第1話 余命(ヨメー)がメー
2022-2023に掲載していた『パンと弾丸とダンジョンと』のリメイク版となります。
序盤14話は旧版とほぼ同内容、15話(3月8日18時頃掲載予定)から分岐していく予定です。
メェ (ようこそ東京大迷宮へ)
メエェ(我々はプランタ・タルタリカ・バロメッツ)
メメェ(君のチュートリアルを担当するナビゲートモンスターだ)
東京大迷宮を訪れた私を迎えたのは、三匹の空飛ぶ羊でした。
もこもこした綿の身体に、ぬいぐるみのような顔と巻き角。短い足を四本生やし、ふわふわと宙に浮かんでいます。
直径でいうと三〇センチメートル。
身体の色は一匹ずつ違って、白、黒、灰色の三色。
プランタ・タルタリカ・バロメッツ。
木綿の存在が広く知られていない頃のヨーロッパの人間が「綿が取れる植物」の話を聞いて想像した植物をモチーフにしたモンスター。
見た目は羊ですが正体は木綿なので植物系。
冒険者の間ではバロメッツとだけ呼ばれているそうです。
メェ (意思確認からはじめよう)
メエェ(君は冒険者を志す者だろうか?)
メメェ(違うのならそのまま引き返したまえ)
音として聞き取れるのは『メー』だけですが、なにを言っているのか理解できました。
東京大迷宮のナビゲートモンスターの声は一種の暗号になっていて、対話したい相手にだけ意味が伝わるそうです。
「冒険者を志望します」
メェ (了解した。新たな挑戦者の来訪を心より歓迎する)
メエェ(末永い活躍を願う)
メメェ(早速ホームエリアに案内しよう)
ここは東京大迷宮池袋エリア地下第一層。
日本を崩壊に追い込んだアンデッド災害以前の駅を利用したゲートの階段を下りてすぐの場所です。
最初の階段を下りたところで挑戦の意思ありと判定され、初回はバロメッツのようなチュートリアル担当モンスターが現れるシステムだそうです。
東京大迷宮の範囲は地上も含めて東京全域。立ち入り自体はどこからでも可能ですが、関東最大の要塞都市大宮との交通の便が良いことから東京大迷宮の玄関口といえば池袋がメジャーで、門前町にあたる池袋地上市街の復興も進んでいます。
ここ池袋エリア地下第一層は危険なモンスターは出てこないセーフティーエリアとなっていて、東京大迷宮直営の売店や生産・流通職業の所有者が営む商店などが軒を連ねて賑やかです。
ダンジョンと言うより、冒険者の行き交う地下街と言った雰囲気です。
メェ (ホームエリアは冒険の準備をしたり、休息を取ったりするためのスペースだ)
メエェ(初期状態では冒険者ひとりにつき二〇平米の部屋を提供している)
メメェ(ところで、インターネットなどの扱いには慣れているだろうか?)
「あまり得意ではありません」
メー (では思考式オペレーションで行こう。ホームエリアに移動、と念じてくれたまえ)
言われたとおりに念じてみると、地下街の風景が白く塗りつぶされるようにかき消え、兵舎の一室のような構造の窓のない部屋に置き換わりました。
シンプルなベッド、デスクに小さなキッチン、バス、トイレなどが用意されていて、東京大迷宮に来る前に居た学兵寮よりずっと清潔で、設備も充実しています。
メェ (ここが君のホームエリアだ。自室代わりや倉庫、工房として使うことができる)
メエェ(PPを支払えば拡張することもできる)
メメェ(まずは冒険者登録からはじめよう。掛けたまえ)
指示通り、デスクとセットになった椅子に腰を下ろします。
デスクも椅子も新品です。
メェ (まず冒険者名を教えて欲しい)
メエェ(本名でも仮名でも構わない)
メメェ(発音困難なものや公序良俗に反するものは避けて欲しい)
「カタカナでソルとしたいのですが、大丈夫でしょうか」
このあたりは事前に決めてきました。
登録の必要は無いそうですが、年齢は一五、性別は女性です。
メー (問題ない)
メエェ(冒険者名ソルで冒険者登録を行って良いか?)
メメェ(イエスかノーで回答を)
「イエスで」
メェ (了解した。それでは冒険者名ソルで登録を進めていこう)
メエェ(次はステータス画面を確認してみよう)
メメェ(ステータスオープンと念じてみたまえ)
「ステータスオープン」
発音は必要ないようですが、声を出して念じてみると、目の前に半透明のウィンドウが浮かび上がりました。
冒険者名 :ソル
PP :100,000
バイタル :グリーン
メンタル :グリーン
ステータス異常:
アンデッド因子感染症(潜伏型/余命30日)
ステータス異常の項目が目に入ったようです。
バロメッツたちはびっくりしたように声をあげ綿の体を膨らませました。
メ!? (っ!?)
メメーメ!?(余命が!?)
メーッ! (無ぇっ!)