隠していない隠し味
本日二話投稿です。
前話を読んでない方はそちらからお願いします。
「ああ。行きたくねぇ。」
「まだ言ってるの?いい加減に腹を括りなよ。」
俺とシムは脱衣所で着替えてから直接、姉さんの部屋へ向かった。その足は普段の歩きと違って遅い。ゆっくりと進みながら俺はずっと行きたくねぇと、ぼやいていた。
「言うよ。行ったら絶対何か仕掛けてくるだろ、あの姉は。お前だって本当は行きたくないとか思ってる癖に。」
「行きたいか、行きたくないかで聞かれたら私も行きたくないけどさ。」
「やっぱり。なら俺の気持ちも分かるだろ?」
「気持ちは分かるが、約束したのに私だけ行ったらどんな目に合うかも分かるだろ?」
「まあな。で、お前を処理したら次は俺だな。」
多分だけど俺が居ないと分かったら、シムに連れて来なかった罰として天井から吊るして、俺の話を吹き込んだ録音を夜通し聞かせるんだろうな。それも最大音量で。
シムはそれで放置して、次は間違いなく俺の所に来るよな。姉さんは索敵魔法を持ってるから逃げれそうにないし簡単に見つかるだろう。で、捕まったらあの姉の事だから、毒魔法で動きを封じた後に祭りが始まるまで何処かに監禁とかしそうだ。
行ったら何かしてくる、行かなかったら監禁。嫌な選択だな、おい!
「はぁ。なんか今、上がってる階段が死刑台の階段に思えるのは気のせいか?」
「気のせいだよ。大袈裟だな。」
俺の発言にシムは笑いながらそんな事を言って。
「私には生贄が祭壇に上るための階段に思えるよ。」
「酷さが変わらないよ!誰が生贄だ!」
「そっちこそ誰が死刑囚だ!」
階段で俺らが睨み合っていると。
「酷いのはあなた達ですよ。誰の部屋が死刑場や怪しい儀式をする部屋ですか?」
睨み合いをやめて声が聞こえた方を見ると…。そこにいたのは笑顔の姉さんだった。その笑顔を見た瞬間、俺たちは走りだした。
よく見る姉さんの笑顔の筈だが、今の笑顔は逃げるべきと本能が告げている。
「遅いから迎えに来てあげたのに逃げるなんて。「影縛り」」
姉さんが影縛りを使うと、俺たちの影から縄のような物が出てきて俺たちを縛った。走っている時に縛られたせいで俺たちは揃って床にこけた。
「痛っ。…何するんだよ姉さん。」
「そうですよ。走ってる最中にこんな事をしたら危ないでしょ。」
姉さんはゆっくりとこちらへ歩いて。
「あなた達が人の顔を見て逃げるから悪いのですよ。手作りのお菓子を用意して部屋で待っていたのになかなか来ず。迎えに来たら走って逃げる。そっちこそどういう事ですか?」
「いや……何というか…あの、会話を聞いた姉さんの笑顔を見たら本能的に?」
「あっ、それだ。流石アレク。いい表現をしてくれるね。」
おい馬鹿やめろ。何で煽るような言い方をするんだよ。これで姉さんの機嫌が悪くなったらどうする。
そう思いシムを睨むと、シムはこちらを見て笑った。
「おい!どういうつもりだ!」
「どうもこうも。ここは本能的に逃げたと言ったアレクに何とかしてもらおうと、ね?」
こいつ俺を生贄に自分だけ助かるつもりか。
「お前わざとか!煽るような言い方をしたのは、姉さんの標的を俺にするためにわざと言ったのか!」
「まあまあ、落ち着いて。ここはアレクが犠牲になってくれた方が被害が少ないんだよ。だから、いけに……助けると思って、頼む。」
「ふざけるな!誰が生贄だ!俺が犠牲になるならお前も道連れだ!」
「出来るものならね。もう、すぐそこまで来てるよ。」
「え?」
小声で言い争っていたがシムの言葉に後ろを見ると姉さんは俺たちの足元まで来ていた。
そのまま歩いて俺の前まで来て……。
止まることなく素通りして、姉さんはシムの目の前で止まった。
「シムさん。先程部屋でお菓子を用意していると言いましたが、そのお菓子を食べてほしくて持ってきましたの。」
「へっ、へー…。そうなんですね。それは是非アレクに食べさせないと。」
シムは冷や汗をかきながら喋っている。
おい馬鹿やめろ。姉さんの菓子を食べるなんて、冗談じゃない。菓子を食べるくらいなら、勝手に部屋に侵入して寝てくる方が害がないわ!
「やっぱりシムさんもそう思いますよね。」
嬉しそうにそう言うとポケットから菓子が入っていると思われる袋を取り出し、袋の口を開けた。
「ですが私、今日作ったお菓子の味見をうっかり忘れてまして……。」
次に何を言うのか予想ができたシムは逃げようと必死で藻掻くが影の縄は解けない。
「ですので。シムさんに味見をしていただければ、嬉しいなと思いまして。」
しゃがんだ姉さんは袋から菓子を取り出した。出した菓子は一見すると普通のクッキーだけど……。
「あの…すみませんがっ!……っ!……!」
断ろうとしたシムだったがそれを許さず、喋っている途中で口を閉じないように影で無理矢理口を開けたままにした。
「遠慮せずにどうぞ。」
そうして笑顔でシムの口にクッキーを入れる。
「…………っ!……っ!」
シムは泣きながら首を振ろうとしたのだろうが動かず。何枚かクッキーを口に入れると影を動かし、無理矢理咀嚼させた。咀嚼していると姉さんは笑顔で手を合わせて。
「私とした事がうっかりしてました。クッキーを食べると口の中が乾いてしまいますよね。」
そう言って自分の影に手を入れると何かを取り出した。それ収納みたいに使えるのかよ!そんな場合じゃないのに驚きからついツッコンでしまった。
「紅茶じゃなく水ですけど、どうぞ。」
取り出したのは水だったらしくコップを口に近づけて、口を少し開くとそこから水を流し込んだ。
そこからはこの繰り返しだ。今食べているクッキーを飲み込むと再び口を影を使って開け、クッキーを置いて無理矢理咀嚼。少しすると水を流し込み飲み込むまで咀嚼。これをクッキーが全部無くなるまでさせられていた。
今のシムの顔はぐしょぐしょだ。口を暫く開けさせられたりしていたから涎が垂れた跡があり、泣いていたから涙の跡や鼻水が出ていたりもする。
そんなシムの顔に普段の美人な顔の面影は何処にもなかった。
全部のクッキーを食べさせた姉さんは満足げに頷くと。
「シムさん、よく食べました。」
「……………………。」
そう言って頭を撫でているがシムの反応は無い。俺は食べさせるのを邪魔されると思ったのか、シムが全部のクッキーを食べるまで縛られていたが今は自由に動ける。
「あ、あの姉さん?」
「どうしたのアレク?出来の良いクッキーはシムさんに全部あげてしまい無くなってしまったので、今度また作ってあげるから今日は我慢してね?」
撫でる手を止め、こちらを向いた姉さんはそんな事を言うけどずっと我慢するから作らないでほしい。それよりもシムだ。
「クッキーは気にしないけど、シムの様子がおかしくないか?」
何も反応がないシムを見ると、目は開きっぱなし。口も開きっぱなしのせいで口の端から涎が垂れている。体はピクピクと震えていて汗まで出ている。明らかに普通じゃない……。
俺の疑問に姉さんは特に気にしない様子で。
「あれはアレクの為に入れた愛情たっぷりのクッキーを食べたからですね。」
「……愛情?」
「ええ。痺れてしまうほどたっぷりと愛情籠めたクッキーです。ですが――。」
……ああ、そういう事か。シムが何故ああなってしまったのか俺は気づいてしまった。
要するにこの姉はクッキーに盛ったのだ。毒魔法の麻痺毒を大量に!麻痺毒を大量に入れたクッキーを全部食べてしまったせいで、普段なら動けなくなる程度の効力が今の状態を引き起こしている。
どう見ても危険な状態だ。俺は助けを呼ぶべく大声で。
「誰かー!回復魔法が使える人!急患!急患がいるから来て!」
少しの間叫んでいると。
「どうした!急患と聞こえたが!」
「ザットさん!」
駆けつけて来てくれたのはザットさんだった。
「何があった?」
「大変ですザットさん。シムが麻痺毒で……。」
それを聞いてシムを見たザットさんは、一瞬驚くがすぐに我に返りシムに駆け寄った。シムの元に行くと手を当て。
「「中回復」「麻痺除去」」
回復魔法を使い麻痺状態を回復しようとした。一回では効果がなかったらしく何回も麻痺除去を掛けているとようやく。
「………っ。………ぁ。……だ…い。」
「シム!」
「すみ、ませ…ん。も、う…だい…じょう…ぶ、です。」
俺とザットさんは何とか喋れるくらいまで回復したシムを見てほッとした。
「回復はしたが今日は安静にした方がいいだろう。俺がシム君を部屋まで運んで行こう。部屋の場所は何かあってもすぐに駆けつけるように全員覚えているから覚えている。」
そう言ってザットさんはシムを抱えて部屋のある方へと行った。
最後まで読んで下さりありがとうございます。
次回も楽しんで読んでください。




