移動中
「話を合わせてくれて助かったよ、クレア。あのままじゃ俺も、爆発現場に行くことになりそうだったからな。」
カーニャさんの運転する車、その後部座席に乗った俺は助手席に乗ったクレアにお礼を言う。
「あのまま放置でも良かったけど、お兄ちゃんが行ったら悪化しそうだからね。また借金が増えたらシアンお姉ちゃんが可哀そうだから、感謝するならシアンお姉ちゃんにしてね。」
「それと弟は、同乗する事を許した私にも感謝しなさいよ。本当はクレアちゃんと、二人で出かける予定だったんだからね。」
「分かっていますよカーニャさん、感謝しています。それとシアンは昼に出かける予定だったから、その時に伝えとくよ。」
「伝えるのは良いけど、その予定。さっき言ってた昼のデートってどういう事?その経緯と昨日の夜の出来事を包み隠さず私に話してね。」
そう言ってクレアは、ミラーに反射した俺を見ながら聞いてくる。
「夜の事に関しては何も言わないが、デートと言ってもアレだぞ。姉さんも付いて来るから、デートみたいな観光、が正しいからな。」
「だけど他の人から見れば、美人なメイドさんと王都で有名なお姉ちゃんを連れてデートしてるようにも見えるよ?」
「見た目で言えばそうだけど、中身を知ったら話が別だろ。」
「そしてデートを楽しんでいた三人だったが、気付けば日が暮れて夕方。三人の影は長くなり、明かりが灯り始めた家からは夕食の匂いが漂い始める。」
「ここで始まるんだ。」
「え、何?急にどうしたの?」
何度も聞いて慣れている俺とは違い、初めてのクレア劇場にカーニャさんは困惑していた。
「あー、気にしないでください。これもクレアの変わった所の一つで、発作みたいなものですから放っとけば戻りますよ。」
「私の知ってるクレアちゃんと違い過ぎる。」
変わり過ぎたクレアに遠い目をするカーニャさんだけど、お願いだから事故は起こさないでよ?
事故の心配をしている間も、車内では音楽代わりにクレアの妄想が語られる。
「端の方から夜へと変わり始める空、お兄ちゃんが「そろそろ帰るか?」と聞けば、お姉ちゃんとシアンお姉ちゃんは揃って頷く。しかしお兄ちゃんが屋敷へ帰ろうと歩き始めても、分かれて手を握っている二人は動かない。「どうしたんだ、止まって?何か気になる店でもあるのか?」手を握られて歩けないお兄ちゃんは、二人に聞いた。「はい。実はもう一軒、気になるお店があるんです。」「と言っても、普通のお店じゃないですけどね。」そう言って怪しい笑みを浮かべている二人の視線の先を見れば、そこには一組のカップルが入って行く一軒の宿屋。「おい、まさか行きたい店って……。」行きたい店を言われなかったが、何所に行き、何をするのか察するお兄ちゃん。その反応を見た二人は何も答えないが、お兄ちゃんに向ける笑みは深くなった。まるで、正解だと言う様に。」
「………ねぇ弟、この話はいつまで続くの?」
クレアの話に耐えれなくなったのか、カーニャさんがクレア本人にではなく俺に聞いてくる。
「俺に聞かれても、クレアが満足するまでとしか言いようがないですね。」
「長く語ってるけど、本当に満足するの?」
「放置しとけば、いつかは……。それより俺も聞きたいんですが、何でクレアは名前で呼んでるのに俺は弟呼びなんですか?」
カーニャさんの質問に合わせて、先程から気になっていた事を聞いてみた。
「そんなの、初対面で失礼な事を考えてたからに決まってるでしょ。まったく、双子と聞いたら皆同じ所を見るんだから。どいつもこいつも、胸、胸、胸、胸!そんなに大きい胸が好きか!そんなに脂肪の塊が良いか!」
始めは普通に答えてくれたカーニャさんだったが、今のが切っ掛けで色々と思い出したらしく、苛立った様子で独り言を零し始める。
「――背中を弓のように逸らし、白い喉を晒すシアン。その間もアレクに子種を注ぎ込まれているが、やがて力を………何か違う気がするな。ここはシアンお姉ちゃんが、もっと激しくイッた描写をした方が良いのかな?」
助手席を見れば、語りを終えたクレアがぶつぶつと言いながらメモ帳に執筆ネタを書き込んでいる姿。
「私に近づいてくる男は、皆お姉ちゃん目当て。私が告白しても「見た目と喋り方のせいか、カーニャの事を男友達として認識してるんだ。本当にごめん。」とか「カーニャが嫌いではないけど、俺はニャルカさんの方が好きなんだ、すまん。やっぱり男としては胸が、な?」なんて言わる始末!何が、な?なんだよ!胸じゃなくて中身を見ろよ、中身をよ!」
運転席を見れば、過去の出来事を思い出して怒りのゲージが急昇中のニャルカさん。
話し掛けたら大惨事になりそうな予感がした俺は、二人の独り言を聞きながら黙って外の景色を楽しむことにした。
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