罰を選べ
「完全に挟まれたな。」
「魔法が使えれば簡単に逃げられるのに、今は閉運を使われてるからな。どうしたものか……。」
困った声を出しながら正面に立ちはだかる姉さん、シロさん、シューリンガンと退路を塞ぐシアン、クレア、スーちゃんの動向を注視する俺と兄さん。この状況を乗り越える何かいい方法はないかと考えていると、姉さんが一歩前に近づいてきた。
「ようやく追い詰めましたよ。さぁ、大人しく私たちに捕まりなさい。」
「これ以上の抵抗をせずに捕まってくれるのなら、情状酌量として罰を軽くしますよ。」
「情状酌量って、俺達は犯罪者か。」
姉さんに続くシアンの降伏の言葉を聞いて、兄さんがボソリとツッコんだ。
「だいたいその罰が嫌で逃げてるんだけど、大人しく捕まった場合はどんな罰を受けるんだ?」
「そうですね……あまり軽過ぎても罰にならないのですが、今考えているものだとアレクは所持しているエッチな本の焼却と新商品の被検体、それと王都に移住と私の屋敷にある地下牢への監禁。お兄様は有給休暇の工作をした後、動けなくした状態でルーシャに引き渡そうかと思っています。」
「それのどこが軽い罰なんだ。普通に重い罰じゃねえか。」
「それに兄さんの罰が一つなのに対して、なんか俺の罰がおかしくないか?なんで俺だけ四つも罰も受けないといけないんだ。」
「あぁ、それはただの私情なので気にしないでください。愛故に、というやつです。」
「愛とか言っとけば何でも許されると思うなよ。そんなので許されるのは、漫画の世界だけだからな。」
「まあまあ、サービスでシアンも一緒に監禁しますから許してください。」
「なんで私も監禁されるんですか!?私は何もしていませんよね!?」
「多分だけど、お姉ちゃんの私情だと思うよ。」
「可哀想に、完全に巻き込み事故ですね。」
サービスで俺の罰に巻き込まれたシアンに、クレアとシューリンガンが同情の視線を向ける。
「ちなみに通常の罰は、二人がお母様と先生の悪口を吹聴していたと――。」
「「俺達を殺す気か!?」」
思ったよりも重い罰を聞いて、俺と兄さんの声が重なる。
「別に殺す気はないですよ。ただ罰を与えるのなら、厳しい方が良いかと思っただけです。」
「厳しい罰どころか、俺としては遠回しな死刑宣告をされた気がするけどな。」
「気がするじゃなくて、普通に死刑宣告でしょ。まぁそもそも、母さん達がそんな嘘に引っかかるのかって話もあるけどさ。」
「それなら問題ありません。教団に所属する全信者を使って二人が悪口を吹聴していたと工作を行うので、おそらく成功は確実でしょう。お母様たちの耳に噂が届く頃には、誰がそのような噂を流したのか分からなくなっている筈です。」
「無駄に計画的と言うべきか、他の人を巻き込むなと言うべきか……よくもまぁ、そんな事を思い付くよな。」
「実行したら、本当に成功しそうなのが凄いよね。」
姉さんの作戦を聞いて、呆れた様子で俺と兄さんが言う。
「これでも私は人の上に立つものですよ。この程度の作戦を立てられなくて、どうするのですか?」
「どうするとか言ってますけど、そもそも普通の教団のトップがこんな作戦を立てるのはおかしいと思うのですが、私の気のせいですかね?」
「まぁ、お姉ちゃんだからね。他の教団と比べても仕方ないでしょ。」
「……つまり私の気のせいではないという事ですか。確かにイントア様の教団と他の教団を比べても、比較にはなりませんでしたね。完全なる愚問でした。」
「ちょっとクレアちゃん、シアン、小声で話してますけど聞こえてますよ。クレアちゃんも地下牢へ行きたいのですか?」
「それだけは本当に嫌っ!ちゃんと謝るから、地下行きは取り消して!」
地下行きと聞いてクレアが深く頭を下げると、姉さんが小さく息を吐き出した。
「まったく、仕方ありませんね。今回だけですよ。」
「ありがとう、お姉ちゃん。」
姉さんに許された事で嬉しそうに顔を上げるクレア。この話しはこれで終わりかと思いきや、シアンの方から待ったが掛かる。
「ちょっと待ってください、イントア様!クレアちゃんだけに罰を言ってますけど、私の地下行き決定ですか!?私も謝りますから、考え直してください!」
「あ、それは却下します。シアンの地下行きは決定事項なので、潔く諦めてください。」
「そんなっ!?」
考える素振りすら見せずに断られるシアンの懇願。考え直すようにお願いするシアンの声を無視して、姉さんは俺達の方に視線を向ける。
「さて、少し本題からズレましたが話を戻しましょう。罰の内容について話しましたが、二人はどちらを選びますか?あらかじめ言っておきますが、これは最終通告なのでよく考えて答えてくださいね。」
そう言って正面にいる姉さんとシロさんは俺達を捕まえる為の魔法の準備をし、後ろからはカチカチカチというスーちゃんの歯を鳴らす音が聞こえてきた。
「くそ、逃げ道もなくて完全に万事休すだな。どうする、兄さん?」
「どうすると聞かれても、正直どっちの罰も地獄過ぎて選びたくないんだけど。」
「ほんと、それな。だけど選ばない事には、姉さんは納得してくれないよね?」
「そうなんだよな。やろうと思えば魔法なしでも倒せるけど、あれでも一応は女子だからな。治せるとはいえ、あんまり怪我はさせたくないんだよ。」
「その女性に対する配慮は非常に素晴らしいのですが、誰が一応の女子ですか。そういうデリカシーのない発言が原因で追いかけられているのですから、少しは言葉に気を付けてください。」
「へいへいっと。さて、どうしたものかな……。」
姉さんの苦言に適当に返事を返した兄さんは、この状況を打開できる良い案が浮かばないらしく本当に困った様子で呟いた。
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