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第112話 ケーラー(三人称視点あり)

【三人称・『彼女』視点】

 歌い、眷属モンスターを生み出し、群がる冒険者たちを葬りながらクレタ風ラビリンスへ接近していく牧島国母(アクアヘーラー)。戦闘力は圧倒的、デザインも不気味、潜広の乗員たちから変化した翼風肉塊コーラス団の歌声も不気味でおぞましい。

 一見すると猛威を振るっているように見えたが牧島国母(アクアヘーラー)は、この戦いの中心にはなれなかった。主人公はもちろん、ホラー映画の殺人鬼や、呪いのような、物語の中核を成す存在にさえも。

 迷宮王アデスを崇めるカルト思想の信奉者だった牧島国母(アクアヘーラー)はそのアデスそのものに思想を拒絶された。せめて冒険者たちの恐怖や怒りを一身に集める存在となることができればいくらかの面目は立ったかもしれないが、そういうことにもならなかった。

 今の冒険者たちの注目の的となっているのは、戦力調整、あるいは賑やかしに前線に投入された青銅孔雀ステュムパーロスたちである。


「うおおおおおッ!」

「逃げんなこらーっ!」

「食わせろおーっ!」


 当初はその物量、水上という環境も生かして暴れまわっていた魔鳥たちは、ソル・ハドソンの扇動によって集められ、群馬ダークらが組み上げた足場から押し寄せてきたエンジョイ系、ビジネス系冒険者たちに蹂躙され、追い回され、逃げ散らされていく。

 邪神めいた姿で前進を続ける牧島国母アクアヘーラーをそっちのけにして。

 さすがに腹に据えかねたということか、牧島国母アクアヘーラーは熱線を放ち青銅孔雀ステュムパーロスもろとも冒険者たちを焼き払う。


「うわっ!」

「くそ、肉も仲間ももってかれた!」

「許せねぇぞアクアヘーラー!」


 ――ヘイトは買えたようだけれど。あれでいいの?


 あの様子だと八割は『食い物の恨み』だろう。

 バザールで買ったステュムパーロスのボンジリ串を食いちぎりつつ、空中に浮かべたハンマー杖の上で戦況を見守っていた『彼女』は同じく杖の上でステュムパーロス肉をくわえた灰色の猫に問いかける。


「こんなのでいいの?」


 にゃ(こんなものだろう。精神の熱の出し方は冒険者の勝手だ)


「勝手というより大分小麦粉が脳に回っている気がしない?」


 そうツッコミを入れてみたが、灰色の猫はどこ吹く風を決め込んだ。

 ソル・ハドソンの飯テロ扇動配信のお陰で牧島国母アクアーヘーラーとの大規模レイド戦というよりはステュムパーロス大狩猟大会の様相を呈してきたが、それでもNJM関係の冒険者などは真面目に牧島国母アクアヘーラーやその眷属たちとの戦いを展開している。

 シュバリエ、三帝重工を中心とする薬師院連合、群馬ダークとその従魔であるマンドラゴラ軍団、同じく群馬ダークの武装フォロワー集団オフライン弁慶団あたりもここまでの因縁もあってか「ガチめ」に戦闘を展開。


「うおおおおおっ! 処断ーーーッ!」


 ブラックドラゴンのバサクロに拾われたNJMの総監、今西大道がレールだけを水上に展開。その上を天潮鉄路の装甲列車が駆け抜け、巨大な鉄拳のようにアクアヘーラーの顔面に直撃させる。

 そこに呼応したガチ勢(・・・)の冒険者たちが火力を集中させ、魔法や砲撃、咆哮、ブレスなどを浴びせていく。


「真面目に相手してもらえてよかったわね」


 皮肉っぽく呟いた『彼女』の視界の中で、牧島国母アクアヘーラーは歌うような、叫ぶような声をあげて加速を開始する。

 目指すのはクレタ風ラビリンス中心部、おそらくはソル・ハドソン。

 牧島国母アクアヘーラーが望み、得られなかったアデスの寵愛を受けた人間。

 実際に寵愛しているのはアデスよりもカルキノスとヒュドーラの蟹蛇コンビ、というところはあるが『東京大迷宮に愛されている』のは間違いないところだろう。

 モンスター名の由来であるヘーラー女神の如く、嫉妬の炎を燃やして前進し、群馬ダークらが展開した珊瑚の壁をなぎ倒していく。


 アアアアアアアアアッ!


 さらには喉を裂くような高音とともに口腔から衝撃波の槍を放ち、クレタ風ラビリンスの中央まで壁を貫通、そこに立つ作業塔を撃ちくだいた。

 

「すごい破壊力だけど、ブラックアウトさせてもあんまり意味ないわよね?」


 にゃ(東京圏外に引きずり出せばブラックアウトルールを回避できる)


「自分の体も自壊して死ぬんじゃないの? それ」


 にゃあ(そのくらいの覚悟はあるだろう。実現性はともかくとして)


 前進を続ける牧島国母アクアヘーラー、三帝重工の紙燭円山、生産村の元村長華菱瞳子、背脂研究所のアークシャークとグレーターグリフォン、アクアタルタロスのアクアケルベロスなども参戦、猛撃を浴びせていく。

 そして最後の一撃を担ったのは、ある意味でNJMとの因縁深い群体モンスター、山岳マンドラゴラたちだった。

 牧島国母アクアヘーラーの進撃に対応し、群馬ダークが作った四角い部屋の壁に陣取ったマンドラゴラたちが一斉に声を張り上げ、


 ゴォォォォォーーーッ!

 ゴォォォォォーーーッ!

 ゲェェェェェーーーッ!

 ゲェェェェェーーーッ!

 ニャアアアアアアアアアーーーーッ!


 全方位から音響衝撃波を収束させ、叩き込んだ。

 余波で周囲の飛行モンスター、水中モンスターまで巻き込んだ攻撃は、ダメージが累積していた牧島国母(アクアヘーラー)の目や鼻、耳から血を吹き出させ、断末魔のような形相で沈黙させた。


「……あの攻撃で倒せていいの?」


 とどめがマンドラゴラの絶叫というのはさすがにシュールすぎるのではないだろうか。


 にゃー(さすがにまだ終わらんよ。あと一段階ある)


【一人称・ソル・ハドソン視点】


 ゴッゴゲ……?


 Ꮚ・ω・Ꮚメー/やったか?


「さすがにやってはおらんと思うからみんな下がらせて」


 Ꮚ・ω・Ꮚメー/だよなぁ


 メェ (総員後退!)

 メエェ(まだ動く可能性が高い!)

 メメェ(すみやかに退避しろ!)


「オフライン弁慶後退! 逃げ遅れたマンドラゴラがいないか気をつけろ!」


 ゴゲー!

 ゴゴゲー!


 マンドラゴラたちの移動を支援していたオフライン弁慶たちと一緒に、または運ばれて、マンドラゴラたちが後退を開始。

 珊瑚の壁に囲まれ、溺死体のように浮いていたアクアヘーラーが最終形態への移行を開始します。


 Ꮚ・ω・Ꮚメー/お次はなんだ

 Ꮚ・ω・Ꮚメー/最初の形態名は乙女でパイス

 Ꮚ・ω・Ꮚメー/次の形態名は妻、成人のテレイアー

 Ꮚ・ω・Ꮚメー/最後は寡婦のケーラーだろう

 Ꮚ・ω・Ꮚメー/段々と世代が上がっていくのか

 Ꮚ・ω・Ꮚメー/つまり次はBBA

 Ꮚ・ω・Ꮚメー/ババア言うな


 コメントの通り、最終形態の名前はケーラー、寡婦となるようです。

 女性の体が干からび、しおれ、ひび割れた仮面のような顔、体よりも長い灰色の髪、ぼろぼろの喪服のような衣装と、黄色い焔をまとった巨人となって、水面上に立ちあがります。女神ヘラがどうこう、というレベルではなく、老婆の姿をした呪詛そのもの、といったたたずまいに見えました。


 Ꮚ・ω・Ꮚメー/まるでアンデッド、だが……

 Ꮚ・ω・Ꮚメー/ぎりぎり違う?

 Ꮚ・ω・Ꮚメー/東京大迷宮ではアンデッドは出さないはず

 Ꮚ・ω・Ꮚメー/灰色の巨大わかめBBA?


 東京圏外にいるアンデッドとの混乱を避けるため、旧時代のファンタジーにいたスケルトンやヴァンパイアといったアンデッドモンスターは実装しない、というのが東京大迷宮の方針だそうです。

 なので今回も「骸骨めいた輪郭の巨大な老婆」となっているようです。


 Ꮚ・ω・Ꮚメー/オーラがやべぇ

 Ꮚ・ω・Ꮚメー/呪われそう

 Ꮚ・ω・Ꮚメー/呪われそう……って、呪われたわ

 Ꮚ・ω・Ꮚメー/なに?

 Ꮚ・ω・Ꮚメー/周囲に瘴気的なサムシングを撒き散らしてる

 Ꮚ・ω・Ꮚメー/触れると呪いとか不運とかのバッドステータスをぼこぼこ食らう

 Ꮚ・ω・Ꮚメー/厄介だな

 Ꮚ・ω・Ꮚメー/厄介だが……これは……

 Ꮚ・ω・Ꮚメー/出番が来たのか?


 バッドステータスを周囲に撒き散らす特性。

 ちょうどいいことに、対応できそうな人が近くに居ます。

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― 新着の感想 ―
最終形態への対抗がよりにもよって爆神というのが、思想・世界観の対立として最高の構図。しかも基本小麦粉も抜き。 「ふざけた冒険者どもの中でもこんな奴にやられるなんて…ビクンビクン」 とかなるのかどうか…
爆神ちゃーんす!
大活躍する爆神に愛の手を!
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