問題児御一行、お断り
「お花見……。お花見って毎年やるあれだよね?」
「それしかないでしょ。」
確認で聞いてみるが、どうやら間違いないらしい。うん、それは良いけど何故今その話をする?関係ないよね?
そう思ったのは俺だけではなくカゴットも同じで、前菜の話と繋がりが分からず首を傾げているが、今年来たクレアだけは我が家のお花見を知らなくて俺に聞いてきた。
「お兄ちゃん、家のお花見って他と何か違うの?」
「他の家の花見がどんなのか知らないから何とも言えないが、そんなに大差はないと思うぞ。」
そうクレアに説明するが、正直俺は我が家の花見は他の家とは結構違うと思っている。
我が家の花見は使用人の殆どを休みにして、仲の良い町の住人と共に開催するのが恒例だ。そして花見が始まれば、無礼講という言葉通りに皆好き勝手やりたい事を始める。酒の飲み比べ対決から始まり、のど自慢大会に一発芸、商売を始める者に魔法自慢、果ては大きな桜の木の下、皆が見ている前で男が好きな女子に告白するという者まで現れる。
そんな我が家の花見だが、どうして冒険者の話と繋がるのかが分からない。
「いくら考えても分からないと思うから、説明するわね。」
表情に出ていたのだろう。母さんは仕方ないと云った顔をして説明を始めた。
「まずアレク。あなた、どこでお花見をしているか覚えてるわよね?」
「毎年同じ場所何だから、それくらい覚えてるよ。東の森の近くだろ。」
「その通りよ。それでギルドの講習は午前が座学、午後は実技なの。冒険者に連れられて薬草などの採取の仕方や魔物との戦い方と云った、実践を教えるのよね。」
「へー、講習ってそんな事を習うんだ。」
てっきり、有名な冒険者を連れて来て話を聞かせるだけかと思ったけどそうじゃないんだな。
「うーん。座学は嫌だけど実技は少し興味があるな。そうすれば自分で食材調達して、沢山美味しい物が食べれそうだもん。」
「分かるよクレアさん、その気持ち。俺も実技で採取の仕方に興味があるんだけど、教えてもらえれば効率よく材料を採取出来て、薬の売る量が増やせるからな。」
クレアの呟いた言葉にカゴットは共感して頷いているのはいいが、祭りの時みたいに変な薬を売るなよ?
「あなた達は行けないのだから、それは諦めなさい。」
「そうだった。」
「そう言えば行けなかったな、俺たち。」
カゴットの売る薬を怪しんでいたら、母さんの一言で行けないのを思い出し肩を落とす二人。そんな二人を無視して、母さんは話を続けた。
「そして、その実技を習う場所が東の森なのよ。そこまで言えば分かるかしら?」
ああ、そういう事か。
そこまで言われて、何故冒険者の話と花見の話が出て来るのかと思ったがようやく理解出来た。
「まあな。つまり、子供に冒険者の仕事を教える序に皆が安全に花見が出来るように魔物退治をしていた、って事だろ。」
「それで正解よ。東の森は奥に行かなければ基本的に弱い魔物しか生息していないから、教えるのにも丁度良いらしいのよ。」
「けれど今年は、俺たちが講習に参加すると知った冒険者たちが反対したせいで講習は延期、毎年行っていた魔物退治が無くなったと。」
そこまで言うと、黙って聞いていたクレアとカゴットは、そうだったのか、と驚いている。
「そうなのよね。まさか、アレク達が参加するだけでこんな事になるなんて予想外過ぎるわよ。」
「けれど、お母さんなら退治出来るよね?」
母さんは頭が痛いのか、机に肘を突きながら額に手を置きため息を吐いていると、クレアが不思議そうに聞いた。
「出来る出来ないで言えば勿論出来るわよ。」
「なら、そんなに難しく考えなくても――。」
「ただ退治する範囲が広すぎるから、後の事を考えなければ、という言葉が続くけど。」
その言葉を聞き、クレアは閉じる事を忘れたのか口が開いたままになっており、俺とカゴットは引いている。
「ちなみに……後の事を考えなければって、どのくらいの影響を及ぼす?」
「そうね、範囲が広いから……。」
そこで母さんは顎に手を置き、少し上を見て考えると。
「手加減はするけど、森に生えている全ての木が氷漬けとなって、多分数十年はそのままかしら。」
「えー……。」
母さんの予想を聞いて、更に引いてしまう俺とカゴット。
手加減して数十年氷漬けって何だよ?この人本当に人間か?まあ、人間かどうか怪しい人なんて身近に多いから今更か。
自分で自分を納得させていると母さんは何か決めたらしく、席から立ち上がり俺たちの前に来て。
「という事で今話した通り、講習は延期、冒険者は子供に臆して魔物を退治に行かない。」
「言い方は酷いけど、そうなるよな。」
「私達無害なのにね。」
「いや、クレアさんは触るな危険の猛獣でしょ。怒ったらすぐに過重を――。」
「何か言った、カゴット?」
「いえ、何でもありません。」
「そこであなた達。」
クレアに頭を下げるカゴットを無視して母さんは言葉を区切り、俺たちを見回すと笑顔を作って。
「魔物退治に行ってらっしゃい。」
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