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影響された罰

「どうした、腰抜け改め負け犬ども!作戦とか言いながら、さっきから逃げてるだけじゃないか!「八号玉」」


「「鉄棒」……誰が負け犬だ!貴様のような野蛮な者に、我らの作戦が理解できる筈がないだろ!」


「あんまり我らを侮るなよ!「魔法力上昇」「炎弾」」


「もう少ししたら捕まえるから、覚悟を決めておくんだな!「泥団子」」


 騎士団に向けて罵声と一緒に八号玉を飛ばすと、鉄の棒で相殺したアブララサール王子に続いて他の騎士団も魔法と一緒に反論してくる。


 ちっ、馬鹿のくせに魔法の腕はいいな。さっきから撃った花火魔法を全部防がれてる。


 飛んでくる魔法を物ともせず、相殺されることに胸中で舌打ちをした俺は、前方の騎士団と後方のアネスさんに向けて次々と魔法を撃っていく。


「くそ、これじゃあ千日手だな。全然、状況が動かないぞ。」


 城へと近づいては行るが、事態が動かない事に思わずぼやいてしまう。


「まぁ弟が撃った魔法は相殺されて、騎士団の魔法は被弾しても効いてないからね。そうなるでしょ。」


「分かってるなら、手伝え……と思ったけど、カーニャさんの魔法じゃ戦えないか。「連射ロケット花火」」


「いや、この状況でも普通に戦えるわよ。ただ捕まった時に罪が重くなりそうだから、手伝わないだけね。」


「捕まる前提かよ!?まったく信用ねぇな、おい!」


 まさかの理由に魔法を撃つ手?を止めて、ツッコんでしまう。


「というより、他の魔法は使わないの?何個か持ってたよね?」


 カーニャさんと話していると、遊びに行った時の話を終えたクレアがシューリンガンと一緒の椅子に座りながら話しに入る。


「まぁ何個かは持ってるけど、その内の半分くらいは攻撃魔法じゃないぞ。」


「そうだっけ?お兄ちゃんの魔法で攻撃に使えないのって、索敵魔法だけでしょ。」


「いや、転移とか収納もあるからな?「一尺玉」」


「甘い!「光射」」


 クレアの勘違いを正しながらアネスに向けて魔法を撃つが、それはアネスさんの光魔法によって簡単に対処されてしまう。


「だけど収納や転移を使って、よく攻撃をしてたよね?」


「あれは攻撃というより、軽いお仕置きやツッコミの方だろ。」


 転移に至っては、半分テロ行為だしな。


「テロ行為って、どんな使い方をしたらそうなるのよ。」


「もしかして、転移を使って反国家の人を招き入れたとか言いませんよね?」


「誰がそんなガチのテロ行為をするか。俺がやったのは、ツフトローチの卵を町で孵化させただけだからな。」


「それのどこが半分よ!殆どテロと変わらないじゃない!」


「ははは……それはまた予想外と言いますか、凄いと言いますか……。」


 転移を使ったテロもどきを話すと、肘置きを叩きながらカーニャさんがツッコみ、苦笑いを浮かべたシューリンガンは掛ける言葉に困っていた。


「それにしてもアレクさんは、ルーベル様の弟なだけあって行動が似てますね。」


「そうなの?」


「はい、ルーベル様も何回か魔物を町に逃がしたことがありますよ。ただルーベル様の場合は、転移ではなく開発部からの脱走ですけどね。」


「いや、町に逃がした時点で変わらないと思うんだけど、いろいろと大丈夫だったの?」


「まぁ取り潰しの話しも出てたけど、最終的に逃がした魔物の回収と開発部持ちで壊れた町の修理、あとは開発部全員の減給で許されてるから大丈夫だったわね。」


「へー、思ったより優しい判決――。」


「あ、あと局長が監督不行き届きとかで、二週間くらい牢屋と一か月の無料奉仕をやってたか。」


「じゃなかった!?」


 ついでのように話された兄さんの罰に、クレアが驚いた反応をしていた。


 そりゃあ取り潰しに比べれば大丈夫だろうけど、二週間の牢屋暮らしと一か月のタダ働きか……。俺は絶対に無理だな。


 兄さんの判決を聞いて、もしかしたら母さんのお仕置きは優しいのでは?と騎士団を追いながら考えていると、朝に見た城門が遠目に見えてきた。


「おーい、そろそろ城に着くぞ。」


「えー、もう。」


「アレクさん、ここで方向転換して南の町に帰りませんか?私が運魔法を掛けて、大儲けさせてあげますよ。」


「その誘いは魅力的だけど、やったら後が怖いんだ。いい加減に帰るぞ。」


「はーい。」


 俺の言葉に不満の混ざった声でシューリンガンは返事をする。


 そして城の近くだというのに魔法の撃ち合いをまだしていると、城門前で妙なものが見え始めた。


「なんか武装した人がいないか?」


 城門前に見えた、大量の武器と壁、そして鎧を着こんだ大勢の人。


 まるで、この先は通さない、と言うように守りを固めた人達は、こちらに向けて武器を構えていた。


「まるで戦争でもするみたいだよね。」


「まるでというより、完全に戦闘体勢でしょ。どうするのよ?このままだと城に入れないわよ。」


「どうすると言われてもな……。」


 本来は騎士団を追った勢いで城に入るつもりだったが、予想外の事態に作戦変更を余儀なくされてしまう。


 そして速度を落として別の作戦を考えていると、前を走るアブララサール王子の笑い声が聞こえてきた。


「はっはっはっ、矮小で卑しく最低最下の賊共め。見事に掛かったな。これが我らの作戦よ。」


「作戦はいいけど、言い過ぎだろ。なんだよ?矮小で卑しく最低最下の賊って、完全に負け犬呼ばわりを根に持ってんじゃねぇか。」


「うるさいぞ、超が幾つあっても足りない低俗な賊め。我が騎士団を負け犬呼ばわりした事、後悔するがいい。」


 そう言ってアブララサール王子が言い終わると、後ろや路地から武装した人が姿を現す。


「後ろだけじゃなくて、路地にも人を配置してるのか。」


「水を漏らさぬ配置って、こういうのを言うんだろうね。」


「えぇ、そして不自然に人がいない場所もありますが、おそらくあそこは……。」


「十中八九、捕まえる為の罠。行ったら最後、なす術もなく捕まるでしょうね。」


 シューリンガンの続きをカーニャさんが話してくれる。


 くそ、どこかに逃げ道はないのか。


 罠じゃない包囲の穴を探していると、城門前に着いたアブララサール王子がメガホンを使って話してくる。


「さぁ、大人しく姫を返せ。そうすれば、死ぬまで地下労働で許してやろう。」


「まったく許されてる気がしないけど、何故に地下労働!?」


「私の好きな漫画では、借金返済の為に地下労働をしていたからな。だから罪を償うまで、貴様らを地下で働かそうと思っただけだ。」


「漫画に影響されて、罰を考えるな!!「二尺玉」」


 クレアと同じ漫画を読んでいた馬鹿王子に向けて、俺はツッコミと一緒に魔法を撃った。

お読みいただきありがとうございます。


次回もお楽しみください。

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