忘れていた魔法
「うんうん、皆気合入ってるねぇ。何を集めるのか先生楽しみだな~。」
俺たちの掛け声を聞いたネフィーさんは、その言葉通り楽しそうな様子で言う。
「ちなみに私は助言くらいは出来るけど、皆が危ない事にならない限り手伝う事が出来ないのよぉ。ごめんね~。」
「流石に分かってますよ。」
「ネフィーさんに手伝ってもらったら意味がないもんね。」
「気持ちだけ受け取っておきます。」
クレアやシアンも手伝えない事は予想してたらしく、ネフィーさんが謝るも残念そうにはしなかった。その事が嬉しかったらしく、ネフィーさんは俺たちに微笑を向ける。
「さて魔物退治でも採取でも、まずは位置を知るのが大事。」
「となると当然、位置を把握出来る魔法が必要ですね。」
「そして幸いな事に。」
「その魔法を持っている人が居る。」
これから必要な事を確認するように話し出したクレアとシアン。ネフィーさんは何も言わないが、それで正しいというように頷きながら聞いている。
「お兄ちゃん。」
「アレク様。」
その二人が俺の方を向いたと思えば期待した目で見てきた。
「お願いね。」
「お願いします。」
「何が?」
「「「…………。」」」
一瞬の静寂。空気が固まるとはこの事か。
「お兄ちゃん……。」
「アレク様……。」
「はぁ……。」
二人の期待していた目は消え去り、改めて向けられたのは残念な者を見る目。普段はどんな事でも楽しそうにしているネフィーさんでさえ今の答えは無いと思ったらしく、隠す事無く大きなため息を吐く始末だ。
分からないから言っただけなのに、こんな反応をされたら泣きそうなんだけど……。
「そう言われても、ねぇ?」
「ですよね。」
主語を言わずに会話するクレアとシアン。
こらこら、会話するならちゃんと言葉に出しなさい。それじゃあ何を言ってるか分からないでしょ。
「いやぁ、これで分からないなら駄目でしょ。」
「あ、ネフィーさん。」
胸中で二人にツッコンでいるといつの間にか隣にはネフィーさんが立っており、普段と違い普通の人と同じような喋り方をしながらも、その目は困った子を見ているように思える。
「それでアレクちゃん、二人が呆れてる理由が本当に分からないの?」
「……恥ずかしいですけど、はい。」
その答えにネフィーさんは再び大きなため息を吐き出してしまう。
「……それでは聞くけど、基礎魔法以外でアレクちゃんは何の魔法を持っていますか?」
「魔法……。」
俺の持っているのは花火魔法に毒魔法、転移魔法に幻影、変化……あ。
「索敵魔法か。」
「やっと気づいたようね。」
忘れていた自分の魔法。
二人の言いたかった答えに行きつきネフィーさんは、手の掛かる子、と言いたげにクレアとシアンは、やっと思い出したか、と言いたそうにしている。
「すみません、普段使わない魔法なもんで忘れてました。」
「いや、流石に自分の持ってる魔法は忘れ――。」
「その気持ち、分かるわぁ。私も何回か忘れた事があって、その度にヴィーちゃんに怒られてたよ~。」
「魔法学園の校長なのに!?」
魔法を忘れていた事にクレアが否定しようとするが、ネフィーさんも経験があるらしく、俺に共感するとクレアから驚愕の表情で見られる。
「校長と言っても所詮私も人間、忘れる事の一つや二つあるわよぉ。それこそヴィーちゃんとの約束を忘れた数なんて、両手の指じゃ足りないくらいよ〜。」
「それはそれで、どうかと思うけど!?」
楽しそうに話すネフィーさんにクレアがツッコんでいるが、そういえば約束の回数より守られた回数が少ないとか母さんが言ってたな。
「そんなに忘れてよく無事で居られますね?普通の人なら、酷い目に遭わされてると思いますけど。」
「いやぁ、私も忘れる度にヴィーちゃんにお仕置きされてるんだけど、ヴィーちゃんのお仕置きは愛があって好きなのよね〜。」
「お仕置きに愛って意味が分かりませんよ。」
「ふふふ、今は分からなくてもシアンちゃんもいずれ分かるわよぉ。……そうだ、シアンちゃんも一緒にヴィーちゃん――。」
「申し訳ありませんが、全力で遠慮させていただきます!」
ネフィーさんの恐ろしい誘いを途中で遮り早口で断るシアン。
失礼ではあるが初めからこの返答を予測してたらしく、特に気を悪くした様子は見せずにネフィーさんは残念と楽しそうに言うと俺を見る。
「ところでアレクちゃん。さっき、普段使わない魔法、と言ってたけど、二日前シアンちゃんの部屋に侵入する時に使ってた気がするのだけど~?」
「「侵入!?」」
ネフィーさんの誤解の招く言い方にクレアとシアンが強く反応したが、今は無視しろアレク。たとえクレアからは何か期待するような、シアンからは「侵入に関して詳しく話してください。」という視線を受けても気にするな。
二人から強い視線を感じながらも無視を決め込み、シアンの部屋に入った時の事を思い出す。
「……言われてみると確かに使ったような気がしますね。」
「でしょ。と言いたいけどぉ、何故そこで曖昧な言い方になるのかしら~?」
「そう言われても、あの後に起きたソフィー、ネフィーさん、シアンの衝撃が強すぎて忘れてたんですよ。」
「え~、ソフィーちゃんやシアンちゃんはともかく、私は衝撃が強くないと思うんだけどな~?」
「いえ、登場から内容まで衝撃的でしたからね。」
ソフィーに変身して登場したと思えばソフィー本人を一撃で沈め、俺を文字通り床に沈め、許可証の話を出されと俺からしたらシアンやソフィーと同じくらい衝撃的だ。これのどこが、自分は衝撃的じゃないと言うのか聞きたいものだな。
「う~ん、私は話しても良いけどぉ、そろそろ出発しない?ここで時間を使うと、それだけアレクちゃん達の稼ぎが減っていくわよ~。」
収納から取り出した時計をこちらに見せながら聞いてくるネフィーさん。時計の針は九時半を指している。
確かに時間はまだあるが、俺たちの目標は借金返済。今更だが時間を無駄に使うのは勿体ないな。
「すみませんが、その話は暇な時にお願いします。」
「いいよぉ。屋敷に帰ったら、いろんなお話をしましょうね~。」
ネフィーさんの言葉で話を切り上げた俺は索敵魔法、物敵索敵を使いようやく出発した。
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