怒りの原因
「ようやくアレクも納得してくれたようね。」
「嫌々ながらな。」
これ以上借金を増やしたくない俺は、その後も請求撤回を求めて食い下がるが、最終的には母さんの「知ってる?娼館って、男の人も選べるらしいわよ。」の言葉に俺は負けてしまった。
「あら?今から連れて行っても――。」
「私は大変納得しておりますので、それだけはご勘弁ください!」
「お兄ちゃん、口調が変わる程嫌なんだ。」
母さんの話を遮り、出来る限り深々と頭を下げる俺をクレアは可哀そうな目をして言ってるが、放っとけ!男としてこれだけは、何としても回避したいんだよ!
本気で嫌がってるのが伝わったのか、俺の謝罪に母さんはすんなりと許してくれた。良かった、男として何かを失わずに済んで。
我が身の無事を喜んでいると母さんは話を進める。
「さて、屋敷に迷惑を掛けた人達の話しもした事だし、次はあなた達――。」
「ちょっと待って、母さん。」
「今度は何かしら?」
「迷惑を掛けた人達って言うけど、シアンはどうしたの?」
「ああ、シアンね。」
シアンの名を出すと母さんは忘れていたのか、思い出したように名を呟いた。
「シアンならルーベルと同じように別の木にぶら下げてるわよ。」
「同じようにって……。」
それって詰まり、シアンも裸にされて白い柔肌に縄が食い込んで……。駄目だ、刺激が強くて想像したら鼻血が……。
「……あなた、馬鹿でしょ。」
「ネフィーさん、あれは絶対にシアンお姉ちゃんの裸を想像してるよね?」
「しー、クレアちゃん。それは分かっていても言わないのが優しさよぉ。アレクちゃんも男の子。女の子の裸に興味を持っても仕方ないのよ~。」
シアンのあられもない姿を想像してしまい、鼻血が出そうになった俺は手で押さえられず気合で我慢するが、その姿を見た母さんは呆れた様子でクレアは冷たい視線をネフィーさんは仕方ないという目で見て好きに言ってきた。
くそ、好き勝手に言いやがって。だが言い返したくても事実なだけに言い返せない。
「さて、アレクがエッチな事が分かった所で話を戻すわね?」
「「はーい。」」
「うん、良い返事。それとアレクはこれでもしてなさい。」
「ふがっ!?」
クレアとネフィーさんの返事に満足した母さんは、俺の前に来ると鼻血が出ないようにティッシュを鼻に突っ込んだ。その配慮はありがたいけど、回復魔法を掛けても良いのよ?
「では続きを話すけど、その前に……。」
そこで母さんは俺をしっかりと見てきた。
「勘違いをしてるのはアレクだけと思うけど、一応教えとくわね。シアンをルーベルと同じように木にぶら下げてると話したけど、ちゃんと服は着てるし普通にグルグル巻きで吊るしてるから、決して!裸にして縛りプレイのような吊るし方をしてないから、そこは勘違いしないように。分かった?」
「「知ってま~す。」」
母さんは決してを特に強調して注意事項を言うと再びクレアとネフィーさんが元気良く返事をする。
勘違いした俺が悪いのは分かるが、あんな事を言われたら健全な男子は誰だって勘違いするだろ!これだから女は男心が分からないんだよ!
「良し、勘違いを正した所で今日のお仕置きを発表するわよ。」
「なんで日課みたいに言うかな?それにお仕置きを発表するって、話を聞いた限り屋敷の壊れたお仕置きは兄さんやラーシェが受けてるよね?」
「それに今日私が屋敷を潰したけど、それもおじさんが直してくれたから元通りに戻ってるし、お仕置きを受けなくても大丈夫――。」
「な訳ないでしょ。何逃げようとしてるの。」
お仕置きから逃れる為、クレアと一緒にお仕置きを受ける理由を無くそうとしたが流石母さん、簡単には逃してくれない。とは言っても、お土産も渡した事だしそんなにお仕置きは酷くならないか。
今日のお仕置きは手心が加えられると安心していると俺の心情を呼んだのか、母さんは眉間に皺を寄せてネフィーさんを見る。
「ちょっとネフィー。あなた、この子達に説明してないの?」
「えへへ。説明しようと思ったんだけどぉ、その前に暴走しちゃって説明出来なかったんだ~。」
しかしネフィーさんは、母さんが不機嫌と判っている筈なのに特に気にすることもなく笑顔で答える。前にも思ったけど、この人は本当に恐怖心ってあるのか?
「はぁ……、ネフィーが説明しなかったから、あなた達にお仕置きをする理由を説明するわよ。」
母さんはネフィーさんの笑顔を見るとため息を吐き、仕方ないといった口調で話そうとするけど、母さんは母さんでネフィーさんに甘すぎない?もう少し厳しくして良いんだよ?
「これはアレクとクレアだけじゃなく、シアンをお仕置きをした理由にもなるのだけど……。」
そこで母さんは言葉を区切ると怒りを滲ませて聞いてきた。
「私の部屋にあんな物を送って、喧嘩を売ってるのかしら?」
「へ?」
その予想外の質問に気の抜けた声が出てしまったが、俺が母さんの部屋に送った物と言えば……。
「もしかしてシューストとキュアチーズのこと?」
「それしか無いでしょ!」
送った物の名を出すと母さんは怒りで氷の剣を創り出し、俺に突き付ける。
「ちょ!?今、俺避けれないんだよ!?危ないから剣を下ろして!?」
「斬られないだけマシと思いなさい!あなたがあんな物を送るから……。」
「あんな物って……。」
お土産を渡しただけで、何でこんなに恨まれなきゃいけないんだよ!?心象を良くする筈が、これじゃあ逆効果じゃねえか!?あれか!缶詰なんて安物を渡すなって理由で怒ってるのか!?
お土産を渡したのに何故怒られているのか理由が分からず混乱していると、ネフィーさんが呼びかけてくる。
「アレクちゃん。アレクちゃん。」
「何ですか?今、鬼に睨まれてネフィーさんに構ってる暇は――。」
「誰が鬼よ!」
「いだだだだっ!?潰れる!?潰れる!!」
母さんの温情か、口を滑らせてしまった俺に母さんは剣を使わず、アイアンクローをしてきた。
「あら~。仕方ない、アレクちゃんはヴィーちゃんと遊んで――。」
「遊んでないか、あああっ!!」
「ツッコミが出来るなんて、随分と余裕があるわねっ!」
ネフィーさんの間違いを正そうとすると、それを母さんは余裕と捉えたらしく更に力を込める。
ああ、駄目ですお客様!これ以上は!これ以上は、エロじゃない方のR15禁映像を子供に見せてしまいます!そしてネフィーさんは、これの何を見て遊んでるように見えるんだよ!?
「アレクちゃんは今話せそうにないからぁ、怒ってる理由をクレアちゃんに話すね~。」
「はーい。」
そしてクレアも「はーい。」じゃなくて、お兄ちゃんを心配して!?このまま掴まれたら、脳汁100%ジュースが完成してしまう!
痛みで喋る余裕もなく脳内で助けを求めるも、クレアは助けてくれない。
「それで、何故ヴィーちゃんがあんなに怒ってるかと言うと、その原因はあなた達が渡したお土産が原因なのよ~。」
「あー、やっぱり缶詰じゃなくて、もっと良い物を渡しとけば――。」
「違うよぉ、缶詰の中身が問題なのよ~。」
「中身?中身って、キュアチーズの中はチーズでお母さんが好きだから、シューストの中がお母さんの嫌いな物だったの?」
「そうじゃなくて、シューストの中は魚だから問題ないのよぉ。ただその二つの缶詰、中身が凄く臭いのよね~。」
「「え?」」
それを聞いた時、アイアンクローの痛みも忘れてクレアと声が重なった。
今ネフィーさんがシューストとキュアチーズの中身が臭いって言ったけど、その言葉が本当なら……。
その時俺は、缶詰のおじさんの「缶詰は強い衝撃を与えると破裂するから気を付けてな。」という言葉と母さんの部屋にお土産を送ろうとした時、姉さんが部屋に突入したせいで送ろうとした場所からずれてしまった事を思い出した。
そして、それはクレアも同じらしく青い顔をして俺を見る。
俺達が、母さんが何に怒ってるのか理解したのに気付いたのだろう。母さんは顔から手を離してくれたが、俺の前には母でも鬼でもなく……閻魔が立っていた。
「さぁて、自分が何をしたのかようやく気付いたようだから、あなた達にお仕置きを発表するわね?」
「……はい。」
否定する要素も無く、力なく返事する俺と頷くクレア。
そんな俺達兄妹に下された、閻魔様からの判決は……。
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