在庫ならまだあるぜ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/おめぇの出番だぞ! 爆神!
Ꮚ・ω・Ꮚメー/あーばーき! あーばーき!
Ꮚ・ω・Ꮚメー/A・B・K! A・B・K!
爆神暴鬼待望論が盛り上がり始めました。
私がチェックしているのは自前のBS221Bチャンネルだけですが、爆神暴鬼本人の爆神チャンネルや、SNSなどでも同じ雰囲気だったようです。
SNSのトレンド欄を、
#爆神暴鬼
#立てよ爆神
#デバフを喰う女
#はやくしてしごとでしょ
#ABK
といったハッシュタグが侵食しはじめる様子に、当事者の爆神暴鬼は「ヒィィ!」と悲鳴をあげました。
「やめてくださいしんでしまいます!」
「だいじょうぶ、貴女ならきっとやれる。メガネもそう言っている」
黒縁セルロイドが淡々とそう請け合い、親指を立てました。
「メガネは私になにも言っていません!」
メェ (とはいえこのままじっとしていたところで)
メエェ (ネットの圧が延々と強まっていくだけだろう)
メメェ(早々に終わらせて楽になったほうが良いのではないか)
バロメッツたちも爆神暴鬼の周囲に集まり圧をかけて行きます。
「なんなら一杯引っ掛けて行くかい?」
爆神暴鬼に盃を見せた華菱瞳子ですが、反応がないのを見ると自分で盃を飲み干しました。
「じゃ、ちょいと行ってくるよ」
そのままクレタ風ラビリンスの壁の上に駆け上がった華菱瞳子はアクアヘーラーとの距離を詰め、花火と如意棒による攻撃を開始します。
バーネットの黒縁セルロイドもまた天照による熱塊攻撃を敢行しますが、やはり通常の威力はでないようです。有効な打撃は与えられませんでした。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/行かんのか爆神
Ꮚ・ω・Ꮚメー/爆神はやればできる子だぞ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/爆神ネキがんばえー
Ꮚ・ω・Ꮚメー/ア・バ・キ! ア・バ・キ!
Ꮚ・ω・Ꮚメー/A・B・K! A・B・K!
期待と応援の声が満ちる中、プレッシャーに耐えかねた爆神暴鬼は……。
「ご、ごめんなさい! やっぱり無理っ! 私には無理です! 爆神・ビッグエ、え……エ、エスケェェェ……ロロロ……」
Ꮚ・ω・Ꮚメー/あっ……。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/爆神の爆神がリバースした……
Ꮚ・ω・Ꮚメー/爆神ビッグエロ?
Ꮚ・ω・Ꮚメー/ビッグエスケープといいたかったんだろうが
Ꮚ・ω・Ꮚメー/小物の爆神ネキにこのプレッシャーは重すぎたか
口元をおさえてバーネットを降り、何かを吐瀉した爆神暴鬼は、そのまま近くのスロープを登って逃げ出してしまいました。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/あっ、逃げた!
Ꮚ・ω・Ꮚメー/逃げるな!
Ꮚ・ω・Ꮚメー/このヘタレ神!
Ꮚ・ω・Ꮚメー/雑魚神♡ 雑魚神♡
Ꮚ・ω・Ꮚメー/責任から逃げるなアア!
酷いコメントが流れて行くなか、爆神暴鬼は自撮り杖をあげると、ぺっと唾を吐きました。
「う、うるせぇっ! 勝手なこと言ってんじゃねぇ! 偉そうなことはネットでポチポチやる前にこっち来て肉盾にでもなってから言え! ファーッ!」
最後は放送禁止用語を言いかけていたそうです。
濁り、据わった目、中指を立てて放たれたそのコメントはあっという間に切り抜かれ、拡散され、
#肉盾になれ
#暴言暴鬼
#FxxK
#爆神ビッグエロ
といった単語がトレンドを駆け上り、猛烈なヘイトとなって爆神暴鬼のもとに戻ってきます。
爆神暴鬼チャンネルやSNSアカウントが炎上し、ヘイトコメントに飲み込まれていきます。
爆神暴鬼のスタイル、意図を理解した上での『プロレス』的なコメントもありましたが、何割かは本物の炎上コメント。
そこから来るストレスをバッドステータスとし、クラス『天邪鬼』で反転させた爆神暴鬼は―。
「爆神・ファイアストーム」
巨大な竜巻のような黒い炎を、自身の周囲を取り巻く形で巻き起こしました。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/来たか
Ꮚ・ω・Ꮚメー/爆神大炎上祭
Ꮚ・ω・Ꮚメー/今日の火祭りの会場はこちらかな
Ꮚ・ω・Ꮚメー/自分のチャンネルとアカウントを生贄にして神になりおった
Ꮚ・ω・Ꮚメー/これぞ爆神ネキの真骨頂よ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/闇が深いのか単に東京の仕様がアホすぎるのか
Ꮚ・ω・Ꮚメー/とにかく来るぞ……。
黒い炎が虚空に吸い込まれるように消えて、現れたのは、サメデューサ戦のときと同様、長い黒髪に透き通った角を備えた爆神暴鬼。
今回は東京大迷宮全体を巻き込んだ大炎上をトリガーにしているためか、服装まで黒地に炎をあしらった、清楚ですが雅やかな振り袖風衣装に変化しています。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/爆・神・降・臨
Ꮚ・ω・Ꮚメー/ふつくしい
Ꮚ・ω・Ꮚメー/これがさっきまでビッグエロ吐いとった女である
Ꮚ・ω・Ꮚメー/ボンクラネット文化の申し子よ
珊瑚の壁を腐食しながら前進していたアクアヘーラーが、なにかを悟ったように動きを止めました。
そこから放ったのは呪詛、毒、混乱、重忘却、盲目、麻痺、耳鳴と言った状態異常を一気に引き起こす、悪意の波動。
一点に収束し、三枚の珊瑚の壁を透過して撃ち込まれた波動を浴びた爆神暴鬼は、それをそのまま反転、受容して、音もなく地面を蹴りました。
その瞬間、アクアヘーラーの胸元が艦砲射撃の直撃でも浴びたように凹み、百メートルを超す巨体が五百メートル近く吹き飛んで着水しました。
それから一瞬遅れて、爆神とアクアヘーラーを隔てていた三枚の珊瑚の壁が、力尽きるように崩れ落ちました。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/……え?
Ꮚ・ω・Ꮚメー/見えた?
Ꮚ・ω・Ꮚメー/見えないが、たぶん、壁を三枚蹴り抜いて突っ込んで自撮り杖で殴り飛ばして……
Ꮚ・ω・Ꮚメー/反動で残った壁の上に戻った
Ꮚ・ω・Ꮚメー/スーパー野菜人かよ……
Ꮚ・ω・Ꮚメー/デバフが乗れば乗るほど、ストレスがかかればかかるほど強くなるんだ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/大炎上してトレンド上位独占してアクアなんとかの豪華デバフ盛り合わせなんか食らったからな……
Ꮚ・ω・Ꮚメー/今この瞬間だけなら普通に最強候補なのである




