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ついうっかり

 三日後、俺はシアンと一緒に町の中央にある噴水の前でカゴットとシムを待っていた。二人は一向に来ず、約束の時間から既に二十分は過ぎていた。


「二人が遅刻するなんて珍しいな、何かあったか?」


「どちらかが、寝坊したのではないですか?」


「寝坊かぁ。あいつら、寝坊で遅刻とかした事がないけどな。多分だけど俺の予想はカゴットが家の人に何か頼まれ事をされた、かな。」


「それもありそうですね。カゴットさんの家は商会ですから。」


「まあ二人はいいか。ねえシアン。魔法を使う場所どこにしようか?」


「そうですね。山は何かあったら領地の経営に問題が出ますし、海は昨日の大雨でまだ波が高いらしいので……東にある森でどうでしょう?」


「それしか選択肢がないか。」


 北の山、南の海、東の森と候補が出るが、俺ら二人の選択肢に草原が出ることはない。

 あんなとこに行って穴を開けたのがばれたりしたら、大変なことになる。犯人は現場に戻ると聞いたことがあるけど、なんで自分から危ない所に戻ってくるのかが理解できない。そんな事を考えてると二人が走ってやって来るのが見えた。


「お~い。アレクさん、シアンさん。おはよう。」


「アレクおはよう。遅れてごめん、待たせたね。シアンさんも遅れてすみません。」


「おう、おはよう。二人が遅刻するなんて珍しいけど、何かあった?」


「実は私が夜遅くまで魔法の練習をしてね。そのせいで寝坊したんだ。その代わり無詠唱が出来るようになったけどね。」


「おお。おめでとうシム。」


「おめでとうございます。シムさん。」


 シムの報告に俺とシアンは、祝いの言葉を送り手を叩く。シムはそれに照れていた。


「二人とも、ありがとう。」


「これで無詠唱が出来ていないのは、カゴットだけか。」


「確かに使えないけど、俺は派生魔法が出たよ。」


「まじかよ。それってどんな魔法なんだ?」


 シムが無詠唱が出来るようになって、カゴットは何もないと思ったら、派生魔法を覚えたとはな。シムは驚いていないから、先に教えてもらってるな。


「派生魔法の名前は合成魔法だ。」


「また聞いたことのない魔法だな。」


「私もそのような魔法は、聞いたことないですね。」


「知らない魔法だったから、ここに来る前に教会の方に行っていたんだ。だから遅刻してしまってね。」


「聞くなら昨日とかにでも聴きに行けばいいのに。」


「それは無理だな。この魔法を覚えたのは昨日の夜で、教会に行ったら誰も居なかったんでね。」


 へー。普通は何かあった時のために、教会に最低一人は残るはずなのに珍しいな。特にあのジバイとか言うやつは残っていそうだけど。


「教会に誰も居ない話なら知ってます。確か教会の人達は一週間程、教会の建っていない村を回ってくると町の掲示板に張り紙がありました。」


 まあ確かに、全部の町や村に教会があるわけじゃないし、教会の建っていない場所は人を派遣するしかないか。


「そういう事情なら仕方ない。カゴットの魔法は森に行きながら話しを聞くよ。」


「森なら丁度いいな。俺も森に用事が合ったんだ。俺の魔法は素材をよく使うから、近いうちに取りに行こうと考えてたんだよ。」


「あれ?行くのは安全で被害が出ても問題ない草原だと思ったんでけど、何で森にしたの?」


 ちっ。カゴットは魔法の関係もあって疑問に思わなかったけど、シムはやっぱり疑問に思うか。俺はシアンの方を見たら、シアンも俺を見て頷いた。


「森に行くのは、さっき二人が来る前にどこがいいか、シアンと相談したんだ。」


「はい。山は何かあったら大変ですし、海は昨日の雨で波がまだ高いらしいので、森にしようと思いました。」


「?二つの理由は分かったけど、草原に行かない理由は何?」


「……それは。…その。」


 頼むシアン。何か、良い言い訳を思いつけ。

 不自然じゃない言い訳をしてくれと願いながらシアンを見ていると、なんて言おうか困っていたシアンが、こちらを見て何か思いついた顔をした。


「シムさん。大きな声では話せないので、少し耳を近づけてください。」


 シアンが頼むと、シムは疑問に思いながら耳を近づけた。どうでもいいけどシムのやつ、性別をやっぱり間違えてるだろ。傍から見ると、女同士の内緒話に見えるんだけど。


 そんなくだらん事を考えているとシムの顔がどんどん赤くなって、こちらを睨んでくるように……。


「って、ちょっと待て!おいシアン!お前シムに何を言った!」


 俺がシアンに何を言ったか聞こうと近づくと、シムがシアンの前に立ちふさがった。


「この変態!外でそんな酷い事をするなんて、恥を知れ!」


「はあ?いきなり、なんなんだ。酷い事をしたって言うけど、俺が何をしたって言うんだ?」


「聞いたぞ!草原でシアンさんのぱ、ぱ……。」


「ぱ?」


 シムはさらに顔を赤くしてるけど、何を言おうとしてるんやら。カゴットも何を言おうとしてるのか分からなくて、首を傾げてる。


「ごほん。アレク!お前、魔法の練習を草原でしている時に、シアンさんのパンツを剥ぎ取ったそうじゃないか!」


 そんな事を人の多い場所で、大声で言ったせいで、普段なら賑わっている噴水前が一瞬静かになった。


「ちょっと待てぇ!こんな街中で何を言ってるんだ!性別偽装人間!俺はやってねぇ!」


「あっはっはっは!はっはっは!」


 この馬鹿!ここが街中だって事を忘れて、とんでもない事を大きな声で言ってくれたな。

 今の発言でカゴットは爆笑しだすし、周りの女は睨んできた。おいシアン!お前何とかしろ、と思ってシアンの方を見ると、顔を赤くして恥ずかしそうに俯いてやがる。


 お前がそんな事をしたら余計に誤解を招くじゃないか!


「誰が性別偽装だ!私は男だ!シアンさんが、草原でパンツを伸ばしたりして遊ばれた、と言ってたぞ!」


「純情な少年達の初恋を奪っていく男がいるか!大体、俺がそんな事をすると思ってんのか!?」


「やりそうにないと思いたいけど。イントアさんに影響を受けて、屋敷のメイドにそういった事をやり始めたのかもしれないだろ!」


「始める訳ねぇだろ!イントア姉さんを見てたら、こうなりたくないと普通は思うぞ!」


「普通の人は何回も屋敷を壊したり、海で釣れないからと、魔法で吹き飛ばして魚を取ったりしないわ!しかも魔法の威力が強いせいで、漁師の船が何艘か転覆させた奴が普通のはずがない。」


「だから、そんな漁が実際にあるって前にも言っただろ!それに屋敷は俺だけじゃなく、両親のせいでもあるから!」


「そうですね。大抵シュページ様がヴィクトリア様にいたずらを頼み、バレて酷い目に合う。までが、流れになってますね。」


「そうだろ。ほら証人がここにいるぞ!もっと言ってやれシアン!」


 よしっ。シアンが一緒に言ってくれたおかげで、シムの勢いが落ちた。カゴットはどうしてるかと思って見たら、笑い過ぎて呼吸が上手く出来なくなっていた。あいつは放置でいいな。


「アレク様は確かに屋敷で色々とやらかしていますが、他にもしている事が沢山ありますよ。例えば、幻影魔法を使ってシュページ様にいたずらしたり、花火魔法で使用人の寮を吹き飛ばしたりしました。この間なんて草原で無詠唱が出来るようになったのですが、調子に乗って街道の一部に大きな穴を開けたため、幻影魔法で……あ。」


 どうやらシアンは俺を助けるんじゃなく、殺しに来たらしい。草原の事まで言ってしまうし、オリハルコンの口は何処に行った。


「この馬鹿世話係!その話は内緒だって言っただろ!それに使用人の寮はお前が、「たき火がしたいから、花火魔法で火をつけてくれ」って無茶ぶりをしたせいだろ!何俺のせいにしている!」


「すみません!ついうっかり!あのシムさん。この事は屋敷の人達には内緒にしてもらえませんか?銅貨三十枚あげますから。」


 シアンが口を滑らせたせいで、周りの人達の視線がすごい刺さるんだが。シムなんて、「何してるのこの主従は」って呆れた目で見てるよ。

 本当にこの世話係は覚えておけよ。今日の夜に怖がらせてトイレに行けなくしてやる。シアンをどうやって怖がらせてやろうと考えていると、人混みの中から今、一番聞きたくない声が聞こえた。


「へ~。街道の一部に穴が開いて、通行の邪魔になっていると住民から苦情がきてたのだけど、まさか犯人が身内にいるなんてねぇ……。」


 そんな声と共に人混みが割れて出てきたのは、予想した通り屋敷のメイドを連れた、裏の当主ヴィクトリア母さんだった。


「……何でここに居るの?」


「町の視察よ。その土地を治めるなら、書類だけじゃなく現場に出ないとね。」


「どこから聞いてた?」


「あなたが魔法で船を転覆させた、辺りかしら。それに寮の話でそこの使用人が関わっているのは初耳ね。」


 やばいっ。ほとんど全部聞かれてしまったうえに、一番まずい所を聞かれてる。シアンなんてバレて顔が白くなってやがる。こうなったら逃げ――。


「あっ。そうそう。逃げたりしたら、冷凍便でイントアに送るから。」


「逃げませんからそれは勘弁してください!」


「あとシアンはお給料を七割減給ね。」


「な、七割。……私のお給料が…七割、も減……。」


 バタッ


 俺はイントア姉さんに送られると聞いて、人前だろうが関係なしに即座に土下座をした。あんな姉のとこに送られるなんて絶対嫌だ。シアンは七割減給と聞いて気絶した。


「シム君ごめんなさいね。そういう事だから、この二人を家に連れて帰らなくちゃいけないの。遊ぶのはまた今度でいいかしら?」


「はい。問題ないです。私の事は気にせず、連れて帰ってください。」


 シムに助けてくれと目で訴えたが無理だった。ならカゴットに頼もう、と見るとカゴットは笑いすぎて気絶していた。笑ってるだけだったなコイツ。


「さあアレク。屋敷に帰ってお話しましょ。シアンは気絶してるせいで歩けないから、ソフィー。担いであげて。」


「畏まりました。……この子は何をしているのやら。帰ったら教育のし直しね。」


 そう言ってソフィーはシアンを肩に担いだ。偏見かもしれないけど、女の人を担ぐ時の担ぎ方として、違うような気がするんだけど。


「さて、叩いたらどれくらい埃が出るのかしら?楽しみだわ。アレク、今夜は寝かさないからね。」


「その言葉、この状況で聞きたくないんだけど。」


「じゃあね、アレク。生きて会えるといいね。」


「不吉なことを言わないでくれ。今回は割と酷い目に合いそうだから。」


「あら?酷い目に合う自覚はあるのね。」


「まあね。それが分かってるから、隠したんだし。それがシアンのせいで……。」


「はいはい。続きは屋敷に帰ってからね。それでは皆さんお騒がせしました。」


 ヴィクトリア母さんは、周りの人達に一言謝り、俺らを連れて屋敷へ帰った。母さんが通る時、皆顔を逸らしてたけど、どれだけ怖がられてるの?

次の話もお楽しみください。

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