第100話 押し切る
サメの頭とグリフォンの頭は目の中に星を浮かべ、ニャーンと声をあげていますが、真ん中の猟犬の頭、尻尾の蛇はまだ厳しい目をこちらに向けています。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/まだ戦えるのか
Ꮚ・ω・Ꮚメー/まだ食えるというべきか
Ꮚ・ω・Ꮚメー/なんてバケモンだよ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/まともに戦うとえれぇことになりそうだ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/バフもやべぇことになってそうだしな
ここまで来たら中途半端に戦闘に転じても仕方がないでしょう。
このまま押し切ることにします。
三つ目のメニューはシフォンケーキ。
はちみつをベースにアルコールを飛ばしたアップルブランデー、レスプリ・ダヴァロンを加えたケルベロス用のソースを注ぎ、レモンピールを振って、バロメッツたちに預けます。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/きらきらふわふわ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/きんいろのおほしさまがみえゆ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/しあわせのふわふわ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/いかん
Ꮚ・ω・Ꮚメー/これ以上は
Ꮚ・ω・Ꮚメー/視聴者の脳が保たない
Ꮚ・ω・Ꮚメー/今度こそ落ちてくれ……!
ガラガラメー(さて、これで三点目だ)
ゴロゴロメー(天衣無縫たる蜂蜜シフォンケーキ)
スイスイメー(生地に染みた芳醇なる香気と甘さが舌から脳髄へと染み渡る逸品)
三台の台車に乗った三つのシフォンケーキが三つの首の前に届けられます。
さらに四つめのシフォンケーキに食いついたバロメッツたちが食レポを始めます。
モグモグメー(空気と熱が生み出す糖蜜の綿毛のごとき軽やかさと柔らかさ)
アマアマメー(しかしながら胃の腑にもたらす確かな充実と至福感は、アヴァロン・アップルの風味が齎す地上の奇跡か)
シュワシュワメー(極上のシャンパンが弾け、滑るような舌触り!)
最後に四分の一サイズのシフォンケーキが尻尾の蛇のもとに届けられます。
ヘビニャァァァァァァン☆
目の奥に星を浮かべ、尻尾が陥落して行きました。
「はぁ、はぁ、ジュル……さ、三枚目を撃墜ですっ!」
ひどい飯テロを受けている状況ながら、なんとか正気を保ち踏みとどまる爆神暴鬼がアナウンスします。
既にサメ、グリフォンの頭は陥落しています。
サメニャー☆
グリニャー☆
ケルルルルル……ウォォォォン……ッ!
地獄の番犬としてのプライドを守るかのように抵抗し、首を振り回す中央の犬頭を押し切るように前進。
二つのシフォンケーキに食いついてゆきます。
サメメメメメメメメメメニャアーッ!
グリグリグリグリグリニャアーッ!
Ꮚ・ω・Ꮚメー/大勢は決したが
Ꮚ・ω・Ꮚメー/まだ抵抗するかイッヌヘッド
Ꮚ・ω・Ꮚメー/まじめでえらい
Ꮚ・ω・Ꮚメー/サメグリヘッズももうちょっとがんばってもよかったぞ
「食べたら負け」くらいの認識なのか、後に残った猟犬の頭はよだれを垂らしながらもシフォンケーキから視線を外そうとしますが、自分たちの割り当てを食べ終えたサメ頭とグリフォン頭が最後のシフォンケーキに近づいていたところで忍耐の最後の糸が切れたようです。
ケルゥッ!
と声をあげ、シフォンケーキに食いついていました。
爛々と輝いていた瞳の奥に星型の光が浮かばせた猟犬頭はシフォンケーキを一気に平らげると、蛇の尻尾をヘビビビビニャー
と振りながら、
ケルニャアアアアアアアーーーンッ!
と、遠吠えのような声をあげました。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/完・全・制・覇!
Ꮚ・ω・Ꮚメー/完落ちである
Ꮚ・ω・Ꮚメー/これで何事もなかったように襲って来たらある意味伝説だが
三つの頭と蛇頭の尻尾がニャー状態になったところで、完全攻略と判定されたようです。
ウィンドウが開き、メッセージが表示されました。
アクアケルベロスの懐柔に成功しました。
ダンジョン・アクアタルタロスが攻略されました。
サメニャー☆
ケルニャー☆
グリニャー☆
ヘビニャー☆
Ꮚ・ω・Ꮚメー/これはひどい
Ꮚ・ω・Ꮚメー/ネコベロスのへそ天である
Ꮚ・ω・Ꮚメー/後ろ足がタコ足なのが上級者向けだな
お腹を見せたアクアケルベロスが恭順の姿勢を示すと、その眼の前に巨大な機械の塊がドロップしました。
全長でいうと約五メートル。
七本の回転砲身が左右に二本ならんだ、いわゆるガトリング砲のようです。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/おいまて
Ꮚ・ω・Ꮚメー/なんだこれ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/飛んでるドラゴンとか撃ち落とすやつか
Ꮚ・ω・Ꮚメー/戦車とか大型アンデッドとかにも効きそう
Ꮚ・ω・Ꮚメー/装甲車とか戦闘機とかに積むやつ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/一体こんなもんどう使えって……ああ……
Ꮚ・ω・Ꮚメー/キッチンカーに乗せられるのか、これ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/アトラスロボあたりに積むには、ちょっと小さいか
Ꮚ・ω・Ꮚメー/小麦粉で殴った挙げ句ガトリング砲で撃ってくるキッチンカー
Ꮚ・ω・Ꮚメー/あもりにも危険過ぐる
Ꮚ・ω・Ꮚメー/あまりにもイレギュラー
スラコンに調べて貰った所、
水平二連葬送機関砲バイデント(六文型)
~死ぬが良い~
レアリティ:エピック
品質:最高
属性:射撃
備考:この武器で攻撃を行うと一射につき6PPを消費する
この武器の発射サイクルは1分間に4000射(×2門)である
アンデッド特効(極大)
搭載専用
譲渡、売却不可
というデータが出てきました。
バイデントはギリシャ神話の冥府の神であり、タルタロスの主人であるハーデスが持つ二股の槍。六文というのはいわゆる三途の川の渡し賃のことだそうです。
メェ (六文型)
メエェ(急に日本風になったな)
メメェ(ギリシャ風だと1オボロスになって安すぎるからか)
ギリシャ神話だと冥府の川はステュクスといって、渡し賃は1オボロス。
一射1PPにするとややコストが低すぎるということで、6倍になる日本の六文銭が採用されたようです。
一分撃ち続けるとおよそ48000PPが吹き飛ぶ武器になりますが、同じ量の弾丸を普通に買って撃つよりは低コストになります。
運用するにはバーネットあたりに積み込まないといけないので、すぐに使える武器ではありません。
取り急ぎアイテムボックスに収容すると、前方の神殿が光を放ち、大きな門が開け放たれます。
ちょうどそのあたりで、佐々木ユキウサギ、鞍居夜半の二人を乗せたバサクロが自由落下のような勢いで降りて来て、ニャギャっと声をあげて着地します。
「もう終わっちゃいました?」
そう呟く鞍居夜半に「いえ」と首を横に振りました。
「ちょうどここからです」
一応のボスは攻略しましたが、最大の目的となる六堂真尋の救出はここから。薬液リングの解除やアンデッド因子感染症の治療は別にして、もともとの人間関係や信頼関係を考えるとここは佐々木ユキウサギと鞍居夜半に先に行ってもらったほうがいいでしょう。
一番初めに行きたかったらしいブラックドラゴンのバサクロはサイズ的に神殿に入れずフゥゥゥゥーーーッ、と猫のような怒りの声をあげていました。
佐々木ユキウサギ、鞍居夜半の二人を先行させて神殿内に突入します。
とらわれのお姫様ポジションの六堂真尋は神殿の奥の方に設置されたベッドの上で、十二迷宮主の一角である巨蟹宮主カルキノス、ファンタジーの貴族風の衣装をまとったシュモクザメ風頭の怪人『ハンマーヘッド伯爵』、中国の皇帝風の衣装を纏ったピンクの鳥人『皇帝ペリカン』、中東風の衣装を纏った『石油王イカ』、いわゆる女王様、王妃様を思わせる衣装のアリクイ獣人『オオアリ女王』という癖のあるメンバーに囲まれていました。
ぎょっとするような光景ですが、六堂真尋も含め、全員トランプを手に持ち、真ん中にはカードの山が出来ています。
メェ (これは)
メエェ(大富豪の練習か)
メメェ(大会に出すといっていたなそういえば)
『六堂真尋の身の安全は保証する』『オンライン大富豪大会には参加できるようにする』という約束通りではあるのですが、外界との温度差が大きすぎて、反応に困ってしまいました。




