第106話 ご予算300万PP
空のグリフォンたち、海のサメたちに続いてやってきたのは、強力な艦隊と揚陸部隊を擁する横須賀海上冒険者団です。
旧時代のイージス艦や、更に時代を遡った第二次大戦風の戦艦などからステュムパーロスの鳥たちに砲撃、魔法攻撃を仕掛けます。
超高速で突入し、水上を走り回っているのは、ケリュネイアの鹿を攻略した超電導走行団グランドダッシャーの水陸両用車両。
積極的な攻撃は行っていませんが、アクアヘーラーが放つ海蛇魚雷の気を引いてくれています。残された航跡を追いかけるように水柱が上がっていきます。
前線の冒険者たちに撃墜されたステュムパーロスの鳥はドロップアイテムとして食肉化され、バザールへ出品。
今度はブリガード・オブ・キュイジーヌ、東京メイドと御主人様連絡会などの料理、家政系冒険者たちが腕をふるって加工。
回復、支援用の補給物資として再びバザールに出品され、冒険者たちのお腹に収まって行きます。
アクアヘーラーはまだ私にターゲットを絞っているようです。味方であるはずのステュムパーロスの鳥ごと薙ぎ払う格好で熱線を放ちます。
水中にいると周囲の海水ごと煮沸されたり、水蒸気爆発で吹き飛ばされたりする危険があります。空中で回避を図ったアークシャークですが、熱線は長い照射時間で追いかけてきます。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/うおおおおお、よけるんじゃあぁぁぁーーーっ!
Ꮚ・ω・Ꮚメー/なんか歌っとらんかヘーラー
Ꮚ・ω・Ꮚメー/ヘーラーというか羽根っぽいのが合唱してる
Ꮚ・ω・Ꮚメー/オルガンっぽい音もしてる?
Ꮚ・ω・Ꮚメー/微妙に聞き覚えがあるようなないような
Ꮚ・ω・Ꮚメー/たぶん讃美歌
Ꮚ・ω・Ꮚメー/らぶでばいん、おーるらぶず、えくせりんぐ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/何故ひらがな
Ꮚ・ω・Ꮚメー/ダンジョンネット翻訳によると、神の愛、すべての愛を超えるもの
Ꮚ・ω・Ꮚメー/ところどころアデスって言ってるなこれ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/普通に怖いんじゃが
Ꮚ・ω・Ꮚメー/ギリシャ風味なのに讃美歌歌うな
Ꮚ・ω・Ꮚメー/ラスボスBGMで賛美歌風はよくある
Ꮚ・ω・Ꮚメー/日程的にはまだ前半のはずなんだがなぁ
男女混声コーラスのボルテージに同調するように、熱線の熱量と圧力が増して行き――空中に浮かび上がった天火明の反射鏡で拡散、乱反射させられ青銅孔雀たちに着弾。更にはアクアヘーラーのコーラス隊となっている翼を直撃します。
アアアアアアッ!
男声担当らしい右の翼を構成する男性型の肉塊たちが燃えあがり、絶叫します。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/SANチェックが必要だな……
Ꮚ・ω・Ꮚメー/熱線を跳ね返しおった
Ꮚ・ω・Ꮚメー/黒縁セルロイドか
コメント欄の言う通り、黒縁セルロイドが援護を入れ、熱線を跳ね返してくれたようです。
メェ (レディ!)
メエェ(無事か!)
メメェ(こちらへ!)
バーネットと一緒にやってきたバロメッツたちがこちらに飛んできました。
取り急ぎバーネットに飛び移ると、アクアケルベロスに救助されたダバイン貴富が待っていました。
ちょうど良いのでアクアケルベロスに貰った二連機関砲バイデントをダバイン貴富に預け、バーネットに接続してもらいます。
「「極めて異常なユニットが接続されました」」
「「いよいよもってシステムに深刻な影響が発生する懸念があります」」
「「それでも使用しますか? はい/いいえ」」
バーネットの不穏な警告に、爆神暴鬼が「……えぇ」と声をあげます。
ダバイン貴富は「ミームが混じってる?」と呟きつつ「はい」を選択します。
「自動砲撃でいい? 自動でPPが垂れ流しになるけど」
「何発くらい必要でしょうか」
「「ステュムパーロスの鳥の総数は約十万羽。単騎殲滅の場合、必要弾数は推定三十万発」」
「予算三百万PPで自動砲撃を。不足しそうなら教えてください」
敵はステュムパーロスの鳥だけではありませんが今回参戦しているのは私だけではありませんので、たぶん予算内で収まると思います。
「「命令受諾、排除開始」」
バーネットに接続されたバイデントが唸りをあげ、ステュムパーロスの鳥を粉砕し始めます。
バイデントの発射サイクルは一分間に四千射。二連装なので八千射になります。飛んでいくのは魔力の弾丸なので、響くのは回転砲身とモーターが放つ竜巻めいた風切り音です。
一秒で約一三三射。当たりどころが良ければ一発、微妙でも三発も当たれば確実に撃墜できるようです。
最初の五秒ほどで二百羽近くの怪鳥が消しとびました。
確かに「極めて異常」な殲滅力です。
さらに恐ろしい点は、PP消費を気にしなければ、発射サイクルと殲滅力を維持したまま、砲身の焼付きや弾切れを心配せず砲撃を続けられる点になります。
攻撃開始から一分で、キルカウントが二千羽を超えました。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/鳥の群がえぐれた
Ꮚ・ω・Ꮚメー/空間ごと持ってったみたいな勢いで恐ろしい
相手の数は約十万羽ですので五〇分攻撃を続けると殲滅できる計算ですが、ステュムパーロスの鳥たちもまずいと判断したようです、こちらに向かってこなくなってしまいました。
バイデントの火力だけでなく黒縁セルロイドの光学攻撃も行われていましたので、さすがにまずいと判断したようです。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/敬遠されてて草
Ꮚ・ω・Ꮚメー/そらそうよ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/暴力的で鬼のような極殺キッチンカー
Ꮚ・ω・Ꮚメー/誰だって逃げるオレだって逃げる
離脱したステュムパーロスの鳥たちの代わりに迫ってきたのは、アクアヘーラー本体と、水面からの高さ一〇〇メートルにも達する二匹の超巨大スライムでした。
メッセージに表示された名前はアルペイオスとペーネイオス。
あとで聞いた話によると、元々は多摩湖と奥多摩湖に配置されていた潜伏タイプのレイドボス。「このまま潜伏させておいても空気で終わってしまう」ということで急遽配置を移動させたものだったそうです。
超巨大スライムということで、バイデントの攻撃もあまり効果がありません。生きた津波のようなサイズ。普通に体当たりをされただけでもひとたまりもありません。空中の青銅孔雀を薙ぎ払いながら後退すると、NJM町田支部の中でひとりだけ姿の見えなかった鞍居夜半から通信が入りました。
『NJM町田支部、鞍居夜半から各位。東毒研と今西大道氏の協力でアルペイオス、ペーネイオスにスライム凝固剤を撃ち込みます。可能であれば援護をお願いします』
メェ (東毒研はさておき)
メエェ(今西大道?)
メメェ(どういうことだ?)
東京毒薬物研究会、略して東毒研。アトラス・チームのメンバーとして暴れまわっている毒巻デスロールが所属していた冒険者団です。
そちらはいいのですが、今西大道は天潮派の反乱で拘禁されていたNJMの指導者になります。
一体どうやって引っ張り出してきたのでしょう。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/今更今西大道だと
Ꮚ・ω・Ꮚメー/いまさらだいどう
Ꮚ・ω・Ꮚメー/まさかここから失地回復を図る気か
Ꮚ・ω・Ꮚメー/さすがに無理ゲーな気がするが……
Ꮚ・ω・Ꮚメー/まぁ今は俺らもなんもできんしな……
Ꮚ・ω・Ꮚメー/汚名挽回のチャンスをやろう
Ꮚ・ω・Ꮚメー/わざと言ってるのかその汚名挽回は
コメント欄もやや混乱する中。
水上にレールを展開しながら疾走する装甲列車が姿を現しました。
バーネットからは逃げ腰の青銅孔雀たちですが、装甲列車の接近を許すつもりはないようです。
耳障りな金属音を立てて群がり、装甲列車の動きを封じにかかります。
「装甲列車の支援を」
「「重点目標変更、攻撃継続」」
装甲列車には鞍居夜半も乗っているようですので放置はできません。咆哮をあげたバイデントが青銅孔雀を薙ぎ払います。
『ひ、ひっ! モンスターを! モンスターを轢きつぶしたぁっ!』
今西大道の悲鳴が無線に乗って飛んできました。
本当に今西大道を引っ張り出してきたようです。




