第108話 毒と共に去りぬ
鞍居夜半が蹴り出したスライム凝固弾が着弾。
アルペイオスの巨体を再び硬質化させて行きます。
天潮鉄路の列車砲、バサクロの顎、佐々木ユキウサギの大剣が攻撃体勢に入り、アクアヘーラーが再び高らかに声をあげます。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/いつのまにかアヴェマリアっぽい曲になっとる
Ꮚ・ω・Ꮚメー/よく聞くとアヴェ・アデスだがな
Ꮚ・ω・Ꮚメー/アクアヘーラー様のアデス様強火勢リサイタル
Ꮚ・ω・Ꮚメー/同担拒否してそう
Ꮚ・ω・Ꮚメー/でけぇヤンデレだぜ
再びアルペイオスの状態異常を解除しようとするアクアヘーラー。そこに仕掛けていくのはアトラス・ロボの頭部ユニット、ライオメットに搭乗するシャケ頭の怪人プロフェッサー新巻です。
「タイダルサーモン!」
得意魔法である鮭魔法を発動。
シャケーッ!
ドドドドドド!
虚空から現れた脂の乗ったシャケたちが、滝のように海へと流れ込んでいきます。
そのまま水中のサメたちと混じり合い、あるいは獲物として追い回されながら突進、アクアヘーラーの海蛇魚雷とぶつかりあって、無数の水柱を立ててゆきます。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/また盤面がめちゃくちゃになりよった
シャケとサメ、海蛇で水面下は大混乱。
もちろん考えなしではなく、陽動作戦です。
深度を取った巨大蠍、スパインスコーピオンが混乱に乗じて前進。真下からアクアヘーラーに忍び寄ります。
「食らいやがれですわーっ!
自慢の尻尾の毒針を繰り出してアクアヘーラーの顔面を貫き、更にはその体を水中へと引き込みました。
「死にやがりましーっ!」
尻尾の毒針に込めてあったのは、アトラス・チームの宿敵メガサメラドンからドロップした必殺の毒『サメラトキシン』だそうです。
アアアアアアアァァァァァァッ!
コミカルな名前とは裏腹に絶大な威力。
アクアヘーラーは口や目、耳から血を流し、痙攣し、絶叫します。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/なにこれこわい
Ꮚ・ω・Ꮚメー/急にガチ目の毒演出ぶちこんでくるな
Ꮚ・ω・Ꮚメー/やったか
そんなコメントが流れた刹那。
ぐしゃり。
絶叫と共に動いたアクアヘーラーの尻尾が、報復のように動き、スパインスコーピオンの頭を叩き潰しました。
ちょうどコクピットのある場所になります。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/あっ……。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/いかん
Ꮚ・ω・Ꮚメー/これは……。
「やってくれましたわね……」
空気が凍りつく中、毒巻デスロールの声が響きます。
コクピットごと潰されて圧死、という事態は運よく免れたようですが、ダメージは甚大、スパインスコーピオンの機体は煙と火花をあげています。
「ですが! これで済むとは思わないことですわーっ! しなばもろともですわーっ! ポチッとなですわーっ!」
本当にポチ、と音がしたかと思うと。
チュドゥゥゥゥーン!
スパインスコーピオンが大爆発、閃光とドクロ型の爆炎の中にアクアヘーラーを巻き込んで消えて行きました。
Ꮚ・ω・Ꮚメー(自爆スイッチかぁ……)
「……ダバイン脅威のめかにずむ?」
爆神暴鬼がダバイン貴富に疑いと恐怖の目を向けました。
「頼まれてないものに自爆ボタンは積んでないから、大丈夫」
スパインスコーピオンには頼まれて自爆装置を積んでいたようです。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/無茶しやがって
Ꮚ・ω・Ꮚメー/しかしこういう攻撃で倒せた事例は古事記にはないが
Ꮚ・ω・Ꮚメー/一応スタンはさせたか?
爆煙の中に立ち尽くすアクアヘーラー。決定打にはなりませんでしたが、ショック状態ではあるようです。メガサメラドンの毒の効果か、例の歌も止まっています。
その間にアルペイオスの体が完全硬化。
「攻撃! 攻撃! 攻撃ィ!」
「毒巻嬢の犠牲を無駄にするなぁぁぁぁぁっ!」
「処断! 処断ッ! 処断ンンンッ!」
「こら! 処断は私のセリフだ!」
「突っ込め今西ァァァァッ!」
「ウワアァァァァァーーッ!」
ペストマスクの東毒研の冒険者たちが、悲憤慷慨の声とともにロケットランチャーなどを取り出し、硬化したアルペイオスへの最終攻撃を開始します。
今西大道は悲鳴を上げています。
「こちらも合わせる」
「「砲撃続行」」
天潮鉄路の列車砲、バサクロのブレスも同時発射され、アルペイオスの体を破砕して行きます。
バーネットもバイデントによる砲撃を継続していますが、アルペイオスというより射線を塞いでいる青銅孔雀の排除が主体になります。
最後の一撃を加えたのは、大剣グロスメッサーを携え加速した機械化冒険者佐々木ユキウサギ。
巨大な徹甲弾のように飛翔してアルペイオスの中心に突き刺さり、粉微塵に打ち砕いて貫通。そのバイタルを削り切って行きました。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/やったか
Ꮚ・ω・Ꮚメー/やったな
レイドモンスター『アルペイオス』が撃破されました。
とのメッセージが表示され、『アルペイオス』の巨体が粒子化して行きます。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/やったで
Ꮚ・ω・Ꮚメー/やったど
Ꮚ・ω・Ꮚメー/祝、アルペイオス撃破
やや空気が弛緩する中。
「ウワーッ!」
今西大道の悲鳴とともに、ヒレのついた巨大なウミウシを思わせる姿に変わった二匹目の巨大スライム、ペーネイオスの体当たりを受け、装甲列車ごと飲み込まれて粉砕されて行きました。
「ギャーッ!」
悲鳴をあげて吹き飛んだ今西大道ですが、カバーに動いたバサクロに尻尾で足首をくるりと巻かれ、逆さ吊りの格好で救助されます。
「ここまでか!」
「無念!」
「あとは任せるぞ若者たち!」
「愛あるところ必ず毒あり!」
「ノーポイズン! ノーラブズ!」
東毒研の面々は装甲列車ごとペーネイオスに飲み込まれ、ブラックアウトしていきます。
悲惨な最後のはずなのですが、言い残す言葉のクセが強すぎて感情の行き場に困ってしまいます。
鞍居夜半は水上に逃れたところをプロフェッサー新巻、飛んできた佐々木ユキウサギが救助しました。
今西大道の装甲列車と東毒研を餌食にしたペーネイオスは、四枚のヒレと尻尾を伸ばして空中に浮かびあがります。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/どっかで見た気がする
Ꮚ・ω・Ꮚメー/アオミノウミウシ風
Ꮚ・ω・Ꮚメー/かわいいやつ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/体長二〇〇メートルの空飛ぶアオミノウミウシはただのホラーでは
チャット欄によるとアオミノウミウシ形態ということになるようです。
見た目は変化していますが、攻撃の効きにくさは兄弟分のアルペイオスと同等のようです。
バイデントやブレス、列車砲の攻撃も効きづらく、更にはヒレのあちこちから生やしたトゲからレーザー風の熱線を撒き散らして来ます。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/こっちが本番か
Ꮚ・ω・Ꮚメー/厄介やで
Ꮚ・ω・Ꮚメー/そろそろアクアヘーラーの再起動が怖い
これに対して打って出たのは、マカロンを嚥下して眼鏡に(ΦωΦ)の顔文字を浮かべた黒縁セルロイドです。
「あそこなら焼き尽くせると思う。援護をお願い」
バーネットの屋根の上、はさすがにバイデントがうるさいので直掩モンスターとして近くで戦っていたアクアケルベロスの上に移った黒縁セルロイドは、光源魔法『天照』を九つ同時に発動し、本物を含めて一〇個もの太陽を展開します。
「メガネパラヘリオン」
Ꮚ・ω・Ꮚメー/腹減り?
Ꮚ・ω・Ꮚメー/パラヘリオン、幻日だったかな
Ꮚ・ω・Ꮚメー/太陽が複数に見える現象だけど
Ꮚ・ω・Ꮚメー/メガネは関係ねえだろう
そんな指摘にはどこ吹く風でメガネをミラーシェードに交換して九つの太陽を一斉投射します。
周囲の青銅孔雀達を蒸発させながらペーネイオスに迫った小太陽たちは核爆発を思わせる閃光と衝撃波を放ち炸裂、空飛ぶ巨大ウミウシを跡形なく焼き尽くしました。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/なんというまばゆさ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/これが叡智の光
Ꮚ・ω・Ꮚメー/メガネの輝きだというのか
Ꮚ・ω・Ꮚメー/イエスメガネ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/グッドメガネ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/メガネエイメン
少し様子のおかしいコメントも流れてゆく中、ペーネイオスの撃破メッセージが表示されました。




