姉の教えと汗
「イントアさん、クレアさん。長い時間お持たせしてすみません。待っている間暇だったでしょ?」
俺らは祭りに関してきりの良いところまで話二人が待っている場所に戻ると、すぐにレシアさんは二人に頭を下げた。
「そうでもないわよ。待ってる間クレアちゃんにいろんな服を着せて楽しんでいたから。」
「お着換え楽しかった。」
優し気な笑みを浮かべながら答える姉さんと着替えが楽しかったらしく笑顔のクレアは、待たせられた事を気にしていなかった。
「それは良かった。あっ。あとで姉さんとクレアにお願いがあ――。」
「アレクのお願いを断る訳ないでしょ。何でも聞きますよ。」
「うん。それは嬉しいけど話は最後まで聞こうか。」
「私もお兄ちゃんのお願いなら聞くよ。」
「うぐぐぐ。イントアさんに何でも聞いてもらえるなんて。……羨ましいっ!」
姉さんが何でも聞くと聞いて、羨ましそうにしているレシアさんは無視するとして、話を全部聞く前に聞いてくれるのは嬉しいんだがちゃんと聞いてから判断してね。全部聞かないと酷いお願いをされるかもしれないんだからさ。
「クレアも嬉しいけどまずは聞いて。それでお願いしたい事だけど――。」
「――をお願いしたいんだけど、大丈夫かな?」
「聞いてみたけど大丈夫だよ!私動くの好きだし。」
「私の方は、一応聞いてみますが期待しないようにしてください。あの子たちも自分の家でゆっくりとしたいでしょうから。」
「まあそこは仕方ないよ。じゃあ二人ともお願いね。」
「任せといて。お兄ちゃんのために頑張って覚えるから。」
「ええ。その代わり上手くいったら…。」
「……分かってるよ。」
「分かっているなら良いのです。あとレシアさんも準備をよろしくお願いしますね。」
「はい!私に任せてください!イントアさんのためなら職人を総動員して最高の物を作ります。」
「…え、ええ。その意気込みは嬉しいですけど、無理をして身体を壊さないようにね。」
おお。レシアさんの勢いに負けて、たじろでいる姉さんだけどそんな姿初めてみたな。
今日は遅いので動き出すのは明日からだが、イベントのための自分たちの役割が決まった。
「よし。祭りで一位を取るぞ!えいえいっ。」
「「「おーっ!」」」
――――――――
レシアさんの店で祭りで行うイベントの話をして一週間が経った。あと三日で祭りが開催される。
準備をしている時に聞こえた話によると、シアンは同僚の使用人達で店を開くようで、カゴットも実家の店で仲の良かった人達で販売をするらしい。シムは住んでいる家が違うので何をするか分からないが服屋でよく見かけると聞いた。
そして俺の方の準備はというと。
「はい、クレアちゃん。そこでこうターンをして。」
「こ、こう?」
「上手ですよ。そしてお客さんに向かって手を振ってください。」
「はい。」
「うん。初日に比べて随分と成長しましたね。」
「先生の教え方が良いからだよ。」
「嬉しい事を言ってくれるわ。少し休憩にしましょうか。」
「はい。」
俺は姉さんに聞きたい事があったので屋敷にある踊りの練習をするための場所に来ていた。俺が行くと丁度クレアに休憩を告げて、姉さんは音楽が流れている魔道具を止めるとこだった。
「クレア、姉さん。調子はどうかな?」
「あっ、お兄ちゃん!」
「アレク!」
休憩に入って邪魔にならないだろうと思って声を掛けると、二人は俺を見るなり走って腕と体に抱き着いてきた。
踊りの練習をしてたのにあなた達元気ですね。
「ええい、来るたびに引っ付くな。離れろ。」
「「嫌です(だ)。」」
「大体姉さんが抱き着くのはいつものこととして、クレアは前まで汗の臭いを気にして抱き着かなかっただろ?」
「それはいいの。もう大丈夫だから。」
俺の疑問にクレアは笑顔で答えた。
いや女の子なんだからそこは気にしようよ。いったい何が大丈夫何だか…。
「私が汗の臭いを気にしていたら、お姉ちゃんが言ったの。」
……聞きたくない。聞かなくてもなんとなく分かる。絶対ろくでもない事を話しただろ。
だけど流石の姉さんもクレアにはそういった話はしないかもしれないという、僅かな望みに賭けて一応聞いておこうか。
「何て言ったの?」
「「世の中には汗の臭いが好きな人もいるから、お兄ちゃんもそういうのが好きですよ。」って。」
それを聞いた瞬間、俺は姉さんの頭を叩いたが仕方ないと思う。
「この変態がっ!クレアに何を教えてるんだ!」
「いたっ!もう、女の子を叩いたら駄目じゃないの。」
姉さんは頭をさすりながら不満そうに言うが知った事か。
「叩いたら駄目なのはクレアみたいな普通の女の子であって、姉さんみたいな教育に悪い人は叩いて良いんだよ。」
「女性の差別はいけませんよ。」
「差別じゃない分別だ。ちゃんと普通の子と変態で分けている。」
「人を変態扱いなんて失礼ね。」
「姉さんはクレアに対して失礼なんだよ!純粋なクレアに何嘘を吹き込んでんだ!?」
「だってクレアちゃんが臭いを気にしていたから、気にしなくていいようにと思って。」
「他に言い方が合っただろ!?何で俺が汗の臭いが好きって事にした!そんな事一回も言ったことない筈だけど!?」
「だってアレクは、汗をかいた私が抱き着いても嫌な顔をせず、抱き着かせてくれるでしょ?」
「それは振りほどいても抱き着いてくるから諦めてるんだよ!」
この変態の中で俺はどういう人と思われてるんだろうな。取りあえずこの変態よりもクレアだ。
「いいかクレア。確かにそういう臭いが好きな変態はいるが、俺はそういうのが好きな人じゃないからな。いたって普通の人だ。」
それを聞いてクレアはショックを受けて俺から離れた。この変態はクレアになんて嘘を吹き込んでいるんだ。
「でも好きな子の匂いはどんなのでも好きって聞きましたよ。」
「……誰に。」
「お母様ですね。」
それを聞いて思わず頭を抱えてしまった。姉がこうなったのってやっぱり母さんの教育のせいだろ。親が子の教育に失敗したらこうなってしまうのかな?
「お兄ちゃん大丈夫?」
「………うん。」
この姉はもう駄目だけど、クレアはこうならないように守らないと。
俺がクレアを守ると新たに決意したところで、抱き着いたままの姉さんが聞いてきた。
「ところでアレクはどうしてここへ?」
「姉さんに聞きたい事があったからだよ。」
「あら何かしら?お姉ちゃんの部屋で寝たいとか?」
「それは絶対にない!」
姉さんの部屋で寝たら二度と太陽を見ることが出来なくなりそうだ。
「お姉ちゃんの部屋で寝るのが嫌って言ってるけど、お兄ちゃんの部屋では一緒に寝てるよね?」
まあ、一緒に寝たくないとか言いながら俺の部屋で一緒に寝てるのは疑問に思うか。
「いいかクレア。一緒に寝てるんじゃない。勝手に寝てるんだ。」
「…どういうこと?」
「……この姉は鍵を掛けても毒で眠らしても朝起きると何故か、俺の布団で寝てるんだよ。」
「……うわー。」
話を聞いてクレアは引いてるけど…。うん。その反応は分かる。カゴットとシムに話した時も全く同じ反応をされたし。
「なんかお姉ちゃんって話を聞くほど呪いの装備みたいだね。捨てても荷物に入ってる、みたいな。」
「解呪したいんだけど……。」
教会に行けば解呪できるかな?無理か。この姉を離す方法がないか今度兄さんにでも聞いてみるか。
「あの、アレク?話が脱線してますが結局どういった用件でこちらへ?」
確かに話が脱線していたがまさか姉さんに戻されるとは思わなかった。クレアも同じことを思ったらしく驚いた顔をして姉さんを見ている。
「何ですかその反応は?この後もお祭りに向けて踊りの練習をしないといけないのですよ。」
「ああそうだったね。邪魔してごめん。」
頼まれごとをされたら意外と真面目に取り組むんだな。普段は手の付けれない変態と思ったけど、ちょっと見直したよ。
「いえいえ。ここで我慢をすることでお祭りに貢献して、そのご褒美に……ふふふふ。」
うん。ちょっと見直したけどやっぱり訂正で。折角見直したのにこの姉は自分で下げていくもんな。
「まあいいや。このままじゃ、いつまで経っても話せないから言うけど。姉さんに頼んでいた人達はどうなったの?」
「その事ですか。何人かは日程が合わずに無理でしたがほとんどの方が来てくださると返信がありました。」
「それは良かった。クレアの方は?」
「ええ、そちらも問題ないですよ。東西南北のそれぞれの町で名前を憶えられ、町の人に可愛いがられてますね。」
「よし。これである程度は大丈夫そうだな。クレアよくやった。」
「えへへへ。」
頭を撫でるとクレアは嬉しそうにした。
「でも私、お姉ちゃんと町を歩いて町の人達と話しただけだよ?」
「クレアはそれでいいんだよ。じゃあ俺はレシアの方に行くから踊りの練習頑張れよ。」
「任せておいて。いっぱい練習してお客さん喜ばすから。」
「ええ。私がしっかり教えてあげますから任せてください。」
「…教えるのはいいけど、さっきの臭いみたいな事をクレアに教えるなよ。」
「分かってますから、安心してください。……さぁクレアちゃん、次はメイドさん達も入れて一緒に踊りましょうか。」
正直あんまり安心できないけどここは姉さんに任せるか。あんなのでも一応姉なんだから、ちゃんと教えてくれるだろ。
余計なことも教える時があるけど。
そうして練習場を離れ、レシアの店に向かった。
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