屋敷に帰ると
誤字、脱字があるかもしれませんがお楽しみください。
「シアンもっとスピード出ないのか!?」
「これ以上は無理です!」
俺たちは今、車の下に張り付いたグラットを退治するため、頑丈な木が植えてある屋敷の方に向けて車を走らせている。
ガタンッ!
「「痛っ!」」
「きゃあ!」
「うぐぐっ。急いでいるとはいえ、何回頭をぶつければいいんだよ。」
急いでいるため街道ではなく整備されていない場所を走っているせいで、さっきから石等を踏んで車が跳ねている。
「アヘクはんなんへ、まはいい方よ。おへはひはを噛みふぎてひぎれそう。」
「カゴット。何を言ってるかさっぱり分からんぞ。」
「今カゴットが言ったのは「アレクさん何て、まだいい方よ。俺は舌を噛み過ぎて千切れそう。」って言ったんだよ。」
「そうなのか?」
シムの通訳が正しいのか、カゴットを見ると噛み過ぎて痛いのか、若干涙目になりながら頷いていた。
「そんなに舌を噛むなら口を閉じればいいのに。」
「ほうはいはない。おへは――。」
「もう喋るな!何を言ってるのか分からんから口を閉じてろ。本当に舌が千切れても知らんぞ。」
「はいはい。舌が千切れたら本当に喋れなくなるよ。」
俺がそう言うとカゴットはまだ何か言おうしてたが、シムが手で口を塞いだ。
「ちなみにアレク。今カゴットが言おうとしたことなんだけど、多分「そうはいかない。俺は商人なんだから舌の痛み程度、我慢して喋ってやる。」って言おうとしたんだと思うよ。」
本当か?と思ってカゴットを見ると頷いていた。
「……何で全部喋ってないのに分かるんだよ。」
「そこそこ付き合いが長いからね。何文字か聞けばそこから相手の普段の言動を想像すれば、ある程度予測が着くからね。」
「そうなんですね。私もそれが出来れば仕事で――。」
「普通は予測が着かねえし、シアンには無理だろ。」
シムの説明を聞いてやる気を出している所悪いが、普通の人はそんな事出来ない。
「酷いですアレク様。私だって頑張ればできるかもしれませんよ。」
「絶対に無理だ。もし完璧に出来るようになったら、シアンの頼みを何でも叶えてやるよ。」
「言いましたね。その言葉、かならず後悔させてあげますから。」
「そうか。まあ、期待せずに待っといてやるよ。」
俺とシアンがそんな言い合いをしていると後ろに座っているシムが前を指し。
「アレク。あの木だろ。」
シムに言われ前を見ると目標としていた木が見えた。
「始めるぞ、絶対しくじるな。」
俺の言葉にみんなそれぞれ。
「任せてください。」
「そっちもしくじるな。」
「俺はやる事がないけどな。」
ある程度木に近づくと。
「シアン、頼む。」
「はい!「樹木操作」」
そう言ってシアンは樹木魔法を発動した。樹木操作は木を好きな様に動かせる魔法だ。
その樹木操作を使って目標にしていた真っ直ぐに立っている木を斜めに傾けた。
「次!加速装置、オン!」
木が傾いたのを確認すると俺はこの車にオプションで付けれている加速装置を作動させた。
「ぐっ。次、シムたのむ。」
「りょ、了解。」
予想以上の加速で重力が掛かったが動けない程ではない。索敵魔法で確認するとグラットはちゃんと車についている。
そして車が木を登ろうとする直前。
「「防御上昇」」
「よしっ。脱出!」
シムの支援魔法で防御力を上げて俺らは車から飛び降りた。
俺は車から飛び降りるのと同時に凄い勢いで木を登り空へ向けて飛んでいく車に花火魔法を放った。
「これで最後だ!「一尺玉」!」
ひゅ~~~っ!……ドーーン!!
笛が鳴るような音を出しながら車と共に空へ登って行き、夜空に赤色の綺麗な花が咲いた。
「……はあ。なんとか倒せた。」
「お疲れ様アレク。」
「アレク様の花火。綺麗ですね。」
「この魔法を上手く祭りに使えば――。」
寝転がった体勢のまま俺らはそれぞれ感想を言いながら、俺が打ち上げた花火を見た。
花火が消えると俺は起き上がり、皆を見て。
「カゴット、シム。周りも暗くて帰るのも大変だろうし今日は屋敷に泊まってくれ。母さんには泊まれる様に俺が話しとく。」
俺がそう言うと二人は顔を見合わせ。
「ならお願いするよ。」
「俺も頼む。今から家に帰るのはきついしな。その代わり、明日家の人に説明をしてくれよ。」
「任せとけ。お前の活躍も派手に伝えてやるよ。」
そう言いながら俺らはナルスタック家に向けて歩いた。
「……ねえ、シムさん。」
「何ですかアレクさん?」
「車を弁償してくれる話だけど、これも弁償してくれる?」
「ははは。何を言ってるのかな?私が弁償する約束をしたのは車だけだよ。」
「ですよね~。」
「「ははははは。」」
ようやく屋敷に到着し、俺らが見たものは。
「ああ。屋敷が。屋敷が。は、はは、はははは。」
「おい!シアンさん、気をしっかり。」
「だって…。だって、屋敷がもえ――。」
バタッ
「ちょっ。シアンさん!」
シアンが気絶するのも仕方がないか。疲れて屋敷に帰ったらその屋敷が燃えているんだから。俺も出来るなら気絶したいよ。
「逃げ遅れた人はいないか!」
「怪我人は救護テントへ運んでください。」
「大変です。シュページ様が見当たりません。」
「シュページ様なら帰って来るなり、帰りが遅いとかで一緒に行ったダックスさん達も一緒にヴィクトリア様に凍らされてたぞ。」
「なんだ、いつもの事か。」
「それなら心配ないですね」
「おい!喋ってないで火消しを手伝ってくれ!屋敷は防火魔法で大丈夫だが、屋敷の中が全焼してしまう!」
「なあアレク。これ逃げた方がよくないか?」
「シムもそう思うか?俺もそう思ってたんだ。」
「バレる前に逃げますか。」
「「賛成~。」」
そう言って俺とシムがシアンを担いで四人でここから離れようとしたら後ろから声を掛けられた。
「家がこんな事になっているのに何処に行かれるのですか?ねぇアレク?」
その声に三人の足が止まった。
「ねぇシムさん?」
「何ですかアレクさん?」
「一番聞こえたくない声が聞こえたんだが。」
「奇遇だね。私も聞こえたよ。」
「せーのっ。で、振り返る?」
「そうしようか。」
「じゃあ。せーのっ。」
そう言って俺らは振り返ると後ろに居た人は。
母さんとそっくりで違いがあるとすれば、母さんの目は空を思わせるような青色に対して、その人の目は血を思わさせるような濃い赤色。
俺の姉であるイントア=ナルスタックがそこに立っていた。
そして俺らはその姿を見たのと同時に回れ右をして、シアンを担いだまま逃げ出そうと走り出した。
「あらあら。アレクは相変わらず鬼ごっこが好きですね。」
「違う!鬼ごっこが好きなんじゃなくて、俺はイントア姉さんから逃げたいんだ!」
「シムさんも女性になりたいのなら、もっとお淑やかにしなさい。」
「違います!私は女性になる気はない!男のままでいいんだ!」
俺たちはそう叫びながら走って逃げていると、俺たちの進む方に身長は違うがイントア姉さんとまったく同じ姿をした子が立っていた。
「クレアちゃん。その四人を捕まえてくれますか?」
「はい、お姉ちゃん。「「加重」」
「うっ。」
「重っ。」
「なっ。」
イントア姉さんに捕まえるように言われた、クレアと呼ばれた子が魔法を使うと俺たちは体が重くなって動けなくなった。そして重さに耐えられず地面に伏せてしまった。
「捕まえたよ。お姉ちゃん。褒めて褒めて。」
「ええ。最初に比べて随分、魔法の扱いが上手になりましたね。」
「わーい。お姉ちゃんに頭撫でてもらった。」
俺たちが動けなくなったのを確認すると、イントア姉さんはこちらに来てクレアを撫でていた。クレアは姉さんに撫でられて喜び、それを姉さんは微笑ましく見ていた。
こうやって並ぶと身長以外本当にそっくりだな。ただ見た目だけじゃなく、中身も同じじゃありませんように。
誰に届くかも分からない願いを祈っているとイントア姉さんが頭を撫でるのをやめてこちらを向いた。
その顔は優し気な笑みを浮かべている。
「久しぶりですね、アレク。一秒でも早く会える日を楽しみにしていましたよ。」
「こっちは楽しみにした事は一度もないけどね。」
「まあ酷い。私はアレクが好きなのにアレクは私が嫌いなのですか?」
「嫌いというよりは苦手だな。」
「なら苦手なものは克服しましょうね。」
そう言って顔を赤らめ息を荒げながら、俺にゆっくりと近づいてくるイントア姉さん。
「ちょ、待て!近づくな!俺に何をする気だ!」
クレアの魔法のせいで動けないから逃げようにも逃げれない。
「服が汚れているので着替えさせようかと思いまして。」
「なら、何でそんなに顔を赤くしてるの!?」
「弟とはいえ男ですから、裸を見るのが恥ずかしくて顔を赤くしているのよ。……はぁはぁ…。」
「恥ずかしいのは皆の前で裸にされる俺だけどな!息を荒げてるのは何で!?」
「久しぶりに弟の着替えを手伝えると思うと、つい。……あら鼻血が。」
俺がこんなに叫んでいるのにシアンはまだ気絶しているし、カゴットは気絶したふりをしている。シムは同情した目で見てくる。イントア姉さんの後ろにいる、さっきまで明るく元気だったクレアはこの光景を死んだ魚のような目で見ていた。
そんな目をするくらいなら助けてくれよ。
「おいシム!そんな目で見てないで助けてくれ!このままじゃ着替えだけじゃ済まない!」
「ごめん。無理。」
こいつ俺が助けを求めたら目を逸らしやがった。
「無理じゃないだろ。お前も関係ないとは言わせねぇよ。」
「大丈夫ですよアレク。シムさんならアレクを着替えさせた後に着替えさせますから。」
それを聞いてシムは姉さんの方を凄い勢いで見た。
「あのイントアさん。私は家に帰れば服がありますので、その、着替えは遠慮します。ここは姉弟で着替えを楽しんでください。」
こいつ俺を生贄に自分だけ逃げる気か。逃がしてたまるか。
「姉さん!こいつが外で着る服は普段は男の服が多くて、今日は偶々女物の服なんだ!」
「おい!この馬鹿!」
俺の言葉を聞いてイントア姉さんは俺の服を脱がそうとした手を止めた。そして先ほどまであった顔の赤さも鼻息も収まり、笑みは浮かべているが目は冷え切っている顔でシムを見ていた。
「……シムさん?」
「あ、いや、今アレクが言ったことは――。」
「シムさん?」
「…はい。」
「あなたの家に連れて行ってもらえますね?」
「……はい。」
……姉さん。それ連れて行ってと頼んでるけど、答えは「はい」以外受け付けませんと言ってるよ。シムは姉さんに引きずられて恐らくシムの家に行った。俺はそれを心の中で手を合わせて見送った。
すまんなシム。お前が俺を見捨てず助けてくれてたらこんな事はしなかった。恨まないでくれよ。
その場に残されたのは俺とカゴット。気絶しているシアン。イントア姉さんが連れていたクレアという子。シアンを除いて皆、死んだ目で姉さんに引きずられていくシムを見ていた。
で?この状況をどうしろというんだ?
最後までお読みいただきありがとうございます。
次回もお楽しみください。
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