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第101話 激怒はしていない模様(三人称視点への切り替えあり)

「もう来やがったチョッキン」

「ずらかるシャーク!」

「これはイカんともしがたく」

「勝負はあずけるペリカン」

「決勝で待っていますわクィーン」


 わざとらしい捨て台詞を残し、カルキノスたちは姿を消してゆきます。ひとりでただ救出を待つのもヒマだろうということで護衛も兼ねて遊び相手をしていたようです。

 ともかく無事、六堂真尋の身柄を確保できましたので、スラコンに頼んで薬液リングを解除。試料として、血液サンプルを採取してもらった上で救世光を使ったバターロールでアンデッド因子感染症を消し去りました。


「なおった……?」


 困惑気味に呟く六堂真尋に、まだニャーサーカー状態のバサクロが飛びついて頬ずりをしました。

 象徴的な存在となる六堂真尋が最優先目標になっていましたが、アクアタルタロスに飲み込まれたランタン・ラボにはまだ複数の収容患者や研究職員が残っています。そちらについては紙燭円山を中心とする三帝重工冒険者団や、シュバリエなどの冒険者団が保護や拘束を行って行きます。

 またこの間、例の浦賀水道の潜水艦からはランタン・ラボに対する自爆命令や、職員による証拠隠滅の指示、収容患者に装着された薬液リングの作動命令などが送られていたそうです。

 カルキノスとヒュドーラが事前に防護措置を取ってくれていたため、全て不発に終わりましたが。

 急ぎの仕事はなくなってしまったので、これからどうしようかと考えているとアトラス・チームから連絡が入りました。


「浦賀水道でNJMの潜水艦を捕捉した。さっきのソナードローンのコントロールとか、そっちへの自爆コードの送信とかをしてたみたい。もう少しデータを取ったらつかまえようと思う」

「わかりました。良かったら座標を教えていただけますか」


 アクアケルベロス戦が平和的に終わったので、まだだいぶ体力が余っています。




【三人称・『彼女』視点】


「六堂真尋の薬液リング、解除されました!」


 東京湾。潜水艦・潜広広報室に、悲鳴のような声が響き渡る。


「やだ、なんであんな簡単に解除できちゃうのよ!」

「あれじゃアンデッド因子のキャリアがどんどん野放しになっちゃう!」

「やっぱりすぐ殺処分にしなきゃいけないんだよキャリアは」


 そんなざわめきも聞こえる中、爆神暴鬼、夢姫ぽるるの配信カメラの中の六堂真尋の体から『ともしび一号』が投与された血液サンプルが採取されていく。

 最後は問題の『救世光』を使って作られた、シュバリエ製のバターロールが供与され、少女の体内の『ともしび一号』が消し去られた。


「爆神・ライフセーバー! 救世の光が呪いの灯火を消し去りました!」


 いよいよ忍耐力の限界を迎えたらしい爆神暴鬼がバターロールをかじって叫ぶ。


「ふざけんな! そんなもんでアンデッド因子感染症が治ってたまるかっ! リアリティがねぇんだよクソがっ!」


 そんな叫び声をあげたのは、室長の田口映一である。振り上げられたノートパソコンが力任せにデスクに叩きつけられ、破裂音が響く。

 陽気で気さくなムードメーカータイプで通っていた田口映一の激昂、狂乱ぶりに、ざわめいていた職員たちも静まった。


「フェイクだフェイク! あんなのフェイクっ! ほら皆! 仕事に戻って! 火消しをするんだよ! 全部フェイク! 近畿を狙ってる三帝とシュバリエの謀略の線でダンジョンネットとインターネットでトレンドを取れ! BS221Bと爆神、夢姫チャンネルも落とせ! はやくっ! はやくしろよっ! はーやーくーっ!」


 そのあたりについては既に実行済みである。

 しかし、BS221Bや爆神暴鬼、夢姫ぽるる、群馬ダークの配信チャンネルに関しては運営レベルでのプロテクトがかかっており、歯が立たない状況だった。

 田口映一もそれはわかった上で無茶振りをしている。

 破局の足音に怯え、当たり散らしているだけである。


「ダンジョンネット工作員の反応ありません!」

「東京大迷宮運営から『他者からの利益供与を受け誹謗中傷を行っていたアカウントを凍結した』と発表が!」

「インターネット経由の工作も把握されているようです。工作用アカウントも凍結していきます」


 六堂真尋の救出に合わせ、運営サイドも本格的に『潰し』にかかったようだ。


「なんだそりゃああああああっ! どうしてだよ! どうしてウチだけそんなにやられなきゃなんねぇんだよ! どこでもやってんだろこんぐらいっ!」


 にゃ(いや、さすがにおまえたちのはレベルが違う)


 冷めた表情で仕事をしているフリをする『彼女』の足もとで、灰色の猫が小さく鳴いた。

 どうにも度し難い空気の中、艦内放送が響いた。

 凛とした、それでいて優しげな響きの女性の声。

 NJM医療・広報部長の牧島国母。

 意思決定機関である評議会も含め、だいたい邪悪というより無能で説明のついてしまう部分の多いNJM、MIYACOという組織の中で唯一、はっきりとした悪意、または狂気を持って行動していると感じられる人物。

 

『潜広の全乗組員に通達します。MIYACO評議会・元老院が、現戦略の中止および撤退指示を発令しました。これより当艦は神戸へと帰還いたします』


「……撤退?」

「よかったああああああ!」

「あたりまえじゃん。パパたちは私達を放っとくわけないし」

「でもいっぺん東京知っちゃうと、もう地元とか帰りたくないよねー」


 再びキラキラした声をあげはじめる職員たち。

 一方、撤退、帰還後の厳しい責任追求に思い至った田口映一は血の上った顔を今度は真っ白にして立ち尽くしていた。

 悲喜こもごもではあるが、どちらにしても潜水艦の中とは思えない空気の中、ドアが開き、牧島国母が姿を現した。

 威圧感を撒き散らすタイプではないが、圧倒的な存在感に広報室が静まっていく。


「皆さんお疲れ様です。先ほどもご案内した通り、評議会から撤退命令が届きました。本艦はこれより神戸港へと帰港いたします。入港予定は約四十時間後です」


 穏やかに微笑みながら、牧島国母はそう告げた。


「帰港後は皆様のご実家までお送りしますので、一旦英気を養ってください。短い間でしたが、皆さんと一緒に仕事ができたことを光栄に思います」

「そんな、国母様!」

「とんでもありません!」

「私達こそっ!」


 何故か泣き出し始める職員たち。


 ――ネットの炎上工作とかやってる職場で出していい雰囲気じゃなくない?


 顔には出さずに引く『彼女』。

 そんな中、一切の空気を引き裂く勢いで、癖のある高笑いが響いた。


「おーほっほっほっほっ! そこの潜水艦、お待ちなさいませーっ!」


 ――うわ……。


 にゃ(グラン・アトラスか)


 灰色の猫が勝手にダンジョンネットを検索し、ウィンドウを開く。

 東京大迷宮の毒薬令嬢こと毒巻デスロールの取り巻きである東京毒物研究会、通常東毒研の配信チャンネル。

 六体のアトラス・ロボの一体であるスパインスコーピオンに搭載されたカメラの映像が公開されている。

 捉えているのは、水中を進む潜広の姿。

 そしてそれを取り巻くように展開するアトラス・ロボたちの姿だった。


「僕たちはアトラス・チーム」

「我々には正義が分からぬ」

「我々はただの趣味人である」

「毒を撒き、シャケと遊んで暮らしてきた」

「けれど祭りに対しては」

「人一倍に敏感でしてよ!」


『走れメロス』のアレンジらしいアトラス・チーム六人の口上と共に、六体のアトラス・ロボが合体。

 三百メートルの超巨大ロボ、トキシンアトラス(正式名称グラン・アトラス)がその威容を現した。

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― 新着の感想 ―
爆神さんや君は頑張ったよ。 これが終わったら沢山のご褒美をソル嬢から貰いなさい。 祭りだー祭りだーワッショイワッショイ!! 皆急げー!
爆神さん、ようやっとバターロールとはいえ、ソルさん製のパンを食べられたのね。皆が食べる中、食べずに耐え続けたその精神力には素晴らしいと思う。称賛されて良い。 そしてグラン・トキシン・アトラスが行く手を…
シャケと遊んできたのはお前さんだけや!
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