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祭りの衣装

「入るぞー。レシア生きてるか?差し入れを持ってきたんだが…。」


 クレアの踊りと姉さんに頼んでいた事に確認を終えて、ケーキを持ってレシアに会いに店の中に入った。

 因みに初めはレシアさんと呼んでいたのだが、何度か会ってるうちに呼び捨てでいいと言われそうする事にした。


「「「…………。」」」


 中に入るとレシアも含めて従業員達も皆、床やソファー等至る所で横になっていた。


「…返事がないと思ったら死体しかないな。」


「誰が死体ですか!」


「あっ。生きてた。」


 死体扱いされたレシアの声で他の従業員達も起き始めた。


「死体扱いするなんて失礼ですね。折角服が完成したというのに。」


「おお、完成したか!あっ、これ差し入れのケーキ。」


「これはど……あーっ!」


「者どもケーキだ!」


『アレク様!ケーキありがとうございます!』


「いやそれほ……あっ、もう行っちゃった。」


 俺がレシアに差し入れのケーキを渡そうとしたら、受け取ろうとしたレシアよりも早くケーキと聞いた従業員が横から奪い、お礼を言って全従業員が休憩室に移動した。


「ちょっと、持って行くのはいいけど!私の分も残しておきなさいよ!」


 走り去っていく従業員に叫ぶが、返事が無かったので聞こえてるのかは分からない。


「数はあるから大丈夫だろ。」


「その考えは甘いですよアレク様!」


「どうした突然?」


 ここで仕事をしている従業員の数は覚えているので、一、二個は余裕を持たせて買ってあるんだが。


「いいですか!貴族であるアレク様は分からないでしょうけど、私達庶民からしたらケーキは高級で中々買えない物なんですよ!」


「いや、俺からして――。」


「だまらっしゃい!」


「……はい。」


 こいつケーキのことで頭がいっぱいで口調がおかしくなってないか?

 俺の話を途中で遮ったレシアは続けて話す。


「そんなケーキを人数分買って安心してたら大間違い!余っていたら二個目も食べようと壮絶な争いになる事は必至。普段仲が良い者同士でもこの時は敵!孤立無援…味方のいない状態でどうやって二個目を手に入れるか考えているのですよ!顔では――。」


「分かったから!もし全部食べられてたらレシアに買ってあげるから、今は祭りの話をしよう?」


 このまま喋らせていたらケーキの話だけで今日が終わってしまう。そもそも俺はケーキの話じゃなく、衣装等の話のために来たというのにこれでは何のために来たか分からなくなる。

 まだ不満そうな顔をしていたレシアだったが、なかったらケーキを買うと聞いて引いてくれた。

 取りあえず近くの椅子に座り祭りの話を始めた。


「そうですね。アレク様がここに来たのも祭りの話しですもんね。」


「そうだよ。じゃあ聞くが、二人が着る衣装が完成したのはさっき聞いたけど?」


「そうなんですよ!聞いてください!」


「お、おお…。」


 衣装の事を聞こうとしたらレシアは身を乗り出してきた。


「衣装が出来たのはいいのですが、二種類ありまして。」


「ん?始めは一種類だったけじゃなかったっけ?」


「そうなんですけど。従業員さんと話しているうちに熱が入っちゃって二種類作っちゃいました。」


「それでか……。」


 だから前に来た時は完成してなかったんだな。一種類だったら完成しておかしくないのに、まだ完成してないからおかしいと思ったんだ。


「まあいいや。で、どんな衣装なんだ?」


「はい。一つはアレク様が昔ルーベル様の部屋で見たと言う、セーラー服でちゃんと黒と白を用意しています。」


 そう言って二着のセーラー服を持ってきた


「おお!…これでイベントは盛り上げるぞ。」


「…でも本当にこのセーラー服って踊るための衣装なんですか?スカートが膝の上にあるせいで、これで踊るとパンツが見えそうなんですが。」


「そう言われても兄さんが踊る時の衣装って言ってたから…。」


「まあ、色んな物を作ったあの人が言うのだから正しいのですかね?」


「多分?」


 正直この衣装で踊ったらレシアの言う通りパンツが見えてしまうけど、兄さんが生きていた所ではそれが普通だったんだろうか…?

 まあいいや。もう一つの衣装も見ようか。


「頼んでいたのが完成して嬉しいけど、もう一つの衣装はどんな物?」


「もう一つの衣装が、その…あの…。」


「どうした?レシアらしくないけど?実は未完成とか?」


「いいえ。完成はしてるのです。…完成はしてるのですが……。」


「いいから、どんな衣装か見せてよ?」


「見せるのはいいのですが。……怒りませんか?」


 怒るってこいつどんな衣装を作ったんだ?


「怒るかどうかは見てからじゃないと分からんけど、取りあえず持ってきて。見ない事には始まらないしね。」


「……そうですね、持ってきます。」


 そう言ってカウンターの奥にある部屋に入って行った。どうやら思い付きの衣装は奥の部屋に置いてあるようだ。セーラー服は近くに置いてあったというのに余程見せたくないのか?

 少ししてレシアは紙袋を持って戻ってきた。


「……どうぞ。」


「ああ、すまんな。……おい。」


「はい?」


「はい?じゃないだろ。手を離さないと見れないだろうが。」


「…私ったらついうっかり。」


 そこまでして見せたくない衣装ってどんな衣装なんだ。

 そう思いながらも袋から衣装を取り出した。


「……ねぇ?」


「……はい。」


「…何これ?」


「…衣装ですね。」


「…さっきセーラー服を見た時、スカートが短くて動いたらパンツが見えるって言ってたよね?」


「…はい。言ってましたね。」


「どう見てもこっちの方が短くね?」


「そうですか?」


「「…………。」」


 お互い黙ってしまったが言いたい事は言うべきだな。


 俺は一度深呼吸をして一旦落ち着くとレシアを睨み。


「お前は人の姉と妹になんて物を着せようとしてんだ!?こんな醜い欲望の塊着せてたまるか!」


「だから見せたくなかったんですよ!」


「怒るよ!そりゃこんな衣装を着せて、人前で踊るって分かったら怒るよ!」


 レシア達が作ったもう一つの衣装は、ノースリーブで着たら動いてもギリギリ胸が見えない長さの服とセーラー服のスカートよりも更に短くなって動かず立っているだけでもパンツが見えてしまうスカートだった。


「でも、これで踊ったらイベントで盛り上がる事間違いなしですよ?」


「その衣装が間違いなんだよ!盛り上がるのは幼女好きな変態どもだけだ!こんなのを着せて幼女好きの変態を増やす気かっ!?俺の姉と妹が変態に襲われたらどうするんだ!?」


「大丈夫です!安心してください!もし邪な目でイントアさんとクレアさんを見るような人が居たら、私が責任を持って処分しますから!」


「人の姉を邪な目で見てる奴が言っても安心できるか!」


「失礼な!私をあんな下半身でしか見てない人達と一緒にしないでください!」


「ほー。自分は違うと?」


「はい!イントアさんを見て発情する人と違って、私はイントアさんのペットになれ――。」


「内容が違うだけで大差ねぇじゃないか!この変態が!」


 初めて会った時は姉の友達にしては珍しくまともだと思ったが、何度か会ってそれが勘違いだと分かった。こいつも姉と同じような奴だと。

 過去に戻れるならまともだと思った自分を殴ってやりたい。


「大体アレク様はずるいです!普段からイントアさんに抱き着かれたり、一緒に寝たりして。」


「抱き着かれるのは断っても無駄だと知ってるから諦めてるし、一緒に寝るのはいつの間にか入りこんでるんだよ!一回も誘った覚えはない!」


「私だってイントアさんに抱き着かれたり、一緒に寝たいです!」


「それだけ?他にしたい事は?」


「いえ!他にはご飯をお互いに食べさせあったり、色んな服を着せたり、お風呂にも一緒には、いった、…り……。」


「そう…。」


 急に姉さんが出てきたら流石にレシアも驚くか。しかも本人が聞いてるのにその人としたい事を話させるって何の罰ゲーム?まあ、レシアにとっての幸いはペットになりたい発言を聞かれなかった事だな。姉さんが出てきたのは「ずるいです!」からだったしな。

 俺の後ろから現れた姉さんは少し考えると下げていた視線を上げレシアの方を見て。


「ねぇレシア?」


「……はい。」


 先ほどまでの勢いがなくなり大人しくなった。まるで判決を待つ罪人みたいだな。


「今回のアレクのイベントが成功したら、一日あなたのしたい事をしてあげますよ。」


「えっ!?」


「それにレシアが考えてくれた、この衣装。これを着て踊るわね。」


「ちょ――。」


「やったーー!!約束ですよイントアさん!約束しましたからね!はっはっは!我が世の春が来たーー!!」


 姉さんの予想外の発言に俺は止めようとしたがその声はレシアの声にかき消され、レシアは走って休憩室の方に行った。

最後まで読んで下さりありがとうございます。

次回も楽しんで読んでください。


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