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信用のない考え

 聞き間違いだろうか?今、屋台の人に出禁と言われたような……いや、多分気のせいだな。俺が何かと聞き間違えたんだろう。もう一度、子供らしく言ってみるか。


「おじさん、魔法射的を一回分お願――。」


「だから、アレク様は出禁ですって。」


 再び言われて理解する。どうやら出禁という言葉は聞き間違いでは無かったようだ。


 取りあえず思うのは、何故に?という疑問と、この屋台は何もしてない客を出禁にするのか。という怒りだが、まずは落ち着け。もしかしたら尋常ならざる、やむにやまれぬ事情があるかもしれない。

 俺としても年に一度の花見を感情のままに動いて、大惨事に変えるのは本意ではないからな。ここは話を聞いてみるか。


「ちょっと聞くけど、なんで俺が出禁になってるんだ?この屋台に何もしてないよな?」


「確かにアレク様は何もしてないですが、射的を行うと問題を起こすから出禁にしとけと言われたんですよ。」


「へー……。」


 店主の話を聞いて、思わず低い声が出てしまう。


 常日頃から問題を起こしてる訳でもないのに、随分と失礼な奴だな。これは花見を盛り上げる為に一度、花火を打ち上げるか。


 出禁にした犯人が空に打ち上がるのを思い浮かべながら、誰が言ったのかを知る為、店主に話し掛けた。


「それで、俺を出禁にした人の名前って分かる?その人に会いたくなったんだ。」


「えー……、あー……、そのぉ。やめといた方が良いかと思うんですが。」


「大丈夫大丈夫。少し、その人とお話するだけだからさ。」


 止める店主に笑って答えると、これ以上何を言っても無駄と理解した店主はため息を吐き出す。


「……そうですか。なら話しますが、アレク様を出禁にしたのはヴィクトリア様ですよ。」


「…………うん?」


「だからヴィクトリア様ですって。」


 俺の反応を見た店主が、もう一度言ってくれる。


 マジか……。クレアの時と同じく話し合って決めたと思ったのに、寄りにもよって俺を出禁にした犯人が母さんとは思わなかったな。


 仕返しを実行すれば確実に返り討ちに遭う相手。

 母さんの名が出た事により、頭の中に思い浮かべていた出禁の犯人が空に打ち上がる姿は消えて。代わりに俺が、氷漬けか空に打ち上がる姿が思い浮かんでしまう。


 とにかく射的が出来ないなら、ここに居ても仕方がない。クレア達の元に戻ろう。


 申し訳なさそうな視線を背に、俺は皆の方へと歩き出した。


「――ちゃんが関わると、先生も良くフラグを……あ、お兄ちゃん。」


 離れた後もフラグについて話していたクレアは、俺が近づくと話を中断してこちらを向いた。それに釣られてシアンやラーシェもこちらを向く。


「どうしたの?開始位置はあっちだよ。」


 そう言ってクレアが指を指すが、俺は首を振る。


「いや、場所が分からないんじゃなくて、射的が出来んかったんだ。」


「出来ない?お金が足りないとかじゃ無いですよね。」


「金ならクレアに四、五回奢れるくらいは残ってるよ。」


「なら、射的の弾切れ……な訳ないか。弾は自分の魔法だもんね。」


「魔法じゃなくても、弾切れを起こすほど繁盛しそうにないけどな。」


「では、どういう理由で戻って来たんですか?」


「まぁ、随分と予想外な事態なんだけど――。」


 そこで射的屋で聞いた話を三人に話す。


「――う訳で、母さんのせいで出来なかったんだよ。」


「へー、そんな事があったんだ。」


「出禁は予想外ですが、理由を聞くと納得出来ますよね。流石はヴィクトリア様です。」


「お兄ちゃん、そろそろ日頃の行いを改めよ?」


「改めるも何も、日頃の行いはそこまで酷くないと思うんだけど!?」


 話を聞いたクレアが肩をポンッと叩いて言うが、クレアとシアンは母さんの味方かよ。


 一番気持ちを分かってくれそうな二人に慰めてもらえず内心悲しい思いをしていると、話を進めようとラーシェが話し出した。


「それで勝敗はどうしましょうか?やはりアレク様が出禁で射的が出来ない以上、こちらの勝ちですかね?」


「いやいやいや、それは無い。絶対に無い。」


「なら金魚すくいの時みたいに誰かを代理にするの?」


「では、私がアレク様の代わ――。」


「気持ちは嬉しいが、また木剣を振り回す気か。」


「そして次は屋台が真っ二つ。お兄ちゃん同様、シアンお姉ちゃんも出禁になりましたとさ。」


「それ以前に、出禁にする屋台が無くなってますけどね。」


 昔話風に話すクレアにラーシェがツッコんでいるが、屋台が真っ二つになるほどの威力だと周りにも被害が出ると思うぞ。


「なら先生を代理にする?腕前良しの遠距離魔法を持ってる先生なら、安心して任せれると思うよ。」


「確かに魔法の腕は良いが、ラーシェの場合だとシアン以上に信用出来ないんだけど。」


「そんな酷い。アレク様は私を信用出来ないのですか?」


「お前はクレアの相方だろ!信用出来るか!」


「ですよね。」


 俺の叫びに悲しがるでも無く、分かってました。という顔でラーシェは答える。


「シアンお姉ちゃんも駄目、先生も駄目となると残るのは私だけど、お兄ちゃんは私に頼むの?それとも棄権する?」


「そこで場所を変えると言わない辺り、クレアらしいが……まぁいいや。俺に良い考えがあるから、クレア達はそこで待っててくれ。」


 そう言って俺は屋台の方ではなく、人の少ない方へと移動した。


 ――――――


「お兄ちゃんに良い考えがあるとか言ってるけど、何をすると思う?」


 どこかへ行くアレクの背を見ながら、クレアが二人に尋ねる。


「何と言われても、こういう時のアレク様が何をするのか、私達には想像がつきませんね。」


「まぁ私としては、そこが面白いと思いますけど。」


「但し、被害が無ければ、でしょ?」


「正解。」


 シアンの補足にラーシェが嬉しそうに指をさす。


「それで、どうするの?何かを企んでるお兄ちゃんをここで見る?それとも隠れて見る?」


「それは勿論。」


「答えは決まってますよね。」


 どうするか聞くクレアに明確な答えを二人は返さなかったが、どちらを選んだのかクレアには伝わったらしく、三人は隠れる為に移動を始めた。

お読みいただきありがとうございます。


次回もお楽しみください。

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