お願いを決める
これはマズい事になった。早く決めないと、監禁されながら毎日搾り取られる生活になってしまう。
姉さんのお願いという名の野望を阻止するため、俺は急いでシアンのお願いを聞き始めた。
「シアン、他に何かお願いはないのか!?お酒とか、お酒とか、お酒とか!」
「何ですか、その選択肢は!?お酒しかないじゃないですか!」
「そう言うけどシアンのお願いなんて、それしか思い浮かばないんだよ!他に何かないのか!?」
「他のお願い……。」
俺に言われて言葉を選ぶように考え始めたシアンは、何か思いついたらしくポンと手を打った。
「叶えてくれるなら、クレアちゃんの撮影をしたいですね。」
「クレアの撮影?」
「はい、クレアちゃんにいろんな服を着せて撮影するのです。」
「まぁクレアが許すなら、そのくらい良いけど。」
「本当ですか!?ありがとうございます、アレク様!」
俺が許可を出すと、その場で踊り出すのでは?というくらい、シアンは喜びを露にした。
喜びすぎる気もするが、一回で決まって良かったよ。これで姉さんとの監禁生活から逃れ――。
「やった!これでクレアちゃんのアイドル服にチアガール、水着にメイド――。」
「ちょっと待てや。」
ホッとしたのも束の間。シアンの口から出た服のチョイスに待ったを掛けた。
「はい?どうしましたか、アレク様?」
「どうしましたか?じゃないわ!今、言った服をクレアに着せる気か!?」
「ええ、そうですけど。駄目でしたか?」
「駄目に決まってるだろ!そんな服を着せると知ったからには、クレアの撮影は兄として却下する!」
「そんなっ!?お願いですから撤回しないでください!クレアちゃんの衣装姿は貴重なんですよ!」
「いくらシアンの頼みでも、撤回する気はない!どうしても衣装姿が撮りたいなら、クレアの代わりにラーシェに頼め。あいつなら喜んで撮らせてくれるぞ。」
クレアの代わりにラーシェの名前を出すと、シアンの額に皺が寄り見るからに嫌そうな顔へと変わる。
「撮らせてくれるというか、ラーシェは頼んでもいないのに自分の写真を渡してくるので、既に何枚か持っています。」
「……何してんだ、あいつ。」
ラーシェの行動に呆れながら、シアンの方も嫌なら捨てればいいのにと考えてしまう。
「そうしたいのですが、私のために撮った写真を捨てるとラーシェが傷つきそうですからね。流石に捨てるのは躊躇ってしまうんですよ。」
「ラーシェ相手に躊躇う必要はないと思うけど。まぁ自分が捨てたくないなら、俺が言う事でもないか。」
「そうしてくれると嬉しいですね。いくらアレク様に言われても、私は写真を捨てる気は無いですから。」
「…………お前、表情の割にラーシェの写真を気に入ってるだろ?」
「さぁ、どうでしょう?その質問に関しては、アレク様相手でも秘密にさせてもらいます。」
秘密と言って口の前に人差し指を立てるシアンだったが、その顔は先程と違い楽しそうに笑っている。その表情で白状しているようなものだが、それ以上は追及せずに話をシアンのお願いへと戻した。
「それでクレアの撮影以外に、何かお願いしたい事はないのか?例えば……お酒とか、お酒とか、お酒とか。」
「アレク様、基本的に天丼ネタは受けませんよ。ボケるなら天丼ではなく、恥を捨てて振り切らないと。」
例えを聞いたシアンが残念そうに言う。
「ボケたつもりはないが、他に思い付かないんだから仕方ないだろ。何かないのか?欲しい物とか、行きたい所とか、やってみたい事とか。」
「欲しい物だと許可証が欲しいですね。アレク様がヴィクトリア様に掛け合って、安くなるように頼ん――。」
「そんな事をしたら、母さんに殺されるから却下に決まってるだろ!次!」
「では、クレアちゃんの魅力が詰まった可愛らしい写真を何枚かください。アレク様が撮影するので、問題ないですよね?」
「問題はないけど、俺にそんな撮影技術は無いから写真はラーシェに頼め。次。」
「これも駄目となると、ラーシェの弱点をお願いします。ここ最近、ラーシェの行動が怪しかったので、それを使って白状させるんです。」
「ラーシェの弱点はシアンだろ。目の前で大っ嫌いとか言えば、すぐに白状するはずだ。次。」
「そうなると――。」
思い浮かんだものを次々に言うシアンだったが、お願いと言うには簡単すぎたり、難しすぎたりで中々決まらなかった。そして二十個目を却下した辺りだろうか。
遂にその時が訪れる。
「――の人達を集めて、ドキッ!メイドだらけの水着大会!ポロリもあるよ、はどうですか?これならアレク様も喜びますよね?」
「喜びはするけど、そんなのを開催したら母さんから殺されるだろ。それにシアンの胸を他の男共に見せる気はないか――。」
「アレク、少し良いかしら?」
シアンのお願いを却下と言おうとした時、離れていた姉さんが話し掛けてきた。
これはもしかして……いや、まだ決まった訳でない。姉さんの口から決定的な言葉が出るまで、俺は信じないぞ。
脳裏に浮かんだ不吉な言葉を頭の隅へと追いやり、普段通りを意識しながら姉さんに言葉を返す。
「なに、姉さん?まだシアンのお願いを決めてる最中なんだけど、もう少し待ってくれない。」
「あら、そう……考えるのに少し時間を掛け過ぎたと思ったけど、まだ決まっていないだなんて、これも日頃の行いかしら?」
「姉さんって、起きたまま寝言を言えるんだね。」
「どういう意味かしら?」
「あ、いや、意味なんて特には。それより何の用?」
心臓の鼓動が早くなるのを感じる。
姉さんに気付かれず、俺は平静を装えているだろうか?
俺の心情を知ってか知らずか、優しい微笑を姉さんは向けてくる。
「分かりませんか?ようやく決まったので、それを伝えに来たのですよ。」
「一応聞くけど、その決まったというのは……。」
「もちろん、アレクへのお願いに決まってるじゃないですか。」
予想していた言葉を出てしまい、俺は膝をついてしまった。
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