見覚えのある物
「わぁ……っ!見て見て、お兄ちゃん!凄い沢山あるよ!」
稼げると言われ、ネフィーさんに案内された場所で響くクレアの嬉しそうな声。
眼前の光景に目を輝かせながらクレアは見ている。
「……そうだな。沢山あるな。」
「……ほんと、沢山ありますね。」
そしてクレアとは対照的に俺とシアンのテンションは低く、眼前の光景に死んだ目をしている。
同じのを見ている筈なのに二つに別れるテンションの違い。
というのも……。
「どこかで見た気がするんだけど、どこだっけ?」
そう言ってクレアが手にしたのは、真っ白な山から取り上げた一つの球体。
クレアはまだ気付いていないようだが、俺とシアンはその球体に見覚えがある。あり過ぎる。
「アレク様、私の見間違いでなければ、あれってもしかして……。」
「あぁ、多分シアンの考えている物で当たってるぞ。」
名称は言わなかったが、シアンの思い浮かべている物に予想が着いている俺は、それを肯定する。
「それはマジックローチの卵だね〜。」
そんなクレアに聞こえないように話していた俺達の横にネフィーさんが来ると、クレアの手にしている物の名称を教えた。
「あー、これマジックローチの卵だったんだ。だから見たことが、あれ?……マジック?」
そこでクレアの顔が卵から俺へと移動する。
「……何だ?」
「ううん、何でもないよ。」
そう言って俺から視線を外すクレアだが、その顔は明らかに何か言おうとした言葉を飲み込んだ顔をしている。
多分だけど、戦車の中で卵を取り出したのを思い出したんだろうな。
「と言っても、アレクちゃんが使ったのはマジックじゃなくてツフトだけどね~。」
「なんでネフィーさんが知ってるんですか。あの時、居なかったですよね?」
「先生は何でもお見通し~。」
「意味が分からないんだけど。」
意味の分からない返答に呆れた視線を向けるが、ネフィーさんはそれを無視してマジックローチについて話し出す。
「マジックローチは生まれた時から魔法が使えるゴキブリで、繁殖力は劣るけどツフトローチより少し強いわね。そして卵の外殻は魔法の威力を弱める効果があるから、防具に加工する為にそこそこのお値段で取引されてるわ。」
「性能は良いけど、防具に加工かぁ……。」
「ちょっと使う時に抵抗がありますよね。」
「元が元だからな。」
ゴキブリの卵を装備するのは嫌だが、まぁ俺達が装備する訳でもないし考えなくてもいいか。
「そこそこのお値段で売れるって、どのくらいで売れるの?」
シアンと防具の話していると、クレアが値段について聞いていた。
「そうねぇ。価格は多少上下するけど、卵一つで金一枚と銀五十枚かしら〜。」
「おおっ、結構なお値段!一つでそれなら、これだけあれば……。」
振り返りマジックローチの卵の山を見るクレアの目は、宝の山でも見つけたかのように目が輝いている。
「マジックローチは一回で八十個近くの卵を産むからぁ、この一山だけでも金貨百枚はあると思うよ~。」
「「「金貨百枚!?」」」
「それに虫の魔物は、一ヶ所だけじゃなく複数の場所に卵を産むことが多いからぁ、全部採れ――。」
「聞いたなクレア、シアン!収納に卵をぶち込め!一個足りとも採り逃すなよっ!!」
「「了解!!」」
聞き終える前に俺が叫ぶと、クレアとシアンが力強く返事をする。そして三人で急ぎ卵の山に近づくと次々と収納に卵を入れ始めた。
「卵一個で金一・五枚、卵二個で金三枚、卵三個で金四・五枚、卵四個で金六枚、卵――。」
「卵一山で金百枚、卵二山で金二百枚、卵三山で金三百枚、卵――。」
「金貨百枚、金貨百枚、金貨百枚、金貨百枚――。」
見る見るうちに減っていく宝の山、もとい卵の山。
あの時クレアは居なかったが、俺とシアンは前回を上回るスピードで卵を入れていくと、背後から声が掛かる。
「目の色変えて採ってるけどぉ、マジックローチについてまだ話し終えてないから、続きを話しても良いかな?」
「どうぞどうぞ、遠慮せずに話してください。」
「動きながらですが、ちゃんと私達は聞いていますので気にしないでください。」
「ネフィーさんの話は大事だから、一言一句聞き逃さないよ。」
振り返りながらも手を休めずに答える俺、シアン、クレア。
そんな俺達をネフィーさんは注意する事無く、マジックローチについての追加情報を話し出す。
「それなら教えるけどぉ、マジックローチの雌は産んだ卵が無事か確認する習性があるの~。」
「「「え?」」」
異口同音、次はどんな情報が聞けるのかと期待していたら、予想外の情報を教えられて俺達は固まってしまう。
「それで今、卵が襲われてるのを察知したマジックローチが――。」
その時、ネフィーさんの背後から木の倒れる音が聞こえて、その先の声がかき消されてしまう。
――――――
「ほいっ、これで最後。」
そう言ってラーシェは、痺れて動けなくなった魔物の首を一刀で胴体と切り離す。
「ふぅ……。これだけ狩れば十分かな?」
額の汗を拭いながら呟くと、ラーシェは辺りを見回した。
視界に入るのは先程まで戦っていた狼の魔物が十数頭。そのどれもが首と胴体を切り離されて、血だまりの中で死んでいる。
その死骸を回収する為にラーシェが倒した魔物に近づくと、剣で部位ごとに分けてギルドから借りた魔法バックに入れ始めた。
喋る相手も居らず一人淡々と作業をしていたが、サボリ魔と言われるラーシェも実は仕事が早い。
然程、時が経たずに後始末まで終えてしまう。
「さて、残った血の匂いで他の魔物が来ても面倒だし探しても全然シアンに会えない。時間も良さげだから、そろそろ帰りますかね。」
時間を確認して、ため息交じりに独り言ちたラーシェが開始地点に歩を進め始めた、その時。
「「「いやぁああ!!」」」
少し遠い場所から聞きなれた三人の声が聞こえ、戻る足を止める。
そして……。
「み~つけた。」
探し人見つかる。
先程まで退屈そうにしていた顔が嘘のように嬉しそうな顔へと変わると、急ぎ声の聞こえた方へと足を進めた。
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