第107話 処断の時間だ
Ꮚ・ω・Ꮚメー(おちけつ今西)
Ꮚ・ω・Ꮚメー(処断はよ、仕事でしょ)
Ꮚ・ω・Ꮚメー(S・D・N! S・D・N!)
私のチャンネルだけでなく、ダンジョンネット全体で#SDN、#処断王、#処断王()がトレンド上位に駆け上っていたそうです。
「そ、そうだ、処断だ! 毒婦討つべし! 我らNJM、否、近畿武装企業連合MIYACOとそれに連なる民草の名誉のため処断! 処断だ! 処断! 処断! 処断あるのみゃァァァァァッ!」
メェ(処断がアイデンティティなのか、あの男は)
メエェ(やってはいかんことをしていたという自覚は出てきた……のか?)
メメェ(どちらにしても最後に詰め腹を切る立場のはずだが)
今西大道の金切り声とともに、装甲列車は水上を猛進します。
それを迎え撃つのは青銅孔雀たち。巣を守るミツバチのように装甲列車に群がり、引き裂き、水中に叩き落とそうとしています。
『ギャアアアアアアッーーーーッ! 鳥がッ! 鳥どもがッ!』
「突如現れた今西大道の装甲列車! 早くも大ピンチか! 妙な親近感のある悲鳴をあげています!」
爆神暴鬼が実況をはじめます。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/いわれてみると
Ꮚ・ω・Ꮚメー/爆神ネキと属性が近い気が。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/悲鳴担当か
Ꮚ・ω・Ꮚメー/全く助からないがな
絶体絶命に思えた装甲列車ですが、その車内には鞍居夜半と、東毒研というクセのあるメンバーが乗り込んでいます。
『総員耐毒装備!』
『な、なにをするっ! もぐががぁっー!』
ペストマスクを思わせるヘルメットと防護服を纏った東毒研の冒険者たちが今西大道にもマスクをかぶせます。
『腐食加速剤噴射用意!』
バックパックタイプの薬剤噴霧器を携え、車窓からノズルを突き出したペストマスクたちが薬剤の散布を開始。
群がる青銅孔雀たちの体を腐食し、錆びつかせて引き剥がしてゆきます。飛行ユニットでやってきた佐々木ユキウサギの援護射撃もあって、装甲列車はなんとかピンチを脱しました。
青銅孔雀の爪や嘴、そして駆除に使われた薬剤の腐食効果でボロボロになりながらも、列車砲で巨大スライムの片割れアルペイオスを照準します。
水面に出ているのは約百メートル。
水面下を含めると推定二百メートルにも達する巨大な粘液塊は、その表面からクラゲやイソギンチャクのような触手を伸ばし、そこからウォーターカッターのような勢いで酸のシャワーを撒き散らします。
巨大スライムたちが作り出した酸の領域。
鉄道王のスキルで展開されるレールは数秒で腐食しはじめ、装甲列車の車体も侵食されていきます。今西大道が悲鳴をあげました。
『ギャッ! レールが! レールがあああっ!』
Ꮚ・ω・Ꮚメー/うるせぇけど頑張ってはいる
Ꮚ・ω・Ꮚメー/成長しているのか
Ꮚ・ω・Ꮚメー/伸びしろがあったのかあのおっさん
パニック気味ではありますが、ともかく列車砲の照準を定めた今西大道はスライム凝固弾の発射を命じます。
『処断発射! 違う! 初弾! 撃ーっ!』
ドゴゥン!
飛翔した弾体が、アルペイオスが描く水上の半円の頂点近くに突き刺さります。
大した痛痒を受けた様子もなく、津波のように前進しようとするアルペイオス。
その巨体が急激に白濁し、硬質なゴムのように固まりはじめます。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/……効いておる……
Ꮚ・ω・Ꮚメー/これは東毒研名誉返上やで
Ꮚ・ω・Ꮚメー/やりおるわ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/名誉返上したまま二階級特進しそうな雰囲気ではあるが
『よ、よし! 見事だ諸君! 次弾装填! 処断の一撃を見舞うのだ!』
Ꮚ・ω・Ꮚメー/初弾と処断が入り混じって混乱する
Ꮚ・ω・Ꮚメー/S・D・N! S・D・N!
Ꮚ・ω・Ꮚメー/ぶちこめー!
チャット欄が妙な盛り上がりを見せ、鞍居夜半のアナウンスが再び響きます。
『NJM町田支部、鞍居夜半から各位。アルペイオスへのスライム凝固弾の投与に成功。効果を確認、アルペイオスに火力の集中を』
『こちら横須賀海上冒険者団。要請了解した』
『イエスメガネ』
横須賀海上冒険者団の艦砲、黒縁セルロイドの光学魔法、バサクロのブレスが硬化したアルペイオスを狙います。
『処断っ……!』
処断の号令を放とうとする今西大道ですが、そう簡単に攻略できる相手ではなかったようです。
ステュムパーロスの鳥ごとグリフォン達を薙ぎはらっていたアクアヘーラーが、一際高い歌声を放ちます。
「……ぉをる……らゔず……えぐぜりぃん……!」
Ꮚ・ω・Ꮚメー/All loves excelling?
Ꮚ・ω・Ꮚメー/シンプルにキモい
Ꮚ・ω・Ꮚメー/すべての愛を凌駕する
Ꮚ・ω・Ꮚメー/凌駕すな
呪詛のように聞こえますが、愛を歌っているようです。
その声に呼応するように、硬質化したアルペイオスの巨体が震え、柔軟さと透明感を取り戻しはじめます。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/なにィ!
Ꮚ・ω・Ꮚメー/状態異常回復だと……
Ꮚ・ω・Ꮚメー/レイド級同士で連携しよった
Ꮚ・ω・Ꮚメー/これが、あいのちから
Ꮚ・ω・Ꮚメー/まぶしいぜ……
Ꮚ・ω・Ꮚメー/サラサラサラサラ……
Ꮚ・ω・Ꮚメー/あんなオドロ怪奇な愛で浄化されんな
Ꮚ・ω・Ꮚメー/小麦粉でもなめて気をしっかり持て
『撃てっ!』
状態異常の回復前に打撃を与えようと、横須賀海上冒険者団は艦砲射撃を決行しますが、一歩遅く、砲弾はアルペイオスの巨体に柔らかく受け止められ、腐食されてしまいました。
『ぐぬぅっ!』
バンバン!
Ꮚ・ω・Ꮚメー/台パンすな
ドンドン!
Ꮚ・ω・Ꮚメー/壁ドンもやめい
今西大道の怒りの呻きと、台パン、壁ドンの音が無線に入る中。
『ふっ』という芝居がかった吐息が聞こえました。
『世話のやける方々ですわね。毒盛らば皿までの毒道精神を忘れてはいけませんわよ。一度の毒で死ななければ、死ぬまで毒を盛る。それだけのこと。違いまして?』
メェ (毒盛らば皿まで)
メエェ(毒道精神)
メメェ(はじめて聞く概念だ)
毒巻デスロールの声ですが、所在はわかりません。
スパインスコーピオンと一緒に水面下に姿を隠しているようです。
『もちろん次の毒の準備はありますわね? アクアヘーラーの回復は私とスコーピオンちゃんで阻止いたします。殺るまでお殺りなさいませ』
《毒サーの姫》直々の激励をうけた《毒サー》東毒研のペストマスク冒険者たちは『おお!』『やるぞ!』『一の毒で足りぬなら百の毒を盛るまでのこと!』『殺す殺す殺す殺すぅっ!』と、物騒な気合の声をあげて動きだします。
『ま、待てっ! すまんがもう無理だ! 砲身が腐食している!』
今西大道の泣き言も聞こえてきましたが、
『ご心配なく』
『標的に薬液を投与できれば砲撃に拘る必要はありません』
東毒研の冒険者たちの戦意は旺盛です。
『まさかと思うが、おまえたち、特攻を考えてはいないだろうな……お、おい、返事をしろっ! なんとかいえ! おいぃっ!』
怯えた声をあげながらも意外なセンスの良さでボロボロの装甲列車を疾駆させて攻撃をかいくぐり、時間を作る今西大道。
その間に東毒研の冒険者たちが作り上げたのは、砲弾用のスライム凝固剤を詰め込んだサッカーボールでした。
ぼろぼろの装甲列車の側面を蹴破って攻撃用のスペースを作った鞍居夜半が再び無線を発信します。
『NJMより各位、スライム凝固剤による第二次攻撃を開始します』
その無線に合わせて佐々木ユキウサギ、六堂真尋、バサクロの町田組。そして天潮鉄路の装甲列車が集結。支援攻撃を開始します。
敵側も凝固剤攻撃は警戒しているようです。アルペイオス、ペネイオスへの射線を通すまいと青銅孔雀たちが密集し、壁をつくってゆきます。
そこにバサクロがブレスを放って消し飛ばし、さらには天潮鉄路の装甲列車が正面から突っ込んで青銅孔雀たちの壁を歪ませ、シュートのコースを作って行きます。
『仕掛けます!』
天潮鉄路の装甲列車の真下を撃ち抜くような格好で蹴り出されたボールが、砲弾のように飛び、ゆるくカーブをしながらアルペイオスへと突き刺さりました。




