東の町
「到着したけど、凄いな。高い建物ばっかりだ。」
見上げるほど高い建物が建ち並んでいた王都。
下から見た時にも多いとは思っていたが、空から見た事でより正確に建物の数や高さを分かってしまい、俺は驚きの声を漏らしてしまう。
「だろ?この高い建物は、俺の発案で改築させた物なんだ。こっちは低い建物しかなかったからな。」
「その言い方……兄さんの元居た所は、こんな大きな建物が普通にあるの?」
「あるな。」
「そうなんだ。」
普通に教えてくれた、兄さんの元居た世界。こんな大きな建物が普通にあるなんて、どんな街なのかと想像してしまう。
前の世界について俺は他にも話を聞いてみたかったが、兄さんにとっては昔の話。本来の目的である王都の案内をしようと話し始めた。
「ここは東の町だが、他の領地と同じく王都も東南西北の四つの町に区分けされている。」
「……区分けは分かるけど、なんで方角が麻雀用語?」
「あー……先週くらいに王都全域で麻雀大会が開催されてたんだが、練習のし過ぎで少し癖になってんだ。あんまり気にするな。」
顔を逸らしながら間違えた訳を話す兄さんだったが、恥ずかしさからか少し顔が赤くなっていた。
言い間違いが恥ずかしいのは分かるけど、見方を変えれば言い間違えるほど練習したとも言える。
そんな兄さんを笑う筈もなく、俺は気になった事を聞いてみた。
「その麻雀大会って、誰が優勝したの?やっぱり兄さん?」
「いや、俺は準優勝だな。優勝はあいつ、ライリーだ。」
そう言ってライリーさんの名前を出した兄さんの額には、その時の悔しさを思い出したらしく皺が寄っていた。
「へー、ライリーさんって麻雀をやるんだね。なんか、そういうのに興味無さそうに見えたんだけど。」
「その認識で間違ってないぞ。あいつは三度の飯より、実験や研究が好きなタイプだからな。」
「つまり兄さんと同類なんだ。」
「あいつと一緒にするな。俺はそこまで研究馬鹿じゃねえよ。」
ライリーさんと同類扱いすると一緒にされたくないらしく、兄さんは強く否定した。
「俺としては、あんまり変わらない気がするけどね。それで、興味がないなら何で参加してたの?」
「そりゃあ優勝を狙ってるからに決まってるだろ。何せ優勝賞品が、金貨三千枚と本人が欲してる物をプレゼントだったからな。」
「それはまた、豪勢な賞品だね。」
「だろ。ちなみにイントアも参加してたが、あいつは準決勝で負けてたな。」
「姉さんって麻雀できるんだ。」
聞いてもいない事を手紙でいろいろと教えてくれるのに、それは初耳だったな。
「まぁ麻雀を始めたのは最近だし、始めた理由が対戦相手を脱がせると知ったからだもんな。…………頑張れよ、アレク。」
「…………それは何の応援ですかね?」
応援の理由に気付かない振りをした俺は、麻雀から王都の案内へと話を戻すことにする。
「ところで兄さん、東の町の特徴って何?」
「それなら娯楽が多い所が特徴だろうな。東の町には大人から子供まで、遊べる場所が沢山あるぞ。」
「へー、大きな公園でもあるの?」
「公園だけじゃなく賭博場や娼館、キャバクラや玩具売り場があるな。」
「子供要素が公園だけで、殆ど大人の遊び場じゃねぇか!」
「おい、事故るから前を見ろ。建物にぶつかっても知らんぞ。」
教えられた遊び場にツッコんでいると、脇見運転を兄さんに注意されてしまう。
誰のせいだと思ってんだ。
兄さんの言葉に舌打ちしながらも、俺は前を向いた。
「確かに大人向けの店が多いかもしれんが――。」
「かもじゃなくて、多いんだよ。」
「――公園だけじゃなく、玩具売り場も作ってるだろ。まったく、人の話はちゃんと最後まで聞きなさいと教えたでしょ。」
「急に母親みたいな感じを出すのはやめろ。それに玩具屋で売ってるのって、絶対に子供向けの玩具じゃないよね?所謂、大人の玩具って言われてるやつだよね?」
「いや、普通に子供向けの玩具や人形を売ってるぞ。」
「……本当に?」
「あぁ、毎日子供が引っ切りなしに来てるくらい人気だな。」
「そうなんだ。……疑って、ご――。」
「ただそれは一階の話で、二階ではアレクの言う通り大人の玩具とかを売ってるけどな。」
疑った事を謝ろうとした矢先、ついでのように教えられた事実に謝罪の言葉が止まってしまう。
「やっぱり売ってんじゃねぇか。俺の反省を返せ。」
「そっちが勝手に反省しただけだろ。それに毎日子供が来てるのは本当だから、嘘は言ってないぞ。」
「だからって一緒にするなよ。子供が間違って入ったら、どうするんだ。」
「その時は軽く説明して、帰ってもらうに決まってるだろ。……まぁそれが切っ掛けで、性に目覚める子供が多いらしいけど。」
「教育に悪過ぎるだろ!?」
俺が言えた事ではないが、子供で性の芽生えは早くないか?そういうのは、もう少し大人になってから芽生えると思うんだけどな。
子供の早過ぎる性の芽生えに、いろいろと大丈夫か?と心配していたら「ちなみに……」と、ついでのように兄さんが話し出す。
「大人の玩具屋には、俺の世界にあるコスプレ衣装を置いているぞ。」
「コスプレ……あー、探偵とか巫女のやつか。」
コスプレという単語からクレアを連想して、彼女が着ていた服を言ってみる。
「それらもあるが、俺が置かせた衣装は俺の世界にある漫画やアニメ、ゲームのキャラだな。」
「兄さんの世界にあるキャラクター……。」
どうしよう……凄く気になる。ただ兄さんにあれだけ否定的に言った手前、自分からは少し言い出しにくい。
店の場所をどう聞いたものかと考えていたら、兄さんがわざとらしく咳払いをした。
「あー……今から俺は独り言を言うぞ、良く聞け。コスプレ衣装を置いている店は、東の町で一番大きな店にある。だから人に聞かなくても簡単に見つかる筈だ。」
「兄さん……。」
唐突に始まった、独り言という名の衣装を置いてある店の説明。店の場所を話してくれた兄さんに俺は尊敬の眼差しを向ける。
「ただ衣装は高いから、確実にアレクの持ち金だと買えないな。」
「コスプレ衣装って、そんなに高いんだ。」
そんな高い物、よくクレアはあんなに集めたな。
「だから欲しい衣装があった時は俺の名前を出せ。そうすれば元の値段から格段に安くなるから、お前でも一着、もしかすると二着は買える筈だ。」
「に、兄さん……!」
好き勝手なことを言ったというのに、弟の為にそんな事をしてくれるのか。
その懐の広さに感動した俺は震える声で兄さんと呼ぶと、「ふっ。」と笑って兄さんがこちらを見る。
「アレクが男になったプレゼントだ。嫁に着せて楽しみな。」
「兄さん!!」
王都の上空、誰にも聞かれぬ空の上。
兄からの予期せぬプレゼントに感極まった俺は、ヘリコプターの外に漏れそうな程の大声で兄さんと呼んだ。
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