カジノ終了
「さて、カジノも充分に楽しんだから――。」
「俺はまったく楽しんでないけどな。」
「まぁアレクさんは、大負けしてましたからね。」
「――次は予定通りゲームセンターに行く?」
カジノで満足の結果を出したクレアは、ゲームセンターに行くのを提案する。
「そうですね。今の時刻は三時を少し過ぎた所ですから、開発部に行く前にゲームセンターで軽く遊ぶ時間はありそうですね。」
「軽く遊ぶのはいいけど、まだロリコン集団はシューリンガンを追ってるのか?あれから随分と時間が経ってるから、いい加減あっちも諦めて――。」
「甘いよ、お兄ちゃん!」
単なる憶測を話している途中、叫ぶように俺の言葉をクレアが遮った。
「その考えは砂糖一袋を一気飲みするくらい甘いよ。」
「なんだよ。その水分が全部持っていかれる変な例えは。」
「甘さよりも苦しさが勝りそうですね。」
妙な例えに俺はツッコむが、そんなのはお構いなしにクレアは話を続ける。
「ロリコンは一種の病気なんだよ。常日頃から自分の欲望をぶつけたい子供がいないか探している、日常に潜む異常者なんだよ。」
「最初に比べて言い方が酷くなったな。」
「ですが捕まったロリコンの人たちは、皆似たような感じらしいですよ?」
「え、まじで?」
「はい、騎士団の報告書にそのような事が書いていました。」
「……報告書?」
「あ、その、報告書ではなく、えー……騎士団の人がそのような話をしていたのを偶然聞きました。」
報告書を読んでいる事に疑問を持つと、シューリンガンは慌てたように言い直した。
この反応は十中八九、何かを誤魔化してるな。まぁ聞いても教えてくれなさそうだし、ここは誤魔化されておくか
「ふ~ん、そうか。」
誤魔化していると分かりつつも俺が適当な返事を返すと、シューリンガンは「さぁクレアちゃんが話ているので、お喋りをせずに聞きましょう。」と言って、深くツッコまれる前にクレアの話を聞くように促した。
「そしてロリコン異常集団が追っているのは、その界隈では伝説になるくらいの美少女シューリンガンちゃん。」
「それは言い過ぎだろ。」
「クレアちゃんの方が私よりも可愛くて美しいので、これは少し言い過ぎですね。」
「いや、俺が言ってるのは伝説の方であって、シューリンガンもクレアと同じくらい可愛くて美しいからな?」
「そうですか?ありがとうございます。」
自分の魅力に気付いていないシューリンガンはお礼を口にするが、その顔はよく分かっていない表情をしていた。
そして俺達が会話をしている間も、クレアはロリコン共の危険性について熱く語る。
「そんな絶世の美少女を諦めの悪いロリコン共が、逃げて見つからないからって諦めると思う?もう夕方だから帰りましょう、なんて言うと思う?」
「諦めてくれると良いな、という願望はあるな。」
「諦めるわけないでしょ。ああいう連中は、狙った獲物を死ぬまで追いかけるんだからね。」
「そう聞くと、まるでティンダロスの猟犬みたいですね。」
「何それ?」
聞いたことのない名称に、ロリコンスレイヤーのクレアが少しだけ興味を持つ。
「ルーベル様が教えてくれたのですが、一度狙った獲物は死ぬまで追いかけ続ける怖い犬らしいですよ。」
「へー、世界にはそんな恐ろしい犬がいるのか。絶対に会いたくないな。」
「会いたくないのは同じだけど、私はどんな犬か少しだけ見てみたいな。…………もしペットにできるなら、その犬を使って……ふふっ。」
何か良からぬ事でも考えているらしくクレアが黒い笑みを浮かべているが、ここは触らぬ神に祟りなし。変に口を出さず俺は気付かない振りを決めた。
「それでティンダロスの猟犬……だっけ?その犬がどこに生息してるか聞いてないの?」
「それが私も気になって聞いてみたのですが、聞いたのは話しだけで生息地まではルーベル様も知らないらしいのです。」
「おじさんでも知らない事があるんだ。ちょっと意外だな。」
「気持ちは分かりますが、ルーベル様も人ですからね。知らない事の一つや二つあっても、不思議ではないですよ。」
「それもそうか。」
兄さんをフォローするようなシューリンガンの説明にクレアは納得する。
「それで話が迷子になってたけど、見つかったから戻すね。」
「そのまま行方不明になってしまえ。」
「つまり私が言いたかったのは、ロリコンは諦めが悪いから最後まで油断せずにシューリンガンちゃんを守ろう、って言いたかったんだよ。」
「今までの話は何だったんだってくらい、バッサリと纏めたな。」
「ですが、話を纏めてくれたので分かりやすくなりましたよ。」
「確かに分かりやすくなったけど、俺が言いたいのは時間の無駄だって言いたいんだよ。」
「あぁ、そういう意味でしたか。」
言いたい事を教えると、本当に気付いていない反応をシューリンガンは見せた。
「という事で次はゲームセンターに行こうと思うけど、このコインはどうしたらいいの?」
「何がという事でかは分からんが、カジノなら普通に換金すればいいだろ。いくら子供用カジノと言っても、それくらいはできるんだろ?」
確認で聞いてみると、シューリンガンは頷く。
「はい、受付にコインを持っていけば換金用の札が渡されますので、それを持って換金所に行けば札に応じた硬貨が貰えますよ。」
「子供用カジノなのに随分と本格的だな。受付から直接渡したら駄目なのか?」
遠回りのような金の受け渡しに、素朴な疑問が湧いてしまう。
「これも一種の勉強のようなものですからね。将来カジノで遊んだ時の為に換金方法を教えているのです。」
「という事は、これが本来の換金方法なのか。」
そこら辺は漫画でも省略されてるから、あんまり知らなかったな。
「さぁ、換金をするのなら受付に行きましょう。このままではゲームセンターで遊ぶ時間がなくなってしまいますよ。」
「そうだね。お兄ちゃん、早く行こ。」
「あ、おい。勝手に先に行くな。」
「場所は分かってるから、大丈夫。」
大丈夫と言ったクレアは、次々と人を避けながら受付の方へと向かっていく。
「ったく……シューリンガンを守るとか言いながら、自分が置いて行ってるじゃねえか。」
「まぁクレアちゃんはゲームセンターも楽しみにしてましたから、時間がないと分かって急ごうとしたのでしょう。置いて行かれたのは気にしていませんから、私たちも早く行きましょう。」
「すまんな。」
シューリンガンに一言謝ると、俺達はクレアの後を追って歩き始めた。
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