意思確認
「さて、氷魔法を使えるラーシェも気絶した事だし話に戻るか。」
「氷魔法の意味は違うけどね。」
つまらないギャグを言ったラーシェが過重で気絶するのを見届けると、戦いの内容を決める為にクレアの方を向いた。
「それでクレア、戦うとは言ったが何で決めるんだ?あんまり危ないのは、流石に反対なんだけど。」
「そこは私も同じだから大丈夫だよ。戦うとは言っても、怪我は嫌だからね。」
俺と同じことを考えていたクレアは賛同するように頷くが、交渉で過重を使おうとしてた人に言われてもなぁ。
交渉の時を思えば、戦いの内容もこちらの不利を強いるのでは?という心配が若干あるが、そこまで卑怯でないとクレアを信じて話を進める。
「なら直接対決は無しにして、折角の祭りだし無難に屋台の内容で対決して成績の良い方が勝ちでいいか?」
「まぁ、普通に考えればそうなるよね。私もそれで……あ、そうだ。」
戦いの内容が決まりそうになった直前、クレアが何か思い着いた様子を見せた。
「どうした?何か別の対決でも思い着いたか?」
「ううん。そうじゃなくて、二、三個聞きたい事があるんだけど。」
「何だ?」
「まず私とお兄ちゃんだけで戦うみたいになってるけど、シアンお姉ちゃんと先生はどうするの?こっちは二人で一人、先生と一緒に戦う気だったからさ。」
「あー、それかぁ。俺としては二対一で戦っても良いけど、それだとシアンも仲間外れになるからな。どうするか聞いてみるか。」
クレアの言葉で、そういえばラーシェも戦う気だったな、というのを思い出す。
まぁラーシェは今、氷魔法を放ったせいで気絶してるけど起こす必要はないか。
気絶したラーシェを起こすのは後回しにして、未だ本についてブツブツと言ってるシアンの方を向く。
「なぁシアン。本の存続を賭けて今からクレアたちと戦うんだけど、シアンはどうする?」
「――にしても、プレイ内容が素晴らしいですね。挿入するだけでなく言葉や目隠し、緊縛や羞恥まで使われているとは流石はクレアちゃん、子供でここまで書けるとは将来が楽しみです。ただ不満があるとするなら、攻めるのはラーシェではなく私が――。」
「シアン!」
「――味は無かったのですが、今度ラーシェに……はい!?」
本に夢中になり過ぎて、聞いても返事をしないシアンに少し大きめの声で呼ぶと、驚いた声でシアンは返事をする。
「どうしましたかアレク様?もしかして、ラーシェへのお仕置きは私が担当する――。」
「違うから!何でそんなに嬉しそうに言うんだよ!?」
話を聞いていなかったシアンは、ラーシェのお仕置きを自分が行うと思い込んで目を輝かせていたが、そんなにラーシェのお仕置きがしたいのか?
「そういう訳では無いのですが、本ではラーシェに攻められていたので、現実では私が攻めてみたい気分になったんですよ。」
そう言って顔を隠すように本の表紙を見せるシアン。
本から隠れきれなかった耳は、告白の羞恥からか本を読んでいた時よりも赤くなっている。
「おいおい、まさかシアンもラーシェと同じ趣味に走るのか?」
好きな人の趣味にあまり文句は言いたく無いが、もしこれが切っ掛けでシアンがラーシェと同じ性癖になったりしたら……。
「そこは大丈夫です、安心してください。」
もしを考えて最悪の状況を想像していたら、安心するような微笑をシアンが向けてくる。
「どんなに好きなものが増えようと、私の中でアレク様が一番です。それは決して揺らぐ事の無い事実。だから……。」
そこでシアンが優しく抱きしめると、息遣いが分かるほど耳元に口を近づける。
「アレク様は借金の返済方法と、返済後の私と甘く楽しく過ごす日々を考えてください。」
艶めかしい声で囁くシアン。
日常では聞けない彼女の声を聞いて自分の顔が熱くなるのが分かるが、シアンが俺から離れる僅かな時間。クレアの死角を突いて頬に短くキスもした。
「なっ!?」
不意打ちに次ぐ不意打ち。
シアンの大胆な行動に今自分が驚きの表情を浮かべているのは分かるが、多分その顔は耳まで赤くなっているだろう。
そしてキスをした本人は、クレアに見えないよう俺を陰にしながら、イタズラ成功、というように楽しそうな笑みを見せていた。
「それで、シアンお姉ちゃんはどうするの?」
目の前に居ながら話し出さない俺の代わりに背後のクレアが訪ねる。
その声は普通だが、背後から突き刺さる視線は、この兄は何をやっているんだ、という呆れを感じ取れる。
「すみません、クレアちゃん。本に夢中であまり話を聞いてなかったので、詳しく説明をしてくれませんか?」
「いや、説明はしないよ。」
申し訳無さそうにするシアンにクレアは横に首を振る。
「本に夢中になれるなら、シアンお姉ちゃんも私たちの味方。お兄ちゃん、シアンお姉ちゃんも私たち側で参加させて良いよね?」
「良い訳あるか!」
説明もせずに勝手にシアンを味方に引き入れようとしているクレアに、キスされた時の照れや恥ずかしさを忘れてツッコんでしまう。
「手短に説明するけど、今から俺はクレア、ラーシェの二人と屋台で対戦をするんだが、シアンも一緒に戦うかという話だ。」
ツッコミを入れた事で普段通りに戻った俺は改めてシアンに説明をする。
「クレアちゃん側でですか?」
「何でそうなる!?俺の方だよ!」
子供一人に三人掛かりとか、どんな苛めだよ。
「お兄ちゃんは知らないかもだけど、女性に苛められて喜ぶ男の人もいるよ?」
「そこに需要があるとしても俺は喜ばねぇよ!」
クレアは兄を何だと思ってんだ。
「むっつり寄りのオープンスケベなお兄ちゃん。」
「酷くね!?」
隠す事の無いクレアの率直な印象に傷ついていると、シアンが声を掛けてくる。
「ところでアレク様。三人が戦うのは聞きましたが、そもそもの原因は何ですか?」
「あぁ、シアンが読んでいた本があるだろ。」
「はい。」
「それをクレアとラーシェが販売してたから、止めるのを賭けて戦うんだよ。」
「そうですか……。」
話を聞いたシアンは、事情が分かると何か考え込む仕草をする。
そして、顔を上げたシアンは俺を見つめ。
「決めましたよ、アレク様。」
「そうか。で、どうする?」
「私はクレアちゃんに味方します。」
「…………はい?」
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