0日目昼:大広間*2
それから、たまが陽に諸々を説明した。さっきバカが説明したのの4分の1以下の時間で済んだ。たまって、すごい。バカは感動した。
「成程……そうか、俺は死んだのか……」
「そうみたいだね」
「陽、かっこよかったんだぞ!たまのこと庇って……でも俺は悲しかったんだぞ!あと、たまも!悲しんでたんだぞ!」
「そ、そっか。でもまあ、かっこよく死んだっていうなら、いいかな。ははは……」
陽は何とも言えない顔をしつつ、ちら、とたまを見た。たまも、ちら、と陽を見て……それから2人は、どちらからともなく手を繋いだ。
きゅ、と控えめに握られたそれを見て、バカは恥ずかしくなってきたのと同時に『陽とたまは恋人同士なんだなあ』と実感した。
……そして、『俺、こいつらを幸せにしてやらなきゃ……』と、何か使命感のようなものも感じた。バカは善良なバカなので。
「それで、どうする?とりあえず、樺島君の話だとどうも、多くの人が死ぬみたいだけれど」
「俺も含めて、ね。うーん、どうしようかな……」
それから、たまと陽が考え始める。
「……樺島君。真犯人が誰だったか、心当たりは?」
「無い!」
「うん、そっか……」
考え始めるのだが、バカの意見がまるで参考にならないわけだ。たまも陽も、頭を抱えんばかりである。
「……樺島君の話を聞く限り、最後に残っていたのは私と陽とミナさんっていう人と、土屋さんっていう人と、あと、樺島君。で、陽が死んだらしいけれど……」
「素直に考えるなら、異能が分かっていなかった土屋さんの仕業、ということになるんだろうけれど……うーん、樺島君の話を聞いている限り、どうもそういうかんじは無いんだよなあ……」
「俺もそう思う!」
バカの意見はまるで参考にならないだろうが、それでも、バカは陽の意見に賛成だ。
土屋が陽を殺したとは思いにくい。なんとなく、そんな気がするのだ。あのおっさんは、いい人だった。バカはそう思う。
「となると……うーん、でも、他の人は全員、死んでいたんだよね……?」
「あ。ところで、たまの異能って結局何だったんだ?」
「え?」
悩み始めた陽を他所に、『そういえば!』とばかり、バカはたまに聞く。すると、たまは『知らなかったの?』というような顔をしつつも、教えてくれた。
「触れた人の異能をコピーする能力、だけど……」
……どうやら、そういうことらしい。バカには、よく分からないが……。
「……というか、だから私は樺島君の異能が分かったんだと思うけど」
「あっ、そういうことかぁ」
成程、つまり、たまは『他人の異能をコピーすることで、他人の異能がそもそも何かを知ることができる』ということなのだろう。バカはまた1つ、賢くなった。
「だから……どうしようかな。もう、樺島君のをコピーしておいた方がいいかな」
「ああ……そうだね。そうすれば、樺島君の話が本当かどうかも分かるし、ひとまず、保険が1つできることになるのか……うん。いいと思う。やっちゃえ」
「うん。じゃあ、樺島君。ちょっとごめんね」
「んっ?」
バカがきょとんとしている間に、たまはバカの腕を掴んで、それから離れていった。
「……本当に時を巻き戻す異能だった」
「一気に信憑性が上がったね。これは大きいぞ」
バカは、『うん?』とまだ首を傾げていたのだが、たまはそんなバカを放っておいて、話を進めた。
「……まあ、私がこういう異能だから、その、ビーナスさん?っていう人が占いの異能なのは、おかしい気がするね」
「ん?」
「だって、私の下位互換の異能になってる。強いて言うなら、私は相手に触れる必要があるけれど……それで埋められる性能差じゃない」
バカは頭の上に『?』マークをいっぱい浮かべていたのだが、とりあえずたまと陽の間では概ね、分かり合っているらしい。バカは『頭いいカップルだなあ……すげえなあ……』と、なんだか嬉しくなった。バカに理解力は無いが、共感力はあるのだ。
「……となると、異能については、ビーナスさんが怪しい、と。ついでに異能を偽装されていた可能性があるヒバナについても……」
「そう。でも、重点的に警戒する必要があるとしたら、天城さん、っていう人か、海斗、っていう人になると思う。そっちはまだ情報が出てないから。土屋さんっていう人については、ミナっていう人が信頼を置いていた、っていうところから、異能がミナさんには割れていた可能性を考えていいと思う」
「その上で安心できる異能、っていうことか。成程ね」
頭脳派カップルはバカにはよく分からない話をしつつ頷き合った。バカにはよく分からなかった。
「……樺島君の話を聞く限り、あからさまに怪しいのは天城さんなんだけどな。でも、それは俺に話しかけてくるっていう内容次第、かもしれないね。なら、俺が調べるのが妥当か」
「……じゃあ、私はビーナスさんを調べてみる。ついでにヒバナの情報が出るかも」
「そうだね。じゃあ、樺島君は……」
「うん!」
ようやく話しかけられたバカは、『俺の出番か!』と嬉々として顔を上げる。
そして。
「樺島君は、海斗っていう人を調べて」
たまからそう命じられて、バカは首を傾げた。
「調べる、って、何すりゃいいんだ?」
……たまと陽は、顔を見合わせた。……そして。
「……とりあえず、仲良くなっておいで」
「分かった!俺、海斗と仲良くなる!」
バカにも至極分かりやすい命令を下してくれたので、バカは大喜びである。
「……じゃあ、早速、誰か来たみたいだから。頑張ってね」
バカは海斗と仲良くなる!海斗と仲良くなるのだ!バカはそう、張り切った!
そこへ丁度、運よく、もしくは運悪くやってきたのは海斗であった。
そして、待ち構えているのは、当然、ものすごくやる気に満ち溢れたバカである。
「うおおおおお!首輪引き千切るぞぉおおおおお!」
「な、何だ!?お、おい!君は何なんだ!?や、やめろおおおお!来るなあああああああ!」
……バカが張り切った結果、海斗は怯えた。
怯えられたバカは、ちょっぴり傷ついた。が、ちゃんと己の使命を果たすべく、海斗を取り押さえて、担ぎ上げて、そのまま海斗の首輪を引き千切った!
「ってことで、はい、首輪、返しとくな!」
「え、ええ……?」
海斗はバカの肩からそっと下ろされ、更に、真っ二つになった首輪をそっと返されて、只々困惑している。ついでに、バカを怯えと警戒の目で見ているものだから、バカとしてはやりづらい。
「ああ、その人、こういう人らしいから大丈夫」
「えーと、君も首輪が千切れたんだね?俺もだから大丈夫」
そこに、たまと陽が苦笑しながら『大丈夫』と言ってくれるのだが、海斗の警戒ぶりは相変わらずである。
「き、君達は……既に、グル、と?そういうことか?」
「うん!俺達、仲良しだぞ!」
「別に仲良しではないかな……」
「あ、うん。まあ……とりあえず、最初に来た人と、次に来た人と、それから俺、っていうかんじだね。ははは……」
更に、海斗はバカ達の話を聞いてますます警戒を強めていく。一方で、怯えは少しばかり、抜けてきた。
「えーと……お前のこと、何て呼んだらいいかなぁ」
そこで、バカは海斗にそう、聞いてみる。そう。一応、たまに『たま』と話しかけて不審がられたことからバカは学習しているのだ!
「……そちらは?」
「あ、俺?俺、樺島剛!」
「ほ、本名か……?本名を名乗ったのか……?この状況で……?」
「うん!あ、でも、バカ島でも、バカでも、好きに呼んでくれよな!」
バカは頑張って海斗に話しかけてみるのだが、海斗の警戒は強まるばかりだ。バカは『どうしたらいいかなあ!』と、困るばかりだ。
「あ、えーと……その、樺島君はそういう風に、本名を名乗ってしまうことにしたらしいんだけれど、俺達は、一応、偽名を使おうか、っていう話をしていて……」
「私は、首輪に地球の惑星記号があったから、『球』で『たま』。そっちは、太陽だったから、『陽』ってことにした。あなたは?」
そこへ、陽とたまが助け船を出してくれる。バカは嬉しくなって、『そういうこと!』とうんうん頷いた。
「首輪……ええと、これ、か……?」
海斗は、千切れた首輪を恐々と見て……そして、首を傾げた。
「……僕の首輪に惑星記号は、無いようだが」
「えっ」
どういうことだ、とバカはもちろん、たまも、陽も、固まる。
……だが。
「……あ」
たまが、部屋の入口のあたりをそっと、指差す。
……そこには、ころころ、と転がる宝石があった。たまはそれに近づいて、そっと拾い上げて……海斗に渡す。
「あなたの惑星記号は、海王星みたい。それで多分、樺島君が首輪を引き千切った時に、宝石が吹き飛んだんだと思う」
「えーっ、それ、外れるのかよぉ!千切り方、気を付けなきゃなあ……」
惑星記号が刻まれた宝石は、首輪から外れやすいみたいだ。バカ、覚えた。大丈夫。バカは覚えられるバカなのだ。多分。部分的には。時々忘れるが。
「そもそも、何故、首輪を引き千切ったんだ……?」
「私がこの部屋に入った時、首輪から注射みたいなものが出て刺さった話をしたから。多分、首輪をつけたままこの部屋に入ると、注射されるんだと思う」
バカが説明する前に、たまが説明してくれた。バカにはよく分からなかったが、多分、海斗をより納得させてくれるいい説明なのだろう。
「注射!?な、何かのワクチンとか解毒剤が出ていたんだとしたらどうするんだ!?僕はこいつのせいでそれを打ちそこなったことになるが!?」
「大丈夫だよぉ、多分、毒薬だったってぇ」
「何を根拠に!?」
海斗は混乱し続けているが……バカは、にっこり笑って、ぽん、と海斗の肩に手を置いた。
「ってことで、よろしくな!海斗!」
「か、海斗!?海斗、というのは!?」
「えっ!?だってお前、海王星だし……」
「勝手に決めるな!ええと、海王星、だな?やはり海と言ったら、ヘミングウェイの……」
「もう俺、お前のこと『海斗』って覚えちゃってるんだよぉ、変えないでくれよぉ……」
……海斗は、バカのことがちょっぴり嫌いになってしまったような気がするが、バカはそれでもめげない。
バカはとにかく、がんばって海斗と仲良くなるのだ!
そして、陽が天城と、たまがビーナスと仲良くなる!これで完璧なはずなのである!多分!バカにはよく分からないが!
……だが。
「やっぱりとれたての魚って美味いよなあ。海斗は魚、好きか?」
その後も頑張って、海斗に話しかけ続けていたバカだったが。
「意味が分からない!もう僕に近づかないでくれ!」
海斗にそう言われてしまって、絶望した。
……早速、仲良くなるのに失敗している!




