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姉さんの友達

「すまんなドワン。二人が脅迫まがいをしたせいで、無料にさせて。」


「いや、俺が長い事待たせたのが悪いんだ。それに女の人は甘い物が好きと知っていたが、ここまで甘い物が好きとは思ってなかったから俺の認識不足でもあるから、これは勉強代と考えておくよ。」


 ケーキ三つ無料で許してもらえて、ドワンの店を潰させずに済んで良かった。今は手荷物になるから、と焼肉店で貰ったお土産も合わせて俺の収納の中へ入れている。

 二人が脅して無料にした感じもあったので、二人にバレないようにお金を払おうとしたが全額は受け取らず、四個分のケーキ代を受け取ってくれた。


「そうですよ。男が女を待つのはいいですが、女を待たせる男は最低ですよ。二人とも覚えておきなさい。」


「「はい。」」


 俺たちが姉さんに注意を受けていると、クレアはケーキを貰えて満足したのか俺の腕を引き。


「お兄ちゃん。そろそろ次のお店に行こ?」


「ああ、そうだな。」


 ……さて次は何処に行くか。時間を見るとまだまだ時間はあるし。


「反対の方角になるけど東の町に行ってみるか。」


「東の町?」


「いいですね。あそこは色んなお店があって楽しいですから。」


 俺が行き先を告げると姉さんも賛成してくれたし東の町で決定だな。


「じゃあ俺らは出るわ。」


「おう。町の中は安全だと思うけど気を付けてな。」


「ケーキ屋のお兄ちゃん、バイバイ。今度は買いに来るね。」


「ああ、バイバイ。次に来た時は魔法は勘弁してくださいよ。」


「ではこれで。次はお客さんを待たせることの無いように。」


「はい。二度としません。」


 ドワンの店を出ると俺らは手を繋いで東の町へ向かった。



「……はあ。ようやく着いた。」


「……ええ、本当にようやくですね。」


「わあー。いろんなお店があって面白そうだね、お兄ちゃん。」


「…よく元気だなクレア。」


「だってこの町、面白いのが多いんだもん。ジッとしてられないよ。」


 東の町に着いたが俺と姉さんは疲れはて、元気なのはクレアだけだ。今は町の入り口にあるベンチで休んでいる。

 ドワンの店を出て俺らは東の町に向かったまでは良かったが、あの後もクレアが色んな店に興味を持ちそのお店に入って行ったせいで思ったよりも時間が掛かった。入る店が多かったのもあり姉さんも流石に疲れているらしい。

 しかも入るほとんどのお店でクレアは店員達に可愛いがられ、お土産を渡されていた。また店に買い物に来ていた年寄りも孫に買い与えるような感覚でクレアに買い与えようとしていた。買い与えようとした年寄りには丁重に断り、貰ったお土産は荷物になるので今は俺の収納の中に入れている。


「まあ、東の町は店が統一してないもんな。」


「そうですね。けれど、そこがまた面白いのですけど。」


「ねぇ。喋ってないで早く行こうよ。」


「そうだな。じゃあ行くか。」


「楽しむのもいいですが、お祭りの事も忘れないように気を付けてくださいね。」


「「はーい。」」


 クレアが早く町を見たいらしく、俺らは休憩をやめて町の中へ入って行った。


 町に入るとクレアは周りの店を見ながら。


「こうやって見ると本当に統一感がないね。」


「だろ。」


 そう言って辺りを見回して見える店は、魔道具屋に木材屋。ポーションの店に冒険者ギルド、大きい学園に通うお金がない人用の教え場等がある。


「…うーん。色んな店があるのはいいけど祭りのヒントになりそうなのがないな。」


「そもそもアレクは屋台とイベント。どちらをやろうと思ってますの?」


「出す物によるけど、今のところはイベントかな。」


「春にするようなイベントって何かあったかしら?」


「出来たら季節にあったイベントがいいけど、思い付かないなら無理に季節に合わせなくてもいいだろ。」


「それもそうですね。……あっ、そういえば。」


 姉さんと祭りについて話していると何か思いついたのか、急に止まった。そのせいで手を繋いでいた俺はこけそうになり、それを見て俺の手から離れて店を見ていたクレアも心配そうに戻って来た。


「うおっ!……急に止まらないでよ危ないな。」


「急に止まって、ごめんなさいアレク。」


「大丈夫お兄ちゃん?」


「ああ。急に止まったからそれでこけそうになっただけだ。で、どうしたの急に止まって。何か思いついた?」


「いえ。そういう訳じゃないのですけど、この町に私の仲の良い子の店があったなと思いまして。」


 その言葉を聞いて俺は愕然とした。この変わり者の姉に仲の良い子が出来るとは思ってもいなかったからだ。


「それ本当に人間?魔物が変化してない?」


「失礼な。ちゃんとした人間ですよ。」


「実は姉さんだけが友達と思っていて向こうはそう思ってないとか。」


「ちゃんとその子とは友達です!毎週手紙を送るとその倍の返信が返ってくるような几帳面な子なんですよ。」


「だって姉さんと仲の良い人なんて想像が付かないよ。」


 俺の言葉に姉さんは珍しく機嫌を悪くしたようだ。しかしこの姉は知人の話は聞くが、自分から仲が良いなんて聞いたことがないのだからこの反応も仕方ないだろ。


「…そういえばアレクに話した事が無い人だから、知らないのも仕方がないですね。」


「まあ話されても困るんだけど…。基本的に姉さんの話す知り合いは、変わり者が多いんだからさ。」


「そうですか?皆さん話が合う人達なのですが。」


「そりゃあ、犯罪者同士話が合うだろ。」


「ねえ。ここに立っていたら邪魔になるから、お姉ちゃんの友達の家に行きながら話そう?」


「確かにそうですね。道の真ん中で立っていたら通行の邪魔になりますから歩きましょうか。」


 クレアに注意されて他の人達の通行の邪魔になっていると気づいた俺たちは、姉さんの友達の家に向かいながら話す事になった。


「さっきお兄ちゃんが言ってた、お姉ちゃんの知り合いはどんな人なの?」


 どうやらクレアは姉さんの知り合いが気になるようだ。本当は教えたくないが俺が教えなかったら、どうせ姉さんの方から聞くんだし教えとくか。


「名前はちゃんと覚えてないけど、その人達がやっている事と言えば。えー、兄が捨てた物を保管する人に――。」


「……えっ。」


 俺が一人目を言うと、想像以上だったのかクレアは固まったが続けていく。


「夜這いする人、盗聴器を仕込む人、監禁しようとする人、盗撮する人に常に居場所を把握している人。それに料理に――。」


「もういいから!それ以上話さないで!」


 まだ話していない人がいるのだが、どうやらクレアは限界のようだ。


「というよりもそれ、お姉ちゃんのことじゃないかな!?」


「まあ今言った事の大半はやってるよな、この姉。」


「当たり前でしょ?常に好きな人の事を知りたいと思っていたら、そのような行動は普通にするでしょ?」


「「するわけないだろっ(でしょっ)!!」」


 俺とクレアの否定の声は見事に重なった。


「それにいくら私でも弟の血を採取して飲んだり、料理に体液を入れたりしないわよ。そんな事をしたら食材が駄目になってしまうでしょ。」


「流石毒を入れた人は言う事が違う。」


この姉に何回、毒入り料理を食べさせられようとした事か。


「…お姉ちゃんの話を聞いて私、お兄ちゃんと兄妹になれて良かったと思うけど、お姉ちゃんと姉妹になったのは失敗かなと思い始めたんだけど。」


「お兄様が言ってましたが、一長一短と言うやつですね。」


「初めて聞くけど、それってどういう意味?」


「確か長所もあれば短所もある、という意味でした。」


「つまりクレアは俺と兄妹になれたのが長所で、姉さんと姉妹になったのは短所という事か。」


「失礼ですね。私と姉妹になれたのが短所だなんて。王都に居た頃はお姉ちゃん、お姉ちゃん、といつもくっついていましたのに。」


「だって王都に居た時、お姉ちゃんだけが毎日私に会いに来て遊んでくれたんだもん。優しくてきれいな人だなって憧れてたのに、…まさかこんな人だなんて思わないよ。」


「ごもっともで。」


 どうやらクレアは姉さんの印象が優しくて綺麗な憧れの姉だったのが、帰省して俺に会ったことで本性を出した結果憧れが崩れたっぽいな。

 クレアもそうだがこの町に住む大半の少年、少女は姉さんに一度は憧れを抱くけど本性を見てその憧れが崩れる人が多いんだよな。

 因みに関係はないけど、ナルスタック領に住んでいる少年の初恋相手はシムが圧倒的に多く、男と知って失恋するまでが流れだ。


 姉さんやその知り合いの話をしながら歩いていると目的の店に着いた。

 店は三階建てで普通の大きさだ。店に入る前に周りを見るも大抵の店にある物が無い。


「お姉ちゃん、何このお店?看板がないんだけど。」


「そうね。でもここのお店はあえて看板を出してないって言ってたわ。」


「……それ商売する気ある?いや看板を出さない店もあるのは聞いたことがあるけど。」


「まあ、ここで喋ってても仕方がないから中に入りましょ。」


 そうして俺らは姉さんに手を引かれて店に入っていった。


 中に入ると服が沢山並べてあった。どうやらここは服屋のようだ。

 姉さんはレジの置いてあるカウンターに行き店員と話すと、店員はカウンターの奥にある扉へ入って行った。しばらく待つとその扉から一人の女の人が走って出てきた。


「イントア様お久しぶりです!いったい何時帰られたのですか?」


「久しぶりねレシア、帰ってきたのは四日ぐらい前なの。あと、いつも言ってるけど様は要らないわよ。」


 出てきた女性は姉さんより少し身長が高いが、なんか大好きな姉に久しぶりに会えて喜んでいる大きな妹にしか見えない。姉さんは少し話すレシアを連れてこちらへ来た。


「紹介するわね。この子はこの店の娘でレシア。で、こちらが私の弟と妹のアレクとクレアよ。」


「初めましてレシアさん。アレク=ナルスタックです。」


「クレア=アンバーです。」


「初めましてアレク様、クレア様。イントアさんの友人でこの店の娘のレシアと言います。」


「あの、レシアさん。俺も姉さんと同じで様は付けなくていいよ。あと口調ももう少し柔らかくして良いから。」


「私もお兄ちゃんと一緒で様はいらないよ。」


 俺らが様はいらないと言ったら一瞬驚いた顔をしたが、すぐに嬉しそうな顔をしてお礼を言った。


「ではお言葉に甘えて、楽な喋り方にさせてもらうね。」


「うん。そっちの方が俺も喋りやすいな。」


 お互いに自己紹介をするとレシアさんは姉さんの方を見て。


「ところでイントアさん。会いに来てくれるのは嬉しいのですが今日はどうしました?」


「今日は十日後に開催されるお祭りでこの子達と他に何人かいるのだけど、お祭りで盛り上げるように頼まれたのよ。」


「それはまた…。大丈夫なのでしょうか?」


「それがさっぱりなのよ。今はいろんな町を歩いて、何かヒントになりそうな物はないかと探しているのだけど……。」


「思い付かなくてこの町に来て、ついでに私に会いに来てくれたと。」


「そうね。何かいい案はないかしら?」


「いい案ですか…。」


 そう言ってレシアさんは考え始めた。何というか、姉さんの友達というから心配してたが普通の人だな、レシアさん。

 祭りを盛り上げるために考えていたレシアさんは何か思いついたのか顔を上げ、俺を見た。


「アレクさん祭りの予算はどうなってますか?」


「予算は家から出してもらえるが、借金として渡されるから売り上げで返済だな。」


「次にクレアさんに対する町の人の反応は?」


「クレアの…?」


 えっと。今日見ただけだけど、クレアに対して町の人の反応は…。


「行ったのは飲食店街だけだからそれでいいなら。クレアは町の人達には人気だったぞ。」


「よし。そのイベントはイントアさんも協力するんですよね?」


「頼んではないけど、そうなってるな。」


「私も協力をするのでちょっとこちらへ。お二人は少々時間が掛かるのでそちらの椅子に座って待っていてください。誰かお菓子とお茶を用意して。」


 二人を座らせ他の店員にお菓子等を持ってくるように頼むと、俺はレシアさんに手を引かれ店の隅へ移動した。レシアさんはドワンと違ってそういった事に気が回るんだな。

 そう思いながら店の隅に移動すると、まずはあの二人に聞かせると都合が悪いからなのか聞いてみることにした。


「で?あいつらには聞かせるとマズい話か?」


「いえ、そういう訳ではないのですが。あの、アレク様の家に魔道カメラは置いてますか?」


「魔道カメラ?…まあ置いてあるな。」


「それを使う事は?」


「話してみないと分からないが、多分大丈夫だ。」


「もし魔道カメラが使えるなら一気に稼げる方法がありますよ。」


「それは本当か!?」


「ええ。その代わり私のお願いも少し聞いてください。」


「出来ることならな。」


 そう言って俺とレシアさんはイベントの内容に関して話していった。



 二時間くらい経っただろうか。ある程度イベントについてきりの良いとこまで話せたので、今日はこれで切り上げる事にした。


「思ったより時間が掛かりましたが今日はここまでにしましょう。…これ以上はお二人を待たせる訳にはいきませんし、この話はまた後日。」


「そうだな。これ以上待たせると何をするか分からないし戻るか。レシアさん今日はありがとう。レシアさんのおかげでいいイベントになりそうだ。」


 そう言って俺とレシアさんは二人の方へ戻って行った。

最後までお読みいただきありがとうございます。


次回もお楽しみください。

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